【本編完結】それを初恋と人は言う

中村悠

文字の大きさ
5 / 33
俺と彼女の一週間

五日目 ハーブティー

しおりを挟む

 昨日俺は、茉莉花の家に行って指示を仰ぐつもりだった。なのに、昔のようにゲームをして遊んだだけだった。帰り際「ごめんね。お母さんがなんか喜んでいたから、夏樹と二人で話したいって言えなくなっちゃって。明日こそ、よろしく!」とあっさりと言われた。
「は?俺、忙しいんだが」と言ったが「家に帰ってゲームかPCいじってるだけでしょ?」と言われ図星だったので言い返せない。「手短にお願いします」それだけいうのが精いっぱいだった。



 いつも通り、学校に着く。だけど、今日はいつも通りの朝ではなかった。玄関で彼女の姿を見つけた。向こうもこっちに気が付いたようで、視線が合った瞬間大きい瞳をさらに見開いた。またゲームの話でも始まるのかな、そう思ったのだけど、彼女は一瞬固まって「おはよ」とだけ言うとさっさと教室の方へ駆けて行った。

 なんだろ、これ。

妙な引っ掛かりを覚えたが、違和感の正体なんてキモオタの俺にわかるわけがない。今の俺はいろいろと手いっぱいだ。不得意分野は、気にしないでおこう。




******




 放課後いつも通り教室を出て生徒玄関へ向かう。
いつも通り、という表現もこの頃怪しいな。俺のいつもとは一体何だろう。靴をひっかけて歩き出す。後ろからパタパタと足音を確認し、そのまま玄関を出る。
横に並んだ彼女を目の端で捉え、「うっす」と小さくつぶやく。



 そこへ



「ねえねえ、今日も途中まで一緒してもいい?」


と後ろから声がした。俺は振り向かない。
隣で「別にいいよ、ね?」と茉莉花が言ったのでうなづく。


 彼女は茉莉花の隣に並ぶと楽しそうに話し始めた。茉莉花は、彼女と普通にゲームの話をしていた。キャラがどうとかステージがどうとか。話の内容から、どうやら教室で誰とでもこんな感じらしい。そのことに俺は驚きつつも安堵した。


 たぬき公園へ向かう道の交差点まで来ると、彼女は「じゃあ、わたしはここで。バイバイ。また明日ね」と言って駅の方に向かっていった。俺は違和感を覚えたが、その正体にすぐに気づけず無言で彼女の後姿をじっとみつめた。
そのまま、だまって公園に向かう。途中のちいさな商店で、飲み物とお菓子を買った。田舎の裏通り。コンビニはない。小さなころから通っている店で、俺も茉莉花も勿論顔馴染みだ。


「おばちゃん、喉かわいた」


 コンビニのような大きな冷蔵庫はない。レジの横に冷蔵ケースがあって、そこに少ない品揃えの商品が無造作に入っている。
おばちゃんが俺たちの顔をみると俺にはハーブ系のお茶、茉莉花にはミルクティーのペットボトルを差し出した。二人で顔を見合わせて苦笑する。お菓子だけ選んで、俺が支払う。茉莉花は「自分のは出す。奢りはしないけど」と言ったが、「俺、懐に余裕があるから」とだけ言ったら「ありがと」って笑った。



「いつも紅茶飲んでるけど、ハーブティーも飲むんだね」



「どっちかっつうと、ハーブティーが好きなんだよ。だけど、ハーブティーのって、どこにでもあるわけじゃないから紅茶を飲んでることが多いだけ。お茶全般、好きなんだけどさ」



「ハーブティーって癖があるんじゃないの」

「なんか、そのクセにはまった?みたいな?」

「そうなんだ」




 ハーブティーで喉を潤しながら、俺は今朝の彼女の様子を話した。



「いま、一緒に居て茉莉花は違和感あった?」

「全然。だって、普通に話しかけてきたよね?楽しくしゃべってたよね?」

「お前たちがな」

「まさか夏樹は言葉を発してない?」

「じゃあな、ぐらい?」

「嘘。夏樹、おしゃべりなのにね」

「はあ?内気だろ?」

「内弁慶でしょ」


「……まあいいや。茉莉花に思い当たる節がないなら、いいか」

「んー、ちょっと気を付けてすみれの様子見てみるね」

「悪いな。ああ、もう時間だ。ごめん。結局今日も話聞けなかったな」















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...