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最終章
忘れてたもの
しおりを挟む 急に場面が変わり、裁判所だろうか。
夫が自分の遺影を持って傍聴席にいるのが見える。娘たちはどうしたのだろうか?その姿は痩せ細り、隈が酷く、目も窪んでしまっている。
寝ていないのだろうか?食べていないのだろうか?
あんなにイケメンだと女の子にモテていたはずの夫は見る影もないほどに鋭気が無かった。
「すみませんでした…」
犯人の女が夫に向かって謝っていた。何を謝っているの?もう私は娘をこの腕に抱けないのに…。
「まさか…別人だなんて…本当にすみません、謝っても許されることじゃないけど本当に…本当に…申し訳ありません…」
手錠に繋がれたまま、女が土下座で夫に謝っている。別人…?どういうこと?
裁判の内容を要約すると、夫の同僚が最近会社での成績もいい夫を恨んで夫の名を使い不倫していたそうだ。上手くやっていたはずなのに女が妊娠してしまった。面倒ごとを嫌い、連絡を絶った。女は連絡も取れず、どうしようもなくて教えてくれた住所の家に来た。そしたら、自分は妊娠で苦しんでいるのに妻は何も知らずに結婚記念日の準備をしていた。あまりに腹がたって、すべてぶちまけて刺してしまったというなんとも三流ドラマのような内容だった。
そんな事で命が奪われるなんて…。
「俺は一生貴方を許しません。勝手な理由で殺された妻は、もう娘を抱くことも、もう俺に笑顔を向けることもない。もう妻は生き返ることはない。いっその事、貴方を殺して妻が生き返るなら貴方をこの手で殺したいくらいだ」
そう被害者席で言った夫の目は怒りが籠っていた。怨念に近い殺気に女は顔を抑えて泣いていた。
「こんなの見たくなかったわ…真実を知った所でどうしようもないじゃない」
1人、誰にも届かない声。夫を撫でてみるが、何も反応はない。
ごめん、最後に浮気野郎なんて言って。隣に座ってみたものの悲しくなるだけだった。
_________
瞼を閉じて起きるとまた場面が変わる。
「まーたここにいる」
長女凛子がもう大きくなっていた。二十歳とかその辺かしら?
自分の墓だろう場所に少し老けた夫が座っていた。そんな様子を見て娘は溜息をついていた。
「んー…ママが寂しいかと思ってな」
「もう再婚したらいいじゃない」
「無理無理、俺の妻はママしか無理。それに俺は結婚に呪われてる気がする」
「ママもこんなパパに執着されて可哀想だわ」
もう一人来た女の子は次女琉香だろうか。笑った顔が夫に似ている。
「そうだなぁ、もうママはパパの事忘れちゃったかな」
「最後の言葉が浮気野郎だしね」
「もう違う人と結婚してるかもね」
「あー…やめてくれ、冗談でも嫌だ」
聞きたくないと耳を塞ぐ夫はどこか子供みたいで、止まっていたはずの涙が零れてきた。もう泣きすぎて瞼が痛い。きっと赤くなってパンパンになってしまっているはず。
「そうよ、もう私結婚したのよ。あんたよりイケメンだし、獣人なのよ、私も女王だし…」
そう言葉を漏らすと、夫が急に手をこちらに伸ばしてきた。しかし、掴めるはずもなく。一瞬だけ驚いたけれど、私を忘れて幸せになってほしい。
「ふざけんなよ、俺以外と結婚なんてさせるか」
ぼそりと呟くように言った夫の言葉に眉を顰めた。聞こえたのかしら…。
「どうしたの?パパ」
「いや、ママの声が聞こえた気がして…」
「やだーもうボケたの?」
「親になんてこというんだ!」
三人の笑い声が心地いい。そろそろ私も目覚めないと…。エイダンが待ってるわ。
ごめんね、最後まで一緒に居られなくて。娘のウェデングドレス見たかったわ。
夫が自分の遺影を持って傍聴席にいるのが見える。娘たちはどうしたのだろうか?その姿は痩せ細り、隈が酷く、目も窪んでしまっている。
寝ていないのだろうか?食べていないのだろうか?
あんなにイケメンだと女の子にモテていたはずの夫は見る影もないほどに鋭気が無かった。
「すみませんでした…」
犯人の女が夫に向かって謝っていた。何を謝っているの?もう私は娘をこの腕に抱けないのに…。
「まさか…別人だなんて…本当にすみません、謝っても許されることじゃないけど本当に…本当に…申し訳ありません…」
手錠に繋がれたまま、女が土下座で夫に謝っている。別人…?どういうこと?
裁判の内容を要約すると、夫の同僚が最近会社での成績もいい夫を恨んで夫の名を使い不倫していたそうだ。上手くやっていたはずなのに女が妊娠してしまった。面倒ごとを嫌い、連絡を絶った。女は連絡も取れず、どうしようもなくて教えてくれた住所の家に来た。そしたら、自分は妊娠で苦しんでいるのに妻は何も知らずに結婚記念日の準備をしていた。あまりに腹がたって、すべてぶちまけて刺してしまったというなんとも三流ドラマのような内容だった。
そんな事で命が奪われるなんて…。
「俺は一生貴方を許しません。勝手な理由で殺された妻は、もう娘を抱くことも、もう俺に笑顔を向けることもない。もう妻は生き返ることはない。いっその事、貴方を殺して妻が生き返るなら貴方をこの手で殺したいくらいだ」
そう被害者席で言った夫の目は怒りが籠っていた。怨念に近い殺気に女は顔を抑えて泣いていた。
「こんなの見たくなかったわ…真実を知った所でどうしようもないじゃない」
1人、誰にも届かない声。夫を撫でてみるが、何も反応はない。
ごめん、最後に浮気野郎なんて言って。隣に座ってみたものの悲しくなるだけだった。
_________
瞼を閉じて起きるとまた場面が変わる。
「まーたここにいる」
長女凛子がもう大きくなっていた。二十歳とかその辺かしら?
自分の墓だろう場所に少し老けた夫が座っていた。そんな様子を見て娘は溜息をついていた。
「んー…ママが寂しいかと思ってな」
「もう再婚したらいいじゃない」
「無理無理、俺の妻はママしか無理。それに俺は結婚に呪われてる気がする」
「ママもこんなパパに執着されて可哀想だわ」
もう一人来た女の子は次女琉香だろうか。笑った顔が夫に似ている。
「そうだなぁ、もうママはパパの事忘れちゃったかな」
「最後の言葉が浮気野郎だしね」
「もう違う人と結婚してるかもね」
「あー…やめてくれ、冗談でも嫌だ」
聞きたくないと耳を塞ぐ夫はどこか子供みたいで、止まっていたはずの涙が零れてきた。もう泣きすぎて瞼が痛い。きっと赤くなってパンパンになってしまっているはず。
「そうよ、もう私結婚したのよ。あんたよりイケメンだし、獣人なのよ、私も女王だし…」
そう言葉を漏らすと、夫が急に手をこちらに伸ばしてきた。しかし、掴めるはずもなく。一瞬だけ驚いたけれど、私を忘れて幸せになってほしい。
「ふざけんなよ、俺以外と結婚なんてさせるか」
ぼそりと呟くように言った夫の言葉に眉を顰めた。聞こえたのかしら…。
「どうしたの?パパ」
「いや、ママの声が聞こえた気がして…」
「やだーもうボケたの?」
「親になんてこというんだ!」
三人の笑い声が心地いい。そろそろ私も目覚めないと…。エイダンが待ってるわ。
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