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3《sidiテオドル》
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数年前からテオドルは父王に頼んで王家の「影」を借り、各地に放って領地運営に関する資料を集めさせていた。
結果バリエ公爵を筆頭に、彼の派閥である貴族達は王家に無断で税を上げていたと発覚する。
他にも人身売買や、高い利息での貸し付けなど。法で禁止されていることが、ことごとく破られていた。
しかし帳簿上は見事に隠されていたので告発は難しい。規模も大きく何より貴族側の力が強い現状では、王家は強く出られない。
影からの報告が上がり少しして、辺境に近い男爵領でオメガの青年が見つかった。
その領地はバリエ公爵の派閥に賊する伯爵家と隣接しており、テオドルはその「オメガの青年」がバリエの手のものではないかと疑った。
第一、この国では長くオメガは産まれていない。殆どの国民はオメガを見たことがなく、魔法医達も文献頼りだ。
連れて来られた青年は「リュカ」と名乗ったが、ひと目見てテオドルは「遠ざけねば」と直感する。リュカがオメガだと確信したけれど、理由は分からないがアルファとして触れてはならないと本能が警鐘を鳴らす。
どちらにしろ、自分には心を寄せる相手がいた。
身分も何もかもが障害となる相手なので今も思いは告げていない。
しかしそんなテオドルの思いなど知らず、王と王妃は婚礼を急がせた。
せめて婚礼までにバリエを公的に告発できる書類を準備しなければと様々調べるうち、リュカの生家であるアレオン男爵の領地経営は健全で、バリエ公爵との関係が無いとも分かった。
(あのオメガの青年は無事だろうか)
茶色い瞳の利発そうな青年の顔を思いうかべる。彼だけでも巻き添えにしてはならないと逃がそうとした矢先、姿が消えた。
自分は彼を酷い言葉で傷つけた。
公爵の手先だと勘違いしていたとはいえ、言ってはならない言葉だ。
できるなら謝罪したいが、もう会うこともないだろう。
せめて無事でいてほしいと願うことしかテオドルにはできない。
「公爵とその一派が行った不正の証拠は王家の玄室に隠した。ウルリヒ、それを持って逃げろ。バリエが力を握る前に、お前の主を頼れ。きっと真意を分かってくれる」
「殿下はどうするのです」
「王家の血を代償とすれば、手を差し伸べてくれるかもしれない。せめて民だけでも救ってほしいと、お前の主に頼んでくれないか?」
愚かな王家の尻拭いを頼むのだから、代償は血でも少ないくらいだ。
バリエに国を治める力があるとは思えない。民に重税を課し大きな負担を強いるだろう。そして弱った国は周辺国から狙われ領土を巡って争いとなる。
それだけは避けたかった。
「可能ならば、父と母だけでも逃がしてほしい……いや、それでは王家の人間として失格だな。今の言葉は忘れてくれ。――さあ、行ってくれウルリヒ」
ウルリヒは両手を握りしめると、深く一礼して部屋を出て行った。
結果バリエ公爵を筆頭に、彼の派閥である貴族達は王家に無断で税を上げていたと発覚する。
他にも人身売買や、高い利息での貸し付けなど。法で禁止されていることが、ことごとく破られていた。
しかし帳簿上は見事に隠されていたので告発は難しい。規模も大きく何より貴族側の力が強い現状では、王家は強く出られない。
影からの報告が上がり少しして、辺境に近い男爵領でオメガの青年が見つかった。
その領地はバリエ公爵の派閥に賊する伯爵家と隣接しており、テオドルはその「オメガの青年」がバリエの手のものではないかと疑った。
第一、この国では長くオメガは産まれていない。殆どの国民はオメガを見たことがなく、魔法医達も文献頼りだ。
連れて来られた青年は「リュカ」と名乗ったが、ひと目見てテオドルは「遠ざけねば」と直感する。リュカがオメガだと確信したけれど、理由は分からないがアルファとして触れてはならないと本能が警鐘を鳴らす。
どちらにしろ、自分には心を寄せる相手がいた。
身分も何もかもが障害となる相手なので今も思いは告げていない。
しかしそんなテオドルの思いなど知らず、王と王妃は婚礼を急がせた。
せめて婚礼までにバリエを公的に告発できる書類を準備しなければと様々調べるうち、リュカの生家であるアレオン男爵の領地経営は健全で、バリエ公爵との関係が無いとも分かった。
(あのオメガの青年は無事だろうか)
茶色い瞳の利発そうな青年の顔を思いうかべる。彼だけでも巻き添えにしてはならないと逃がそうとした矢先、姿が消えた。
自分は彼を酷い言葉で傷つけた。
公爵の手先だと勘違いしていたとはいえ、言ってはならない言葉だ。
できるなら謝罪したいが、もう会うこともないだろう。
せめて無事でいてほしいと願うことしかテオドルにはできない。
「公爵とその一派が行った不正の証拠は王家の玄室に隠した。ウルリヒ、それを持って逃げろ。バリエが力を握る前に、お前の主を頼れ。きっと真意を分かってくれる」
「殿下はどうするのです」
「王家の血を代償とすれば、手を差し伸べてくれるかもしれない。せめて民だけでも救ってほしいと、お前の主に頼んでくれないか?」
愚かな王家の尻拭いを頼むのだから、代償は血でも少ないくらいだ。
バリエに国を治める力があるとは思えない。民に重税を課し大きな負担を強いるだろう。そして弱った国は周辺国から狙われ領土を巡って争いとなる。
それだけは避けたかった。
「可能ならば、父と母だけでも逃がしてほしい……いや、それでは王家の人間として失格だな。今の言葉は忘れてくれ。――さあ、行ってくれウルリヒ」
ウルリヒは両手を握りしめると、深く一礼して部屋を出て行った。
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