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第三章 魔王城

第四話

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感想。サンマの塩焼きは大根おろしがあったらもっとうまかったと思う。

そんなことはさておき、俺たち一行(ヒュプノス、ムロムリのおっさん、グレイブ、そして休憩に入ったらしいミーナ)は最後の幹部のところに向かっている。

「ところで4人目ってどんなやつなんだ?」

これまでロリコン、ネクラ、純情なサキュバスというキャラが立っているやつが居たんだ。最後のやつがキャラが立っていないはずがない。

「うーんとね。一言で言うと“魔王軍の勇者”だね。多分今の時点なら勇者が束になってかかって来ても返り討ちにできるよ」

ほー。そんなに強いやつがいるのか。

「前なんて、出張させていた魔王軍の砦近くの人の国で大量発生した魔物をたった1人で全滅させたんだよ」

なるほどなるほど。

「どう!!強いでしょ!!サイッコーでしょ!!」

うるさいな。ボトルでもシャカシャカ振ってろ。

「まあ、そのせいで色々とトラウマができてしまっているのだがな?」
「そうですね。大量発生の件以降自室に引きこもってしまっていますしね」
「まあ、種族柄仕方がないと思いますよ」

なんか気になる言葉が後ろの3人から聞こえてきた。

「ところで、そいつの種族ってなんなんだ?」
「ん?オークだけど?」

・・・なんか一気に会いたくなくなったな。

「それで、俺の部屋ってどこになるんだ?」
「あからさまに挨拶を拒否してきた!?いやいやいや。ここまできたら会っておこうよ。ね?」
「いや、だって引きこもりのオークって。はっ!!」
「鼻で笑いやがった!?」

だって、オークだぜ?薄い本とかに出るっていうアレだろ?ゲームだったら強くなければ弱くもない付近をウロウロしているアレのことだろ?豚顔のアレのことなんだろ?

「なんか散々な言われようされてる!?」
「あの。キリサメさん。ここまでいらしたのならお会いになった方がいいと思いますが・・・」

はあ。仕方がない。なんか会わないと部屋に案内してもらえないらしいからな。

「わかったよ。早く案内しろ」
「さっすがキリサメ。その聞き分けの良さ、ボクは好きだよ」
「そうか。おれもお前のその正直なところが好きだよ」
「「嘘つきめ」」

「・・・なんか前の2人コントしてますね」
「ふむ。困った。彼奴にはもっと幼子のよさを教えてやりたかったのだが」
「それ、キリサメさんは普通に嫌がるとおも思いますよ」

そんな感じのやり取りをしながら歩くと、ヒュプノスが足を止めた。

「着いたよ。ここが4人めの幹部がいる部屋だよ!!」

・・・なんかばかでかい木製の扉が目の前にある。いかにも凄いのがいますよという自己主張が激しいやつの部屋だな。

「おーい!!扉開けてー!!」
「ストレートだな!!そんなもんで開いたら引きこもりなんてしてないだろ!!」
「ゴロージくん!!あーそーぼ」
「子供か!!」

あと、名前はゴロージっていうのか。

「・・・いい加減にここを開けな。あんたのおっかさん、泣いてるぜ」
「どこの引きこもっている犯人を外に出そうとする警察官だ!!いや、引きこもりを出すっていうところは間違ってないけども!!」
「殿!!アケチのやつが火を放った!!今すぐお逃げください!!」
「どこの本能寺だ!!というかよく知ってたな!!」
「ツッコミ疲れない?」
「だったらボケんな!!」
「・・・ボクは、いつも本気なんだよ」
「そうか。ちゃんと自分の部下のことを考えて・・・・・」
「もちろん、ボケることに対してもね!!」
「やっぱりボケかよ!!」

「あの2人、仲が良いな。そうは思わぬかお主ら」
「まあ、たしかにそうですね。今までに魔王様にあそこまで強気でいられた者はあまりいませんでしたからね。キリサメ殿が魔王様に言いたい放題でいるのは羨ましいですね」
「・・・お二人も大概だと思いますが」

さてと。せっかくここまで来てやったんだ。面を拝ませてもらわないとな。

「おーい。ゴロージとかいうやつ。ここを開けろー。さもないと突入するぞー」

返答なし。

「よし、警告はしたからな。お前が悪いんだからな」

そう言って刀を取り出した。

「ほう。あの刀。おまえの戦闘服と同じ感じがするな。ミーナよ」
「そうですね。竜の力を感じますね。やはり同じタイプの武器なのでしょうか?ミーナ殿」
「なんとなくですが。そんな気はします。・・・ところで、魔王様?キリサメさん、堂々と壊すなどということをおっしゃっていますが。止めなくていいのですか?」
「イケイケ!!やっちゃえー!!ん?ごめん。聞いてなかった」
「いえ、大丈夫ならそれでいいのですが」

外野がうるさいなぁ。ま、今からすることは変わりないんだけど

「ちょっと話し合い(物理的な)しましょうや!!」

そい言いながら扉を切り裂いた。

なんということでしょう。まるで壁のようにそこにあり、中にいる人のプライベートを絶対に守っていた扉が、匠の手によって通気性抜群。部屋の中と中にいる人のプライベートが丸見えにすることを可能にする1つのトンネルが完成しました。

こだわった点は?
「そうですね。ほら、昔から言うじゃないですか。臭い扉は開け放てと。それを再現してみました」
なぜこのような発想を?
「むしゃくしゃしたからです」
中にいた人の安否は?
「多分大丈夫でしょ。仮にも幹部の1人なんですからこれくらいじゃ死にませんよ」

「いきなり何をする!?危ないだろ!!」

「「あ、出てきた」」
「出てくるよ。扉を壊されたら怒るだろ!!魔王様はともかくお前らが一緒にいながらなぜこうなった!?」
「我は止めたぞ?」
「私も止めましたね」
「すみません。止める間もありませんでした!!」
「「ま、引きこもってたお前が悪い」」
「ふざけんなぁぁ!!」

こいつが最後の幹部か。にしても本当にオークなのか?腹は割れてるし豚顔ではあるがなかなかナイスガイだぞ?・・・いや、魔王軍の幹部だからか。さっきの食堂に俺の知識通りのオークもいたし。トンカツ食ってたけど。共食いかよ。

「おい!!聞いているのか!?」
「シャラープ!!」

黙らせようとわりと本気で殴りかかった。しかし、それをゴロージは普通に片手で止めていた。意外とやるな。

「どうした?この程度か?」
「・・・まあ、勘が鈍っているんだろうな。これも引きこもりが長かったからだな」
「いったいなにを」

ゴスッ!!

「ヘブッ!!」

そんな声を出すと、ゴロージがバランスを崩した。その隙を逃さずに割れた腹筋の隙間に拳を叩き込み、部屋の外に完全に出した。引きこもり卒業、おめでとう。

因みに、バランスを崩したのは俺が殴る際にこっそりと投げた刀の鞘だ。それがゴロージの脳天に炸裂したため急にバランスを崩したのだ。

「なんで引きこもっていたのか知らないが、他の奴らに迷惑かけんな」
「・・・貴様になにがわかる」
「え?知らん。だって俺オークじゃないし」

どうせ襲おうとした女騎士とか冒険者とかに返り討ちされて殺されかけたとかなんだろ?

「貴様は、貴様は」

ん?なんか震えてる。ああ、殺されかけたことを思い出したのか。

「逃げても逃げても追いかけられる者の気持ちがわからないのかぁぁぁ!!!!!!」

ん?

「なあヒュプノス。どういうことだ?」
「どうもこうも、さっき言ったけど前にゴロージが大量発生した魔物を倒したって言ったじゃん?」
「そうだな」

それがどうしたんだ?

「で、ここでキミの思っているオークとの違いについて言っておくよ」

ん?

「この世界でのオークは女性を襲うんじゃなくてむしろ助けるんだよ」
「は?襲って繁殖するんじゃ・・・・・」
「いや、むしろ逆だよ。こっちでのオークと子供を作ると美形でとても強い子が生まれるんだよ。そしてキミの思っているオークとはたぶんあべこべで、女性は助けるけど同時に女性恐怖症なんだよ」
「なぬ」

驚いた。と言いたいところだがさっきから魔王軍の幹部というものに対するイメージが崩れてきたから俺と思っているのと違うのだろうと思ってはいたのだが。

「で、話は戻るけど、大量発生した魔物を倒していたところにその国のお姫様がいたらしいんだよね」
「ほうほう」
「で、そのお姫様がゴロージにほの字になったらしいんだよね」
「なぬ」
「しかも、そのお姫様の行動力が凄くてね。去っていくゴロージに対して抱きついたらしいんだよね」
「ほお」

世間でいう逆玉っていうやつか?凄いじゃないか。

「ただ、そのお姫様、抱きついた際に拘束魔法をゴロージに放って縛り付けて自分の部屋に連れて行ったらしいんだよね」
「ん?」

あれ?なんか雲行きが。

「不意を突かれたからまともに受けたらしくてね。ベッドに叩き込まれたらしいんだよね」
「・・・まさか、ゴロージのトラウマって」
「・・・察した?ちなみに服を脱がされている途中で拘束が切れたらしくてね。お姫様を押しのけて悲鳴をあげながらこっちに戻ってきたかと思ったら引きこもったっていうわけ」

なるほど。それはトラウマになるな。だが、その悲鳴をあげたところを見てみたい気もする。まあ、何はともあれ。

「・・・なにか、俺に相談できることがあったら言えよ。聞くぐらいならできるから」
「む?いきなりどうしたのだ?まあ、聞いてくれるというのであればそうしてもらうが」
「ああ、その代わりに戦闘訓練に付き合ってくれよ。ヒュプノスばかりだと特訓にならん」
「ああ、こっちも鈍っていたしな。久しぶりに剣を振るとしよう。手加減はしないぞ」

そのときのゴロージの顔はさっきよりはマシな顔をしていた。




やべ、思わず“兄貴”って言いそうだった。
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