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第三章
花言葉は永遠にあなたのもの
しおりを挟む翌日、国王陛下から手紙が届き、カイルも申し訳ないと謝罪の言葉を口にした。
国王陛下からは、愚息が申し訳ないことをした。是非に宮殿へ来てほしい。お詫びをしたい。などの内容だったが、もうこの国に関わることも億劫だ。自分の仕事はきちんとするからもうどこも行きたくないとカイルに伝えると眉を下げながら承知致しましたと返事をした後に部屋を出て行った。
比呂は相変わらず服を作っていたが、いのりがそんなに着れないと言うと神官見習いのアーロンの手を通じて町へ服を売りに出しているらしい。それが物凄い人気で、売れっ子デザイナーはここでも人気なのねと他人事のように思っていた。
「聖女様、今日は神殿の庭園に行ってみませんか?」
「んー…今日は特にやることないし、行こっか」
呪いから解き放たれたアーロンは、いのりの身の回りを自主的に世話するようになった。あの熱っぽい視線も相変わらずあるが、アーロン本人に間違いなら申し訳ないけど恋愛関係などあり得ないとはっきり言えば、それでも傍に居たいのですと懇願されてしまった。絶対に迷惑はかけないからと。その言葉通りに世話係に徹し、過剰なスキンシップもなければ触ることなどほとんどない。比呂以外の男なんて最低と言ったが、それも少し間違いだったかなと今は信頼している。
そもそもこちらに知り合いなどいないのだから、暇で仕方ない。たまに治療をするが、神聖力でのヒールの威力が凄まじいらしく簡単に呪いが払えてしまうので呪われている人もだいぶ減ってきた。
毎日治療などに追われていれば、もう少しこの胸のもやもやも薄くなるかもしれないのに。
「わー綺麗…花なんてあんまり興味ないけど、これは圧巻だね」
「そう言って頂けて嬉しいです。不躾ながら私が整えさせて頂きました」
見渡す限り一面のブルーサルビア。花言葉は永遠にあなたのもの。その花言葉を知らないいのりは素直にこの光景に喜んでいた。その様子を心底嬉しそうにいのりの少し後ろを歩きながら熱く視線を送るアーロン。
「聖女様!」
「カイル?そんな慌ててどうしたの?また呪いの発症者?」
毎回この男が慌てて来るときは発症者などの問題があった時だ。どこにいるの?とカイルに近付くと違いますと顔を左右に振った。
「聖女様の元の世界から人が来てしまって…、こんなこと初めてなのでどうしたらいいのか…」
「え?どういうこと?」
「気づいたら神殿に居たらしく、ちょっと一緒に来て頂けますか?」
なんだろう、この不安は。バクバクと心臓が高鳴る。
この時の不安が的中することをいのりは知る由もなかった。
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