オー・マイ・メサイア ~バタフライ~

ほだか

文字の大きさ
8 / 11

8.それなら…当たって砕けよう

しおりを挟む
「この前は、すみませんでした」
「いや、いや。ちょっと驚いたけど、今日じゃなくてよかったよ。今日は若い女性向けの雑誌だから、爽やかに元気に頼んだよ」
「はい」

 悩んではいたけど、あれから3日間太らない程度に栄養のあるものを食べ、エステにも行った。そのせいかメイクのノリもよく、楽しく撮影を終えることができた。

「あと10年はいけるかもな」
「また、それですか…」
「それはそうと、この前の話、伊藤がヌードを撮りたいって言ってんだけど、どうする?」
「全裸ですか?」
「そうなんだ。肝心なところは隠すって言ってるけど…」

 モデルとしての賞味期限が完全に終わったわけではない。しかも賞味期限であって消費期限ではない。
 できれば消費期限ぎりぎりまで仕事をしていたい。それならこの時点で舵を切るのは早すぎるのではと樹は考えた。

「今それを撮って、こっちにいられなくなる可能性はないんですか?」
「樹が有名タレントなら問題になるだろうけど…そこまでチェックしてる人いないと思うけど?」
「この業界でも?」
「そうか…見てる人いるかもな…」
「10年は無理にしても、あと5年はやりたいんで…もう少し待ってもらえませんか?」
「ただ、あっちも少しでも若いうちにと思ってるんだよ。写真だけだし…アートとしてのメンズヌードって方向でいくらしいから、いいんじゃないかな?」
「そうですか…考えてみます」
「来週までに頼むよ」
「わかりました」

 じっくり考えたくても周りは待ってくれない。それなら…当たって砕けよう。

 決心した樹は渡辺が休みの日の朝、思い切って切り出した。

「僕…今でも渡辺さんに何でも話していいんだよね?」
「ああ」

 初めて関係を持って以降、距離をとって樹の隣に座るようになった渡辺が、うつむいたまま答えた。

「まず、仕事の話なんだけど…ヌード写真撮らないかって言われてて…」
「全裸でか?」
「うん。アートとしてのメンズヌードって言ってるけど…いずれゲイポルノにって言われてて、どうしようか悩んでるんだ」
「写真だけ?」
「今のところは」

 渡辺は何か考え込んでいるようだった。
 眉間にしわを寄せる渡辺に、樹は不安になりながらも言葉を待った。

 数分の沈黙が過ぎ、鋭い目で樹を捉えた渡辺が口を開く。

「ここで俺が撮ってやる」
「え?」
「実際にやってみれば、全裸の写真を撮られるのがどういう気分かわかるだろう」

 樹の返事も聞かず、おもむろに立ち上がった渡辺が無言でセッティングを始めた。

 それから30分、樹の手を借りてリビングがスタジオに変わった。

「今は照明がこれしかないが、実際はもっと明るいと思った方がいい」
 撮影用の照明を点け、渡辺がカメラを構える。
「脱ぐところから撮るから」

 上半身裸で撮影をしたことはある。シャツを脱ぎかけるところを撮ったこともある。だけど部屋着をカメラの前で脱ぐのは初めてだった。

 風呂に入るかのようにTシャツを脱ぎ始めた樹に、少し厳しい声で渡辺が言った。
「ただ脱いでどうする。ストリップするみたいに脱がないと」
「ス、ストリップなんか見たことないよ」
「誘うんだよ。俺を誘ってみろ」

 渡辺さんを誘う…どうやって?…もし僕が誘ったら…渡辺さんは…

 あの夜の感覚を思い出し樹の体が熱くなってきた。

「その気にさせたら…抱いてくれるんだね」
「え?」

 レンズ越しに見た樹の目の色が変わった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

好きなわけ、ないだろ

春夜夢
BL
放課後の屋上――不良の匠は、優等生の蓮から突然「好きだ」と告げられた。 あまりにも真っ直ぐな瞳に、心臓がうるさく鳴ってしまう。 だけど、笑うしかなかった。 誰かに愛されるなんて、自分には似合わないと思っていたから。 それから二人の距離は、近くて、でも遠いままだった。 避けようとする匠、追いかける蓮。 すれ違いばかりの毎日に、いつしか匠の心にも、気づきたくなかった“感情”が芽生えていく。 ある雨の夜、蓮の転校の噂が流れる。 逃げ続けてきた匠は初めて、自分の心と正面から向き合う。 駅前でずぶ濡れになりながら、声を震わせて絞り出した言葉―― 「行くなよ……好きなんだ」 誰かを想う気持ちは、こんなにも苦しくて、眩しい。 曇り空の下で始まった恋は、まだぎこちなく、でも確かにあたたかい。 涙とキスで繋がる、初恋の物語。

処理中です...