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「大人になれなかった」少女の願い(1)
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「ロズリーヌ、お前の才が伯爵様に認められた。特別に若様と共に学ぶ栄誉にあずかったのだぞ!」
浮足立つ父さまに連れられて会ったのは、同い年の男の子だった。まだ身分の上下なんてよく分からない歳だった私は、その子とすぐに打ち解けた。
先生から逃げて遊びに行っては、何度一緒に怒られただろう。でも歳を重ねるうちに、私は薄々気づき始めていた。
フェルは私のことを『親友』と呼ぶけれど、私は『女』だ。もしも私が男だったなら、父さまのあとを継ぎ家臣としてそばにいられるんだけど……男と女は、ずっと一緒にはいられないんだよね。
「大変だ、ロズリーヌ! 伯爵様がお前を若様の婚約者にどうかと仰せだ。お前は若様に望まれたのだよ!」
フェルが、私を望んでる……?
大喜びの両親を一瞬他人事のように眺めてから……私は急に両頬が熱くなるのを感じて、顔をおおってうずくまった。
……フェルと、ずっと一緒にいられる!
その時、私はようやく気がついた。弱虫のくせに偉そうで、だけど怪我をして困ってる人を見ると、すぐに飛び出していく……そんなフェルのことが、私はずっと好きだったんだ。
伯爵様になるフェルとは、ずっとこうして『親友』でいることはできないと分かってた。だから私は、頑張って自分の役割を変えることにした。
私はもうすぐ十二歳で、成人まであと少ししか時間がない。でも後二年もない初心舞踏会までに、上級貴族の婚約者として相応しい『ご令嬢』にならなければいけないんだ。
「一年も、会えないのか?」
泣きそうな顔をするフェルの頬にそっと触れると、私は笑った。
「たったの一年じゃない。なんて顔してるの? ほんと、フェルは弱虫なんだから!」
「僕は弱虫じゃないって言ってるだろ! ロズなんかいなくても、別に寂しくなんかないんだからな!」
――そうして私は、遠い王都へと旅立った。立派な『伯爵夫人』になるために。
浮足立つ父さまに連れられて会ったのは、同い年の男の子だった。まだ身分の上下なんてよく分からない歳だった私は、その子とすぐに打ち解けた。
先生から逃げて遊びに行っては、何度一緒に怒られただろう。でも歳を重ねるうちに、私は薄々気づき始めていた。
フェルは私のことを『親友』と呼ぶけれど、私は『女』だ。もしも私が男だったなら、父さまのあとを継ぎ家臣としてそばにいられるんだけど……男と女は、ずっと一緒にはいられないんだよね。
「大変だ、ロズリーヌ! 伯爵様がお前を若様の婚約者にどうかと仰せだ。お前は若様に望まれたのだよ!」
フェルが、私を望んでる……?
大喜びの両親を一瞬他人事のように眺めてから……私は急に両頬が熱くなるのを感じて、顔をおおってうずくまった。
……フェルと、ずっと一緒にいられる!
その時、私はようやく気がついた。弱虫のくせに偉そうで、だけど怪我をして困ってる人を見ると、すぐに飛び出していく……そんなフェルのことが、私はずっと好きだったんだ。
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「一年も、会えないのか?」
泣きそうな顔をするフェルの頬にそっと触れると、私は笑った。
「たったの一年じゃない。なんて顔してるの? ほんと、フェルは弱虫なんだから!」
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