冷遇されたΩは運命の竜に守られ花嫁となる

花里しろ

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 つまるところ、バリエ公爵は非常に欲深かったということだ。

 負け戦が確定した帝国領はさっさと諦め、王国だけでも手にしたいと考えたのだろう。そして帝国から完全に手を引いた直後、リュカの存在が明らかになる。
 将来の正妃として望まれ王太子に迎えられた以上、王家の正統性を継ぐ象徴としてその存在には利用価値があった。

 王太子の暗殺は難しく、いっそ傀儡にすればいいと貴族達の中からそう意見する声も上がり始める。
 バリエ公爵としてもリュカを手中に収めれば、次代の王を擁立する名目を得られる。
 殺すには惜しい、だが自由にもさせられない。

「――貴族達の反感を煽り、リュカに接触しないようしていたのだろうな。貴族が全てバリエに本心から従っていた訳でもない」

 クラウスがリュカに手を伸ばし、その体を抱き寄せた。

 そしてリュカは王家からすれば、王国の運命を左右する存在だ。せめて世継ぎを産ませるまでは、手元に置きたいと考えたのも無理はない。
 力尽くでクラウスがリュカを奪おうとしても、王都には結界が張られているので手は出せない。
 互いに申し合わせたわけでもないのに、王家と公爵は利害が一致し結果としてリュカは監禁状態に置かれてしまった。

「まあどちらにしろ、王家の一族も城で軟禁状態にあったからな。リュカを俺の元に返そうにも手は出せなかったと言われればどうしようもない」

 最悪、戴冠式で王子と共にリュカが殺される危険があった。そうなった場合、王太子の護衛として控えている帝国の騎士が、リュカを守り王家と貴族を力で排除するつもりでいた。
 しかし王族を殺せば帝国が侵略したと見做され、王国は混乱し民の血が流される。

「民には関係の無い事だ。他国の民でも巻き込むことは避けねばならぬ。だが公爵に付いた貴族の多くは、民の命など気にかけもしない愚かな者ばかりだった。あの者達は利になるなら民を盾にすることもいとわないと、報告書に記されていた」

 力尽くでリュカを奪えば王都は火の海になる。
 クラウスとしてもそれは避けたかった。

「だから僕が指輪の契約を使って、クラウスを呼ぶことが必要だったんだね。……そんな強い魔力が込められてるなんて信じられなくて。余計な心配をさせてごめんなさい」
「俺も言葉が足りなかった。散々親やウルリヒからも叱られていたのにな」
「ウルリヒ?」
「我が友の名だ。今は王太子の護衛として彼の側に付いている」
「そうなんだ……っていうか、ご友人からも叱られていたの? クラウスが?」

 思わず目を見開けば、クラウスが苦笑して肩をすくめた。

「俺と違って真面目な男だったからな。もう少し融通が利く性格になっていればよいが…いずれ紹介しよう。しかしお前が虐げられていたと報告を怠った騎士には、厳罰を下す必要があるな」

 低く唸るクラウスに、リュカは首を横に振る。

「僕が城に入ったのは一度きりだし、帝国の騎士様が知らないのは仕方ないよ。屋敷も公爵家が厳重に警備してたから、きっと尋ねて来ても入れなかったんだと思う。だから責めないで」

「分かった。お前に免じて騎士への罰は取り消そう。しかし公爵家と甘言に乗った貴族、家庭教師達は許すことはできない」

 クラウスからすれば番を虐げた相手だ。怒るのも無理はない。
 リュカだって彼らのしたことを許すなんてとてもできない。けれど過剰な罰は憎しみに変わる。

「クラウス、余り酷い事はしないで」
「お前は優しすぎる。だがその優しさに俺が助けられたのも事実だ。私情ではなく、グーディメル王国の法に従い裁きを下そう」

 クラウスの青い瞳が、リュカを見つめる。

「やっとお前をこの手に抱くことができた。長く待たせてすまなかった、リュカ」

 ゆっくりと近づいてくる彼の瞳から視線を逸らせない。
 ぼうっと見惚れていると、そっと啄むみたいな口づけが落とされた。

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