いつかあなたに刃を向けるとき

泥んことかげ

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第1章【咲き誇れ儚き命の灯火よ】

第30輪【信じる者こそ叶えられる者】

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 鬼灯は〝旅人〟として、様々な人との出会いや別れ。加えてこれまでに遭遇した幾多の体験談。

 それらをまるで、子どもに聞かせる御伽噺おとぎばなしの様に、好奇心旺盛な浜悠へ語る。

「俺が、植魔虫に囲まれた時の話なんだが。雲一つとない晴れ間なのに、突如として周りが大きな影に覆われて、気が付いたら虫っ子一匹いなくなってだな――」

「あのよ~知ってたか? 誕生日って毎回同じ日なんだぜ?どうしてだろうな……これを解明したら俺も歴史に名を刻むかも――」

「浜悠、浜悠! この前、話した〝湖面で座禅する人間〟の話だけどさ~。あれには、続きがあってだな――」

 どれも不思議な魅力に惹き付けられ、まるで夢物語の様な本当の話や、まことしやかな事まで様々だった。

 それでも決まって笑顔で楽しそうに語り、誰も不幸にしない優しい話の数々。

 森の外へ出ずに生地せいちで暮らす浜悠にとって、それが嘘でも真でも嬉しかった。

 まだ見ぬ〝未知の世界〟が、体を稲妻の如く駆け巡り、脳裏へ極彩色の筆で描かれていく。

 知らない事を知りたいと思う欲求は、人間誰しも必ずある。

 この頃は楽しみが増えたせいか、狩りをする最中でさえ考える始末になっていた。

 本当は自身の〝視覚〟で、〝嗅覚〟で、〝聴覚〟で、全身全霊で触れたかった。

 だが、話を聞くだけでも十分に心が満たされ例えようの無い感覚に陥る。

(最近は本当に楽しみが増えたなぁ~。 早く狩って〝あの場所〟に行かなきゃ!!)

 森を縦横無尽に駆け巡り、〝必中必殺〟〝一閃両断〟の元、次々と現れる植魔虫を斬り捨てていく。

 数ヶ月前に比べて刀捌きや繊細な動作に、一段と磨きが掛かっていた。

 そよ風吹く花の様に舞い、悪しき者の命を狩りとりて己が生を拾う――

 やがて、死体となって積み重なる植魔虫が、自然消滅で土へ還るのを確認後。

「この辺りも今日でお仕舞い。さぁてと……。今日はどんな面白い話が聞けるかな?」

 高まる心を躍らせながら、足取り軽く意気揚々と歩き出す。

 何だか不思議なもので、〝そこへ〟辿り着くまでが1番楽しかったりする。

 新たな道を開拓したり、見たことのない草木に触れたり、日によって様々だった。

 眼前で折り重なる枝葉が陽の沈みを教え、体全体を仄かに茜色へ染める。

「いつもよりも早くっ~到・着!~」

 転びそうになりながらも、小走りで特等席に向かった浜悠。
 体の力を抜き、腰を下ろして思いにふけた。

「はぁ……ふぅ――」

 悪い気と良い気を入れ換えるため、幾度も深呼吸を行う。

 この世界に数億の命が宿れど、人とはちっぽけなもので、〝孤独感〟には耐えられない。

「鬼灯君、早く……来ないかな……。いつも待たせる側で言うのも何だけどさ」

 体を前後に揺すり遠くを見つめては、まだかまだかと到着を待ち望む。

 毎日異なり飽きさせず、変わり行く空模様。
 それらは、瞳の中で見渡す限り続いている。

 ふと、手を伸ばせば簡単に届きそうで、指の隙間から見える〝それ〟を掴んでみせた。

〝感触〟や〝冷温〟――何かしらの〝一片〟さえ勿論ない。
 只々そこにあるのは、必然的に〝無〟だけが残る。

 一光ひとひかりの儚い望みにすがる様、傷痕残る手を膝上に置いて静かに見つめる。

「こんなに近くに見えて、本当はそうではない。今ある〝現実〟と一緒だね……」

 心の内に秘めた物を思い詰めながら、そう悲しげに呟いた。

 しばらくして遅れてやって来た鬼灯が、横へ座り首を傾げて問う。

「よぉ、浜悠。深刻な顔をしてどうしたんだ?」 

「ううん、気にしないで。いつもこんな感じなの……ふふふっ」

 見られて恥ずかしかったのか、舌を少しだけ出して笑う。
 
「あらら~見られちゃったか~」と、再び視線を手へ戻すと、鬼灯が覗き込んできた。

「大事そうにしてるけど、手の中に何も――」

 口元を人差し指で制止しながら、そそくさとふところへ仕舞う浜悠。

 大事そうに擦りながら「しー……。。私の手の中に。でも、残念だけど見せないよ?」

 無邪気に微笑みながらも、透き通るような瞳は頬を赤くする自分を映す鏡だった。

 この時の鬼灯は、最初こそ言葉の意味を理解が出来なかった。

 だが、後々に思い返せば納得をせざるを得なかった。

 確かに手の平を開示しなければ、答えは誰にも分からない。

 そこに有ると――〝実在〟すると自分が信じれば、大小問わず夢や希望を持てる。

 孤独の中で闘って来た浜悠なりの皮肉だった。

  より一層に2人の距離が縮んだのは、ある何気ない一言からだった。

「私も貴方みたいに、何処か遠くの場所を自由に行きたい。勿論、自分の足でさ。でも、無理ね……」

 浜悠は〝花の都〟から離れた森で、只1人の花の守り人。

 その役目や責任を誰よりも痛感していた。

 いつ命を落とすか分からない状況の中で、自身が本当にやりたい事を胸の奥に秘めている。

 固めた意思を貫く事は険しい道程であり、生半可な覚悟では一筋縄に行かない。

 また、何かを犠牲にし続けなければ結果は得られない。

 たとえそれが己自身であろうとも。

 重苦しい空気をそれとなく感じ取っていた鬼灯は、打って変わって軽妙な口振りで言葉を返す。

「確かにそうかも知れないし、実はそうでないかも知れない。少なくとも、今までの旅路の中で、こんなに良い所はなかった。勿論、浜悠みたいな子とも出会ったことはないけどな~!」

 大袈裟な手振りを交えながら、茶化す様に頭を優しく撫でる。

 来る前にせっかく整えた髪の毛が乱れ、くすぐったくて、可笑しくて、涙を流しながら

「あはははっ! 本当に鬼灯君は御世辞が上手いね。〝花の都〟に行けば、私みたいな人は沢山居ると思うけど?」

 笑い疲れて腹痛になりながらも指で拭う。
 場が和らいで微笑む鬼灯は、正面を見据えて力強く話を続ける。

「嫌、居ないね。こんなところで自分の地位に胡座あぐらをかかずにいる人間を、俺は正直見たことない。大多数は利益にならない事はしないからな」

「俺はさ、個性じぶんを捨て群集よせあつめでしか、生きれない奴等……弱者をないがしろにする連中は、どうも好かないんだ」

 この時に流れる数秒間の沈黙は、夜風を誘い吐息を白くさせた。

 すると、静かに呟いた2人の声が静寂の中で響き渡った。

 それは意図せずか、はたまた意図してか、寸分の狂いなく重なる。

「「上ばかりを見続ければ咲き誇る花を踏み締め、下ばかりを見続ければ己の殻を破れず朽ち果てるのを待つのみ。ただ、平等を求める者は全てにおいてのことわりを歩む者なり――」」

 浜悠が〝花の都〟から出る際に、当時の教官から教しえられた〝はなむけの詩〟だった。

 突然の出来事に驚きを隠せないのか、食い入るように身を乗り出す。

「えっ、どういう事! 何で鬼灯君が知ってるの!?」

「まぁ、今度話してやるよ。1つ言えることは、俺は何でも知っている……。知らない事があるとしたら、君の事くらいかな~?」

 無防備な鼻を人差し指で小突かれ、不機嫌な表情で額にしわを寄せる浜悠。

 恐らく人生で1番最低な不細工な顔になりながらも「何それ、むかつく! 逃げるな、この豚野郎! 私たちの間に隠し事は無しだぞ!」

 気になることは〝追求する性格〟のせいか、むきになりなって対抗した。

「まぁまぁ、そう固いこと言うなよ! 時期に教えるからさ」

 両手で頬を饅頭まんじゅうの様にもてあそばれ、上手く話をかわす鬼灯。

「今直ぐに話させてやる~!! 喰らえっ、あおばが悪い事をした時にのみ出せる技――〝無限くすぐりの刑〟」

「危なっ、ここ崖だからっ! ちょっ本当に落ちるってぇ~!」

 響き渡る悲痛な叫びは、皮肉にも開戦の合図となった。

「とうっ! はぁっ!喰らえっ〝首元に手を突っ込む奴〟!」

「何のこれしきっ。〝無限くすぐり返し〟! 次いで〝猫騙し〟!」

 しばしの間〝泥試合的攻防〟を、思う存分ふざけながら、場所等気にせずに繰り広げた。

「はぁはぁ……やるじゃないか」

「ふっ……鬼灯君こそ……今回は私の負けね」

 ようやく決着が訪れ、両者とも仰向けになって夜空を見上げていた。

 いつの間にか幾多もの星々が輝きを放ち、地上を包み込む。

 夢に見た幻想的な光景が、嫌なことを何もかも忘れさせてくれる。

「ふふふっ……。私さ、あなたと一緒だと心が落ち着いて、自然体の自分を表せられるんだ。これが、

 外方そっぽを向いた鬼灯からの返答はなかった――でも、浜悠は真実を知っている。

 照れ臭くなってだと言うことを。

 過ぎ去りし日は何時かの思い出となる――時に笑い。時に泣き。時に苦しみ。

 天気の様に自由に変わる喜怒哀楽を、2人で分かち合ってきた。

 たとえ途方もない夢を口にしても、億千もの選択肢のある未来は誰にも分からない。

 歩み信じ続けた道や過程が己を強くさせ、無限に広がる可能性を育てる。

 そんな日々の連続によって、ついには思いが実を結んだ。

 こんなに幸せで満たされて良いのかと、自問自答する時もあった。

 でも、一度きりの人生だ――存分に謳歌しよう。

 愛しい人の息遣いや、脈打つ鼓動を一番近くで感じられる距離。

「俺と……ずっと一緒に居てくれないか? 返事は、今でなくても――」

 突然告げられる鬼灯の一言に戸惑いつつも、浜悠の心の中で答えは既に決まっていた。

「はい……喜んで……!」

 この時に流した涙は頬を伝い、分岐された運命の様に地へと染み渡る。

 何処までも何処までも、築き上げたかった未来のように――。

 しかし、そんな矢先に2人を見つめる影が、光当たらぬ闇に紛れていた。




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