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目覚めは檻の中で 1
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「俺……死んだはずじゃ……?」
思わず口をついて出た言葉に、カナデは思わず息を呑む。
いや、確かにあのときは死んだ。
政略結婚の結納の席から逃げ出した夜。追いかけてくる家族から逃げて、人気のない路地裏に飛び込もうとしたその時──その先は、思い出そうとすると頭がひどく痛む。最後に見たのは強い光だから、おそらくトラックに轢かれたのだろう。
頭を振って、カナデは改めて周囲を見回した。
自分が座っているのは、鉄柵に囲まれた小さな檻の中。柵の外に見える天井は高く、幾つも設置された照明が少し離れた場所にある同じような檻を照らしている。
人の気配は感じるが、声は殆ど聞こえない。
時折番号を読み上げたり、入札を促す淡々とした声がスピーカー越しに響くだけ。
(…ああ……これが黒服の言ってたオークションか)
カナデを檻に押し込めた男が楽しげに告げたのは覚えている。
「お前達みたいな出来損ないは、獣人の玩具として売られるのさ。オークションで高値が付くように精々媚びてアピールしろよ」
黒服の男は、そんな話を聞いてもいないのにべらべらと話した。
一定の間隔を置いて並ぶ檻からは、かすかな泣き声が聞こえてくる。
きっとここにいるのは、みんな自分と同じオメガなのだろう。
前世を思い出すと同時に改めて現状を理解したものの、カナデに突きつけられている状況は絶望以外のなんでもない。
(前世の記憶があったって、これじゃどうしようもない……)
カナデは前世で所謂『転生もの』の物語を、読んだ記憶がある。無料で読めるそれらの小説や漫画は、自由の少なかった自分には最大の娯楽だった。
(オメガだからって理由で、学校以外は外に出られなかったもんな)
この世界とは違い、前世ではフェロモンやヒートを抑制する薬は高価で、カナデはそれらを得る経済力を持っていなかった。
オメガの数は少なく、一般家庭に生まれたオメガは結婚適齢期を迎えると「裕福なアルファ」と見合い結婚させられるのが普通だった。
社会的弱者を救うためというご立派な建前はあったが、実情は「跡継ぎを産ませるための道具」だ。オメガは事実上の人身売買の対象であり、政府もまた見て見ぬふりをしている。
そんな世界だった。
カナデも多くのオメガと同じく、自分を「買った」アルファと形式的なお見合いをした。そして……理由は忘れたが、逃げたのだ。
自由が欲しかったのだろうか?
結婚相手に不満があったのだろうか?
思い出そうとしても頭の中に霞がかかったようになり、カナデはため息を吐く。
(別に思い出す必要なんてない。もう忘れよう……それに異世界に転生してきたって、小説や漫画みたいな展開になる訳じゃないし……結局ここだって、前世と同じでオメガには人権なんてない)
ここには助けに来てくれる王子様はいないし、自分はチート能力も持っていない。
前世と同じただの非力なオメガだ。
非情な現実にカナデはぽつりと呟く。
「どうして前世なんて思い出したんだ? 意味ないのに……」
思わず口をついて出た言葉に、カナデは思わず息を呑む。
いや、確かにあのときは死んだ。
政略結婚の結納の席から逃げ出した夜。追いかけてくる家族から逃げて、人気のない路地裏に飛び込もうとしたその時──その先は、思い出そうとすると頭がひどく痛む。最後に見たのは強い光だから、おそらくトラックに轢かれたのだろう。
頭を振って、カナデは改めて周囲を見回した。
自分が座っているのは、鉄柵に囲まれた小さな檻の中。柵の外に見える天井は高く、幾つも設置された照明が少し離れた場所にある同じような檻を照らしている。
人の気配は感じるが、声は殆ど聞こえない。
時折番号を読み上げたり、入札を促す淡々とした声がスピーカー越しに響くだけ。
(…ああ……これが黒服の言ってたオークションか)
カナデを檻に押し込めた男が楽しげに告げたのは覚えている。
「お前達みたいな出来損ないは、獣人の玩具として売られるのさ。オークションで高値が付くように精々媚びてアピールしろよ」
黒服の男は、そんな話を聞いてもいないのにべらべらと話した。
一定の間隔を置いて並ぶ檻からは、かすかな泣き声が聞こえてくる。
きっとここにいるのは、みんな自分と同じオメガなのだろう。
前世を思い出すと同時に改めて現状を理解したものの、カナデに突きつけられている状況は絶望以外のなんでもない。
(前世の記憶があったって、これじゃどうしようもない……)
カナデは前世で所謂『転生もの』の物語を、読んだ記憶がある。無料で読めるそれらの小説や漫画は、自由の少なかった自分には最大の娯楽だった。
(オメガだからって理由で、学校以外は外に出られなかったもんな)
この世界とは違い、前世ではフェロモンやヒートを抑制する薬は高価で、カナデはそれらを得る経済力を持っていなかった。
オメガの数は少なく、一般家庭に生まれたオメガは結婚適齢期を迎えると「裕福なアルファ」と見合い結婚させられるのが普通だった。
社会的弱者を救うためというご立派な建前はあったが、実情は「跡継ぎを産ませるための道具」だ。オメガは事実上の人身売買の対象であり、政府もまた見て見ぬふりをしている。
そんな世界だった。
カナデも多くのオメガと同じく、自分を「買った」アルファと形式的なお見合いをした。そして……理由は忘れたが、逃げたのだ。
自由が欲しかったのだろうか?
結婚相手に不満があったのだろうか?
思い出そうとしても頭の中に霞がかかったようになり、カナデはため息を吐く。
(別に思い出す必要なんてない。もう忘れよう……それに異世界に転生してきたって、小説や漫画みたいな展開になる訳じゃないし……結局ここだって、前世と同じでオメガには人権なんてない)
ここには助けに来てくれる王子様はいないし、自分はチート能力も持っていない。
前世と同じただの非力なオメガだ。
非情な現実にカナデはぽつりと呟く。
「どうして前世なんて思い出したんだ? 意味ないのに……」
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