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しおりを挟む「ぁ……」
思わず零れた甘い吐息にリュカは動揺する。
首筋がぞわりと震え、身の内からこみ上げる未知の衝動に狼狽えた。
(もしかしてこれが、オメガのヒート?)
はっきりとは分からないけれど、自分の体が別の何かに変化していくような不思議で擽ったい感覚にリュカは両手を握りしめる。
するとその手をクラウスの大きな掌が触れて包み込んだ。
「リュカ、本来ならば番の証は正式な挙式のあとで刻むのだが……」
苦しそうなクラウスの声を聞いていると、体が熱を帯びていくのを感じる。
「城の魔法医からオメガとしての役目を教えてもらったから知ってる。番の証って、僕の項を番のアルファに噛んでもらって成立するんだよね。……その、僕はいつでもかまわないけど」
グーディメル王国でも、番の証は結婚式で項を噛むことで成立すると教えられていた。
「けど、クラウスは嫌じゃないの? 僕はみすぼらしいオメガなんだよ」
茶色の髪と瞳は、貴族達からは嘲りの対象だった。
王太子の番として並び立つには相応の美貌を持つ者が選ばれたと思っていた貴族達は、凡庸な容姿のリュカを前にして声高に罵った。特に王太子の婚約者候補とされていた公爵令嬢は聞くに堪えない暴言を吐き、お茶会に呼び出してはあれこれと理由を付けてリュカを貶めていた。
自分が特別美しいなんて思っていなかったリュカだが、事あるごとにぶつけられた言葉の刃は自尊心を深く傷つけ、思い出せば胸の奥が苦しくなる。
「クラウスみたいに立派で綺麗な人の番になんて……」
「お前がみすぼらしい? 馬鹿げた事を言うな。あの時より、お前ほど愛らしいオメガは見ていない。それに再会してみればこんなにも美しく成長しているとは」
項に何度も唇が触れる。
その度に下腹部甘く疼いて、リュカはもじもじと腰を揺らしてしまう。
これまで感じたことのない不思議な感覚は、恐いのに甘い。
「運命の番として惹かれているのは事実だ。しかし俺は、リュカの優しさに心を奪われた」
「ひゃんっ」
項を舐められ、はしたない悲鳴が唇から零れた。
体が、本能が。クラウスを求めていると気づいてしまう。
魔法医からオメガの体について講義は受けたが、あくまで医療的な内容に終始していた。
だからリュカは、変化する体に感情がついて行けない。
「今ここで、番の証を刻みたい。許してくれるか、リュカ?」
尋ねる声は低く甘い。
頭の中が蕩けてしまいそうだ。
(クラウスが僕を求めてくれてる)
夢のようだとリュカは思う。
だから、この甘い夢が覚めないようにと願いながら、リュカは彼の問いに答えた。
「……僕を……クラウスの番にして」
震えながら少し俯いて項を差し出す。
「愛している、リュカ」
肌にクラウスが歯を立てた。
獣のような彼の唸り声が微かに響く。
僅かな痛みと、それを上回る多幸感がリュカの全身を駆け巡る。
「あ、んっ」
目の前がくらりと歪み、リュカは初めて知る快感に耐えきれず意識を失った。
***
「ん……」
「気づいたか、リュカ」
「クラウス…そうだ、僕お風呂で…」
項を噛まれ余りの快感に気絶したと思い出したリュカは、真っ赤になって飛び起きた。
「まだ体が落ち着かないだろう、これを飲むといい」
陶器の器に注がれた水を渡され、リュカは一気に飲み干す。甘く良い香りのするそれは、熱を冷ましてくれた。
「人が竜の番となる場合、体が馴染むまで時間がかかるらしい」
「大丈夫だよ。僕は熱に慣れてるから」
「これからは一人で抱え込むことはない。不調が出れば俺が治そう」
「クラウスは治癒魔法が使えるものね」
体の傷を綺麗に治してしまうのだから、微熱なんてあっという間だろう。
しかしクラウスは少しだけ困ったように笑ってみせる。
「…そういう意味ではないのだがな」
(そっか、得意じゃないって言ってたよな。傷は治せても、熱とかは難しいのかな)
ベッドに座り込んで小首を傾げるリュカは、ここでやっと自分が裸のまま大きなバスタオルに包まれていると気づく。
おそらくクラウスがこのタオルに包み運んでくれたのだ。そしてクラウス本人は、白に金の縁取りがされたバスローブを羽織っている。
(立派なお部屋だ。ベッドも凄く広い)
座っているベッドはリュカが三人寝転んでもまだ余りそうなほどに広い。
そんな天蓋付きのベッドが置かれている部屋も、古めかしい装飾ながら高貴な身分の貴人が使う私室と分かる。
「俺の部屋だが、今日からはお前の部屋でもある。気楽に過ごすといい」
ベッドに腰掛けたクラウスに、リュカはそっと近づいて彼を見上げた。
沢山話したい事があるけれど、今は彼の話が聞きたかった。
「クラウス、どうしてあなたはアレオン家の領地にいたのですか?」
ベリーを摘みに森へと入ったリュカは、深手を負ったクラウスと出会った。あの頃は不思議な事だと、深く考えなかったけれど今は違う。
「そうだな、リュカには伝えるべきだな」
一呼吸置いて、クラウスは十年前の出来事を語り始めた。
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