14 / 22
第二章
今は何も考えたくない
しおりを挟む
二人でお披露目の為の夜会を抜け出して、あのアホ王子の事や王様の事を考えると頭が痛いがアホ王子と居るとこっちまで頭がおかしくなりそうだった。ジークフリートを何故連れて来てしまったのかは分からないが、手を握り強制的に連れて来てしまった。夜会の会場を少し離れた所で冷静になってジークフリート手を離した。
「あ、ごめんなさい。思わず…」
「い、いや…」
気まずい雰囲気が辺りを漂う。まだ少し冷たい風に一瞬身震いすると気が付いたジークフリートが自分の鎧の上に羽織っていたマントをいのりにかけてあげる。少し長い裾に苦笑いを浮かべたが、ありがとうと言ういのりにジークフリートは嬉しくなった。
「ジーク様っ!!」
「レイラ嬢…?」
薄暗い闇世の中から似つかわしくないピンクのドレスの裾を持ちながら可愛らしい少女が現れる。ジークフリートは知り合いなのだろう。その女の子はレイラというらしい。息を切らして走ってきたレイラは、ジークフリートの腕に抱き着いて満面の可愛らしい笑顔を見せた。
「ちょっ…レイラ嬢、やめてくれっ」
「このお方は…?」
じっとこっちを見てきている瞳には明らかに敵意が向けられていて、いのりは少し胸がズキンと痛んだ。離そうとしているジークフリートを軽くいなして絶対離れないという意志が見受けられる。
「聖女のイノリ・ヒナタです」
もう面倒になって自分から自己紹介をする。すると、プッとレイラがまるで馬鹿にしたように嘲笑いだした。
「え?やだー。レイラは公爵令嬢。身上の人間から自己紹介するのが普通ですよ?そんなマナーも分からないのです~?」
イチイチ語尾を伸ばすなといつもなら言い返しているが、ここは異世界。やっぱりこんな夜会なんて来るんじゃなかった。
「彼女は聖女。国王陛下と同等と扱う様にと貴族には通達が来ているはずだが…?」
「え…?レイラ、そんなことお父様から聞いてません!」
「わざわざ言わなくても分かるようなことだから言わなかったんじゃないのか?」
冷たく言い放つジークフリートに一瞬怯んだレイラ。今だとジークフリートは自分の腕とレイラの腕を離す。明らかにジークフリートは嫌悪感を示しているが、レイラは熱っぽい視線を向ける。
「そんなことより!婚約者の私を放置するのは仕事だからと納得してましたが…聖女様と一緒にいるのはどうかと思いますわ!」
「え…貴方も婚約者が…?」
「いや、ちがっ!お、俺には」
「あたし、婚約者の蔑ろにする男は嫌だとさっきの話聞いてませんでしたか?」
「違うっ!」
「どうでもいいです。レイラさんについてあげてください。ラッシェル令息様」
無性に腹が立ったいのりは、何か言いかけているジークフリートに借りたマントを叩きつけ、ニヤニヤしているレイラを二人に別れを告げて、自分の仮住まいになっている神殿へ帰った。
正直腹が立ちすぎて馬車を操る御者を脅すようにして帰ってきたような帰ってこなかったような気がするが、今は何も考えたくない。
「比呂!」
「あら?あんた夜会は…?」
いのりの服を作りながら呆気にとられた見慣れた顔に思わず涙腺が崩壊した。思いっきり泣いたあと、説明するいのりの話を優しい目で見ながら背中をさすり聞いてくれた。しかし、聞いているうちに眉間の皺が深く刻まれていく。
「はぁぁああああああ!?あんのクソ王子!どういうつもりよ!」
「ははっ…比呂以外の自分の周囲の男は最低な奴ってことが分かった」
「でもさー、ラッシェル令息だっけ?あんたが処置してやった男」
「いやー、完全には治ってないから治療したというか、勝手に手を出したというか…」
「遠目で見ただけだけだからなんとも言えないけど、誠実そうだったけど。それにあの顔、あんたのどストライクじゃない」
「もう!顔だけ男なんて嫌!比呂の言葉は信じない。あの王子だってクソだったもの」
確かにねと苦笑いした比呂に抱きしめられたら落ち着いたはずなのにまたじんわりと涙が視界に入ってきた。
「あ、ごめんなさい。思わず…」
「い、いや…」
気まずい雰囲気が辺りを漂う。まだ少し冷たい風に一瞬身震いすると気が付いたジークフリートが自分の鎧の上に羽織っていたマントをいのりにかけてあげる。少し長い裾に苦笑いを浮かべたが、ありがとうと言ういのりにジークフリートは嬉しくなった。
「ジーク様っ!!」
「レイラ嬢…?」
薄暗い闇世の中から似つかわしくないピンクのドレスの裾を持ちながら可愛らしい少女が現れる。ジークフリートは知り合いなのだろう。その女の子はレイラというらしい。息を切らして走ってきたレイラは、ジークフリートの腕に抱き着いて満面の可愛らしい笑顔を見せた。
「ちょっ…レイラ嬢、やめてくれっ」
「このお方は…?」
じっとこっちを見てきている瞳には明らかに敵意が向けられていて、いのりは少し胸がズキンと痛んだ。離そうとしているジークフリートを軽くいなして絶対離れないという意志が見受けられる。
「聖女のイノリ・ヒナタです」
もう面倒になって自分から自己紹介をする。すると、プッとレイラがまるで馬鹿にしたように嘲笑いだした。
「え?やだー。レイラは公爵令嬢。身上の人間から自己紹介するのが普通ですよ?そんなマナーも分からないのです~?」
イチイチ語尾を伸ばすなといつもなら言い返しているが、ここは異世界。やっぱりこんな夜会なんて来るんじゃなかった。
「彼女は聖女。国王陛下と同等と扱う様にと貴族には通達が来ているはずだが…?」
「え…?レイラ、そんなことお父様から聞いてません!」
「わざわざ言わなくても分かるようなことだから言わなかったんじゃないのか?」
冷たく言い放つジークフリートに一瞬怯んだレイラ。今だとジークフリートは自分の腕とレイラの腕を離す。明らかにジークフリートは嫌悪感を示しているが、レイラは熱っぽい視線を向ける。
「そんなことより!婚約者の私を放置するのは仕事だからと納得してましたが…聖女様と一緒にいるのはどうかと思いますわ!」
「え…貴方も婚約者が…?」
「いや、ちがっ!お、俺には」
「あたし、婚約者の蔑ろにする男は嫌だとさっきの話聞いてませんでしたか?」
「違うっ!」
「どうでもいいです。レイラさんについてあげてください。ラッシェル令息様」
無性に腹が立ったいのりは、何か言いかけているジークフリートに借りたマントを叩きつけ、ニヤニヤしているレイラを二人に別れを告げて、自分の仮住まいになっている神殿へ帰った。
正直腹が立ちすぎて馬車を操る御者を脅すようにして帰ってきたような帰ってこなかったような気がするが、今は何も考えたくない。
「比呂!」
「あら?あんた夜会は…?」
いのりの服を作りながら呆気にとられた見慣れた顔に思わず涙腺が崩壊した。思いっきり泣いたあと、説明するいのりの話を優しい目で見ながら背中をさすり聞いてくれた。しかし、聞いているうちに眉間の皺が深く刻まれていく。
「はぁぁああああああ!?あんのクソ王子!どういうつもりよ!」
「ははっ…比呂以外の自分の周囲の男は最低な奴ってことが分かった」
「でもさー、ラッシェル令息だっけ?あんたが処置してやった男」
「いやー、完全には治ってないから治療したというか、勝手に手を出したというか…」
「遠目で見ただけだけだからなんとも言えないけど、誠実そうだったけど。それにあの顔、あんたのどストライクじゃない」
「もう!顔だけ男なんて嫌!比呂の言葉は信じない。あの王子だってクソだったもの」
確かにねと苦笑いした比呂に抱きしめられたら落ち着いたはずなのにまたじんわりと涙が視界に入ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?
naturalsoft
恋愛
バーン王国は代々聖女の張る結界に守られて繁栄していた。しかし、当代の国王は聖女に支払う多額の報酬を減らせないかと、画策したことで国を滅亡へと招いてしまうのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ゆるふわ設定です。
連載の息抜きに書いたので、余り深く考えずにお読み下さい。
聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!?
元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる