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セカンドラブの二週間
一日目 動き出す
しおりを挟むその日茉莉花に、珍しく話がしたいと言われた。できれば学校ではないところがいいと。
俺の茉莉花への恋心は既にもう終わっているだろうと気付いていたので、万が一にも夏樹に誤解されることは防ぎたい。その日はちょうど昔から大好きなゲームのキャラのグッズの発売日。夏樹は朝一で購入し、いつも通り裕一郎の店でまったり過ごすだろう。ならばと、茉莉花との集合場所を裕一郎の店に指定した。そして、あわよくば、二人がまた話すきっかけになってほしいと。
店に着くと茉莉花ともう一人、女の子がいた。可愛い女の子だった。この時点で、何故気づかなかったかと思う。茉莉花以外に可愛いと思った女の子なんて、今までいたことがなかった事実に。
テーブルに着く前に通路を大きく回り込んで夏樹がいるかをチェックする。隠れているようだが、かろうじて夏樹のストラップが見えた。夏樹の存在に安心して席に着く。
どうやら茉莉花は隣に座る美少女、すみれちゃんを俺に紹介したかったようだ。こんな綺麗な子が俺に興味があるのか?と思ったら、俺じゃなくゲームに興味があった、というよりガチ勢だった……。思ったより話が弾んでしまう。まずい、これでは二人を引き合わせられない。そう思って、「この後予定がある」と俺は無理に話を遮った。
後ろのテーブルに向かうと夏樹がヘッドフォンをしてPCに向かっていた。そういえば、今週追い込みっていってたな、と思ったがこの機会を逃すわけにはいかない。忙しい夏樹には申し訳なく思いながらも声を掛けた。
「待たせたな」と話しかけると「全然待ってねーし」といつものノリの夏樹はノートPCのモニターから目を離さず作業していたが、俺のほかの気配に電源を落とした。
そこからの夏樹と茉莉花の会話。ただもう、懐かしかった。変わらない、二年の空白を感じさせない会話に胸が熱くなった。そして、そのことにただただ喜んでいる自分がいた。茉莉花の笑顔に少しも胸が痛まない。二人のこれからを心の底から応援している自分がいる。俺の初恋は、完全に終わりを告げていたことを知った。
******
次の日、学校で例に漏れず新しく入手したゲームのキャラを見せびらかす。正確には、女子が気づいて「それ可愛いね」と寄ってくる。
「このゲーム好きなんだよね」「このキャラかわいいよね」というと「なんのゲーム?」とゲームをしない子であっても興味を持ってくれる。
「一緒にゲーム出来るといいな」とゲームに誘うまでが一連の流れだ。
放課後には廊下で話す俺と昂輝の周りの女子の中に、茉莉花とすみれちゃんもいた。だけど、ゲームのことを知らない女の子たちに説明してて、茉莉花やすみれちゃんとは全然話せない。
そこを夏樹が通り過ぎた。
すみれちゃんは、夏樹のバッグにぶら下がるキャラたちに気づいたようで、夏樹の姿を追いかけた。
俺は、一瞬固まってしまったが、それは目の前の茉莉花も同じだったようだ。
衝撃の大きさからか俺よりも茉莉花の方が長く茫然としていたが我に返ったようで、だけど、固まったまま。
「茉莉花。帰るんだろ?またな」
そう促すと、はっとしたように「そ、そう、そうだった。悠一、またね」と慌てて二人の後を追った。
******
昂輝と一緒に駅前の大きな本屋に行く。いつもはネットでワンクリックで注文し支払いは親任せなのだが、ゲームに関するものには資金提供してもらえない。それどころか購入したことさえいい顔はされない為、なるだけ知られない様に購入する。本当は昨日、受け取りに行く予定だったのだが、夏樹と話が盛り上がってしまい本屋による時間が無くなってしまった。
楽しみにしていた書籍だったのに心があまり弾まない。
あの二人、否三人か。どうなったかな。また夏樹に取られるのかな、と朧げに考えて気付いた。
取られるってなんだ?
自分の考えに驚く。取られるって、しかも「また」って。すみれちゃんを?
自分の無意識の感情にざわざわする。
一体どんな感情なんだ。溜息をつき頭の中の思考と胸のざわめきに襲われながら歩いていると、ハンバーガーショップに三人の姿が見えた。すみれちゃんと茉莉花が楽しそうに笑っている。
夏樹は、相変わらずだ。
「昂輝」
「ん?何」
「あれ」
昂輝に店の中を見るように促す。
「ああ。楽しそうだな」
昂輝が漏らした柔らかい息の感覚にぶるっと全身が震えたような気がした。そのまま何も言わずに店に入っていった。何も考えられなかったのだ。わけのわからない焦燥感と波打つ感情にせかされるように三人のテーブルへと急ぐ。
「店の前通ったら、面白いメンバーがいるなって思って」
ようやく絞り出した声が震えていないことに安堵し、俺はかろうじて笑顔を向けることが出来た。
「助かった。なんか俺、茉莉花にやられて死にそう」
夏樹の普段通りの返しと夏樹の口から「茉莉花」と聞こえたことに幾ばくかの安心を取り戻し、ようやくすみれの顔を見ることが出来た。
夏樹の「茉莉花」と呼ぶことにはもはや心が動かされることはないんだなと、そして隣で微笑む彼女に胸が苦しくなった。
昂輝が先に帰った後、俺の買ってきたファンブックで盛り上がった。共通の趣味で話せるのは楽しいし、それが笑顔の可愛い子を目の前にしていたらさらに気分がいいに決まっている。と思うのだが、夏樹は相槌を打つばかりで話に乗ってこない。二年の壁は流石に大きいのかと心配していたら夏樹が席を立って行った。それを追うように茉莉花も消える。そんな二人の様子を意に介さずすみれは話を続けた。
「悠一くんは今、どんなゲームしてるの?」
「あんまりゲーム出来てないよ。息抜きに夏樹たちとするくらいだけで。隙間時間や風呂ん時、実況者の動画見ての気休め」
「誰の、見てるの?」
茉莉花と好きな実況者が結構かぶってて、話が思いのほか盛り上がったことに俺はほっとした。途端、二人が戻ってこないことが気になりだした。俺って、現金な奴だな、サイテーと自嘲する。
「ちょっと、様子見てこようか?」
不意にすみれから言われて、ああ、この子は俺なんかと違い周りに配慮できる子なんだなと知った。「そうだな」と食べ終わったトレイを片付けながら、トイレがある通路へと二人で向かった。
通路で話している二人の様子からは、さっき思ったような壁なんて微塵も感じられない。夫婦漫才というか、熟年夫婦の阿吽の呼吸というか。じゃあ、さっきのは何だったんだろうと思い、ようやく隣の彼女の存在に思い当たった。
夏樹なりにシールド展開してんだな、と勝手に分析して、勝手に自分の胸を撫で下ろす。俺は、今も昔も狭量なやつなんだよと成長していない自分に辟易した。
すみれと別れた後三人で並んで歩く懐古的な景色が今ある現実だと、夏樹の後姿を見送ってようやく実感できた。
「茉莉花……なんか…」
良かったな、と言おうかと思ったがそれは茉莉花に掛ける言葉ではないと口に出さず沈黙となってしまった。茉莉花はそんな俺をみて、「今まで心配かけたね、ありがと」と笑った。
「また、みんなでゲームしたいな」
「えー。悠一弱いでしょ。私らガチ勢、なめてもらっちゃ困るよ」
「はは、そうだな。いつも夏樹たちの足引っ張ってるからな」
「修行していらっしゃい!」
「頑張ります」
いつもの街並みが夕陽の色に染まって、眩しく感じた。幸せで長閑な夕焼けの中、昔のような温かな気持ちで歩いた。
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