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第四章
過去は過去
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最近は呪いの発症者も居なく、元々発症していた者も治療してしまったので、いのりは物凄く暇だった。ボケっと外を眺め、そういえば、自分のカバンどこだっけ?とクローゼットを覗く。
比呂と出かけるだけだったから最低限の物しか持ってなかったもんな…。カバンの中には、メイクポーチとスマホとタブレット。仕事用のメモ帳。あと、比呂と飲みに行く予定だったから味変用の調味料……調味料!思わず、懐かしい醤油に頬摺りしてしまう。懐かしい日本の味!
「比呂ー!…薫」
あまりの嬉しさに比呂の部屋兼仕事部屋になっている所へ突撃すると意外な人物が居て、思わず立ち止まる。薫の方も驚いたみたいで、座っていたソファから勢いよく立ち上がった。
「いのり、ちょうど良かった。話があったのよ」
「話…?」
「そう、このおバカからね」
比呂が指差したのは、もちろん薫で、本人は指差されると眉間に皺を寄せたあと、何かを決心したように真剣な顔になった。とりあえず、二人で話してと比呂が部屋を出ていく。二人きりになるのは、あのトラウマの前日だから5年前だろう。
「いのり、ごめん。今更だと思うけど、きちんと話しておきたくて…」
「あたしには話なんてないけど」
冷たく言い返すと薫はだよなと笑っていたけど、とても傷ついた顔をしている。
「とりあえず聞いてくれ。聞くだけでいいから」
「……分かった」
「ありがとう」
ぽつりぽつりと薫は話し始めた。
五年前、いのりの事が本当に好きだった。あの話を聞かれているとは思わず、何度も電話かけた。家を知らないから教師に住所を聞こうとしたけど、個人情報は教えられないと言われたこと。
「そんな話を聞いてどうしろって言うの?気持ち悪いと言ったのは貴方よ、薫」
「ごめん…俺も経験がなかったから、男がリードして当然って固定概念があったんだ…だから、あんな言い方をしてしまった、本当ごめん…」
「はぁ…別に今更何も思ってないわよ。それより、比呂との約束の事聞きたいんだけど」
少し悩んだ後、分かったと薫が頷く。
「実は、比呂さんが俺に会いに来て。よくも泣かしてくれたわねってボコボコにされたんだよ。その時になんでいのりが離れたのかも聞かされた。それにいのり…俺に言ってないことあるだろ?」
「え…?」
もしかして、いや、絶対誰にも言ってないし、バレてないはず…。5年前、薫と離れたのにはもう一つ理由があったのだ。
「クラスの女子からいじめ…されてたんだろ?」
「なんでそれを!?誰にも言ってないし、バレないように気を付けてたのに!」
「俺も知らなかったよ、気が付いてたのは比呂さん。いのりの様子がおかしいって調べてたみたいだ」
比呂は知ってすぐいじめをやめさせようとしたが、いのり自身が隠しているのにどうやってやめさせればいいか物凄く悩んだらしい。
「比呂…」
そうしてる内にあの出来事があって、怒りに任せて比呂は薫の元へ。いじめにも気づかず、言葉でいのりを傷つけて、どういうつもりなんだと。これ以上あの子に関わるなら殺すとまで言われたらしい。その後、クラスの女子に問い詰めたらクラスの女子の一人が薫の事が好きで嫉妬してやったという事実が分かった。
「言葉で傷つけて、いじめの原因も俺だなんて…絶望だったよ。俺にそんな気持ちになる権利なんてないけどさ。好きな女守れなかったなんて本当に自分の不甲斐なさに死にたくなったよ」
「いじめは…貴方のせいじゃない。あの子の逆怨みじゃない…。薫がそんなに思いつめなくても…」
「それでも!俺はいのりを守りたかった…泣かしたくなんてなかったし、一番近くで守ってあげたかったんだ…」
薫の瞳からは5年分の涙がダムが崩壊したように流れ始める。両手を握りしめて、額に当てて顔が俯く。肩を震わせながら思いをぶつけられていのりも眉が下がる。
「…過去の事よ…薫。あの時、教科書を破られても、体操服をズタズタにされて花壇に捨てられても、なんで薫に言わなかったのか分かる…?」
「…なんで?」
「貴方が好きだったからよ。貴方が好きだったから心配かけたくなった。優しい貴方はきっと怒る。そして、その貴方の事を好きだったあの子に怒るでしょ?その怒りでさえあの子に向くのが嫌だったの、嫉妬ね。本当子供だったの、助けてって言えば良かった。でもね、それ以上に貴方と居ることが楽しくて…いじめなんてそんなに辛くなかったのも事実よ」
「…そんなに好きでいてくれたのか…それなのに俺は…」
薫の両手をいのりは自分の両手で包み込んだ。もう苦しむのはお互いに辞めようと。
「過去よ、薫。もういいの」
ごめんごめんと謝る薫が泣き止むまでその両手を包み込んでいた。薫が何故この世界に来たのかは分からない。でも、過去の清算が目的ならもう元の世界に返してあげてください、神様。お願いしますと薫の両手を包み込みながら祈った。
比呂と出かけるだけだったから最低限の物しか持ってなかったもんな…。カバンの中には、メイクポーチとスマホとタブレット。仕事用のメモ帳。あと、比呂と飲みに行く予定だったから味変用の調味料……調味料!思わず、懐かしい醤油に頬摺りしてしまう。懐かしい日本の味!
「比呂ー!…薫」
あまりの嬉しさに比呂の部屋兼仕事部屋になっている所へ突撃すると意外な人物が居て、思わず立ち止まる。薫の方も驚いたみたいで、座っていたソファから勢いよく立ち上がった。
「いのり、ちょうど良かった。話があったのよ」
「話…?」
「そう、このおバカからね」
比呂が指差したのは、もちろん薫で、本人は指差されると眉間に皺を寄せたあと、何かを決心したように真剣な顔になった。とりあえず、二人で話してと比呂が部屋を出ていく。二人きりになるのは、あのトラウマの前日だから5年前だろう。
「いのり、ごめん。今更だと思うけど、きちんと話しておきたくて…」
「あたしには話なんてないけど」
冷たく言い返すと薫はだよなと笑っていたけど、とても傷ついた顔をしている。
「とりあえず聞いてくれ。聞くだけでいいから」
「……分かった」
「ありがとう」
ぽつりぽつりと薫は話し始めた。
五年前、いのりの事が本当に好きだった。あの話を聞かれているとは思わず、何度も電話かけた。家を知らないから教師に住所を聞こうとしたけど、個人情報は教えられないと言われたこと。
「そんな話を聞いてどうしろって言うの?気持ち悪いと言ったのは貴方よ、薫」
「ごめん…俺も経験がなかったから、男がリードして当然って固定概念があったんだ…だから、あんな言い方をしてしまった、本当ごめん…」
「はぁ…別に今更何も思ってないわよ。それより、比呂との約束の事聞きたいんだけど」
少し悩んだ後、分かったと薫が頷く。
「実は、比呂さんが俺に会いに来て。よくも泣かしてくれたわねってボコボコにされたんだよ。その時になんでいのりが離れたのかも聞かされた。それにいのり…俺に言ってないことあるだろ?」
「え…?」
もしかして、いや、絶対誰にも言ってないし、バレてないはず…。5年前、薫と離れたのにはもう一つ理由があったのだ。
「クラスの女子からいじめ…されてたんだろ?」
「なんでそれを!?誰にも言ってないし、バレないように気を付けてたのに!」
「俺も知らなかったよ、気が付いてたのは比呂さん。いのりの様子がおかしいって調べてたみたいだ」
比呂は知ってすぐいじめをやめさせようとしたが、いのり自身が隠しているのにどうやってやめさせればいいか物凄く悩んだらしい。
「比呂…」
そうしてる内にあの出来事があって、怒りに任せて比呂は薫の元へ。いじめにも気づかず、言葉でいのりを傷つけて、どういうつもりなんだと。これ以上あの子に関わるなら殺すとまで言われたらしい。その後、クラスの女子に問い詰めたらクラスの女子の一人が薫の事が好きで嫉妬してやったという事実が分かった。
「言葉で傷つけて、いじめの原因も俺だなんて…絶望だったよ。俺にそんな気持ちになる権利なんてないけどさ。好きな女守れなかったなんて本当に自分の不甲斐なさに死にたくなったよ」
「いじめは…貴方のせいじゃない。あの子の逆怨みじゃない…。薫がそんなに思いつめなくても…」
「それでも!俺はいのりを守りたかった…泣かしたくなんてなかったし、一番近くで守ってあげたかったんだ…」
薫の瞳からは5年分の涙がダムが崩壊したように流れ始める。両手を握りしめて、額に当てて顔が俯く。肩を震わせながら思いをぶつけられていのりも眉が下がる。
「…過去の事よ…薫。あの時、教科書を破られても、体操服をズタズタにされて花壇に捨てられても、なんで薫に言わなかったのか分かる…?」
「…なんで?」
「貴方が好きだったからよ。貴方が好きだったから心配かけたくなった。優しい貴方はきっと怒る。そして、その貴方の事を好きだったあの子に怒るでしょ?その怒りでさえあの子に向くのが嫌だったの、嫉妬ね。本当子供だったの、助けてって言えば良かった。でもね、それ以上に貴方と居ることが楽しくて…いじめなんてそんなに辛くなかったのも事実よ」
「…そんなに好きでいてくれたのか…それなのに俺は…」
薫の両手をいのりは自分の両手で包み込んだ。もう苦しむのはお互いに辞めようと。
「過去よ、薫。もういいの」
ごめんごめんと謝る薫が泣き止むまでその両手を包み込んでいた。薫が何故この世界に来たのかは分からない。でも、過去の清算が目的ならもう元の世界に返してあげてください、神様。お願いしますと薫の両手を包み込みながら祈った。
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