いつかあなたに刃を向けるとき

泥んことかげ

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第1章【咲き誇れ儚き命の灯火よ】

第27輪【輝く未来に花束を添えて】

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  浜悠の天真爛漫てんしんらんまんな振る舞いで、帰路から大きく外れた進路を行く2人。

「お姉ちゃん、これってどこ向かってるの?」
「着いてからのお楽しみだよ~。凄く良いところなのは保証してあげる」

 殿しんがりを務め前方の青葉に配慮しつつ、全方位に渡り細心の注意を払う。

 浜悠は青葉と何の変哲も無い会話をしながらも、背中の〝未蕾刀みらいとう〟に意識を向けていた。

〝植魔虫を斬り殺す術や対処の想像〟は、何時でも如何なる場合においてもしている。

 だが、念入りに形成された〝芯〟が、瓦解しないのは――

(ここら一帯の〝植魔虫〟は討伐した……とは言え、青葉を危険な目に遭わすわけにもいかないからね。用心用心)

 自然が織り成す道なき道は、歩みなれた熟練者とて侮れない程の驚異性を持つ。

 基本となる転倒や滑落等……小さな事象を含めれば要因は多数。

 しかし、そんな多少の危険を冒す事を敢えて選んだ浜悠。

 理由として疲労を軽減させ比較的に柔らかな土では、地中からの奇襲に柔軟な対応が出来ない。

 よって、木々の根が張り巡らされた場所や岩場を踏み歩く事で、死角を1ヶ所でも減らした。

 まだ幼い青葉には険しい箇所も多々あり、「何事も経験経験!」と、必ず手助けする浜悠。

 道中、会話を絶やさず〝伝えたい事〟を自然とうながしたりもした。

「どう青葉。たまには、いつもとは違う物が聞こえてこない?」

「そんな余裕ないよ。お姉ちゃん……疲れちゃったよ」

「いいからいいから、息を整えてちょっとでも耳を傾けてごらん」

「分かったよ、もう……」

 嫌々した態度ながらも、ちゃんと言うことは聞く青葉。

 額から流れ出る汗を拭って、その場で立ち止まった。

「ふぅ~……ふぅ~……」

 体を駆け巡る鼓動の音は深呼吸と共にしずまり、何か別の物が入っていく感覚におちいる。

 意識しなければ感じ得ない物は、自身の心を寄せる事によって流れ、そして学んでいく。

「ん!?何だか、体が軽くなった気がする!」

「そうでしょ? 目の前にあっても気が付かないことなんて、この世界に沢山あるんだから、沢山吸収してね」

「うん。こんな所、おいら歩いた事ないから疲れちゃう……けど、わくわくして楽しいね!」

「そう思ってくれたなら嬉しい。あともう少し、もう少し!」

 小休憩を適度に挟みつつ、出発からおよそ2時間が経過した頃。

 太陽は頭上に輝く正午過ぎでも、大木の枝々が重なる事で闇が濃くなっていく。

「今どの辺りなの? さっきから同じ光景にしか見えないよ」

 項垂うなだれながら弱音を吐く青葉の背中を、そっと押しながら言った。

「ここを抜けたら直ぐだよ! さぁさ、顔を上げて上げて!」

 浜悠の一言で鉛の様に重い手で、目の前の木枝を動かす。

 そして――

「もう……うっ、急に眩しくなった!?」

 温かく柔らかな光で反射的にまぶたを閉じる。

「ほら、着いたよ。お姉ちゃんが連れてきたかった場所にね」

 ここまで1度も〝植魔虫〟と対峙せず、無事に到着した2人。

 そこは村から4km程離れた場所に位置する、大岩で形成された見晴台みはらしだい

 目を凝らせば森の〝先〟まで見る事が出来、浜悠の特等席だった。

 圧倒されて硬直する青葉を差し置いて、あわや転落寸前の岩肌に直で座る。

「ここにおいで。大丈夫、怖くないから」

「早く早く」と言わんばかりに、地面を擦りながら呼ぶ。

 青葉は圧倒されながらも、無言で横に座って答えた。

 そんな弟の気持ちを察してか、頭を撫でて寄り添う姉。

 産まれてから知り得なかった景色は、青い瞳一杯に惜しみ無く広がり続ける。

「嘘だろ……こんなにも……〝世界〟って綺麗なんだ」

「そうだよ青葉。見て、あれが〝花の都〟。花の守り人になるためにお姉ちゃんが居た所だよ」

 指差す先には両手を大きく広げても、収まりきらない程の都市が映る。

「すっげ~! おいら達の村とは違って、背の高い建物ばっかで賑やかそうだね!」

 無邪気に喜びを噛み締める青葉に、浜悠は優しく微笑みかける。

「自然はこんなにも雄大で美しいんだよ。今は色々あって小さな〝箱庭〟だけど、お姉ちゃんが必ず外へ出られるようにしてあげるから……」

 浜悠の少しだけ切なさ残る表情は、〝不安〟と〝責任感〟故だったのかも知れない。

 けれども、直ぐ様切り替えて〝希望〟と〝期待〟を交えて言った。

「まっ。その頃までには立派なお兄さんになってるといいね! お姉ちゃんを守れる程の男にさ!」

「えへへへっ。もちろんさ!」

 そう、元気一杯に叫んだ青葉は、歯を見せながら親指を立てた。

(屈託のない……この笑顔が、何よりも力を与えてくれるんだよね)

 弟を見ていた浜悠には、明るい将来を担う存在――まるで太陽よりも輝いて映っていた。

時を忘れる程に夢中になり、普段出来ない会話も十分に交え、互いに顔を見合わせながら手を取り合う。

「そろそろ、お祖父ちゃんが帰ってくるから、お家に帰ろうか?」
「うん、楽しかったね!」

 〝散歩〟という名義でも、滅多にない貴重な体験は、より一層に姉弟の絆を深めたのでした。 

 それから来た道を何事もなく戻り、祖父の帰宅予定である陽が落ち始めた頃。

 玄関の戸が錆び付いた音を響かせながら、力強く開けられた。

「ただいま戻ったぞ……。おや? 万年青はどうしたんだい。もう、狩りに出掛けたのか?」

 首を傾げる祖父に対して、疑問を浮かべた表情をしながらも、今さっき横にいた筈の姉を指差す。

「もう、何言ってるのさ!! お姉ちゃんなら、ここに――あれ?……居ない」

 「出迎えは2人でしようね」と、会話していたのにも関わらず、家中どこを探しても浜悠の姿は見当たらなかった。

祖父の帰宅を待たずして、突然姿を消した浜悠。

 現在の位置は、夕暮れで黄赤色に染まる森の中。
 音や自然被害を最小限に留める〝舞落ぶらく〟を使い、自身が出せる最高速度で疾走していた。

 地面から見上げる程にある枝々の間を跳び、髪はなびき羽織が風を切る。

 人灯ひとあかりが点々とある見えづらい中で、とても正確に移動していた。

 下方を覗く視線の先には、追跡を振り払おうと縦横無尽に動く人影が1つ。

 葉が視界を遮り断続的に見えていたが、追い詰め過ぎず離れずの距離感を保つ浜悠。

 じっくりと観察する余裕もあり、細かな癖や体格だけで大まかな分析をしていた。

(へ~、いつ襲ってくるか分からない〝植魔虫〟に臆せずいる何て、ここら辺の人間じゃない事は確かだね。顔は隠れて見えないけど、歳も若くて体力もある男って所かな) 

 尾行されていた最初から今まで、危害を加える動作もなく、花の守り人の証である〝刀〟も背負っていない。

 溢れ出る疑問に次ぐ疑問は、より一層に深まるばかりだった。

「そう言えば、村の人以外をここで見るのは初めてだね。私の追っかけだったりして……何ちゃって!」

 口上手に呑気な事を言っている時は、大抵……何かが起こる。

 ほんの少しだけ瞬きをした隙に、自らへ投げられた物の判断が遅れた。

 それが、目と鼻の先と同じ高さになった瞬間――

 一寸先も視認出来ないほどの白煙と爆音を撒き散らし弾けた。

(うっ、これは……!)

 肺に異物を吸わせないため、咄嗟に口元を袖で覆い隠す。

 視界からの瞬時に情報は無となり、進行方向とは逆へ飛び退く。

 ぼやけて歪む視界、甲高い響きの耳鳴り。
 加えて強烈な香料による場所特定への撹乱かくらん

 その1つ1つが浜悠の五感を狂わせる。

 不意討ちされた数秒程でも、一瞬と満たない〝虚〟に付け込まれてしまったのだ。

「しまった、完全に油断していた……」

 蹌踉よろけた拍子に木の幹に腕を置き、〝不注意と慢心〟を悔いて溜め息を吐く。

「はぁ。先ずは冷静になろう。私なら出来るから、落ち着いて行こう」

 乱れた思考を整えるのに必要なのは、〝体勢の再構築〟と〝最適解の把握〟。

 ――時にして十数秒弱を有した。

 これは常人や花の守り人の中で、早い立ち上がりにも関わらず、男の姿を見失ってしまう。

「昔、祖父じじが言ってたっけ? 〝人を隠すなら陽が落ちる森の中。影を溶かし音を殺すからだ〟。闇に紛れるって、この事……か。まんまとしてやられた訳ね」

 再び気合いの灯火を点けるため、風に当てられ冷たくなった頬を数度叩き声を張る。

「身のこなしといい〝逃げ慣れてる〟って、褒めればいいのかな。素直に凄い凄い。ん~、久し振りに本気出しちゃおうかなっと!?」

 そう意気込みながら眼を閉じ、腰を落としてかなり低い姿勢で構える。

 深く穏やかな呼吸を繰り返し――ゆっくりと白光が宿る瞳をあらわにする。

「行くよ」

 木々を揺らすことなく、葉を落とす事なく、音も出さずに場から消えた。

 
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