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氷の微笑と奇跡の紳士

エピローグ 奇跡の紳士

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「ウッ…」

 軽く呻きレンブラントが気付いたのは病院のベッドの上だった。
 そこにはノイズがいた。ずっと泣いていたのだろう? 目が紅く染まっている。
 ノイズがそこにいるという事は自分は生きているという自覚を持てたレンブラント。
 愛するべき人は何処におりましょう。 
 ここにいる。目の前にいる。
 レンブラントは思わず涙を流す。

「御免な。ノイズ」
「バカ──本当にあなたは馬鹿ね」
「生きているんだな。俺は」
「レイモンが応急処置してくれたお陰よ。それに彼はレンブラントは運が良かったと」
「運が良かった?」
「咄嗟にミライとブライトの銃弾を浴びて、力が出なかったようだって。ナイフだったのも幸運だった。刃は心臓の上じゃなくて、鎖骨の辺りに刺さったから良かったと」
「そうか──命拾いしたか」
「あれから何日間経ったんだ? 結局──」
「重役会議は見事に流れたわ。1週間は経ったわよ」
「本当か?」
「でも支社の社長も支店長達も理解してくれた。代表取締役が生命を張って皆を守ったから重役会議はこの際いつでもいい。社長が完調になったらにしましょうと」
「本当に泣けてくるな」
「謝りついでに言いたい。ミライと一夜を共に寝てしまった。それも謝りたい」
「どうだった?」
「──気持ち良かった──」
「でも、ブライトと比べるなんて出来ない──って言っていた」
「特別なのよ。きっと。ブライトもあなたも」
「全く本当にバカなんだから。生命を張らないとわからないなんて」
「君のバカ発言は愛があるからいいよ」
「なんだか眠くなってきた。寝ていいか?」
「寝る前に1つさせて欲しい事があるの」
「……?」
「あなたが生きている証の温度を感じさせて」
「抱きしめるくらいなら」

 そして個室の病室で2人は抱きしめ合った。温度を確かめるように。
 それをドアから覗くもう一組の男女がいる。ブライトとミライだった。

「妬けるなあ。ミライ」 
「やっぱりレンブラント社長のパートナーはノイズさんね」
「邪魔すると悪い。行こうか?」
「ええ」

 彼らも唯一無二のパートナーとわかって良かった。
 ブライトとミライの2人は外に出ると歌を唄った。

この世に果てはあるの
もしも世界を歩き尽くしたら
どうやって 笑おうか
どうやって 泣こうか
どうやって探そうか 
もうやり尽くしたね
でも 何度だって忘れよう
そして新しく出会おう
さよなら
初めまして

 傷もほぼ癒えてまたいつもの日常に戻るレンブラント。
 家族達も笑顔で日常を謳歌している。
 次女は忘れ物をしたと叫び慌てて家に帰り、それを観る三女は笑いながら姉の持ち物探しを手伝う。長女は大学へと歩いて向かっている。
 そんな光景を観ながらレンブラントは自らの左手の薬指に填められた結婚指輪を見つめた。
 俺達の公式のパートナーである事を示した結婚指輪。
 それを外す日が来ませんように。
 外す羽目になってもまた会えますように。
 それだけでも世界に宝物が増える。
 それだけでも生きる意義が見つかる。
 それだけでも素晴らしい世界だと思える。
 リムジンに乗ると運転席には自分自身の事を必死になって治療してくれた元外科医がいた。
 そうして会社に向かう時にラジオから素敵な歌が流れた。


でも 親愛なる人
私達の終わりがすぐ側に
描かれているとしてる 今
私は何をするべきでしょうか
もう少しの間
私達の為に歌が唄われるとしたら
心の傷を取り除く事は
出来るかもしれません 

だから私はあなたの為に
歌を唄おう
古くもなく 新しくもない歌を
太陽の光の下で歌って
あなたはきっと笑う
そうしたら 私も幸せになれる

あなたが私を見て
君の事は忘れましたと言うでしょう
でも少しだけ
世界の見方を変えて

だから私はあなたの為に 
歌を唄おう
古くもなく 新しくもない歌を
太陽の下で笑って 歌って
あなたはきっと笑う
そうしたら 私も幸せになれる

古いものも 新しいものもなく
何も変わらない世界で
あなたは私を見て
きっとこう言う
お目にかかれて光栄です
ここに居てもいいでしょうか
何度だって忘れよう
そしてまた新しく出会えれば
素晴らしい
さよなら 初めまして


「定例会議が終わったらその後はバーティでも開こうか?」
「何のパーティ?」
「世界中の仲間との再会のパーティ」
「その皆さんですけど、最近、社長の事をこう呼んでるらしいですよ。生命の危機から生還した『奇跡の紳士』と」
「大げさだな。奇跡の紳士なんて」

 そうして彼らはまたバートン財団の日常へと戻る。奇跡の紳士と共に。

THE END
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