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氷の微笑と奇跡の紳士
12話 過ちと後悔と
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あれは記憶の片隅には、とある金融機関が破綻しかけている事を知った事から始まる。当時25歳だった俺は、この頃から手段を選ばない非情な面があった。
「レドール銀行が経営破綻しかけている?」
「今なら買収も可能だと思わないか?」
ルーファスはこの頃は三十路真っ只中。その時はかなり強引な部分も多分あったに違い無い。
俺も事業拡大の為に餌となるものを必要としていた。
この当時の俺は他人を思いやる心は足りないと思って、それは今でもそうなのかとたまに思う。思うだけで何もしなかった。失態をも演じた社員をどれだけ鬼の形相で叱っていたのか今ではわからない。
その鬼の面は実際に会社買収の場面でもしていた。
レドール銀行はそこそこの大きさだったが経営破綻寸前にバートン財団に買収された。というよりも無理矢理傘下に置いた。
その時のレドール銀行の家族の行方など考えもしなかった俺は傲岸不遜な態度で傘下に置いたのだろう。
怯える少女の視線など気にする事もなく。
その怯える少女とは当時15歳だったシャロンの事である。
バートン財団は正式にレドール銀行を傘下に置き、その建物は【バートン財団マンチェスター支店】という場所になった。
レドール夫妻がバートン財団に買収された後、それは起きた。
両親は死んで働く宛のないシャロンは娼婦として生きる事になった。
だが。何を憎む。
あのままレドール銀行は破綻するだけだった。俺は路頭に迷うくらいならバートン財団に買収されて銀行を続けた方がいいと考えるがな。
「それはあなたの人生観でしょう?」
シャロンの冷酷な声が心臓を刺すように貫く。シャロンの怒りがここで明かされた。
「私は私を産んでくれた両親を尊敬していた。経営が苦しくても私をせめて大学生まで進学させてあげようと頑張ってくれた。それを、私の幸せをあなたが奪った!」
「日に日に両親は精神状態がおかしくなっていった。遂に母親は錯乱状態になる、父親もアルコール依存症になり! 私は娼婦として好きでもない男に金で抱かれる売女よ」
「あなたに何がわかると言うの? この恨みはこの部屋で発散させて頂くわ!」
よく撓る鞭がレンブラントの身体をバシッと叩いた! 呻くレンブラント。すぐさま鞭が飛んでくる。今度は股関節に。
「アウッ!!」
シャロンがセクシャルな声で悲鳴を上げるレンブラントを罵倒する。
「こんな時にまでセクシャルになる必要は無いのよ? 鞭を撓らせる回数を段々とわかるようにしてあげる」
シャロンの容赦の無い怒りと憎しみが鞭となり襲いかかる。
程よく筋肉質な身体に鞭の痕が出来始める!
バシッ! バシッ!!
鞭が振るわれる毎に強さが増してくる。痛みも倍増していった。
痛みに喘ぐレンブラント。
シャロンの攻めはエスカレートしていく。
鞭で打たれる度に手首からも痛みがくる。
縛られた所が鬱血していく──!
両方の手首を縛る荒縄がレンブラントの身体を引き裂くように引っ張る。縄の軋む男が恐怖を煽る。それに釣られて痛みも段階的に増してくる──!
「うああっ!」
「フッフッフッ。今夜は2人で楽しみましょう? 私が女王様のSMナイトを?」
折檻部屋の外は今は夜なのだろうか?
それとも昼間なのだろうか?
シャロンの折檻が激しくなる。
レンブラントは鞭で打たれる度に自分自身の行いを悔いた。
ノイズ──。本当に君の言う通りだよ。すまなかった。
ブライト──。お前は重役会議の前によくあの案件を片付けてくれた。後で生きていたら──いや生き抜くから礼をさせてくれ。
ミライ──。本当は劣情に支配されたのは俺だったんだ。それを発散する為に体を求めてすまなかった──。
ルーファスも、アルベルトも、ジョンも──皆、俺の仲間なんだ。皆──今まで本当にすまなかった。
この痛みはみんなの俺に対する抗議と思えば耐えられるかな──。
ズキズキと脈打つ手首が真っ赤になっているかもしれない。
もしかして──シャロンはここで俺を殺すのか?憎しみに燃えたぎる茶色の瞳は俺を見下している。
俺も散々、してきた瞳だ。
ううっ!! 痛い! 痛いよ…! 俺を責めるのは肉体的にはシャロンだが、精神的には、バートン財団のみんなだ──!
この痛みよりも、もっと恐ろしいのは、みんなから必要とされない事だ──。
怖い──怖い──! 怖くて堪らない──。
俺の帰る場所はみんなの場所にあるのだろうか?
濁流のような後悔と肉体的な折檻。
俺は──やがて──気を──失った──。
いつの間にか意識を失ってしまった。
体中は鞭で嬲られた痛みがまだ続いている。
どうやら荒縄からは解放されたらしい。
だが。
俺は今までの俺を顧みる。
俺は今まで、他人を誉める行為を忘れていた。行いに対する礼儀を忘れた。
そして異様に時間に厳しいだけの支配的な社長になって過ごしていた。
バートン家の当主としてのプライド。
バートン財団の代表取締役としての過剰なプライドはみんなを遠ざけただけだった。
この部屋には照明はない。
天窓から微かに視える光が昼間なのだという認識をさせる。
その太陽の光をみんなで浴びる日は来るのか?
いや──来てほしい。
俺一人の力など、大した事も出来ない──。
愛するべき人は何処にいるでしょう。
あなたがそっと笑ってくれるから
明日の朝にはとっくに泣きやんでいるのさ
この小さな轍に
あなたは呼吸をしている
蝉が喚いて夏の当来を知る
その度に何故か羨んでいるのさ
この戦地で尽きたら
何かしらへの服従
帰るべき場所は何処にありましょう
もう疲れた 動じすぎた
愛するべき人は何処にいるでしょう
都合のいい答えは知っているけど
どこかの駅のホームで立っていたら
誰かから背中を押された
本当さ
この勝負に負けたら
生きてゆく資格もない
飼い馴らされた猫の眼で
鳴いてみようかな
やってみようかな
愛するべき人は何処にいるでしょう
予定の調和なんて容易だけど
声を出せばどなたかいるでしょう
真実がない もう歩けない
灰になれば 皆が喜びましょう
愛していたよ 軽率だね
帰る場所は何処にあるのでしょう
もう疲れた もう歩けない
信じるべき人は何処にいるのでしょう
都合の良い答えは知ってるけど
もう一度だけやり直しがきくなら、君との関係を新しく始めたい。
この世に限りはあるけど。
また何度でも忘れて。
さよなら。そして初めまして、と。
部屋の片隅で膝を抱える時がくるとは。
シャロン・レドールは俺に謝罪を求めているのだろうか?
そうで無かったら生きている筈がない。
この部屋は俺の意志では出られない。
俺はみんなを信じよう。
必ず、またここへ来る事を。
この『友を待つ宿』で──。
「レドール銀行が経営破綻しかけている?」
「今なら買収も可能だと思わないか?」
ルーファスはこの頃は三十路真っ只中。その時はかなり強引な部分も多分あったに違い無い。
俺も事業拡大の為に餌となるものを必要としていた。
この当時の俺は他人を思いやる心は足りないと思って、それは今でもそうなのかとたまに思う。思うだけで何もしなかった。失態をも演じた社員をどれだけ鬼の形相で叱っていたのか今ではわからない。
その鬼の面は実際に会社買収の場面でもしていた。
レドール銀行はそこそこの大きさだったが経営破綻寸前にバートン財団に買収された。というよりも無理矢理傘下に置いた。
その時のレドール銀行の家族の行方など考えもしなかった俺は傲岸不遜な態度で傘下に置いたのだろう。
怯える少女の視線など気にする事もなく。
その怯える少女とは当時15歳だったシャロンの事である。
バートン財団は正式にレドール銀行を傘下に置き、その建物は【バートン財団マンチェスター支店】という場所になった。
レドール夫妻がバートン財団に買収された後、それは起きた。
両親は死んで働く宛のないシャロンは娼婦として生きる事になった。
だが。何を憎む。
あのままレドール銀行は破綻するだけだった。俺は路頭に迷うくらいならバートン財団に買収されて銀行を続けた方がいいと考えるがな。
「それはあなたの人生観でしょう?」
シャロンの冷酷な声が心臓を刺すように貫く。シャロンの怒りがここで明かされた。
「私は私を産んでくれた両親を尊敬していた。経営が苦しくても私をせめて大学生まで進学させてあげようと頑張ってくれた。それを、私の幸せをあなたが奪った!」
「日に日に両親は精神状態がおかしくなっていった。遂に母親は錯乱状態になる、父親もアルコール依存症になり! 私は娼婦として好きでもない男に金で抱かれる売女よ」
「あなたに何がわかると言うの? この恨みはこの部屋で発散させて頂くわ!」
よく撓る鞭がレンブラントの身体をバシッと叩いた! 呻くレンブラント。すぐさま鞭が飛んでくる。今度は股関節に。
「アウッ!!」
シャロンがセクシャルな声で悲鳴を上げるレンブラントを罵倒する。
「こんな時にまでセクシャルになる必要は無いのよ? 鞭を撓らせる回数を段々とわかるようにしてあげる」
シャロンの容赦の無い怒りと憎しみが鞭となり襲いかかる。
程よく筋肉質な身体に鞭の痕が出来始める!
バシッ! バシッ!!
鞭が振るわれる毎に強さが増してくる。痛みも倍増していった。
痛みに喘ぐレンブラント。
シャロンの攻めはエスカレートしていく。
鞭で打たれる度に手首からも痛みがくる。
縛られた所が鬱血していく──!
両方の手首を縛る荒縄がレンブラントの身体を引き裂くように引っ張る。縄の軋む男が恐怖を煽る。それに釣られて痛みも段階的に増してくる──!
「うああっ!」
「フッフッフッ。今夜は2人で楽しみましょう? 私が女王様のSMナイトを?」
折檻部屋の外は今は夜なのだろうか?
それとも昼間なのだろうか?
シャロンの折檻が激しくなる。
レンブラントは鞭で打たれる度に自分自身の行いを悔いた。
ノイズ──。本当に君の言う通りだよ。すまなかった。
ブライト──。お前は重役会議の前によくあの案件を片付けてくれた。後で生きていたら──いや生き抜くから礼をさせてくれ。
ミライ──。本当は劣情に支配されたのは俺だったんだ。それを発散する為に体を求めてすまなかった──。
ルーファスも、アルベルトも、ジョンも──皆、俺の仲間なんだ。皆──今まで本当にすまなかった。
この痛みはみんなの俺に対する抗議と思えば耐えられるかな──。
ズキズキと脈打つ手首が真っ赤になっているかもしれない。
もしかして──シャロンはここで俺を殺すのか?憎しみに燃えたぎる茶色の瞳は俺を見下している。
俺も散々、してきた瞳だ。
ううっ!! 痛い! 痛いよ…! 俺を責めるのは肉体的にはシャロンだが、精神的には、バートン財団のみんなだ──!
この痛みよりも、もっと恐ろしいのは、みんなから必要とされない事だ──。
怖い──怖い──! 怖くて堪らない──。
俺の帰る場所はみんなの場所にあるのだろうか?
濁流のような後悔と肉体的な折檻。
俺は──やがて──気を──失った──。
いつの間にか意識を失ってしまった。
体中は鞭で嬲られた痛みがまだ続いている。
どうやら荒縄からは解放されたらしい。
だが。
俺は今までの俺を顧みる。
俺は今まで、他人を誉める行為を忘れていた。行いに対する礼儀を忘れた。
そして異様に時間に厳しいだけの支配的な社長になって過ごしていた。
バートン家の当主としてのプライド。
バートン財団の代表取締役としての過剰なプライドはみんなを遠ざけただけだった。
この部屋には照明はない。
天窓から微かに視える光が昼間なのだという認識をさせる。
その太陽の光をみんなで浴びる日は来るのか?
いや──来てほしい。
俺一人の力など、大した事も出来ない──。
愛するべき人は何処にいるでしょう。
あなたがそっと笑ってくれるから
明日の朝にはとっくに泣きやんでいるのさ
この小さな轍に
あなたは呼吸をしている
蝉が喚いて夏の当来を知る
その度に何故か羨んでいるのさ
この戦地で尽きたら
何かしらへの服従
帰るべき場所は何処にありましょう
もう疲れた 動じすぎた
愛するべき人は何処にいるでしょう
都合のいい答えは知っているけど
どこかの駅のホームで立っていたら
誰かから背中を押された
本当さ
この勝負に負けたら
生きてゆく資格もない
飼い馴らされた猫の眼で
鳴いてみようかな
やってみようかな
愛するべき人は何処にいるでしょう
予定の調和なんて容易だけど
声を出せばどなたかいるでしょう
真実がない もう歩けない
灰になれば 皆が喜びましょう
愛していたよ 軽率だね
帰る場所は何処にあるのでしょう
もう疲れた もう歩けない
信じるべき人は何処にいるのでしょう
都合の良い答えは知ってるけど
もう一度だけやり直しがきくなら、君との関係を新しく始めたい。
この世に限りはあるけど。
また何度でも忘れて。
さよなら。そして初めまして、と。
部屋の片隅で膝を抱える時がくるとは。
シャロン・レドールは俺に謝罪を求めているのだろうか?
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