◯◯の山田くん

明日井 真

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第二章

女帝と天使と山田くん

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 紅白を見終わり、女帝の希望であるイケメン集団のライブで年始カウントダウンをし、家族に新年のご挨拶をした後である。

ピンポーン

年の始めの来客早すぎない?
むしろこの時間に来客とは、全くどんな教育を受けて来たんだと文句を言いたくなるが、来てしまったのはしょうがない。
顎でお前が出ろと指示を出す女帝。
これはあれだな、寝正月の予定を変える気がもうないんだろうな。
おせちは予約済みで、明日父上が取りに行くし、もうお雑煮の準備も出来てるし、食器類の片付けは父上の担当だし。
あれ、本当にやること無いようにしてるわ。
女帝のスケジュール管理が凄すぎる、なんて感心しながらも玄関に向かっていく。

 残念なことに我が家のインターフォンの画面から光が消えている。
主治医を呼ぼうにも年末年始の休暇中のため五日以降にしか我が家に来てはくださらないのだ。
真っ黒な画面は来客の姿を写してはくれない。
誰だか分からないのに玄関を開けるだなんて、今時の俺にしてみれば結構ドキドキの瞬間でもある。


 玄関を開けて目に映る光景に言葉を失う。なんで、どうして?天使が新年早々降臨なされている。
あーあれかな、幻覚。
でもさ、幻覚にしても一言言わせてもらってもいいよね?


「何をしてるんだ!!バカヤロー!!」


もう、本当に何しているんだ!!こんな夜遅くに女の子の一人歩きなんて危険に決まってるじゃないか!!
もう、幻覚でもなんでもいい、ちゃんとお家に送り届けなければ。

「送るから」

言葉足らずとか言わないでよ、幻覚でも結構緊張するの。
でもね、これは幻覚だからいつも出来ないこと、そう、お手てを握ってやろう。

意気込んで美咲ちゃんに近づこうとした俺の背後から鬼の気配がした。

「新年早々、煩いのよバカ息子くん」

笑顔のはずなのに何故怖いのでしょうか。怒っていらっしゃるからでしょうね、きっとね、どうせね。

「あら?しかも可愛い女の子がいる……つまり、女の子に向かって暴言吐きやがったの?息子くんよ。お母様はそんな教育した覚えもないのだけれど?」

女帝に見えていると言うことは幻覚では無かったらしい。
あっ俺ってば美咲ちゃんに何て事を。
怖くて美咲ちゃんの顔が見れない、女帝の顔も見たくはないけど……取り敢えず言い訳をしなければ。

「ちょっとこれには訳が」
「わー聞きたくない!!息子くんの言い訳なんか聞きたくないわー!!」

耳を両手で塞いでいやいやする母上。
止めてよ、母上がやっても可愛くないんだから。

「なんか、息子くんが失礼なこと思った気がする……三が日ご飯抜きにしようかな……」
「ちょっと、母上殿?落ち着いて」
「はあーっ。息子くんもお年頃だと言うのはわかってはいるわよ?でも、新年早々に女の子を呼び出すなんて……最低ね」

軽蔑の目を向ける母上。
だから違うって。話を聞こうよ。

「あのーお母様でいらっしゃいますか?私、佐伯美咲と申します、息子さんにはいつもお世話になっておりまして」

ご挨拶が出来ることは素晴らしい事だね。やっぱり美咲ちゃんは良い子だ。

「まあ、美咲ちゃんって言うの?こんばんは、お外は寒いから、お上がりになって?お茶でも飲んでってよ」
「いえ、でも」

断ろうとする美咲ちゃんの肩を抱いて無理矢理家に連れ込んでいく母上。
ちょっと困ったような顔で俺を見てくる美咲ちゃん。ああっ、そのお顔は最高じゃないですか!!
ありがとう、今日だけありがとう、ナイス行動ですよ母上。

美咲ちゃんを家に上げて、炬燵に座らせた母上は顎で俺にお茶淹れてこいと指示を出された。
分かってますよ、俺が用意するんだろうなって分かってましたとも。

 一応美咲ちゃんのお母様に俺の家に居る事と、ちゃんと送り届けますという内容のメールを送っておく。
お湯が沸く間に直ぐに返信が来て、日本に帰ってきてて、美咲ちゃんが出ていったことは知っている。大変だけどちゃんと送ってね、家の大事な娘だからと書いてあった。
お母様、大事な娘さんならこの時間に外出するのを止めてくれませんかね。


 お茶を淹れて戻ってくると、父上が突然来た女の子に動揺したのか、部屋の隅で正座をしていた。
父上よ……なんかごめんね?
美咲ちゃんも緊張しているのかいつもより表情が固い。
結局炬燵に座ってリラックスしていたのは母上だけだった。

「で?二人はどんなご関係なの?」

俺が淹れたお茶をずずっとすすってから訪ねる母上。
聞かれてどう答えて良いものか考える。
素直にストーカーやってましたって言うのもな……美咲ちゃんを見れば彼女も答えに困っているようだった。
どうしようかな……えっとまずは……

「いつもご飯を一緒に食べていた仲かな?」
「ご飯?ああ、じゃあ美咲ちゃんがうちの息子くんに餌やりしてた子なの?」
「あのね、大事な息子のご飯を餌って言うの止めてくれないかな」
「ふんっ、息子くんのくせに生意気な。ご飯だろうが餌だろうが内容は一緒なんだからいいじゃない。そんな細かいことを気にしすぎるとモテないわよ。美咲ちゃんにだって愛想尽かされるんだから」

端っこに座ってうんうん頷くのは止めてくれないかな?父上よ。

「あの、違います。逆です、寧ろ私が餌?を貰っている方で……」

止めて、美咲ちゃんまでご飯を餌って言い出さないで。

「まあっ、じゃあ美咲ちゃんはうちの息子くんに餌付けされてるの?何てことなの!?どうしましょう、うちの子がこんな変態に育ってしまってたなんて!!」
「だから、ちょっと待ってよ!!まずお母さんがご飯の事を餌って言っちゃうから変に聞こえるだけだからね?」
「ぐずっ、息子くんがママのせいにするーパパぁ」

泣き真似を始める母上をヒーローの如く助けようと立ち上がる父上。
しかし、残念かな父上は正座の痺れでその場に崩れ落ちたのであった。

なんだこれ、なんだこの茶番。


「あのーお母様?大丈夫ですか?」


カオスな現状を打破したのは俺の天使だった。
ああっ、好き。大好き美咲ちゃん。

「ぐずっ、心配してくれるの?泥棒猫ちゃんのくせに。大体貴女のせいでもあるわよね、うちの息子くんから餌貰ってたんだから」

……。
えっ?イマナントオッシャイマシタ?
泥棒猫?
辛辣にも程があるよ母上殿。

母上の言葉に固まる俺と美咲ちゃん。
視界の端を匍匐ほふく前進で進んでいく父上。
まだ痺れているのに頑張って母上の側に行こうとするだなんて……ちょっと怖いから止めてくれないかな?
ホラーだから。一生懸命過ぎて逆に怖いから。
母上の言葉とあいまってこの夫婦怖ってなっちゃってるから。


「あの、母上?なんかね泥棒猫とか怖すぎるお言葉がね?聞こえた気がするのだけど」
「え?言ったわよ?だって家の大事な息子くんから餌もらってるんだもの、挨拶もしないで礼儀のない猫ちゃんだと思わない?」

本物の猫でもご飯もらってますなんて挨拶しに来ないと思うの。

「ちょっと待って、美咲ちゃんをまず泥棒猫って呼ぶのだけ止めて」
「何でよ」

プンってほほを膨らませてお怒りのご様子の母上。
可愛くもないし怖くもないからね。
……父上……その悶えは足の痺れからだよね?母上の表情で悶えてるんじゃ無いんだよね?

「美咲ちゃんは俺の大事な人なの、だから俺の大事なお母さんにも俺の大事な人を大事にしてほしい」

あーちょっと恥ずかしい事を言ってしまった。
恥ずかし過ぎて美咲ちゃんのお顔を見れない。やだ、俺ってば結構乙女?

「やだーーーズルイズルイ!!私だってパパにそんな事言われたことないのに!!お義母さんに虐められたときも助けてくれなかったから私一人でやり返したのにーー!!ズルイ!!美咲ちゃんのバーカ!!ついでにお母さん守ってくれない息子くんもバーカ!!お餅詰まらせて死んじゃえっ!!」

突然手足をバタバタさせて癇癪を起こす母上殿。
だだっ子なの?


─新年早々、我が家にやって来たカオスは父上の誠心誠意の謝罪で終わりを告げた。

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