冷遇されたΩは運命の竜に守られ花嫁となる

花里しろ

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 遡ること、十年前。

 グーディメル王国は、王家と貴族の派閥が二分しつつあった。
 国王派だった公爵家の一つが当主を病で失い、それを切っ掛けに徐々に力を失っていった。

「王家唯一の希望が、アルファとして生まれたテオドル王太子という訳だ」

 当時、王太子はまだ九歳。
 実務を担う補佐役がいなければ、たとえ王位を譲られても貴族の操り人形となるのは目に見えていた。

「でも王太子はアルファでしょう? 王様と一緒に政務をするのは駄目だったのかな」

 リュカの疑問にクラウスが頷く。

「王も流行病を得て、数年伏せったと報告が上がっている」

 不運が続き、時流は反王家の有利に働いてしまったのだ。

「ベータ性を持つものは、アルファの威光に本能的に従う。しかしそれはあくまで対面した時の話だ」

 しかも、その「威光」も万能ではない。ベータ性でもアルファの血が濃い者には効果が薄いこともある。
 特に公爵家は何人も王家から降嫁した姫を受け入れているので、アルファに近い血を持つ者もいる。

「常に王太子と王が同じ場で政を行うというのは難しい。自分達の勝ちを確信していた反王家の派閥は、それぞれ自分の娘と王太子を結婚させればいいと軽く考えていたのだろうな。民衆に対してならばアルファの威光は申し分ない」

 それ程までに王家は貴族達に事実上、政治的な敗北に陥っていたのだ。

 地位を失いかけた王家は、坑道を使ってグラッセン帝国へ使者を送り助けを求めた。だがこの時、帝国にも反乱の動きがありクラウスの父は悩んだ。

「しかし、糸よりも細いがグーディメル王家とは繋がりがある。軍の介入はせずとも、王太子の護衛程度ならばと父は了承した。それが十年前の出来事だ」

 王は息子であるテオドルには真実を伏せたまま、次期王としての教育を急がせた。幼くともアルファであるテオドルが王家と貴族の対立を知れば、黙ってなどいはしない。
 せめて王太子が正式に伴侶を得て、即位できるまで──それが王の切なる願いだった。だがまたも事態は思わぬ方向に向かう。
 宮廷の魔法使いが藁をも掴む思いで古い記録を洗い、「オメガが顕れる兆し」が記された一節を見つけ出したのだ。

 一度は番探しを諦めていた国王だったが、改めて国の隅々まで探すよう御触れを出す。
 しかし、ようやく見つけたオメガは、よりにもよってクラウスの運命の番だった。

 初めて知る王家のと帝国の繋がりも驚いたが、リュカからすれば王家が城に 竜を受け入れていたという方が今でも信じられない。

「城に竜がいたなんて、知らなかった」
「王太子の護衛として、数名が任ぜられた。幻術の魔法で真実の姿を隠してたから、王家に順ずる魔法使いしか存在は知らぬ」

 十年前といえばクラウスと初めて出会ったのがその頃だ。
 クラウスは友人であり、よき理解者だった従者が王子の警護に付くと知り見送りに同行していたのだ。
 しかし帰りの道中、クラウスは好奇心に駆られ単独行動をしてしまう。
 一人で辺境を飛んでいたところを運悪く魔獣狩りに長けた騎士に見つかり、争いの末アレオン家の領地に墜落した。

「冷静に考えれば、俺を狩ろうとしたあの騎士どもは、王家と対立する貴族の私兵だったのだろう。俺が一人になるよう促した者がいたのも事実だ」

 見聞を広めてきてはと、したり顔で囁いたのは当時の侍従だった。
 失踪の責を問われた侍従は、いつの間にか城から姿を消していた。
 きっと反乱分子に取り込まれた一人だったと今なら分かる。

「我が国に通じていたのは、王家だけではなかったという事だ。……確かバリエ公爵と言ったな」
「その方は、僕の後見になってくれた公爵です」
「なるほど」

 合点がいったというように、クラウスが頷く。
 甘い言葉で帝国の貴族を懐柔したのは、バリエ公爵だった。口車に乗せられた浅はかな貴族は帝国内で反乱を起こしたが、クラウスが生きて戻ったことで帝国内の波乱は平定される。

 そして公爵家の提示した聞き心地の良い嘘は暴かれ、帝国は安寧を取り戻したのだ。

「全くなにが帝国領だけでなく、周辺国も簡単に手に入るなど……馬鹿げた話しだ」

 はあ、とらしくなくクラウスがため息を吐いた。

「けどどうしてバリエ公爵は帝国の転覆が失敗したのに、王家への反逆を続けたのですか?」
「こちらに乱をしかけた頃には、グーディメル王家は力を無くし名だたる貴族はバリエ陣営に着いていた。バリエとしては、王国の乗っ取りだけでも成功させたかったのだろうな」

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