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6、おれをDomにして
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「先生、こんにちは」
「おう、調子はどうだ?」
結局、専門科には行かずにこっちに通うことにしたらしい。
確か俺ではなく先輩の担当患者であるはずなのだが、必要もないのに俺を探しにやってきた。
いや可愛いとか思ってんじゃねえぞ? 大体なんで俺の秘密の休憩場所がわかったんだよ、なんて言いたいことはいろいろあるが。
ま、Domとしての経験値を考えれば子供みてえなものだとある意味言えるし、専門科のハードルが高いのもわからんでもない。実際俺も専門科には通ってねえし……いやだって俺は元々医者としての知識は少なからずあるわけだし、おかげさまで先輩にも世話になってるからこそそれで済んでいるというだけではあるが。
「おかげさまで。薬も効いてる気がする、たぶん」
「そっか」
心なしか前回よりもだいぶ顔色がよくなっている雰囲気ではあるが、結局のところダイナミクスによる体調不良なんて対症療法でしかねえからな。少なくとも現代医学の現状としては、こうして地道に自分の体質と付き合い続けていくしかねえってことだ。
「ちゃんと寝れてるか? いや、先輩がちゃんと診てるだろうし、俺から言うことでもねえか」
「うん、だけど……」
「……うん?」
「……あっ。いや、ううん」
先を促すように返事をすれば、何かを思い出したように表情が変わる。
「その……自分がDomなんだって、やっと少しわかってきた」
「それは何よりだな」
「うん。それで、先生に貰った冊子も最初は全然頭に入って来なかったんだけど。ちゃんと読んだし自分でも調べてみた」
そうだよなあ。自分の性質を認められてなければ、あんなもの読んだって意味がわからねえのは確かに俺もそうだった。そういう意味では、一歩前進か。
「それで今、確信した」
「そっか」
「だからやっぱり……先生がいい」
「は?」
だから? だから、って流れじゃねえだろ?
「だからおれ、先生にもっと教えてほしい」
「は……」
おい、やめろ。言わんとすることは大体察したがお前のそれはただの刷り込みだ。
そう言ってやりたいのに、明らかに意思を持ったまっすぐな視線に捕らえられてしまえば声も出ねえ。
「ねえ先生、あの人が好き?」
「は? あの……?」
「だから、おれの担当で……喫煙所の」
「あー、んなわけねえだろ」
「そっか、じゃあおれでもいいよね」
「っ、あ?」
自分を覆う影に気がついたときにはいつの間にか、立ち上がっていたこいつに見下ろされている。
「いいって、言ってよ」
いや、よくはねえだろ。だけどそれは実質命令のようなもんで、その視線は否定を許す気はないらしいことを嫌でも悟る。
常識で考えればこんなもん拒否一択しかあり得ないのに、俺のSubとしての本能が応えようとしてしまう。
「っ、い」
「……いい? いいよね⁉︎」
「はぁ……」
いいと言い切ったわけではないが、ようやくDomの圧から解放されて力が抜ける。
「いやお前、それは初めて認知したSubがたまたま俺だっただけ……」
「それもあるかもしれないけど、でも先生がいい」
「いやそれは」
だからそれはそうだろう。
茶番のような押し問答は長くは続かず、お互い視線を逸らしたほうが負けだとばかりに睨み合う――いや、睨んでいたのは俺だけだったのかもしれない。
それは最初からただの懇願だったのかもしれない可能性に気づいた頃、その目の色が変わったような気がした。
「先生、お願い。おれをDomにして」
ああ、もういいや。さっきからやたらと胸が締めつけられるようなグレアでおなかいっぱいだ。
「……わかった、いい」
「……!!」
「やるってんなら、中途半端なことすんなよ。命令するならはっきりやれ、そんで責任もってケアしていけよ……って、何度も言わせんな」
「うん、先生のそういうとこ、好き。Good boy」
「ん……」
全く、不本意ながらもこんなので安心した気持ちになるなんて。どうあがいてもSubだと思い知らされるのは俺のほうだな。
「へへ。英語のコマンドってちょっとくすぐったいけど、ちゃんと言ったらやっぱりこんなにすごいんだ」
「それは、な」
俺としても認めるのは悔しいが、残念ながらそうらしい。
しかも、初手からいっちょまえにGood boyなんて直球、余計効くわ。普通は女の子とのプレイとか想像してんじゃねえのかよ……いや、これはSubの印象を俺なんてモンで刷り込ませてしまったせいでもあるならちょっと居た堪れねえな。
「そんなことより、前にも言ったはずだが……お前、んなこと余所でやったら絶対捕まんぞ」
「こんなの、先生だけだから大丈夫」
……いや全然大丈夫じゃねえよ、そこで嬉しそうな顔してんじゃねえ。
「はあ、こりゃあセーフワードが要んな」
「うん!」
ああもう、要んな、じゃねえんだわ。何やってんだ俺!
「おう、調子はどうだ?」
結局、専門科には行かずにこっちに通うことにしたらしい。
確か俺ではなく先輩の担当患者であるはずなのだが、必要もないのに俺を探しにやってきた。
いや可愛いとか思ってんじゃねえぞ? 大体なんで俺の秘密の休憩場所がわかったんだよ、なんて言いたいことはいろいろあるが。
ま、Domとしての経験値を考えれば子供みてえなものだとある意味言えるし、専門科のハードルが高いのもわからんでもない。実際俺も専門科には通ってねえし……いやだって俺は元々医者としての知識は少なからずあるわけだし、おかげさまで先輩にも世話になってるからこそそれで済んでいるというだけではあるが。
「おかげさまで。薬も効いてる気がする、たぶん」
「そっか」
心なしか前回よりもだいぶ顔色がよくなっている雰囲気ではあるが、結局のところダイナミクスによる体調不良なんて対症療法でしかねえからな。少なくとも現代医学の現状としては、こうして地道に自分の体質と付き合い続けていくしかねえってことだ。
「ちゃんと寝れてるか? いや、先輩がちゃんと診てるだろうし、俺から言うことでもねえか」
「うん、だけど……」
「……うん?」
「……あっ。いや、ううん」
先を促すように返事をすれば、何かを思い出したように表情が変わる。
「その……自分がDomなんだって、やっと少しわかってきた」
「それは何よりだな」
「うん。それで、先生に貰った冊子も最初は全然頭に入って来なかったんだけど。ちゃんと読んだし自分でも調べてみた」
そうだよなあ。自分の性質を認められてなければ、あんなもの読んだって意味がわからねえのは確かに俺もそうだった。そういう意味では、一歩前進か。
「それで今、確信した」
「そっか」
「だからやっぱり……先生がいい」
「は?」
だから? だから、って流れじゃねえだろ?
「だからおれ、先生にもっと教えてほしい」
「は……」
おい、やめろ。言わんとすることは大体察したがお前のそれはただの刷り込みだ。
そう言ってやりたいのに、明らかに意思を持ったまっすぐな視線に捕らえられてしまえば声も出ねえ。
「ねえ先生、あの人が好き?」
「は? あの……?」
「だから、おれの担当で……喫煙所の」
「あー、んなわけねえだろ」
「そっか、じゃあおれでもいいよね」
「っ、あ?」
自分を覆う影に気がついたときにはいつの間にか、立ち上がっていたこいつに見下ろされている。
「いいって、言ってよ」
いや、よくはねえだろ。だけどそれは実質命令のようなもんで、その視線は否定を許す気はないらしいことを嫌でも悟る。
常識で考えればこんなもん拒否一択しかあり得ないのに、俺のSubとしての本能が応えようとしてしまう。
「っ、い」
「……いい? いいよね⁉︎」
「はぁ……」
いいと言い切ったわけではないが、ようやくDomの圧から解放されて力が抜ける。
「いやお前、それは初めて認知したSubがたまたま俺だっただけ……」
「それもあるかもしれないけど、でも先生がいい」
「いやそれは」
だからそれはそうだろう。
茶番のような押し問答は長くは続かず、お互い視線を逸らしたほうが負けだとばかりに睨み合う――いや、睨んでいたのは俺だけだったのかもしれない。
それは最初からただの懇願だったのかもしれない可能性に気づいた頃、その目の色が変わったような気がした。
「先生、お願い。おれをDomにして」
ああ、もういいや。さっきからやたらと胸が締めつけられるようなグレアでおなかいっぱいだ。
「……わかった、いい」
「……!!」
「やるってんなら、中途半端なことすんなよ。命令するならはっきりやれ、そんで責任もってケアしていけよ……って、何度も言わせんな」
「うん、先生のそういうとこ、好き。Good boy」
「ん……」
全く、不本意ながらもこんなので安心した気持ちになるなんて。どうあがいてもSubだと思い知らされるのは俺のほうだな。
「へへ。英語のコマンドってちょっとくすぐったいけど、ちゃんと言ったらやっぱりこんなにすごいんだ」
「それは、な」
俺としても認めるのは悔しいが、残念ながらそうらしい。
しかも、初手からいっちょまえにGood boyなんて直球、余計効くわ。普通は女の子とのプレイとか想像してんじゃねえのかよ……いや、これはSubの印象を俺なんてモンで刷り込ませてしまったせいでもあるならちょっと居た堪れねえな。
「そんなことより、前にも言ったはずだが……お前、んなこと余所でやったら絶対捕まんぞ」
「こんなの、先生だけだから大丈夫」
……いや全然大丈夫じゃねえよ、そこで嬉しそうな顔してんじゃねえ。
「はあ、こりゃあセーフワードが要んな」
「うん!」
ああもう、要んな、じゃねえんだわ。何やってんだ俺!
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