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私が愛したアサシンドクター

エピローグ 最期の愛の営み

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ドアの鍵を開け、彼らは彼の自宅に入った。
 随分と激しい戦いをしたためか、汗がだいぶ滲んでいた。彼はシーナに先に自分がシャワーを浴びるから、心の準備をしておくように促した。

「すまないが、先にシャワーを浴びさせてもらうよ。こんな汗臭い身体で、君を抱くのは気が引ける」

 とシャワールームへと姿を消したエリオット。左腕を動かした影響か先程から激痛が走っている。気がつくと包帯に彼の血が滲んでいた。
 すぐにシャワーで傷口を洗って、消毒液をかけ、化膿を防いだ。あまりの激痛がシャワールームにいる彼をその場で座らせる。
 
「しばらく……本当に左腕は使えないな……。動かすだけで激痛が走る…!だが、せめて今夜だけは使わせてくれ……頼む」

 左腕を抑えて喘ぐように痛みと戦う彼の姿がシャワールームにあった。
 彼女は、シーナは、彼がいつも寝ているベッドを見た。キングサイズの黒に近い灰色のシーツが印象的だった。照明は薄暗い。
 彼女は黒づくめの服を着ていた。足に穿いていた黒いストッキングを外す。そこに彼が寝室に、黒いシャツを着て現れた…。

「待たせたね…。今夜はここは君のベッドだ。君はどういう風に抱いてほしい?」
「あの、これを使ってください……」
「ストッキング…?今さっき外したものだよね…?」
「私が絶頂に上がったら、それで首を絞めて殺してください…」
「死を選ぶというのか」
「せめて、理由を聞かせてくれるかな……?身体を交えながら、君を抱きながら、聞きたい」

 彼が自らシャツを脱いだ。黒いズボンのみになる。彼女は仰向けに寝て、そこに彼が覆いかぶさるように膝を立て優しく見つめた。
 そして、彼は徐々にシーナを抱き始める。目を閉じて体重を彼女の身体に預けるように倒れ込み、そして首筋を舐める。
 そして、彼女が何故、彼に固執するのか、語られた。

「私…初めて先生にあった時から……好きでした。とても親切だし……患者のことをけして見捨てない態度で……憧れていた…。毎日のように…あなたの顔が見たい…。でも、あなたは医師…。それは無理なのはわかっていた……」

 シーナの話の最中、彼はシーナの服を脱がして、あらゆる性感帯を刺激していた。沈黙を守って、ただ精一杯の愛情を込めて、舌を這わす。

「そして、噂であなたがあの”アサシンドクター”であることを知った……。最初に依頼したのは……本当に憎い女だった。自分の美しさに酔って、大事なあの人を寝取って……!」
「それは、間違いない復讐の暗殺だったんだね」
「そして……あなたが最後の報酬として要求したセックスが……最高に気持ち良かった…!本当は嬉しかった……!あんなふうに情熱的に求めてくれて……でもキスをくれなかった」
「知っている……」

 彼はふくらみを責めて、薄紅色の乳首を口に含んで、自らの唾液を絡める。噛んで、吸って、舐めて、吸う。

「あなたの虜になった瞬間だった……。2回目の契約まで……実は身体を売って、工面したんです……あのお金」
「2回目は君の大事な男だった。何故、標的を彼にしたの?」
「こんな……汚れた私を彼は黙って愛してくれた。それが……悲しかった。だから……せめてあの世でもう苦しまないでほしいと思った……。その時でした……。私も死のうと思ったのは」
「……3回目のアニーを標的にしたのは、当てつけだったんだね。俺への」

 その言葉を口にする頃には舌はおへそから下半身へと伸びている。そして、彼女の望む花びらが濡れている場所を舌で愛する。

「悔しかった。いつもアニーさんと通勤路を楽しそうに歩いている姿を見て……。本当にアニーさんは嬉しそうに歩いていた……。あなたも嬉しそうに笑って……あの時のセックスでは絶対見せない顔だったから……」
「それは…油断していたな。足の指も舐めるよ…」
「そこは汚い……」
「汚くないさ……話を続けて……」
「どうしたら……あなたに振り向いてもらえるか……身体を売りながら考えました……。でも結論は出ていた……」
「既に死を選んでいたからだよね」
「はい……!そんな……気持ちいいです、そこっ……!」
「足の甲が性感帯だったんだ……。今更な発見だね。ここを舐めてあげるよ。せめて」
「結局……私は……何の為に生きていたのかな……。恋人を殺して、憎い女を復讐して、自分は男に金で抱かれて……」
「なら、せめて、俺が君を苦しまないように、殺してあげる……俺個人として」
「だから……溺れるんだ。この生涯最期のこれに。俺も限界を超えてつながり続ける。せめて、君への罪滅ぼしとして」

 彼が自らズボンを脱いで、下着も脱いだ。彼はそこを欲望でいきり立たせている。ベッドに散らばるように置かれた衣服。
 彼がシーナの顔を見つめて、己を鈍く深く貫く。彼女の中は狂う程に待ち焦がれたように熱かった。

「さあ……いくよ。君が壊れるか、俺が壊れるか、勝負をしてみよう」
「はあん!あうん!凄い……エリオットさん!そんなに突かないで……壊れちゃうよ!」
「余計な枷を取り払って俺に溺れろ……生涯最後のセックスくらいは……!」
「そうじゃないと……このストッキングで首を絞めながら……突くぞ」
「そうして…!私を殺して……セックスの合間に……地獄へ行きたい」
「わかった」

 黒いストッキングを手にした彼は思い切り首を結んで、ぐいぐい端を引っ張りながら、首を絞める。花びらが収縮して何倍もの快感が彼の脳に届いた。

「あうっ…!くううっ…!」
「もっといこうか」
「い、息が……!」
「それくらいでは死なないな……!情けを捨てるしかない」
「あううっ!!」
 
 もっと激しく首を絞める。彼女が喘ぐように、最期の言葉を絞り出す…。

「愛している……!わ……私が愛した……アサシンドクター…エリオット・レム……」

 その言葉を聞いた彼は不意に力を緩めると、彼女の乱れた髪を顔からどけて……瞳を覗き込み、深い口づけをした。

「そ……そんな……ずるい……よ、エリオット……さ……ん」

 そして首を絞めて彼女は事切れた。望んだ形で、彼女もアサシンドクターに、殺されて安らかに逝った…。
 花びらからはもう……熱は帯びていない。

 最後に彼は漆黒のシャツを喪服代わりにして、近くの丁度、桜が咲く木へと向かい、抱き上げて、向かった。
 深い穴を掘り……人間が収まる穴を掘った後、そこに彼女を埋葬した。
 彼の目には涙が一筋、流れる。そして、また土をかぶせ始める。そうして最後は彼なりに神へ祈り、せめて地獄より天国へ向かって欲しいものだと祈りを捧げた。

「もうすぐ……この桜も咲く頃かな……」

 毎年春になると、その桜は桁違いの綺麗な花を咲かせる。それはジオニックシティで話題になるほどの綺麗な桜だ。
 その桜の美しい理由を、この庭の持ち主である彼はけして誰にも語らない。
 そして、今日も、その桜は、美しい花を咲かせて、春の風に吹かれると、儚く散っていった。この世界に儚く散った女性のように。

 THE END
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