黒猫館 〜愛欲の狂宴〜

翔田美琴

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第三十九夜 黄昏の山道

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 雪が溶けかけた道を『黒猫館』に向けて歩く三人の男達は、集落の者達から聞いた方角へ向けて歩く。
 そこはまだ道路工事すらもされていない平原だった。だだ広い平原のみが見えたが、東の方角には雪化粧した山が見える。
 彼らは機関車で来た時の記憶を掘り返して、『黒猫館』に来た時は周りにどんな景色が観えたのかを思い出している。
 周囲は険しい山が見えていて、森も確か近くにあった。機関車で来た時は森は抜けないで、雪が積もった道路に沿って人里離れた方角へ向けて歩いた事は知っている。
 『黒猫館』の周りには確か森が囲っていた。
 そして一本だけ続く道路を歩いてその洋館にたどり着いたのを覚えている。
 彼らはその機関車の駅からは数キロも離れた集落に避難していた。
 その集落は昭和とは思えない程に、質素な生活をしていて、まるで時代の流れに取り残されたような集落だった。
 そこから『黒猫館』を目指すのは道程が全く違うから中々大変だ。
 集落の人達や海堂は森を目指して歩いて行けば『黒猫館』は近いと教えてくれた。『黒猫館』は周辺を森で囲まれているので、森を突っ切っていけば『黒猫館』が見えてくるはずと教えてくれた。
 一時間程歩いて森が見えてくる。 
 方角を聞いた時は皆は目の前の道を指して説明していたので方位磁石で見ると北を指していた。つまり北を目指せば『黒猫館』は見えるということか。
 彼らは北を目指して歩いていたら森に差し掛かるので、森に入る前に方位磁石を狂わせるようなものが無いかを心配する。

「確かにこの先は森を抜けないとならないからな。こういう樹海みたいな場所って磁気を帯びている事もあるから心配だよな」
「こういう樹海みたいな場所は気をつけていかないとな。何か目印があればいいんだけど」
「とりあえずはこのまま北に進んでみよう」

 森へ入ると鳥が囀る音が聞こえる。
 静かで、木々の葉が風に揺れて擦れる音も聞こえた。
 人の声は三人以外の声は聞こえない。
 彼女らはではどうやって食料の確保をしているのかが気になった。
 外部から食料を確保しないとやっていけないはずだ。ならそれを運ぶ人達もいるのでは?
 森は自然のままかと思いきや、人口的に造られた道があった。山道のようにきちんと踏みしめられた形跡がある。
 これは運がいい。この山道に沿って歩けば何かが見えてくるはず。
 下手に山の中を彷徨うよりは確実だと思った。
 海堂は『黒猫館』に向かう際に気を利かして懐中時計を渡してくれた。時間が判らないのは結構困るだろうから使って欲しいと、鳴川に渡した。
 鳴川は山道を歩きながら懐中時計を観て、今が何時なのかを確認する。
 もう、出発して三時間は経過して時計の針は三時を指していた。
 
「出発して三時間かよ。あの村はもしかしたら辺鄙へんぴな場所にあったかもな」
「脱出した時は俺達、こんな山道は通ったっけ?」
「いいや。山道は通っていない。隧道トンネル潜った先はほぼ平原だぜ」
隧道トンネルが開通した先は森を抜けていたのかもな。そう考えると納得できないか?」
「説明はつくよな。おい、分かれ道になっているぜ」
 
 山道が二つに分かれ道になっていた。看板があったので見ると左側の道は他の町へ続くらしい。右側は意味ありげに黒い猫が描かれた印があった。
 彼らは右の道を歩く。黒い猫──『黒猫館』にこの道を行けば続いていると知らせているんだ。食料を運ぶ人達がそうやって印を着けたのかなと三人は考えていた。
 しばらく歩くとまた分かれ道がある。左側の道は地名が書かれて、右側の道には黒い猫が描かれた看板がある。
 これは『黒猫館』へと指し示す独特の印なのだと彼らは直感的に思った。
 そういえば、行きの森の山道も意味ありげに黒い猫が描かれた看板があったのを彼らはやっと思い出した。
 この看板は『黒猫館』へ至るまでの道標なのだ。
 
「鮎川家の人達がこの看板を設置したのかな?」
「それか、かつて『黒猫館』に仕えていた人達が設置したのかもな」
「わかりやすくて助かるかな」

 太陽の陽が西に傾いて、少し森が独特の暗さになってきた。
 この夕暮れ時の合間は逢魔が時と言い伝えがある。端的に言えば大きな災いが起きやすい時間と言える。
 そういえば夕暮れ時は黄昏の時とも言ったな。
 相当な時間が経過しているのに『黒猫館』にはきちんと近づいているのだろうか?
 不安に押し潰されそうになりつつ、山道を歩くこと──約一時間後。
 微かな視界の向こうに真っ黒な煉瓦の洋館が観えた。
 見覚えがある黒い金属で出来た門。
 やっと──『黒猫館』を突き止めた。
 まともに向かってみれば単純な道程だ。
 山道を通って行けば『黒猫館』にはたどり着く。
 あの隧道トンネルは、結構深めに掘って、明後日の方角に続いていたんだな──。
 目的地に着いた彼らは森の木々の木陰に隠れて作戦を練る。
 ここは『黒猫館』の正面玄関みたいな場所だ。正面切って俺達がやってきたら鮎川家の女達はまた、俺達を捕らえて処刑までしかねない。
 どうやって松下を助けるべきだろうか?
 どうやって彼に接触しようか?

「どうする? 大体の『黒猫館』の場所は突き止めたけど」
「ちょっと裏側へ回ってみようぜ。裏口とか勝手口とかあるかもしれない」

 周囲が段々と暗さを伴ってきた。
 忍び込むには絶好の好機かもしれない。

「きちんと裏側にも勝手口があるな。この門も簡単に開くぞ」

 キィッと金属がなる音が聞こえると彼らは勝手口へ向かう。
 そして勝手口のドアノブを回した。
 何故か、勝手口は開いている──。
 罠──だろうか。
 でも、行かなければ判らない。
 鳴川はそっと勝手口を開くと室内を見渡す。
 唐島と小杉は見張りをしていた。
 
「誰もいないみたいだな。入ろう」

 『黒猫館』にまた戻った彼らが入った部屋は使われていない荷物置き場みたいな部屋だった。
 物陰に隠れる荷物があったのでそこに隠れると作戦会議をした。

「この中で『黒猫館』の場所を報せに行く奴をまずは選ぼう。道程が判った奴はいるか?」
「僕は完璧にはちょっと記憶していないよ」
「唐島は?」
「じゃあ──その役目は俺だな」

 唐島は道程をメモにしていた。
 どの分かれ道を行き、周辺には何があったのかを記録していたのだ。
 
「鳴川、小杉。松下を頼む」

 唐島は『黒猫館』の正確な場所を報せに一旦道を下る。
 
「小杉。とりあえず松下を捜そうか?」
「そうだね」

 二人組になった彼らは松下の下へ向かう事になった──。
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