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昂輝の恋
高校デビュー
しおりを挟む約束だった。
高校に入ったら、高校生になったら、一緒に出掛けてもいいと水樹はいった。だから、俺はその日だけを楽しみにしていた。
入学式が終わった後、俺はぶちかましてやろうと決めていた、心意気だけは。
だから悠一に言った。
「俺の高校デビュー、付き合って」
「……なんだ、それ」
悠一のあんなポカーンとした顔は、長い付き合いだけど見たことがなかった。それだけでも言って良かったと思わせるほどに。昂輝の心意気とは真逆のなんとも弱腰の「付き合って」のセリフなのだが、悠一には昂輝の意気込みは知らないので、いきなりの意味不明な言葉に理解がついていかないようだ。
「っつか、高校デビューも何も、お前既にデビュー終えてる感じだろ、中学、いや小学生、下手すりゃ幼稚園の頃にはモテてたぞ」
「俺の思うデビューはそんなんじゃない。とにかく、お前が一緒に居るだけで俺のイケメン度は爆上がりするはずだから……付き合って」
「はあ?お前たまに突拍子もないこというよな。前にいったのはそう、あれは確か中学」
「それは後で聞く。一緒に来て」
「はいはい、わかりましたよ」
俺は悠一と一緒に上級生のクラスが位置するフロアにやってきた。
いた。廊下の窓際に寄り掛かっている。両隣には男女が各一名ずついる。中学の時から見慣れた構図だ。
新入生の俺達二人が三年のフロアに、しかも入学式の日にやってきたせいか、みんな興味津々で見ている。なんたって俺の隣には新入生代表のイケメン悠一がいるしな、完全武装だ。俺は目当ての人物の前に立つとみんなに聞こえるような声で言った。
「水樹。高校生になった。約束通り、デートしよ」
水樹は一瞬目を見開いた。
その様子を見られただけで、俺の中では一歩前進したと思う。今までの歩みに比べたら、二歩も三歩も進んだ気分だ。俺の言葉に少しは心を動かされてほしい。ときめかせることは出来ないかもしれないけど、なんらかの跡を残したい。ずっとそう思っていた。
「そうだね。約束してたんだっけ。じゃあ、悠一くんも一緒にするか、ダブルデートだ」
水樹は隣にいる友人の香菜に声かけた。
「どう?香菜つきあってくれる?」
「えー、私はいいけど……っていうか、悠一くんはいいの?昂輝くんも……」
「水樹がそう言うなら。悠一もいいよな」
俺が視線を向けると、悠一は何も言わずにただ笑った。
「そういうことだから。俺から後で水樹に連絡する。じゃあまたね」
俺はそのまま踵を返したが、悠一は三年のお姉さまたちにヒラヒラと手を振っているようだった。
******
放課後、「デビューのお礼にポテト奢るからさ」と悠一をファストフードに誘った。
「ほんとならハンバーガーでも奢りたいところだが、今日は入学式だからな。お前んちはきっとお母様のご馳走だろ?」
「……でいいのかよ。ダブルデートで」
「いいわけないだろ。だけど、水樹がああ言ったらダブルデートしか選択肢はない。下手にやだって言ってたら、じゃあ行かないとかって断るつもりだったろうからな。
俺が<二人で>と約束を取り付けていなかったのがいけない。くそっ、みんなの前で言えば、はぐらかされないと思ったのに。詰めが甘かったんだ」
「ま……がんばれ」
「悪かったな、巻き込んじゃって」
「俺は別に構わないけど。せいぜい、香菜さんと水樹さんを引き離せるように頑張るよ」
「さんきゅ、さすが新入生代表。周りの女子がお前見て騒めいてたぞ」
「はは、お前にそっくり返すわ、その言葉」
「俺、デビューしたばっかだから、そーゆーのわかんないわ」
その後二人でテキトーに喋って解散した。
夜、水樹にメッセージを送った。
やり取り自体は今までだって、繰り返ししてきたことだ。
好きなアーティストや曲、それだけじゃなく日常のちょっとした出来事や思いついたこと、存在を忘れられた頃に送る。水樹からはちゃんと返事はきたし、たまのたまには水樹から来ることもないわけではなかった。
水樹の心に引っかかる話題を探した。水樹に嫌われない距離感を意識した。水樹に忘れられない、ほどよい期間を空けた。それらは全てスタートポジションにつくため。これからが俺にとっての始まりなんだ。
そうやってここまで来たんだ。
今日から一年間
またよろしく
ダブルデートの件には触れることはしない。昴輝に出来るせめてもの強がりだ。
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