【本編完結】それを初恋と人は言う

中村悠

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俺と彼女の一週間

四日目 茉莉花の家

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 授業開始ぎりぎりに学校に着く。

日常の風景に今日も俺は、俯いて悠一達の前を通り過ぎる。



「おはよう、夏樹。遅かったね」

「うっす」


 想定内の悠一の声掛けに躊躇うもいつも通り小さな声で視線を合わさず返す。教室に入り俺の安寧の席に座り、イヤホン装着、机に突っ伏す。が、即座にイヤホンを抜かれ、囁かれる。


「もう昼休みだけど」

「知ってる」


「朝まで作業してた?」

「ああ、気が付いたら明け方で、ひと眠りのつもりが爆睡してた」

「この時間だったら、いつもなら学校来るの諦めるじゃん」

「今日は、ちょっと用事があんだよ」

「ふうん、夏樹が用事?学校に?」

「学校じゃねえよ。もうなんだよ。お前と話してると女子に睨まれるから話しかけんな。俺は寝る」

「もう、午後の授業始まるけどね。じゃあね」



 そう、悠一の指摘通り、普段ならこんな時、学校はさぼる。今日だって、時計を見て諦めてもう一度寝ようとした。だけど、茉莉花との約束がちらついて、仕方なく?嫌々?学校に来た。だが放課後になると、いつも通りリュックを肩にかけ生徒玄関に向かう。靴を履いて歩き出したところで案の定、呼び止められた。



「ちょっと、なんで帰んの?」

「俺と学校で話したくないだろうから、きっと学校出たところで声掛けられるか、たぬき公園にでもいれば大丈夫かと思って」

「べっつに、学校で、話したくないわけじゃない」

「あ、そ。じゃあ、行くぞ」

「うん、靴履き替えてくるね」



 そういう茉莉花を俺は待たない。校門を出たあたりで茉莉花が追いついた。「なんで待っててくれないかなあ」とぶつぶつ文句を言いながら。並んで歩き始めるとすぐに



「待って、二人とも~」とまたしても呼び止められた。

「すみれ?どうしたの?」

「二人の姿が見えたから、私も一緒に帰らせてもらおうと思って。ダメ?」



 俺は答えずに茉莉花を見る。茉莉花もこっちを見るが、何も言わず無表情を決め込んだ俺を見て「いいよ」と答えた。
じっと顔を見られたって、俺が気の利いた対応が出来るはずもない。そもそも悠一と彼女の距離を近づけろって言われたって、何をしたらいいのかわからない。それこそ、この後茉莉花に指示される予定の俺だ。期待の眼差しを送られても困るのだ。

「へえ」「そう」「うん」を使いまわすだけで精いっぱいの俺。だけど、彼女はそんなこと気にせず、楽しそうにゲームの話をしている。茉莉花も下校中の生徒たちがいるにも拘らず、途中から大盛り上がりだ。


「やっぱりこうやってリアルでゲームの話ができる友達がいるって楽しい。茉莉花と夏樹くんと出会えて良かった。じゃ、また明日ね」


 茉莉花の家に曲がる交差点まで来ると彼女は、手を振って駅に向かった。


「どうしよう。たぬき公園、すぎちゃったね」

「そうだな。戻るか?」

「んー、話せればどこでもいいんだけど。あ、ウチくる?」

「え」

「夏樹連れ帰ったら、うちのお母さん喜ぶかも。だってずっと遊びに来てないもんね」

「そうだな……。二年ぐらい、行ってない、か」

「じゃ、うちで決まり」




で、何故か、茉莉花の家のリビングで、ゲームしてます。





******





「ああ、ちょっと。か弱い可愛い女の子相手にその技はえげつないわー」

「か弱い可愛い女の子は、えげつないなんて言葉、相手に浴びせない」

「何その偏見。久しぶりのオフ会に、可愛い子に花を持たせてあげようとか思わないかなー」

「久しぶりの手合わせに真摯に向き合ってやろうという俺の男気が伝わらないかなー」



「接待ゲームとか知らないの?」

「おっさんか?お前は俺の取引先か?お前を接待する理由がわからんわー」



「ちょっと、話しかけないでよ、今集中してるんだから」

「理不尽だ。なんと横暴な。傲慢で我儘な女王様だ。周りの様子も鑑みない、何たる圧制。独裁者として暴虐の限りを尽くす女王に我は屈しない。許すまじ。全て俺の独り言です!」


「うるさいっあああっ、負けた。夏樹サイテー」

「茉莉花にサイテーといわれる筋合いはない」

「これだからゲーオタは。空気を読めないね」

「俺は空気を読めないんじゃない、読まないんだ。大事なことだから三回は言ってやろう、空気は読まない、くう」
「わーかったから、しつこいよ。だから空気読めないって言われるんじゃん」

「だーかーらー、空気は」

「はいはいオタはいはい」




「なんだか楽しそうね」


「「全然!」」




「…………。夏樹くん、久しぶりだけど相変わらずで嬉しくなっちゃうな」

「すいません。口悪くて」

「ふふふ。楽しいのが一番よ」

「はあ」

「じゃあ、夏樹。もっかい勝負しよ。接待ゲームで」

「それは最早、勝負とは言わない」

「いいからいいから」



 およそ二年ぶりに訪れた茉莉花の家は何も変わってなくて、懐かしいリビングと柔らかな空気感に今まで自分ががちがちの鎧をまとっていたことと、それが剥がれ落ちてきていることをうっすらと悟った。












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