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第四章 ボクたちの町
第三十話 復活
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Szene-01 レアルプドルフ、ブーズ区長宅前
エールタインとルイーサにそれぞれの従者二人が続いて東地区長宅から出たところで、エールタインが区長に尋ねた。
「ところで区長さん、ザラさんの姿が見えないのだけど」
辺りをきょろきょろと見回すエールタインに区長が答えた。
「役場に向かいましたよ。随分と泣きじゃくっていましたが、少し落ち着いたところで向かわせました。護衛の二人を受け入れる手続きもありますので。初めに伝えるべきだとは思ったのですが――」
区長が話し終える前に、一人エールタインに向かって駆け寄る足音が聞こえてくる。
ティベルダが反射的にエールタインの前に出て防御態勢に入ったが、正体が分かるとその場にいる全員に走った緊張はすぐに解けることとなった。
「エールタイン様!」
「ザラさん!?」
エールタインはティベルダの肩に手を置いて構えを解くように促すと、ティベルダはホッとした様子で力を抜いた。
エールタインの元にたどり着いたザラは、息が落ち着くのを待たずに話始める。
「お身体の治癒は成功したのですね! 私の勝手な行動に巻き込んでしまって……もう……どうしたらいいのか」
エールタインは自分より背の高いザラの背中に両腕を回してギュッと抱きしめて言った。
「どうすればいいか……ただこの町で楽しく生活すればいいんじゃないかな。もちろん、この町じゃなくてもね」
エールタインの言葉にルイーサは苦笑気味に頬を上げると、独り言のように言う。
「あなたから言われたらこの町にしか住めなくなるわよ。さすが英雄の娘ねえ、そうやって民を虜にしていくのだから困ったものね」
「え。ボク変なこと言ってる!? ああっと、とにかくザラさんの好きなようにすればいいってことで……えっと、お子さんたちもそうだし……あれ、なんだか言えば言う程変なこと言っているような気がしてきちゃった」
エールタインに抱きしめられたままザラは笑い出した。
「ふふふ。エールタイン様がいらっしゃるので、今のところこの町で生きていくことしか考えられません。元々この町が好きですけれど、エールタイン様と出会ってもっと好きになりました。ありがとうございます」
「えっと、ああもう、なんだか変な感じだよ。そうそう、部隊の応援に行かないといけないからザラさん、町長の所へ向かってください。ボクたちはダンと合流するので」
エールタインの腕から解放されたザラは、深く頭を下げてから少し離れた場所から母親を見守っていたフォルターとケイテの手を掴んで改めて西地区へと向かった。
「さてと、ダンたちが心配だからすぐに向かおう……ん?」
エールタインの腰が毛深いモノにスリスリと擦られている。ティベルダが何の不思議も無さそうに言った。
「エール様の体もそろそろ全快しているはずなので、ほぼいつも通りに動くことができると思います。ダン様とヘルマさんも心配していらっしゃるでしょうし。それにこの子もエール様を守るって気合い入ってますよ」
エールタインは目線を下ろして気合いの入ったこの子を見た。
「この子ってこんなに懐いてたっけ?」
「初めからエール様を気に入っていたみたいですよ。ヴォルフの中でもエール様のことを一番気にしていた子のようで、他のヴォルフたちがエール様のことはこの子に任せたんですって」
見下ろすエールタインの目をじっと見つめているヴォルフは、エールタインからの何かしらを待っているようだ。
「体の大きい魔獣と目を合わせたら怯えてしまうはずなのに、この子の目は優しいからどうしたらいいのか迷うなあ。とりあえず可愛がっておこう」
ヴォルフは目によるおねだりが叶ったようで、鳴き声や唸りとは違う独特な弱い声を出してエールタインに毛をぐしゃぐしゃにされながら喜んだ。
「エールタイン、いい加減にしないと部隊は負傷者だらけになってしまうわ。さ、行くわよ!」
ルイーサが呆れた物言いでエールタインに促したところで、負傷者が運び込まれてきた。
「すみません、また矢を受けた者が――」
「こちらの家へ。寝床が並んでいるのでそこで寝かせてください」
区長が負傷者を運んできた剣士を隣の家へと案内する。その光景を目の当たりにして少女デュオの四人は顔を曇らせた。
「ごめん、急いで向かおう。これ以上ボクと同じ苦しみを味わう人が増えてはいけない。でもスクリアニア公に従う者には同じ思いをしてもらう。ルイーサ、人を傷つけに行くけれど気持ちは大丈夫?」
「あなたは何を言っているの、私たちは剣士でしょ。そんなこと気にしていたら町は守れないわ。敵は敵、私たちにとって害以外の何物でもない。英雄の血を受け継いでいるのなら、敵を一掃してちょうだい」
ルイーサは大剣の先をエールタインに向けて発破をかけた。エールタインは一瞬身を引いたがすぐに戻し、ティベルダの手を掴むとブーズの東門に向かって地面を蹴る。
「ルイーサ、ダンの元へどっちが早く着くのか勝負ね!」
「ち、ちょっと、ずるいってば。あなたの速さに追いつけるわけないでしょう――もう!」
ルイーサは片足の踵で地面を数回蹴って怒ってみせ、ヒルデガルドの手を掴んで声を掛けた。
「ヒルデ、実戦だからしっかりと傍にいるのよ」
「はい、お傍にいることしか考えていません」
「私の大剣は、あなたの防御力があるから生きるの。よろしくね」
「お任せください。何があってもお守りします」
「ふふ、お父様に修練の結果として良い話を持ち帰りたいから思いっきりいくからね。ちょっとエールタインってば!」
ルイーサがヒルデガルドの手を引っ張り区長の元から去った。
「エールタイン様が回復されて本当に良かった。そしてお助けしたのがうちの子。こんなに素晴らしい出来事を目撃するなど――いつしか淡い夢で終わるのだろうと頭の隅に追いやっていましたが、諦めてはいけないことを教わりましたね」
区長は首を素早く数回振り、忘れていたものを思い出すような動きを見せて言う。
「エールタイン様のお姿を見たら皆喜び、さらに士気も上がることでしょう。町壁にも活躍してもらわねば」
東門をチラリと見てから踵を返した区長は、足早に負傷者の元へと向かった。
エールタインとルイーサにそれぞれの従者二人が続いて東地区長宅から出たところで、エールタインが区長に尋ねた。
「ところで区長さん、ザラさんの姿が見えないのだけど」
辺りをきょろきょろと見回すエールタインに区長が答えた。
「役場に向かいましたよ。随分と泣きじゃくっていましたが、少し落ち着いたところで向かわせました。護衛の二人を受け入れる手続きもありますので。初めに伝えるべきだとは思ったのですが――」
区長が話し終える前に、一人エールタインに向かって駆け寄る足音が聞こえてくる。
ティベルダが反射的にエールタインの前に出て防御態勢に入ったが、正体が分かるとその場にいる全員に走った緊張はすぐに解けることとなった。
「エールタイン様!」
「ザラさん!?」
エールタインはティベルダの肩に手を置いて構えを解くように促すと、ティベルダはホッとした様子で力を抜いた。
エールタインの元にたどり着いたザラは、息が落ち着くのを待たずに話始める。
「お身体の治癒は成功したのですね! 私の勝手な行動に巻き込んでしまって……もう……どうしたらいいのか」
エールタインは自分より背の高いザラの背中に両腕を回してギュッと抱きしめて言った。
「どうすればいいか……ただこの町で楽しく生活すればいいんじゃないかな。もちろん、この町じゃなくてもね」
エールタインの言葉にルイーサは苦笑気味に頬を上げると、独り言のように言う。
「あなたから言われたらこの町にしか住めなくなるわよ。さすが英雄の娘ねえ、そうやって民を虜にしていくのだから困ったものね」
「え。ボク変なこと言ってる!? ああっと、とにかくザラさんの好きなようにすればいいってことで……えっと、お子さんたちもそうだし……あれ、なんだか言えば言う程変なこと言っているような気がしてきちゃった」
エールタインに抱きしめられたままザラは笑い出した。
「ふふふ。エールタイン様がいらっしゃるので、今のところこの町で生きていくことしか考えられません。元々この町が好きですけれど、エールタイン様と出会ってもっと好きになりました。ありがとうございます」
「えっと、ああもう、なんだか変な感じだよ。そうそう、部隊の応援に行かないといけないからザラさん、町長の所へ向かってください。ボクたちはダンと合流するので」
エールタインの腕から解放されたザラは、深く頭を下げてから少し離れた場所から母親を見守っていたフォルターとケイテの手を掴んで改めて西地区へと向かった。
「さてと、ダンたちが心配だからすぐに向かおう……ん?」
エールタインの腰が毛深いモノにスリスリと擦られている。ティベルダが何の不思議も無さそうに言った。
「エール様の体もそろそろ全快しているはずなので、ほぼいつも通りに動くことができると思います。ダン様とヘルマさんも心配していらっしゃるでしょうし。それにこの子もエール様を守るって気合い入ってますよ」
エールタインは目線を下ろして気合いの入ったこの子を見た。
「この子ってこんなに懐いてたっけ?」
「初めからエール様を気に入っていたみたいですよ。ヴォルフの中でもエール様のことを一番気にしていた子のようで、他のヴォルフたちがエール様のことはこの子に任せたんですって」
見下ろすエールタインの目をじっと見つめているヴォルフは、エールタインからの何かしらを待っているようだ。
「体の大きい魔獣と目を合わせたら怯えてしまうはずなのに、この子の目は優しいからどうしたらいいのか迷うなあ。とりあえず可愛がっておこう」
ヴォルフは目によるおねだりが叶ったようで、鳴き声や唸りとは違う独特な弱い声を出してエールタインに毛をぐしゃぐしゃにされながら喜んだ。
「エールタイン、いい加減にしないと部隊は負傷者だらけになってしまうわ。さ、行くわよ!」
ルイーサが呆れた物言いでエールタインに促したところで、負傷者が運び込まれてきた。
「すみません、また矢を受けた者が――」
「こちらの家へ。寝床が並んでいるのでそこで寝かせてください」
区長が負傷者を運んできた剣士を隣の家へと案内する。その光景を目の当たりにして少女デュオの四人は顔を曇らせた。
「ごめん、急いで向かおう。これ以上ボクと同じ苦しみを味わう人が増えてはいけない。でもスクリアニア公に従う者には同じ思いをしてもらう。ルイーサ、人を傷つけに行くけれど気持ちは大丈夫?」
「あなたは何を言っているの、私たちは剣士でしょ。そんなこと気にしていたら町は守れないわ。敵は敵、私たちにとって害以外の何物でもない。英雄の血を受け継いでいるのなら、敵を一掃してちょうだい」
ルイーサは大剣の先をエールタインに向けて発破をかけた。エールタインは一瞬身を引いたがすぐに戻し、ティベルダの手を掴むとブーズの東門に向かって地面を蹴る。
「ルイーサ、ダンの元へどっちが早く着くのか勝負ね!」
「ち、ちょっと、ずるいってば。あなたの速さに追いつけるわけないでしょう――もう!」
ルイーサは片足の踵で地面を数回蹴って怒ってみせ、ヒルデガルドの手を掴んで声を掛けた。
「ヒルデ、実戦だからしっかりと傍にいるのよ」
「はい、お傍にいることしか考えていません」
「私の大剣は、あなたの防御力があるから生きるの。よろしくね」
「お任せください。何があってもお守りします」
「ふふ、お父様に修練の結果として良い話を持ち帰りたいから思いっきりいくからね。ちょっとエールタインってば!」
ルイーサがヒルデガルドの手を引っ張り区長の元から去った。
「エールタイン様が回復されて本当に良かった。そしてお助けしたのがうちの子。こんなに素晴らしい出来事を目撃するなど――いつしか淡い夢で終わるのだろうと頭の隅に追いやっていましたが、諦めてはいけないことを教わりましたね」
区長は首を素早く数回振り、忘れていたものを思い出すような動きを見せて言う。
「エールタイン様のお姿を見たら皆喜び、さらに士気も上がることでしょう。町壁にも活躍してもらわねば」
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