18 / 25
安心できる場所
しおりを挟む
「お兄様、お父様!」
「おかえり、シェリー。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「そんなに息を切らしてどうした?何かあったのか?」
二人は、ノックもせずに入ってきた自分に吃驚していたけど、仕事の手を止めて優しい笑みで迎えてくれた。兄に頭を撫でて貰えると堰を切ったように涙が溢れ出して、また二人が吃驚してしまったのは言うまでもない。慌てて使用人に冷たいタオルを持ってくるように言ったり、泣き止むまで背中を撫でててくれたり…それが余計に涙を誘ったり…。
ひとしきり泣くと今までの事を出来る限り説明した。もう婚約も破棄したい。もう解放されたいと。
「…侯爵家はうちに戦争でも起こさせたいのか?」
「はい、そうとしか思えませんね…」
二人の顔には、怒りというより…憤怒。どんっとテーブルを叩いたなと思ったら、テーブルが真っ二つに割れた。大理石のテーブルが…。まだまだ現役の父。恐るべし…本当に戦争を起こしてしまうんじゃないかと冷や汗が出てきた。そんな自分の気持ちを分かってるかのように兄が大丈夫だと背中をぽんぽんとしてから微笑んだ。
「さ、今すぐ婚約を破棄にいこうか」
「え?今ですか?」
もう太陽も沈みかかっている。侯爵家に今から向かったら夜になるというのに二人は立ち上がり、一刻も早く自分とリルの縁を切ろうと出かける準備に取り掛かった。
「先に一応使用人を向かわせるか?」
「いえ、突然行った方が言い逃れ出来ないのでは?」
「それもそうだな、今回新しい武器を手に入れたし、それも持っていくか」
「あぁ、いいですね。まだ試用もしていないので」
物騒な話が出てまた冷や汗がたらりと額に湿る。本当に大丈夫だろうか…。
__________________
「あの…一体何の御用で…?」
「あぁ、お宅の令息との婚約を破棄させにね」
「え…?」
「おや?何も聞いてないのか?」
「うちの娘を馬鹿にされたんでね」
縮こまり、顔を真っ青にしながらリルの両親が対面のソファに座っている。今にも倒れそうな表情に、少しだけ同情してしまう。リルの両親はなんだかんだ優しくしてくれたし、婚約して早く娘になって欲しいとよく言っていた。そんな義両親になるはずだった人達にこんな表情をさせてしまうリルに心底軽蔑した。
しかし、いつまで経ってもリルが来ない。まだ帰ってきてないのだろうか。使用人達も異様な光景に遠巻きにソワソワしているのが見える。
「何やってる!リルはまだか!」
ついには、リルの父が使用人に怒鳴った。使用人は関係ないじゃないと思ってしまったが、ここに来るのも相当な勇気がいるだろう。
「私、呼んできます」
「シェリー?大丈夫なのか?」
「えぇ、少し話したいこともあったので」
すっとソファから立ちあがり、リルの私室に向かう。向かっている間、もうここに来ることもないのねと思うとなんだか寂しい気がするのはなんでだろう。もう何年も通っていたから通り過ぎる度に、そこであれをしたなとかあそこで喧嘩になったなとか色んな思い出が思い出されるからかもしれない。
十年というのはすぐに忘れられるものではないのだ。
「おかえり、シェリー。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「そんなに息を切らしてどうした?何かあったのか?」
二人は、ノックもせずに入ってきた自分に吃驚していたけど、仕事の手を止めて優しい笑みで迎えてくれた。兄に頭を撫でて貰えると堰を切ったように涙が溢れ出して、また二人が吃驚してしまったのは言うまでもない。慌てて使用人に冷たいタオルを持ってくるように言ったり、泣き止むまで背中を撫でててくれたり…それが余計に涙を誘ったり…。
ひとしきり泣くと今までの事を出来る限り説明した。もう婚約も破棄したい。もう解放されたいと。
「…侯爵家はうちに戦争でも起こさせたいのか?」
「はい、そうとしか思えませんね…」
二人の顔には、怒りというより…憤怒。どんっとテーブルを叩いたなと思ったら、テーブルが真っ二つに割れた。大理石のテーブルが…。まだまだ現役の父。恐るべし…本当に戦争を起こしてしまうんじゃないかと冷や汗が出てきた。そんな自分の気持ちを分かってるかのように兄が大丈夫だと背中をぽんぽんとしてから微笑んだ。
「さ、今すぐ婚約を破棄にいこうか」
「え?今ですか?」
もう太陽も沈みかかっている。侯爵家に今から向かったら夜になるというのに二人は立ち上がり、一刻も早く自分とリルの縁を切ろうと出かける準備に取り掛かった。
「先に一応使用人を向かわせるか?」
「いえ、突然行った方が言い逃れ出来ないのでは?」
「それもそうだな、今回新しい武器を手に入れたし、それも持っていくか」
「あぁ、いいですね。まだ試用もしていないので」
物騒な話が出てまた冷や汗がたらりと額に湿る。本当に大丈夫だろうか…。
__________________
「あの…一体何の御用で…?」
「あぁ、お宅の令息との婚約を破棄させにね」
「え…?」
「おや?何も聞いてないのか?」
「うちの娘を馬鹿にされたんでね」
縮こまり、顔を真っ青にしながらリルの両親が対面のソファに座っている。今にも倒れそうな表情に、少しだけ同情してしまう。リルの両親はなんだかんだ優しくしてくれたし、婚約して早く娘になって欲しいとよく言っていた。そんな義両親になるはずだった人達にこんな表情をさせてしまうリルに心底軽蔑した。
しかし、いつまで経ってもリルが来ない。まだ帰ってきてないのだろうか。使用人達も異様な光景に遠巻きにソワソワしているのが見える。
「何やってる!リルはまだか!」
ついには、リルの父が使用人に怒鳴った。使用人は関係ないじゃないと思ってしまったが、ここに来るのも相当な勇気がいるだろう。
「私、呼んできます」
「シェリー?大丈夫なのか?」
「えぇ、少し話したいこともあったので」
すっとソファから立ちあがり、リルの私室に向かう。向かっている間、もうここに来ることもないのねと思うとなんだか寂しい気がするのはなんでだろう。もう何年も通っていたから通り過ぎる度に、そこであれをしたなとかあそこで喧嘩になったなとか色んな思い出が思い出されるからかもしれない。
十年というのはすぐに忘れられるものではないのだ。
11
あなたにおすすめの小説
その結婚、承服致しかねます
チャイムン
恋愛
結婚が五か月後に迫ったアイラは、婚約者のグレイグ・ウォーラー伯爵令息から一方的に婚約解消を求められた。
理由はグレイグが「真実の愛をみつけた」から。
グレイグは彼の妹の侍女フィルとの結婚を望んでいた。
誰もがゲレイグとフィルの結婚に難色を示す。
アイラの未来は、フィルの気持ちは…
【完結】優雅に踊ってくださいまし
きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。
この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。
完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。
が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。
-ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。
#よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。
#鬱展開が無いため、過激さはありません。
#ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。
【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ
もも野はち助
恋愛
【あらすじ】6歳になると受けさせられる魔力測定で、微弱の初級魔法しか使えないと判定された子爵令嬢のロナリアは、魔法学園に入学出来ない事で落胆していた。すると母レナリアが気分転換にと、自分の親友宅へとロナリアを連れ出す。そこで出会った同年齢の伯爵家三男リュカスも魔法が使えないという判定を受け、酷く落ち込んでいた。そんな似た境遇の二人はお互いを慰め合っていると、ひょんなことからロナリアと接している時だけ、リュカスが上級魔法限定で使える事が分かり、二人は翌年7歳になると一緒に王立魔法学園に通える事となる。この物語は、そんな二人が手を繋ぎながら成長していくお話。
※魔法設定有りですが、対人で使用する展開はございません。ですが魔獣にぶっ放してる時があります。
★本編は16話完結済み★
番外編は今後も更新を追加する可能性が高いですが、2024年2月現在は切りの良いところまで書きあげている為、作品を一度完結処理しております。
※尚『小説家になろう』でも投稿している作品になります。
幼馴染に裏切られた私は辺境伯に愛された
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアイシャは、同じく伯爵令息であり幼馴染のグランと婚約した。
しかし、彼はもう一人の幼馴染であるローザが本当に好きだとして婚約破棄をしてしまう。
傷物令嬢となってしまい、パーティなどでも煙たがられる存在になってしまったアイシャ。
しかし、そこに手を差し伸べたのは、辺境伯のチェスター・ドリスだった……。
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
【完結】祈りの果て、君を想う
とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。
静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。
騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。
そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、
ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。
愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。
沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。
運命ではなく、想いで人を愛するとき。
その愛は、誰のもとに届くのか──
※短編から長編に変更いたしました。
幼馴染に婚約者を奪われましたが、私を愛してくれるお方は別に居ました
マルローネ
恋愛
ミアスタ・ハンプリンは伯爵令嬢であり、侯爵令息のアウザー・スネークと婚約していた。
しかし、幼馴染の令嬢にアウザーは奪われてしまう。
信じていた幼馴染のメリス・ロークに裏切られ、婚約者にも裏切られた彼女は酷い人間不信になってしまった。
その時に現れたのが、フィリップ・トルストイ公爵令息だ。彼はずっとミアスタに片想いをしており
一生、ミアスタを幸せにすると約束したのだった。ミアスタの人間不信は徐々に晴れていくことになる。
そして、完全復活を遂げるミアスタとは逆に、アウザーとメリスの二人の関係には亀裂が入るようになって行き……。
【完結】さっさと婚約破棄が皆のお望みです
井名可乃子
恋愛
年頃のセレーナに降って湧いた縁談を周囲は歓迎しなかった。引く手あまたの伯爵がなぜ見ず知らずの子爵令嬢に求婚の手紙を書いたのか。幼い頃から番犬のように傍を離れない年上の幼馴染アンドリューがこの結婚を認めるはずもなかった。
「婚約破棄されてこい」
セレーナは未来の夫を試す為に自らフラれにいくという、アンドリューの世にも馬鹿げた作戦を遂行することとなる。子爵家の一人娘なんだからと屁理屈を並べながら伯爵に敵意丸出しの幼馴染に、呆れながらも内心ほっとしたのがセレーナの本音だった。
伯爵家との婚約発表の日を迎えても二人の関係は変わらないはずだった。アンドリューに寄り添う知らない女性を見るまでは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる