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第1章【咲き誇れ儚き命の灯火よ】
第28輪【一難去ってまた一難】
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追跡を撒いてから幾時間が過ぎ、男は息も絶え絶えになりながら木を背に隠れる。
眼を凝らしながら覗き込み、注意深く辺りを見回す。
張り詰めた緊張の糸が切れたのか、笑みを隠しきれない様子。
「はぁはぁ…。追ってきたみたいだが、後方も上方もいないな。はははっ、俺の巧みなる逃走技術で撒いてやっ――」
安堵の笑いと自身への傲りは、有ってはならない一瞬の隙を生む。
「凄~く、ご機嫌なところ悪いんだけどさ。私、追い掛けられるのは好きじゃないんだよね。貴方、一体誰なの?」
木の裏から息を切らさぬ浜悠が話し掛ける。
しかし、返答も弁解もその耳には届かない。
代わりに苦痛で悶える声だけが、闇夜の森へ溶け込む様に響き渡る。
「ぐっ……苦しっ……離――」
四肢を振り回し暴れても、自身が知る女子供の力じゃない。
呼吸困難になり真っ青な顔をしていたが、とてもじゃないが逃げれなかった。
何故なら喉元に当てられた鞘が、深く喉元に突き刺さり体を浮かしているからだ。
抵抗虚しく徐々に締め上げられながらも、〝答え〟が出るまで質問を繰り返す浜悠。
「ねぇ、私の〝話〟を一字一句ちゃんと理解できる? 貴方は一体〝誰〟で、目的は〝何〟で、どうして〝私〟を付け回したの?」
意識を失い掛けながらも、淡々と繰り返される言葉の羅列。
この時、男は悟った――止めどなく沸き立つ冷や汗は、時として〝死〟を連想させる……と。
意識は既に朦朧になり、現状を打破できない無駄な足掻きを止める。
僅かに感覚の残る指先で、浜悠の手の甲へ文字を書く。
それは弱々しいながらも、心から出る必死の叫びだった
「何だか、くすぐったい」と気付いた浜悠は、直ぐ様に男の意図を組む。
「え~っと……〝い・き〟?。そうかそうか、息が苦しくて口を割れないってことだね!?」
いくら声を掛けても返事はおろか、僅かな反応さえ示さなかった。
ぐったりと力無く揺れる腕や足は、首のみで全体重を支えていれば当然の結果である。
「まぁ、刀で人を傷付けるのも、ましてや殺めるのも御法度だから、これで勘弁して上げる」
花の守り人として刀を振るい植魔虫を狩るが、決して殺人鬼ではない。
如何なる対人戦において、殺生の手加減は重々に心得ていた。
鼓動が幹を挟んで響いているのを確認後、込めた力をゆっくりと緩め地へ降ろす。
男は、鈍い音を立てながら地面へと倒れ、片膝を着いた浜悠が生存確認を行う。
「どうやら綺麗に気絶しているみたいね。あまり暴れなかったお陰で呼吸と脈も安定してる」
安堵のせいか胸を撫で下ろすと、同時に自身の〝お節介癖〟で溜め息が出た。
「はぁ……何があるか分からない森中で、1人にする訳にもいかないしなぁ~。今日はこの場所で〝野営〟って所ね」
放置して何かあっても寝付きが悪くなると思い、朝陽が昇るまで様子を見る事に決めた浜悠。
1人なら木に登って熟睡する事も可能だが、流石に背負った状態では骨が折れる。
天を見上げると不幸中の幸いか、今日は一切の曇りがない空模様。
加えて自然光である月明かりが、辺りを仄かな色に照らす。
「ふぅ~、流石に冷えるなぁ。このままだと寒くて風邪を引くだろうし、一応気を利かせて……」
何か暖をとれるものを探すため、男の周りを自らの〝刃圏〟の範囲内で探し歩く。
数分後に足元で鳴る乾いた音を聞き、不敵な笑みを浮かべる。
枯れ葉を両腕一杯に抱え、何度も何度も往復しながら男の体へと盛りに盛っていく。
局所的に山盛りとなった四肢が、見る影もない位になった頃。
滴る汗を拭い、両手を限り無く広げ小さく叫ぶ。
「私史上、最高傑作にして素材本来の良さを際立たせる自然豊かな寝床……名付けて〝浜悠のすやすや寝具1人用〟!」
〝影ながらの努力〟を誰でもいい。誰かに褒めて欲しかったが、目の前の男は気絶していて勿論返事はない。
無惨にも吹き抜ける夜風が、白髪を揺らして体内に染み渡る。
乾いた唇を震わせながら、不貞腐れ気味に「あぁ寒い寒い。準備も真面にしてこなかったから何もないし……」
浜悠の空元気も不発に終わり、無言で木を背凭れにして腰を落とす。
両足を小さく折り畳み太股の間に刀を挟むと、羽織で体全体を覆い隠す。
寒暖に強い特殊加工のお陰で、ある程度の寒さを軽減しても、透き間風だけは骨身に染みる。
顔だけを外へ出し、何処か遠い存在の月に向かってそっと呟く。
「そして私は今日も1人寂しく、夜の闇の中で踞るのでした――」
瞼を数分に1回程閉じても安眠はせず、心から熟睡したのはいつだったかさえ記憶にない。
浜悠は幸せそうに寝息を立てる男を、羨ましそうに思いながら、数時間の孤独感の中で日の出を迎えた。
温かな陽光が木漏れ日となって森へ差し込み、飛び立つ小鳥達の声で今日の始まりを告げた。
大粒の雫が輝く朝露は、ゆっくりと葉と葉を行き交い、大口開く男へ1滴、2滴と無防備な喉を通過。
苦味と得たいの知れない感覚で、ようやく目覚めると開口一番に
「――っ!! ぺっぺっ……一体何がどうなってるんだ!?」
苦味を覚える唾液を吐き出すと、叫びながら飛び起きる。
同時に大量の枯れ葉が宙を舞い、まるで自らの脳内に似て混在しているようだ。
記憶はあっても状況を把握出来ないのか、まだ痛みのある首元を擦り始めた。
今現在、自分は生きているのか?もしくは死んでいるのか?――答えは2つに1つ。
数少ない視覚的情報を用いて、得意気に最適解を導き出す。
「そうか、分かった。ここが〝黄泉の国〟とやらか。通りで変な葉っぱを、大量に乗せられていると思ったら……天へ送るための儀式という事で間違いないな!」
自身満々かつ他の追随を許さぬ、圧倒的な外れ具合に、ついつい口を挟んでしまう浜悠。
「さっきから1人で、ぶつぶつとうるさいなぁ。あんた、私の弟と一緒で寝起きが悪い人でしょ?」
恐らく図星だったのか手を横へ振り「馬鹿言うんじゃねぇよ。俺はこう見えても朝はめっぽう強――」
調子の良い口調で対抗しようとしたが、次の言葉は外へ出ずに胸に仕舞う。
何故なら、いつの間にか目の前まで迫る浜悠が、般若の様に口元を裂いて笑っている――風に男は見えていたから。
もし仮に言っていたならば、次はさらに長い〝記憶の空白期間〟が待っているだろう。
咄嗟の危機管理能力に、胸を撫で下ろしいると
「目が覚めたら、初めて会った人には先ず〝おはようございます〟でしょ? 今、出来ないなら教えてあげようか?」
浜悠の発する言葉に、殺気とは別の圧力が掛かる。
男は首を高速で横に振り、どう見ても年下だと思いつつも、眼を泳がせながら「はひっ……。おっ、おはようご……ざい……まふ……」
と、出せる声を絞り上げながら、苦しくも何とか乗り切る。
そうしたら、直ぐ様に笑顔に切り替えて「良かった、やれば出来るじゃない! で? 私に用があって着けて来たんだよね?」
今にも吸い込まれそうな白色の瞳だけは、どう見ても笑っていなかった。
眼を凝らしながら覗き込み、注意深く辺りを見回す。
張り詰めた緊張の糸が切れたのか、笑みを隠しきれない様子。
「はぁはぁ…。追ってきたみたいだが、後方も上方もいないな。はははっ、俺の巧みなる逃走技術で撒いてやっ――」
安堵の笑いと自身への傲りは、有ってはならない一瞬の隙を生む。
「凄~く、ご機嫌なところ悪いんだけどさ。私、追い掛けられるのは好きじゃないんだよね。貴方、一体誰なの?」
木の裏から息を切らさぬ浜悠が話し掛ける。
しかし、返答も弁解もその耳には届かない。
代わりに苦痛で悶える声だけが、闇夜の森へ溶け込む様に響き渡る。
「ぐっ……苦しっ……離――」
四肢を振り回し暴れても、自身が知る女子供の力じゃない。
呼吸困難になり真っ青な顔をしていたが、とてもじゃないが逃げれなかった。
何故なら喉元に当てられた鞘が、深く喉元に突き刺さり体を浮かしているからだ。
抵抗虚しく徐々に締め上げられながらも、〝答え〟が出るまで質問を繰り返す浜悠。
「ねぇ、私の〝話〟を一字一句ちゃんと理解できる? 貴方は一体〝誰〟で、目的は〝何〟で、どうして〝私〟を付け回したの?」
意識を失い掛けながらも、淡々と繰り返される言葉の羅列。
この時、男は悟った――止めどなく沸き立つ冷や汗は、時として〝死〟を連想させる……と。
意識は既に朦朧になり、現状を打破できない無駄な足掻きを止める。
僅かに感覚の残る指先で、浜悠の手の甲へ文字を書く。
それは弱々しいながらも、心から出る必死の叫びだった
「何だか、くすぐったい」と気付いた浜悠は、直ぐ様に男の意図を組む。
「え~っと……〝い・き〟?。そうかそうか、息が苦しくて口を割れないってことだね!?」
いくら声を掛けても返事はおろか、僅かな反応さえ示さなかった。
ぐったりと力無く揺れる腕や足は、首のみで全体重を支えていれば当然の結果である。
「まぁ、刀で人を傷付けるのも、ましてや殺めるのも御法度だから、これで勘弁して上げる」
花の守り人として刀を振るい植魔虫を狩るが、決して殺人鬼ではない。
如何なる対人戦において、殺生の手加減は重々に心得ていた。
鼓動が幹を挟んで響いているのを確認後、込めた力をゆっくりと緩め地へ降ろす。
男は、鈍い音を立てながら地面へと倒れ、片膝を着いた浜悠が生存確認を行う。
「どうやら綺麗に気絶しているみたいね。あまり暴れなかったお陰で呼吸と脈も安定してる」
安堵のせいか胸を撫で下ろすと、同時に自身の〝お節介癖〟で溜め息が出た。
「はぁ……何があるか分からない森中で、1人にする訳にもいかないしなぁ~。今日はこの場所で〝野営〟って所ね」
放置して何かあっても寝付きが悪くなると思い、朝陽が昇るまで様子を見る事に決めた浜悠。
1人なら木に登って熟睡する事も可能だが、流石に背負った状態では骨が折れる。
天を見上げると不幸中の幸いか、今日は一切の曇りがない空模様。
加えて自然光である月明かりが、辺りを仄かな色に照らす。
「ふぅ~、流石に冷えるなぁ。このままだと寒くて風邪を引くだろうし、一応気を利かせて……」
何か暖をとれるものを探すため、男の周りを自らの〝刃圏〟の範囲内で探し歩く。
数分後に足元で鳴る乾いた音を聞き、不敵な笑みを浮かべる。
枯れ葉を両腕一杯に抱え、何度も何度も往復しながら男の体へと盛りに盛っていく。
局所的に山盛りとなった四肢が、見る影もない位になった頃。
滴る汗を拭い、両手を限り無く広げ小さく叫ぶ。
「私史上、最高傑作にして素材本来の良さを際立たせる自然豊かな寝床……名付けて〝浜悠のすやすや寝具1人用〟!」
〝影ながらの努力〟を誰でもいい。誰かに褒めて欲しかったが、目の前の男は気絶していて勿論返事はない。
無惨にも吹き抜ける夜風が、白髪を揺らして体内に染み渡る。
乾いた唇を震わせながら、不貞腐れ気味に「あぁ寒い寒い。準備も真面にしてこなかったから何もないし……」
浜悠の空元気も不発に終わり、無言で木を背凭れにして腰を落とす。
両足を小さく折り畳み太股の間に刀を挟むと、羽織で体全体を覆い隠す。
寒暖に強い特殊加工のお陰で、ある程度の寒さを軽減しても、透き間風だけは骨身に染みる。
顔だけを外へ出し、何処か遠い存在の月に向かってそっと呟く。
「そして私は今日も1人寂しく、夜の闇の中で踞るのでした――」
瞼を数分に1回程閉じても安眠はせず、心から熟睡したのはいつだったかさえ記憶にない。
浜悠は幸せそうに寝息を立てる男を、羨ましそうに思いながら、数時間の孤独感の中で日の出を迎えた。
温かな陽光が木漏れ日となって森へ差し込み、飛び立つ小鳥達の声で今日の始まりを告げた。
大粒の雫が輝く朝露は、ゆっくりと葉と葉を行き交い、大口開く男へ1滴、2滴と無防備な喉を通過。
苦味と得たいの知れない感覚で、ようやく目覚めると開口一番に
「――っ!! ぺっぺっ……一体何がどうなってるんだ!?」
苦味を覚える唾液を吐き出すと、叫びながら飛び起きる。
同時に大量の枯れ葉が宙を舞い、まるで自らの脳内に似て混在しているようだ。
記憶はあっても状況を把握出来ないのか、まだ痛みのある首元を擦り始めた。
今現在、自分は生きているのか?もしくは死んでいるのか?――答えは2つに1つ。
数少ない視覚的情報を用いて、得意気に最適解を導き出す。
「そうか、分かった。ここが〝黄泉の国〟とやらか。通りで変な葉っぱを、大量に乗せられていると思ったら……天へ送るための儀式という事で間違いないな!」
自身満々かつ他の追随を許さぬ、圧倒的な外れ具合に、ついつい口を挟んでしまう浜悠。
「さっきから1人で、ぶつぶつとうるさいなぁ。あんた、私の弟と一緒で寝起きが悪い人でしょ?」
恐らく図星だったのか手を横へ振り「馬鹿言うんじゃねぇよ。俺はこう見えても朝はめっぽう強――」
調子の良い口調で対抗しようとしたが、次の言葉は外へ出ずに胸に仕舞う。
何故なら、いつの間にか目の前まで迫る浜悠が、般若の様に口元を裂いて笑っている――風に男は見えていたから。
もし仮に言っていたならば、次はさらに長い〝記憶の空白期間〟が待っているだろう。
咄嗟の危機管理能力に、胸を撫で下ろしいると
「目が覚めたら、初めて会った人には先ず〝おはようございます〟でしょ? 今、出来ないなら教えてあげようか?」
浜悠の発する言葉に、殺気とは別の圧力が掛かる。
男は首を高速で横に振り、どう見ても年下だと思いつつも、眼を泳がせながら「はひっ……。おっ、おはようご……ざい……まふ……」
と、出せる声を絞り上げながら、苦しくも何とか乗り切る。
そうしたら、直ぐ様に笑顔に切り替えて「良かった、やれば出来るじゃない! で? 私に用があって着けて来たんだよね?」
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