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第1クール 魔女裁判編
Case02 リリアの審問
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リリアが入廷すると舞台の眩しさに驚いた。そこはまさに中世の魔女裁判そのものの舞台だった。大きく開かれたアリーナ型の中央には魔女を磔にするための祭壇が。
しかも観客に晒せるようにされている。最奥には判事が座る裁判官席がまるで玉座の如く鎮座をしている。つまり、それは判事にすべての秩序が委ねられているということ。
そうして判事が入廷する。今宵の判事はライラス・ムートン判事。常連客からはムートン判事と呼ばれる。
性格は理知的でありながら、鋭さはスーパーレア判事に匹敵する。リリアの引いた判事は当たりと言ってもいいだろう。
舞台に引き出されたリリアは、既にアワアワとパニック寸前、しかも観客の煽りが更に彼女を追い詰めていく。
「出たー! 虚栄心丸見え女だせ!」
「おーい! この場でスマホでも出して晒せよ! クソが!」
「あっははは! 無理無理! こいつが自らの恥部を晒すかっての」
「そ、そんなこんなに……っ!?」
このSMクラブの観客は手加減を知らない。
そこでムートン判事が観客を鎮めようと手をかざすとシーンと波打つように静かになる──。
「──さて、魔女リリアよ」
「は、はい! 判事ちゃん!」
観客は爆笑する。
「この期に及んで判事ちゃんとは死亡フラグ決定ー! おい、誰か晒してやれよ!」
「初見魔女はこれだからなぁ」
「可愛い子ちゃんぶって判事ちゃんは草生えるわー! もっとやれ!」
「ムートン判事、鞭で引っ叩けー!」
「浅魔女は性格矯正されろ!」
「罰だ、罰! 鞭打ちで嬲れー!」
ムートン判事はその喧騒を味わいつつ、魔女リリアに応えてみせた。
「別に判事ちゃんでも構わんが、それは君の罪を全部引きずり出すことでもある。それまで保つと嬉しいね……」
「ムートン判事、やれー!」
「レア判事を馬鹿にする奴は罰だ!」
黒子はムートン判事の「やれ」の言葉に魔女リリアを強制的に磔に縛り付けた。
よく見るとムートン判事の手には鞭がきちんと握られている。その姿は黒の判事服の下は灰色のシャツ、襟は微かに開いており、何とも言えない色気になっている。
装飾は少なく、実際の判事にロザリオを持たせた典型という雰囲気。しかし判事が鞭を持っている時点で『SMクラブ』だと納得せざるを負えない。
「待って、待って! マジで引っ叩くの!?」
「それは君次第だよ……」
磔にされたリリアの背が汗で僅かに震えている。
観客の狂騒は波のように寄せては返し、その中心に一人だけ、息を飲んで固まっている魔女がいた。
ムートン判事は鞭の柄を指で軽く回しながら、
まるで処刑場の花を眺めるようにリリアを見つめる。
静寂。
ほんの三秒。
しかし、リリアにとっては永遠にも感じられる長さだった。
「……魔女リリア・フェルミア」
「ひっ……は、はい……っ?」
「君の罪──“よく見られたい欲”。その翼は軽い。軽いがゆえに折れやすい。折られるのが怖いだろう?」
リリアは顔を横に振る。
でもその震え具合が、“はい”と認めているのと同じだった。
観客がそれを見逃すはずもなく、
「ビビってるー!」
「いいぞいいぞ折ってやれぇ!」
「泣け泣けぇ!」
と、炎を煽る。
ムートン判事は観客席へ目だけを向け、
微笑のような、嘲笑のような、判定不能な声色で一言。
「──静かに。彼女はまだ、自分の罪を理解していない」
観客席がシッと静まる。
さっきまで“鞭だ!”と叫んでいた声が、
今度は“見ろよ……これ始まるぞ……”という沈黙へ変わる。
ムートン判事はゆっくり、鞭をリリアの頬の横に触れた。
皮膚には触れていない。
ただ空気をすべらせただけ。
それだけでリリアの身体は跳ねた。
「ひ……っ、痛いのは……やだ……!」
「心配するな。痛みは罰ではない。“君が作り上げた嘘の殻”を剥ぐための……儀式だ」
その声は“慰め”ではなかった。
“診断”。
“宣告”。
“審問”。
そのどれにも似ているが、どれとも違う、魔女裁判特有の音色。
リリアの喉がひゅっと鳴る。
そしてムートン判事は──鞭を下ろさないまま、こう告げる。
「リリア。君は今まで、“可愛い”という言葉の裏で多くを隠してきた」
観客席がざわつく。
「自分が空っぽだと悟られないように。上辺の光沢で誤魔化してきた。だから──」
鞭が、空気を裂いた。
リリアの耳元で、ピシッ──!
皮膚には触れていないのに、悲鳴が漏れる。
「きゃあああっ!!」
観客席から歓声。
ムートン判事はあくまで冷静。
「──まずは音で、君の虚栄を一枚剥がす。次に、言葉で二枚目を剥ぐ。最後に、真実で君を裸にしよう」
リリアの目から、涙が一筋落ちた。
“本当に裁かれる”という自覚が、ようやく心に追いついた瞬間。
観客席は、嗤いながらも期待に震える。
「よしもっといけムートン判事!!」
「泣いたぞ!浅魔女が泣いたぞ!!」
「一枚目剥がれたー!」
「虚栄の羽根、ボロボロだなあ!」
リリアは震えながら叫ぶ。
「っ……お願い……優しくして……判事、ちゃ……っ!」
ムートン判事は短く言う。
「今その呼び方をするということは──君はまだ自分を守る翼を捨てきれていないということだ」
鞭が、次の“音”を構える。
観客席が息を飲む。
そして魔女裁判が、いよいよ本格的に始まる。
しかも観客に晒せるようにされている。最奥には判事が座る裁判官席がまるで玉座の如く鎮座をしている。つまり、それは判事にすべての秩序が委ねられているということ。
そうして判事が入廷する。今宵の判事はライラス・ムートン判事。常連客からはムートン判事と呼ばれる。
性格は理知的でありながら、鋭さはスーパーレア判事に匹敵する。リリアの引いた判事は当たりと言ってもいいだろう。
舞台に引き出されたリリアは、既にアワアワとパニック寸前、しかも観客の煽りが更に彼女を追い詰めていく。
「出たー! 虚栄心丸見え女だせ!」
「おーい! この場でスマホでも出して晒せよ! クソが!」
「あっははは! 無理無理! こいつが自らの恥部を晒すかっての」
「そ、そんなこんなに……っ!?」
このSMクラブの観客は手加減を知らない。
そこでムートン判事が観客を鎮めようと手をかざすとシーンと波打つように静かになる──。
「──さて、魔女リリアよ」
「は、はい! 判事ちゃん!」
観客は爆笑する。
「この期に及んで判事ちゃんとは死亡フラグ決定ー! おい、誰か晒してやれよ!」
「初見魔女はこれだからなぁ」
「可愛い子ちゃんぶって判事ちゃんは草生えるわー! もっとやれ!」
「ムートン判事、鞭で引っ叩けー!」
「浅魔女は性格矯正されろ!」
「罰だ、罰! 鞭打ちで嬲れー!」
ムートン判事はその喧騒を味わいつつ、魔女リリアに応えてみせた。
「別に判事ちゃんでも構わんが、それは君の罪を全部引きずり出すことでもある。それまで保つと嬉しいね……」
「ムートン判事、やれー!」
「レア判事を馬鹿にする奴は罰だ!」
黒子はムートン判事の「やれ」の言葉に魔女リリアを強制的に磔に縛り付けた。
よく見るとムートン判事の手には鞭がきちんと握られている。その姿は黒の判事服の下は灰色のシャツ、襟は微かに開いており、何とも言えない色気になっている。
装飾は少なく、実際の判事にロザリオを持たせた典型という雰囲気。しかし判事が鞭を持っている時点で『SMクラブ』だと納得せざるを負えない。
「待って、待って! マジで引っ叩くの!?」
「それは君次第だよ……」
磔にされたリリアの背が汗で僅かに震えている。
観客の狂騒は波のように寄せては返し、その中心に一人だけ、息を飲んで固まっている魔女がいた。
ムートン判事は鞭の柄を指で軽く回しながら、
まるで処刑場の花を眺めるようにリリアを見つめる。
静寂。
ほんの三秒。
しかし、リリアにとっては永遠にも感じられる長さだった。
「……魔女リリア・フェルミア」
「ひっ……は、はい……っ?」
「君の罪──“よく見られたい欲”。その翼は軽い。軽いがゆえに折れやすい。折られるのが怖いだろう?」
リリアは顔を横に振る。
でもその震え具合が、“はい”と認めているのと同じだった。
観客がそれを見逃すはずもなく、
「ビビってるー!」
「いいぞいいぞ折ってやれぇ!」
「泣け泣けぇ!」
と、炎を煽る。
ムートン判事は観客席へ目だけを向け、
微笑のような、嘲笑のような、判定不能な声色で一言。
「──静かに。彼女はまだ、自分の罪を理解していない」
観客席がシッと静まる。
さっきまで“鞭だ!”と叫んでいた声が、
今度は“見ろよ……これ始まるぞ……”という沈黙へ変わる。
ムートン判事はゆっくり、鞭をリリアの頬の横に触れた。
皮膚には触れていない。
ただ空気をすべらせただけ。
それだけでリリアの身体は跳ねた。
「ひ……っ、痛いのは……やだ……!」
「心配するな。痛みは罰ではない。“君が作り上げた嘘の殻”を剥ぐための……儀式だ」
その声は“慰め”ではなかった。
“診断”。
“宣告”。
“審問”。
そのどれにも似ているが、どれとも違う、魔女裁判特有の音色。
リリアの喉がひゅっと鳴る。
そしてムートン判事は──鞭を下ろさないまま、こう告げる。
「リリア。君は今まで、“可愛い”という言葉の裏で多くを隠してきた」
観客席がざわつく。
「自分が空っぽだと悟られないように。上辺の光沢で誤魔化してきた。だから──」
鞭が、空気を裂いた。
リリアの耳元で、ピシッ──!
皮膚には触れていないのに、悲鳴が漏れる。
「きゃあああっ!!」
観客席から歓声。
ムートン判事はあくまで冷静。
「──まずは音で、君の虚栄を一枚剥がす。次に、言葉で二枚目を剥ぐ。最後に、真実で君を裸にしよう」
リリアの目から、涙が一筋落ちた。
“本当に裁かれる”という自覚が、ようやく心に追いついた瞬間。
観客席は、嗤いながらも期待に震える。
「よしもっといけムートン判事!!」
「泣いたぞ!浅魔女が泣いたぞ!!」
「一枚目剥がれたー!」
「虚栄の羽根、ボロボロだなあ!」
リリアは震えながら叫ぶ。
「っ……お願い……優しくして……判事、ちゃ……っ!」
ムートン判事は短く言う。
「今その呼び方をするということは──君はまだ自分を守る翼を捨てきれていないということだ」
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観客席が息を飲む。
そして魔女裁判が、いよいよ本格的に始まる。
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