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第二章 裏切り

第一話

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ヒュプノスと狩った魔物を一緒に食べたり、暇なときに話したり、ちょっとじゃれついたり、訓練に参加したり、本などを読んで情報を収集したり(ボッチ生活が長かったせいか一冊読み終わるのに10分しかかからなかった)して2日が経過した。

そして今日は、勇者ではない俺は参加できないが、召喚された勇者たちで何やら訓練があったらしい。

まあ、その間俺は

「アハハハハーーー!!なんだいなんだい?そのへっぴりごしは。そんなことで僕を倒そうなんて100年、いや、無限年早いよ!」
「なんだよ無限年って。新しい言葉を作ってんじゃねぇよ!!」
「つまり、絶対に勝てないって言うことだよ!!」
「言葉のニュアンスでだいたいわかるわ!!」

ヒュプノスと訓練をしていた。にしてもこいつ。時折魔法を交えてくるからな。これじゃあ剣を受けながら手で弾くぐらいしかできないぞ。それに

「くっらえー。僕の必殺技“タンスノカ・ドニ・アシノコユ・ビガー!!”」
「名前の時点でで地味に痛い!!」

名前の由来はよくわからんが、なんかヤバそうな技をたまに繰り出してくる。(絶対に技名は適当に言っているだけで、複数の技術を連続で使用しているだけなのだろう)

因みに今回は左手で持った剣をぶん投げ、その剣に風の魔法弾を撃ち込んで加速させると同時に俺の周りに土の壁を作り出し、そして正面からは回転している剣が、そして自分は上で炎の魔法弾をばら撒くというものだ。因みにこれを一瞬で行なっている。

「なんでもアリか!!」
「アハハハハーーー!!そりゃなんでもアリだよ。だって僕、魔王だもん♪」
「くそっ!!これだから魔王ってやつは!!」

取り敢えず、前から来ている剣を上に弾いて頭上の魔法弾を幾つか消し、その後自分の頭上に水の盾を展開。そして迫ってくる壁から脱出し・・・・ってちょっと待て

「何さらっと壁で押しつぶそうとしとるんじゃおのれは!!俺じゃなければ普通に死ぬわ!!」
「べっつにいいじゃん?気づいたんだし。死んでないし」

クソ。いつか仕返ししてやる。

「隙をついてドーン!!」
「うお!?あぶね」
「ヘッヘーン。油断している方が悪いんだよ」
「こんの。ぶっ殺す!!」
「わーい。キレタキレター♪♪」

いつかじゃない。捕まえ次第ぶっ殺す

いやマジで
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王城 広間

そこに霧雨のクラスメイトがいた。

「そういや最近あれ見ないよな」
「そうだな。言われてみれば」
「おかげでこっちはストレスが溜まりっぱなしだよ。こっちに来てから訓練ばかりで女の子の知り合い一人もできないしな」
「そうよ。騎士の中にカッコイイ人がいるから声をかけたのにまともに取り合ってもくれないし」
「マジそれな」

そんな感じにそれぞれが愚痴を言いあっていた。
城の中にはメイドや国家魔術師など女の人は少なくないのだが、度重なるセクハラじみた行動から身の危険を感じて近づか無くなり、騎士に関しても最初は取り合っていたのだが、時々特定の人物(霧雨のこと)に対する暴言から毛嫌いするようになっているのだ。

要するに、自業自得である。

「ん?あれってクズじゃね?」

一人の男子生徒が指をさしたところに霧雨がどこかに移動していた。

「ほんとだな」
「いったいなにをしてんの?」
「おいっ!!一緒にいるの女じゃね!?」
「ほんとだ!!しかもあんな美人と一緒だなんて。許せん」
「ホントホント。あたしらが苦労している中一人異性と一緒にいるだなんて、マジ生意気!!」

クラスメイトの者達には仲よさげに話しているように見えるのだろう。だが、実際の会話は

「見てろよ。次は絶対にその首落としてやる」
「にゃはは。だったら僕は君の四肢を引きちぎってやろう。その時は目隠ししてやろう。ハンデだよ?」
「そんなもんいらん。というか絶対にハンデじゃないだろ」
「まあね。ただ単にグロいから見たくないだけだよ。気配なら感じるからね。眠りの悪魔を舐めるでないよ」
「・・・なんでギリシア神話の悪魔がいるんだよ。ここは地球じゃないはずだろ?」
「にしし。そんなの知らないよ。偶々、偶然そんな奇跡が起きただけじゃないかい?それにそっちの世界にあるものもこの世界にはあったんだろ?」
「まあな。正直なところ、車が無いのにバイクがあった事には驚いたよ」
「ん?車ならあるじゃん?表通りを走っているんだし」
「それは馬車だろ。ちゃんと聞こえてんのか?その耳は飾りか?」
「アハハ。あのね。僕だって怒ることはあるんだぞ?謝れとは言わないけどさ。僕が怒らないうちにやめた方がいいよ?今の君の実力だと瞬きしている間に殺せるよ」
「ハハハ。勝手に言ってろ。俺はまだ本気を出してないからな」
「面白いことを言うね。僕はまだ真面目に戦っていないんだよ?」
「・・・マジか」

こんな感じである。正直仲良さげに見えなくもないが、内容は物騒なのである。

だが悲しきかな。嫉妬というものは理由もなく湧き上がるものなのである。そしてその嫉妬はときに理不尽な怒りに変わるのである。

そして、それに同調する協力者がいればどんなことであれ手を組むのだ。

「どうかなされましたか?」

唐突に生徒達にそんな声がかけられた。

「あれ?王女さまじゃん?どしたの?こんなところに来て」
「そうそう。てっきり河原君のところに通い詰めてると思っていたのに」
「フフフ。おかしなことを言われますね。河原様には草場様がいらっしゃるではないですか?私は勝算のない戦いはいたしませんよ。それに私は皆様に用事があって来たのです」

その言葉に男子生徒達は『もしかして』と思ったが、次の一言でそれは無くなった。

「皆さん。私に協力いたしませんか?この城のゴミ掃除に」

流石にこの一言に全員唖然とした。
_______________

「えっと。ゴミ掃除ってどういうことですか?このお城、別に汚れていませんよね?」

一人の男子生徒がオズオズと口を開いた。それに同調するように他の者達も頷いたり同意する声を挙げた。

「いいえ。私からしてみれば汚れていますよ。なにせ魔族とまともに戦争をせず、ただ自分たちの保身しか考えない人たちばかりですもの」
「自分たちの身を守るのは当然なのでは?」
「そうですね。確かに親から頂いた自分の身というものは大切なものです。なにせ換えが効きませんから。ですが、戦争が起こる。これが理由で自分の至福を肥やす者達がいるのです」
「なぜ戦争が起こると至福が得られるのですか?普通反対なのでは?」
「戦争が起こると税金が上昇して困る住民。兵力が必要だからと徴収される住民。それを見送る家族や知り合いの方々。それを見る度に私は自分の無力さを感じて悲しくなるのです」

そう言いながら涙を流すムーシャ。それを見た生徒達は初めは動揺していたが、やがてムーシャの言葉に賛同し始めた。

「なんて奴等だ!!纏めて殺してやる!!」
「大丈夫よ王女様。あたし達が力になるから。あたし達はこれでも勇者なんだから」
「そうだそうだ。こんな可愛い女の子が泣いているのに黙ってられるかってぇの」
「王女様を泣かせる奴らなんて私たちが退けます!!」

生徒達が口々にそのようなことを言うと、ムーシャは涙を流しながら笑顔を向けた。

「皆さん。ありがとうございます」

このとき、既に生徒達は完全にムーシャのことを完全に信用していた。

「ですが皆さんは異世界から来られた勇者様とはいえ一人の人間です。ですのでときに傷つき、最悪の場合死んでしまいます」

「そんなの気にすんな!!俺たちは王女様の為なら死ねる!!」
「そうよ!!王女様を守る為に私たちはいるんだから!!」

「やめて下さい!!私は皆さんに私の盾になって欲しいのではありません。私の剣になって欲しいのです。そして、戦闘なんてまともにできない私は皆さんの盾になりたいんです」

「「「「王女様」」」」

生徒たちがムーシャに対して感動していると、ムーシャが自分の腰に吊るしてある白い剣を鞘と一緒に取り出した。

「皆さん。この剣を見て下さい。この剣は登録した人達の痛みや傷、それ以外の害を肩代わりするものです。この剣の力を使って皆さんをいかなる災厄からも守ってあげられます」
「「「「王女様!!」」」」
「ちょっと待って。それだと王女様が苦しむのでは」

その生徒の質問に対してムーシャは笑顔を向けた。

「私はまともに戦えないのです。戦場に立てない分、サポートさせて下さい」
「「「「「王女様!!」」」」」
「それと、そこの勇者様方もどうか私に協力して欲しいのですが。どうですか?」

その言葉に反応してか、近くの扉から四人出てきた。そして、その者達は

「気づいていたんだな」
「そうなの?あ、王女様ぁ!!ムー君知らない?」
「話は聞かせてもらった。俺も一口乗らせてもらおう」
「悪いんだけど、主人公はもんなの為に戦うんだ。だから王女様の為だけには戦えないよ」

天命の勇者の四人がいた。

「中谷様、何故ですか?私の為に戦うということはこの世界を救うということなのですよ?」
「んー。でもさ、さっき言ってたことが本当ならさ。王女様死んじゃうんじゃないの?だったら守れないじゃん。自分が傷付かない勇者なんていないんだし」

「おい、天命の勇者に偶然選ばれたからって調子にのるなよ!!」
「そうよ!!あんたも勇者なら王女様を守りなさいよ!!」

中谷に対して生徒達から非難の声があがった。

「いや、何も守らないなんて言ってないよ。でもさ、俺は主人公なんだからそういうことは必要ないかな。絶対に負けないから。それじゃあね」

そう言って中谷は去っていった。

「ねぇねぇ。ムー君いないの?」
「ムー君?どちら様のことでしょうか?」
「んー?ムー君はムー君だよ」
「ああ、霧雨のことです」

一瞬だけムーシャの口角が上がった。

「遠島様のことでしょうか?あの方なら先ほど女性と一緒にあの廊下を歩いていっていましたけど」「え?今なんて言った?」

何気なく自分が見た通りにムーシャは答えたのだが、その言葉を聞いて草場の眼から光が消えた。

「おかしいな?私の耳がおかしくなったのかな?いま女の人と一緒って言ったのかな?違うよね?空耳か私の耳がおかしくなっただけなんだよね?ムー君の隣は私しかいないもんね?それとも王女様が嘘をついたのかな?そうだよね。それしかありえない。ムー君は恋愛なんてする必要ないんだよ。だって私がいるんだもん」
「えっ?あ、あの」
「あは、アハハハハ!!おっかしー。王女様。嘘つかないでよ。ムー君が女の人と一緒なわけないじゃん。見てないだけなんだよね?ね?ね?」
「え、えぇと」
「そうなんだよね」
「は、はい。すみませんでした」
「そうなんだ」

草場は眼に光を取り戻した。

「そうなんだ!!ごめんね。それじゃ私ムー君を探してくるから!!じゃあね」

草場もいなくなった。

「え、えぇと。今のは」
「あー。いつもの発作だね。芽衣は霧雨のことになるとときどき正気じゃなくなるんだ。まあ、霧雨が近くにいるときはいつも通りだし、本人も無意識らしいからな」

因みに霧雨がこのことを知らないのは、ただ単に[意思疎通(一方)]は対象が無意識に思っていることは読めず、その人本人のことしか読めないからである。因みに霧雨は後者のことは知っているのだが、前者のことは知らないのである。

「あ、そうそう。俺も協力させてもらうよ」
「そうですか!!ありがとうございます!!」
「でも、一つ条件がある」
「なんですか?」
「それはな・・・」

こうしてムーシャは天命の勇者の内二人と霧雨以外の天命の勇者でない生徒達の協力を得ることができた。

だが、普通は疑問に思うことがいくつかある。

なぜ一瞬で信頼できたのか。

なぜ戦闘ができないのに武器を持ち歩いているのか。

そもそもなぜ自分が犠牲にしかならない効果を持つという都合の良い武器を持っているのか。

誰も疑問に思っていなかった。

誰もがそのときの人柄が本性だと思い込んでいたからか。

あるいは・・・・。
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