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第25話【燃ゆる思い】(1)

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恐れなどなかった。
今までだってそうだ、何があってもどうにか出来たし、むしろ失敗など片手程だろう。

現在のニッシャは、先程の闘いでマナは温まり【初速】を使用し、
姑息な手は使わず、正面から堂々と闘う。
それが私のプライドだ。
直感で感じた限り奴の強さってやつが「身に染みて」わかる。
だがそれ以上に私は強い。
体勢を低くし、獲物を見据え加速する。

瞬時に間を縮め、足を駆け上がり胸部目掛け乱打を繰り返す。
「ガガガガガッ」と金属音が響く、魔力マナを帯びた拳は再生と崩壊を繰り返し、次第に熱くなるその手は炎をまとわせ、やがて甲冑の如き装甲を砕き割る。
空中を舞う様に攻撃をし続けるニッシャに対し、気にもせず、いまだ歩みを止めることなく、攻めているニッシャが後退していた。

「ゴッ!!」と鈍い音が響いたと同時だった。
まるで反発し合う磁石のように、吹き飛ばされていたのはニッシャの方だった。
柱を次々とぎ倒し、支えていた天井までもが「ガラガラ」と音をたて崩れ去る。

柱や天井は無くなり、そこにいるのは、山ほど積み重なる瓦礫がれきと勝者である、兜虫ビートルだけがそこにはいた。
4本ある腕は、2本が退化している代わりに、残りの腕はまるで1つ生き物のように脈打ち、強固かつ柔軟であり、そしてなによりシンプルに、ただ強いのだ。

少し期待したのだが、また一撃だった。
ただ歩くだけであらゆる生物は怯え、ただ動くだけで弱者は意思を持たぬ肉塊となる。
そうしているうちに、闘いに飽いていたのだ。
一体、勝利とはなにか?
我と対等に渡り合える強者を求め幾年いくねん経つがいまだに見つからぬ。もはや存在しないものにすがるのも1つの夢か。
ゆっくりと歩みを進め瓦礫を踏み潰す。
考えることはない、また次なる強者を探せばいいことだ。
兜虫の拳はほんの僅かだが、火傷のような焦げた跡があり、小さな硝煙が上がり、「ジリジリ」と少しずつ広がり始める。
それは、火薬のような少量のにおいがしたが、気にも留めずにいた。
(強者の反応があり来てはみたが最後の抵抗がこれとは、協会も落ちぶれたものだ。)

積み重なる石の隙間から、「パチパチ」と小さな音がし、やがて火種は次第に火柱となる。

空を焼き尽くすようなその大火たいかは、遥か上空にある魔法壁マジックウォールまで届き「メリメリ」と貫通した。
黒き者は、込み上げる何かが分からぬまま尚もその歩みを止めず進み続けていた。
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