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セカンドラブの二週間
二日目 ゲーマーの日常
しおりを挟む朝、いつも通り登校する。教室に入り自分の席にカバンを置くと廊下に出る。
よう、と昂輝に声を掛けて他愛もない話をするのが日課だ。人より早く来て静かな学校で穏やかに昂輝と話していると落ち着く。喧騒の中から一日が始まるのは苦手だった。一人二人と少しずつ登校してきて、自分の耳を、感覚を鳴らしていく。そうこうしているうちに周りをいろんな奴に囲まれ一日が始まるのだ。
「昨日さ、悪かったな。昂輝、ゲームしないのにあいつらに声掛けちゃって」
「べつに、いんじゃね。楽しかったんだろ」
「ああ。タイムリープした感が半端ねえ」
「なら、良かったな。これで死んでも本望だろ」
「いや、更にやり残したことが…」
「その為にタイムリープしたのか?」
「そうかも」
昂輝とは長い付き合いだが、真剣に話をしたことはなかった。いつもこうやって茶化して終わり。俺の思いや後悔に気づいているのに触れてこない。程よい距離感を敢えて保ってくれている昂輝の思いやりや優しさに救われて、ここまでやってこれたと思っている。
「「おっはよう」」
茉莉花とすみれがやってきた。いつも登校する時間より少し早い。SNSの話題で盛り上がっているようで、そうしていれば確かにカースト最上位にいる二人、に見える。教室に「きゃあきゃあ」言いながら入っていったかと思うとすぐに二人とも出てきた。
「昨日は楽しかったね。昂輝とももっと一緒におしゃべりしたかったよ」
「俺は、いい」
「そんなはっきり断らなくても。相変わらずつれないな~」
「昂輝くんは全くゲームしないんだ?」
「ああ」
「昂輝はクールでロックなバンドマンだからな」
「馬鹿にされているようにしか聞こえない」
「俺、心を込めていったのに」
「バンド?ロックってどんなのやるの?何聞いてるの?」
すみれは昂輝の好きな洋楽アーティストも曲も知っているようで、傍から見ると確かにゲーマーだとは思われないだろうな。本人は隠している様子はないけど、いろんな話題に乗っかれるっていうのは擬態というよりは本人の資質の問題だろう。
登校してきた生徒たちが洋楽の話題を聞きつけ、音楽に興味のあるやつらが今日は集まってきた。俺は正直言ってあまりよくわからなかったけれど、昂輝がたまに好きな曲や好きなアーティストを教えてくれるので、相槌を打つ程度には話せる。茉莉花をみると、ちんぷんかんぷんの様子が見て取れたが、すみれが昂輝と楽しそうに話していることに満足しているようだった。
あと少しでHRが始まるという時、夏樹の姿がみえた。今日も顔を上げることなく、目の前を通り過ぎようとする。定時に定型の挨拶。今日の俺は、それに一言付け加えた。
「おはよう、夏樹。またお茶しようね」
予定外の声掛けに躊躇った様子が見て取れるもいつも通り小さな声で視線を合わさず夏樹は返した。いつもならそれで終わるはずの朝の光景が今日は違った。
「おはよう、夏樹くん。また一緒にお茶しようね」
周りが一瞬騒めいたが、夏樹は俺の挨拶で既に耐性ができていたのだろう。表情を変えずにこちらにも小さな声で返す。周りから、悠一くんたち一緒にお茶したの?と聞かれたので、「昨日ね」と答えていたら、茉莉花が夏樹の教室に入っていった。すみれは気にした様子もなく、昂輝に話しかけている。気づくとチャイムが鳴り、それぞれの教室へと別れた。
放課後、教室にすみれの姿があった。一人で窓の外を眺めている。今日は茉莉花と一緒じゃないんだなと朧げに思ったが、今がチャンスとばかりに声を掛けた。
「すみれちゃん。一人?」
「悠一くんも?珍しいね。いつも大勢に囲まれているのに」
「そんなことないよ。みんな部活とか、行っちゃったし。昂輝は今日は仲間と練習だし」
「悠一くんはお勉強?」
「どうしようかなと思ってたとこ。塾行って自習室で勉強しようか、家でしようか、すみれちゃんとおしゃべりしようかってね」
「じゃあ、わたしとのおしゃべり分岐で」
「かしこまりました」
「じゃ、Free Wi-Fiあるとこ、行こう」
「それは、おしゃべりっていうかな?」
「コミュニケーションの形は人それぞれだよ」
「おっしゃる通りです」
「では、迅速な対応を!」
「Roger」
「いつ敵に遭遇するかわからないから、周り良くみて」
「Okey。指示お願い」
「では速やかに階段をおりて玄関に向かう。階段下に敵が潜んでいることが多いので、気を付けて」
「Got it」
荷物を取りに俺のクラスに一緒に寄りながら馬鹿な事言い合う。我ながらお馬鹿な会話してんなと思うが、こんなあほな会話、普通の女子とはできないし勿論したこともないとくすりと笑みがこぼれる。階段下まで降りて廊下を曲がったとき、それは起きた。
「悠一くん、今帰り?」
「え。二人で帰るの?」
「今日、何かあるの?」
同級生の女子たちにバッタリ会ってしまい、即座に質問攻撃が始まった。ああ、せっかくいい流れだったのにマジかよとうんざりしながら、さて、なんて返そうかと思案する。
「ターゲット発見。ここは任せた。私は玄関に移動後、校門にて待機」
小声ですみれは耳打ちすると、素早い動きで駆けて行った。勘弁してくれ、いろいろと……。俺の中で複雑な思いが絡み合う。俺の耳はくすぐったい微風に遊ばれ心までくすぐられたが、女の子たちのすみれの背中を見る目が鋭く一瞬で心が凍った。
「みんなはこれから部活?ユニフォーム、かわいいね。似合ってる」
「嘘。ホント。ありがと。嬉しい」
きゃーという声に少し落ち着くも隙を与えちゃだめだと、引き締める。
「このあと、みんなでお茶するんだけど、部活なら一緒に出来ないね。残念。また今度ね」
にっーこり笑って、バイバイと手を振る。
危ない、階段下には気を付けよう。さすがすみれちゃん、予知能力、この場合経験値か、尋常じゃない。校門に寄り掛かる後ろ姿に静かに近寄ると俺は告げた。
「任務完了。次の指示をどうぞ」
「その前にSANチェックしますか?」
「イエケッコウデス」
「うふふ。ではA地点に向かう。そのまま索敵を続けるように」
「……A地点。ドコデスカ」
「ドコニシヨウ」
「ふはっ。あほだな、すみれちゃんは」
「それにのっかる悠一くんもね」
「悠一、悠一でいいよ。くんづけはなんか、ノリ的に合わない」
「じゃ、わたしは戦士バリスで」
「Veto.露出が多いぞ」
「そういう問題?」
「大事なことだろ」
「そうかな?そうかも」
「少なくとも俺は自分の彼女にはあの格好はしてほしくないよ、すみれ」
「だから、バリスで!」
「はいはい。じゃ、水着にどーぞ」
「……やっぱ、すみれで。水着は無理」
「で、どこ行く?」
「まだ、この町詳しくないから、A地点の確認は悠一に任せるよ」
ちょーくっだらねえなあと思う。
こんな頭の悪い会話、女の子とするか、普通。っつか普通の女の子はしないぞ。
ああ、また普通。普通ってなんだよ。でもこれがほんとの俺の普通じゃんか。すみれは、こんな会話をする俺は、恋愛対象になるんだろうか。クールでスマートな俺がいいんじゃないのか?並んで歩きながら、すみれの様子を伺う。俺の視線に気づいたのか、こっちを見上げてくる。
「何?索敵中?」
「お前の脳内いつもゲームか」
「常にトレーニングだはと思っている」
「awesome」
「馬鹿にしたね?」
「いえ、褒めた方の意味です」
「nice one」
「あ、ほら、ついた。ここ、どう?」
「……GJ」
俺は扉のノブに手を掛けると、すみれを颯爽とエスコートした。一昨日、来たばかりの郎んちのカフェに。
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