ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第四章 ボクたちの町

第四十九話 面会の申し出

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Szene-01 スクリアニア公国、ヴェルム城王室

 少女剣士に太刀打ち出来ない部隊を目の当たりにした上、ヴォルフの参入も耳にしたスクリアニア公は前線で負の空気を感じてその場から去り、意気消沈して王室の椅子に座った。

「いくつもの町を手中に収めてきているが、なぜあの町だけ手に入らないのか。兵の練度差、地形、そもそも戦略が間違っている、魔獣……どれもが理由と言える」

 椅子のひじ掛けにゆっくりと腕を乗せてため息をついたスクリアニア公は、独り言を続ける。

「思い浮かぶものがこれだけあるというのに攻めたのは焦り過ぎか。これからまた部隊の立て直しに時間が掛かりそうだな」

Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城居館前

「お待ちください!」

 ヴェルム城の居館前に到着したエールタインとその一行は、居館の扉へ近づこうとした時にひどく動揺した声が敷地内にある建物に反響したことで足を止めた。声の主は居館専属の女中である。
 女中は明らかにスクリアニア公国の兵士ではない装いの一行を見て一瞬絶句してしまったが、居館専属の女中としての役目を思い出し、怯えながらも言わねばならない言葉を何とか叫んだ。
 その声を居館内の廊下で耳にした執事はすぐさま門に向かって走り、扉越しに女中へ声を掛けた。

「何事ですか!?」
「部外者が入り込んでいます! それも他国の剣士が――」
「剣士ですと!?」

 執事はそのまま女中に様子を聞く。

「人数は?」
「ろ、六人と、け、獣が一頭……です」
「獣……なんと、もうここまで来てしまったのですか。城内の兵士でも止められなかったのですね。それにしても早過ぎる」

 女中は執事の言葉にハッとして城壁の頂部を見回したが、武器を構えたままエールタイン一行を眺めているだけの兵士の姿に唖然とした。

「兵士は全員無事のようです」
「無事? それはどういう――」

 扉越しでも困惑している様子がわかる口調の執事と女中の会話に、エールタインが割って入った。

「交戦していないんですよ。だからそちらの兵士とボクたちは怪我一つしていません。あ、挨拶が遅れました、レアルプドルフの上級剣士でエールタインと申します。この度の戦いについて、そちらの君主とお話をするためにやって参りました。お話は同行している剣聖がいたします。出来れば穏便に話を進めたいと思っています。対面でなくても構いません」

 執事は女中ではない声に肩をぴくりと震わせたが、若い女性の声であることと、扉を強引に開ける様子の無いことからすぐに平静を取り戻して答えた。

「今のお話を閣下に伝えて参ります。その場でお待ちくださいませ」

 執事は居館内の女中が連れて来た常駐兵とその場を替わり、スクリアニア公のいる王室へと向かった。
 エールタインはティベルダの手を握り、ダンへと振り向いて言った。

「ダン、ごめん。ボクが話しちゃった」
「お前は事後報告が多過ぎる。とうとう俺の目の前でやったな。まあ、目の前で見ているんだからマズけりゃその場で止めてるさ。それより矢を向けられている方が気になって仕方がない。ヴォルフがいるとはいえ、ここまで何もされないと調子が狂うな」

 じっと見つめる目線に気付いたエールタインは、顔を強張らせている女中に言う。

「驚かせてごめんなさい。あなたが何もしなければ、こちらも危害を加えはしません。出来るだけ、たとえほんの少しでも血を流すことを避けたいので」

 女中はエールタインの言葉をじっと聞きつつも、目はエールタインとヴォルフを行き来させている。

「ああ、ボクらよりこの子の方が怖いですよね。でもボクらが危ない目に遭わない限り、この子は襲いませんから大丈夫ですよ……と言っても信じられないでしょうけど」

 女中がぎこちなく頷くのを見て、ヒルデガルドがヴォルフを自分の後ろへ下がるように背中を軽く撫でた。
 ヴォルフはゆっくりとヒルデガルドの後ろへと移り、主人の腰に首の毛を擦りつける。

「魔獣が懐くなんて……信じられない」

 ただ首を振るしか出来なくなった女中にエールタインが言う。

「レアルプドルフには幸いな事にこのような能力を持った者がいるのです。そのおかげでザラさんにも出会えました」
「ザラ夫人!?」
「はい……はい?」

 ザラの名前に女中が目を見開いて反応したため、エールタインは驚いた。
 女中は敵の剣士と魔獣を前に固まっていたことなど忘れたかのように尋ねる。

「夫人はご無事なのですか!?」
「あの、えっと、はい。多少危ない事もありましたが、無事に戻りました」

 エールタインの答えにダンが割り込む。

「エール、多少どころじゃなかっただろう。お前がどんな気持ちで――」

 ダンの腹がエールタインの手のひらで押さえられ、ヘルマの手が腕を掴んだ。

「な、なんだ」
「それはいいんだってば」
「そうですよ、ダン様」

 エールタインとヘルマから同時に止められたダンは、不服そうに二人の手を交互に見る。

「ザラさんが悪いわけじゃないからいいの。これから話す人に言うことでしょ」
「うむ。しかしエールが受けた痛み分は返したいところだが」
「痛み分?」

 女中は首を傾げてエールタインを見るが、エールタインは気にしないようにと手を振る仕草をした。
 けれどもその仕草はダンによって台無しにされる。

「そうだ。そちらさんの刺客からザラを助けるために、こいつが体を張って守ったんだ。今こうしてここに居られるのは奇跡なんだよ」
「ちょっと、ダンってば!」
「刺客……ですか。噂は耳にしていましたが、まさか本当にザラ様を手に掛けようとしていただなんて」

 女中の驚きはエールタインたちの事から自国の君主の振る舞いへと変わった。

Szene-03 スクリアニア公国、ヴェルム城王室

 ヴェルム城の執事は、エールタインからの話を伝えるために王室の扉を叩いた。

「閣下、レアルプドルフの剣士数名と魔獣一頭、居館の前まで来ております。閣下に話があるそうなのですが、いかが致しましょう」

 王室の扉越しに尋ねる執事は、敵の剣士が間近にいる事と、スクリアニア公からどのような返事が来るのかという緊張で手を震わせていた。
 王室内からは椅子が軋む音に続いて足音が聞こえ、扉に近づく。
 執事の両手が汗を握り潰すように強く握られて震えを増した時、扉が開いた。
 思わず後退りしそうになるのを必死に堪えてその場に立っている執事に、スクリアニア公が言った。

「ふっ、兵士は仕事をしなかったようだな。ここは城ではなく、街道の橋よりも簡単に通ることができる民家のようだ。魔獣を連れていてもお前たちが無事ならば問題あるまい。面会場の支度をしろ、話を聞く。ただし魔獣は外だ」
「か、かしこまりました」

 出入口へ向かう執事の背中を見届けながらスクリアニア公は呟いた。

「望んだ結果とは真逆になってしまったな。奴らの話次第でこちらの動きが変わる。それは奴らの思い通りに事が進んでいるということ。何とも不愉快だ」

 スクリアニア公は剣の柄を握って身を護る物を確かめると、踵を返してその場から去った。
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