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第1章「始まり」
第2話 恐怖の魔王との出会い
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私は荘厳なたたずまいの封禁の間の扉の前に立つと、父上から託された部屋の鍵を使って扉を開ける。不思議なことに蛇の頭部を模した形の鍵先は鍵穴に差し込むだけで、特に回したわけでもないのにガチャリと扉に解錠の音を鳴かせるのでした。
なんて不思議なことでしょう? 私は何もしていないのに・・・・・と、思って私が不思議な鍵先を見つめていると、更に不思議なことに誰もいないはずの扉が自然に開いたのです。
そして、恐ろしいことに室内から地を這うような恐ろしい声で
「入るがよい。開封の姫巫女よ・・・。」
と、いう一言が聞こえてきました。その声の恐ろしさと言ったら、表現のしようもないほどで私はブルッと身震いをするのと同時に一気に自分の全身が総毛立つのを感じました。
声の主は私に入って来いとお命じになられましたけど、私は怖くて足がすくんでしまいます。誰かについてもらいたくて私をここまで連行した衛兵がいる後ろの方を振り返って「一緒に来てください」と言おうといたしましたが、衛兵たちは腰を抜かして地を這うようにしてその場から逃げ出していました。
無理もありません。今、聞こえてきた声は私たち魔族にとっては決して抗うことができない神に等しい威厳を感じざるをえない闇の魔力をまとっていたのです。
(これは、闇の眷属である魔族ならば畏れ多くて逆らうことは出来ませんね。闇のオドの凝縮によってこの世に生み出されたという伝説を出自の由来とする魔族ならば意識するまでもなく肌で感じ取ってしまう暗黒神の類の気質。魂に刻まれた絶対的な支配による恐怖のイメージがこの身を焦がしてしまいますもの・・・)
私は衛兵たちが無様な姿を晒して逃げ出すのを致し方ないと心の中で許すと同時に、私があの声に恐れつつも腰を抜かすほどまでもないところに自分が人間と魔王の混血であることを思い知りました。そう、私は半分は人間。それ故に力では私を簡単にねじ伏せてしまうほど屈強な衛兵たちが耐えられないあの声に耐えることができるのです。
私の魂の半分は人間由来のものなのですから・・・・・・。
(お会いしたことは一度もございませんでしたけど、お母様・・・・。
私を産んでくださってありがとうございます。貴女のおかげで私はこの試練に向かい合えるのです・・・・・・。)
私は生まれて初めて母上に感謝しました。ずっと、この身が疎ましかった。母上が人間であることは私のコンプレックスでありましたもの。皆はそんな人間と魔王の混血の私を優しく扱ってくださったけれど、それも今この時の人身御供のため。私だけが知らされていない悲しい事実ですが、家臣に衣服を剥ぎ取られて裸同然の姿にされてしまう情けない姫君の私に、今せめてできる姫らしい責務はこの国の臣民を救うために人身御供となることのみ・・・。
ならば、私はこの声に怯むわけにはまいりません。ここで恐れて何もできなければ、私の人生は本当に惨めすぎますもの・・・。
自分の人生に尊厳を持ちたい私は例え、それが欺かれ、強要されたことであってもこの使命を全うしたいと思い、震える爪先を一歩、また一歩と扉の向こう側に歩き進めていくのでした。
そうして、部屋の内部に入ったところで私は気が付きました。
(壁にも天井にも床にも・・・・・・封禁の魔法を込めた神紋も魔法陣も描かれていない・・・。魔術装飾すらありませんわ・・・。
ここは、見た目はただの岩屋。こんなところ、外から見て誰も興味を示すハズがありません。
お父様は本当に偶然にここを発見されたのですわ・・・・・・。)
私は自然のままのゴツゴツとした岩肌を見せる四方の壁を見回しながら、そこが外見的には美術的、歴史的、魔術的に何の価値もない自然の岩屋にしか見えない場所だと気が付きました。そして、この封禁の間と呼ばれる岩屋の外のあの荘厳な造りの扉とのあまりに大きいギャップに違和感を覚えました。
(お父様は、外はあんなに荘厳な造りにしたのに、ここは.無垢のままにしている。
きっとこの封禁の間を手付かずのまま大切に保存したかったわけではないのでしょう・・・・・・。
下手にこの部屋に手を付けるのが恐ろしかったのですわ。
ココにはあの声の主がいるのですから・・・・・・)
注意深く岩屋を観察しながら、我が身を岩屋の奥ほどに進み入れると、私はその場の空気が急に清浄なものに変わったのを感じました。
外観的にも変化があり、自然無垢のままの岩肌であった床板が一ヶ所だけ鏡面仕上げのようにツルツルに磨き上げられた場所があって、そこの中央には逆さ向きの十字架の形が彫りこまれた石が地面に突き立てられていたのです。
私のひざ下の高さにも及ばない小さな石碑を私は注意深く観察してみましたが、逆さ十字架以外の彫刻はありませんでした。
「この逆さ十字架は、封禁のための神紋刻印ではありませんわ。
きっと、この場に封禁された魔王の存在を意味している記号なのだわ・・・・・・。」
観察を終えた私がそう感想を呟くと、再びあの声が聞こえてきたのです。あの地を這うような暗黒神の気をまとった恐ろしいお声が・・・・・・。
「その通りだ。聡明な姫巫女よ。
どうやらルーカ・シューは私との約束を果たして人間との間に姫を作ったようだ。
そうでなければ、魔族はそうおいそれと私のいるこの封禁の岩屋には入っては来れない。半分が人間の魂を持っておらねば・・・な。」
恐ろしい声の主がそう言ったのを聞いたとき、私は全てを悟りました。
父上が私の母上を愛したから私は生まれたのではない。この声の主の命令に従って父上は愛し合うことなく母上に私を産ませたのだわ
「・・・ふ・・・ふふふふ。
つ、つまり私は両親が愛し合った結果に生まれた子供ですらなかった。
ただ、この日、この時。この場所の封禁を解くために貴方様の命令で作られた装置に過ぎなかったのですわね・・・。」
自分はお飾りの姫どころか他人に強要されて産み出された装置に過ぎない存在だと知って絶望を覚えて口から零れ落ちた言葉を聞き、岩屋の主は満足そうに答えた。
「一を聞いて十を知る。聡明なことだ。我が姫よ。
だが、恐れることはない。お前の使命はまだ終わってはいない。お前が生きる目的は決して封印を解くための装置ではないのだ。お前は私に捧げられた供物であり、私の伴侶となる者だ。
全知全能の我が主が施したこの封禁が解かれた時、お前には永遠に私の子種を孕、出産し続ける名誉をあたえよう。」
岩屋の主はそこまでいうと「可可可」と、高らかに声を上げて笑った。その声は岩屋の中で反響し続け、やがて地響きを起こして岩屋の壁や天井や床を振動させる。
この場だけはあれほど清浄だった空気すらも闇のオドに穢される。
「な・・・なんて、禍々しい魔力なの・・・。」
恐怖。生まれてからこの方、今日の出来事が起こるまで蝶よ花よと育てられた私は他人から威圧された経験がございませんでした。誰もが私に優しくしてくれたのですから・・・。
そして、それ故に私には恐怖に対する耐性が全くありませんでした。
姫将軍、姫巫女の騎士。などと勇壮な肩書を持っていても、その実は武術稽古ですら実戦には程遠い旦那芸のようなもの。私は恐怖という体験を雷や地震以外に体験したことが無かったのでした。
この岩屋を鳴動させる声の主の禍々しい魔力の前に私は無力でした。
顎はガチガチと鳴り、肩は震え、膝は笑う。
そして、やがて・・・恐怖に耐えられなくなった私はその場に座り込み・・・・・・アレをしてしまいました。
あ~・・・いや、その・・・。あの・・・アレとはつまり、あれの事ですわ。こ、これ以上はご説明できません。
て、いうかっ!! 婦女子の口からなんてことを言わせようとしているのですか、あなたは?
ところが、私の必死の抵抗をよそに、有難迷惑なことに解説が入りました。
「う、うわああああ~っ!! お、お前、何しょんねんっ!! ボケ~~~~~っ!!
ションベンて、・・・・・おまえ、マジか~~~っ!!
ここの床板の下に俺は居って、表面の感覚は俺と繋がってんねんぞっ!!
マジで何してくれてんね~~んッ!! 止めろっ!!
さっさと、ションベンとめんか~いっ!!」
岩屋の底の方から、主の悲鳴が聞こえてきました。
で、で、でもでも・・・・違いますわっ!!
「きゃあああああっ!!
な、なんてこと仰いますのっ!! 私は一国の姫ですわよっ!!
ひ、人前で・・・それも人の頭の上でおしっこなんかいたしませんわっ!!
こ、これは雨ですっ!! そう、雨の仕業ですわっ!!!!」
必死の抵抗。
・・・・・・ええ。わかってます。何もおっしゃらないでください。聞き流してください。
とはいえ、相手はそういうわけにはまいりません。
「やかましいわっ!! ボケっ!!
オンドラ、何、苦しい言い訳しとんじゃっ!! 地下の岩屋に雨なんか降るわけないやろうがっ!!
だ、だから、やめろっ!! いつまでションベンたれとんねんっ!! お前は小便小僧かぁ~~~っ!!っ!!」
「し、し、ししし、知りませんっ!!
だ、だって、怖くて、怖くて・・・・・・あなたのせいでこんなことになってしまったんですわっ!!
こんなの、もう自分でもどうしようもないんですの~~~~っ!!」
そう、恐怖のあまり私は自分の体の制御を失い、お小水は止まることなく流れ出るばかり・・・・・・。
ああっ!! もう、やだ~~~~っ、こんなの嫌すぎますわ~~~っ!!
「ボケかぁっ!! 嫌なんはこっちじゃドアホ~~~っ!!
おまけになんで被害者面なんやっ?
どう考えても、今の被害者は俺やろがっ!!
おのれ、我が父上の作った封禁術にションベンなんか垂れ腐ってっ!!! 神に対する最大の冒涜やぞっ!! これっ!!!」
そう言われても私のお小水は止まりません。これはあれかしら、三時のおやつの時にお紅茶を飲み過ぎたのが原因かしら? それとも健康のために侍医から飲まされている薬茶のせいかしら?
「ど、どどど、どうしましょうっ!! 止まりませんわっ!!」
「知るか~~~っ!! ボケぇ~~っ!!
オノレの体の事やろがっ!!
しかも、・・・・しかも、このションベンっ・・・・・っ!!」
「めっちゃ、フローラルな香りで美味いやんけ~~~っ!!」
「きゃああああああああ~~~っ!!
変態っ!! 変態っ!! 変態っ!! 変態っ!! 変態っ!!
な、なななな、なんてことを言いますの~~~~っ!!」
・・・・・・思い返せば、これが私と恐怖の魔王との最初の会話らしい会話でした・・・・・・。
なんて不思議なことでしょう? 私は何もしていないのに・・・・・と、思って私が不思議な鍵先を見つめていると、更に不思議なことに誰もいないはずの扉が自然に開いたのです。
そして、恐ろしいことに室内から地を這うような恐ろしい声で
「入るがよい。開封の姫巫女よ・・・。」
と、いう一言が聞こえてきました。その声の恐ろしさと言ったら、表現のしようもないほどで私はブルッと身震いをするのと同時に一気に自分の全身が総毛立つのを感じました。
声の主は私に入って来いとお命じになられましたけど、私は怖くて足がすくんでしまいます。誰かについてもらいたくて私をここまで連行した衛兵がいる後ろの方を振り返って「一緒に来てください」と言おうといたしましたが、衛兵たちは腰を抜かして地を這うようにしてその場から逃げ出していました。
無理もありません。今、聞こえてきた声は私たち魔族にとっては決して抗うことができない神に等しい威厳を感じざるをえない闇の魔力をまとっていたのです。
(これは、闇の眷属である魔族ならば畏れ多くて逆らうことは出来ませんね。闇のオドの凝縮によってこの世に生み出されたという伝説を出自の由来とする魔族ならば意識するまでもなく肌で感じ取ってしまう暗黒神の類の気質。魂に刻まれた絶対的な支配による恐怖のイメージがこの身を焦がしてしまいますもの・・・)
私は衛兵たちが無様な姿を晒して逃げ出すのを致し方ないと心の中で許すと同時に、私があの声に恐れつつも腰を抜かすほどまでもないところに自分が人間と魔王の混血であることを思い知りました。そう、私は半分は人間。それ故に力では私を簡単にねじ伏せてしまうほど屈強な衛兵たちが耐えられないあの声に耐えることができるのです。
私の魂の半分は人間由来のものなのですから・・・・・・。
(お会いしたことは一度もございませんでしたけど、お母様・・・・。
私を産んでくださってありがとうございます。貴女のおかげで私はこの試練に向かい合えるのです・・・・・・。)
私は生まれて初めて母上に感謝しました。ずっと、この身が疎ましかった。母上が人間であることは私のコンプレックスでありましたもの。皆はそんな人間と魔王の混血の私を優しく扱ってくださったけれど、それも今この時の人身御供のため。私だけが知らされていない悲しい事実ですが、家臣に衣服を剥ぎ取られて裸同然の姿にされてしまう情けない姫君の私に、今せめてできる姫らしい責務はこの国の臣民を救うために人身御供となることのみ・・・。
ならば、私はこの声に怯むわけにはまいりません。ここで恐れて何もできなければ、私の人生は本当に惨めすぎますもの・・・。
自分の人生に尊厳を持ちたい私は例え、それが欺かれ、強要されたことであってもこの使命を全うしたいと思い、震える爪先を一歩、また一歩と扉の向こう側に歩き進めていくのでした。
そうして、部屋の内部に入ったところで私は気が付きました。
(壁にも天井にも床にも・・・・・・封禁の魔法を込めた神紋も魔法陣も描かれていない・・・。魔術装飾すらありませんわ・・・。
ここは、見た目はただの岩屋。こんなところ、外から見て誰も興味を示すハズがありません。
お父様は本当に偶然にここを発見されたのですわ・・・・・・。)
私は自然のままのゴツゴツとした岩肌を見せる四方の壁を見回しながら、そこが外見的には美術的、歴史的、魔術的に何の価値もない自然の岩屋にしか見えない場所だと気が付きました。そして、この封禁の間と呼ばれる岩屋の外のあの荘厳な造りの扉とのあまりに大きいギャップに違和感を覚えました。
(お父様は、外はあんなに荘厳な造りにしたのに、ここは.無垢のままにしている。
きっとこの封禁の間を手付かずのまま大切に保存したかったわけではないのでしょう・・・・・・。
下手にこの部屋に手を付けるのが恐ろしかったのですわ。
ココにはあの声の主がいるのですから・・・・・・)
注意深く岩屋を観察しながら、我が身を岩屋の奥ほどに進み入れると、私はその場の空気が急に清浄なものに変わったのを感じました。
外観的にも変化があり、自然無垢のままの岩肌であった床板が一ヶ所だけ鏡面仕上げのようにツルツルに磨き上げられた場所があって、そこの中央には逆さ向きの十字架の形が彫りこまれた石が地面に突き立てられていたのです。
私のひざ下の高さにも及ばない小さな石碑を私は注意深く観察してみましたが、逆さ十字架以外の彫刻はありませんでした。
「この逆さ十字架は、封禁のための神紋刻印ではありませんわ。
きっと、この場に封禁された魔王の存在を意味している記号なのだわ・・・・・・。」
観察を終えた私がそう感想を呟くと、再びあの声が聞こえてきたのです。あの地を這うような暗黒神の気をまとった恐ろしいお声が・・・・・・。
「その通りだ。聡明な姫巫女よ。
どうやらルーカ・シューは私との約束を果たして人間との間に姫を作ったようだ。
そうでなければ、魔族はそうおいそれと私のいるこの封禁の岩屋には入っては来れない。半分が人間の魂を持っておらねば・・・な。」
恐ろしい声の主がそう言ったのを聞いたとき、私は全てを悟りました。
父上が私の母上を愛したから私は生まれたのではない。この声の主の命令に従って父上は愛し合うことなく母上に私を産ませたのだわ
「・・・ふ・・・ふふふふ。
つ、つまり私は両親が愛し合った結果に生まれた子供ですらなかった。
ただ、この日、この時。この場所の封禁を解くために貴方様の命令で作られた装置に過ぎなかったのですわね・・・。」
自分はお飾りの姫どころか他人に強要されて産み出された装置に過ぎない存在だと知って絶望を覚えて口から零れ落ちた言葉を聞き、岩屋の主は満足そうに答えた。
「一を聞いて十を知る。聡明なことだ。我が姫よ。
だが、恐れることはない。お前の使命はまだ終わってはいない。お前が生きる目的は決して封印を解くための装置ではないのだ。お前は私に捧げられた供物であり、私の伴侶となる者だ。
全知全能の我が主が施したこの封禁が解かれた時、お前には永遠に私の子種を孕、出産し続ける名誉をあたえよう。」
岩屋の主はそこまでいうと「可可可」と、高らかに声を上げて笑った。その声は岩屋の中で反響し続け、やがて地響きを起こして岩屋の壁や天井や床を振動させる。
この場だけはあれほど清浄だった空気すらも闇のオドに穢される。
「な・・・なんて、禍々しい魔力なの・・・。」
恐怖。生まれてからこの方、今日の出来事が起こるまで蝶よ花よと育てられた私は他人から威圧された経験がございませんでした。誰もが私に優しくしてくれたのですから・・・。
そして、それ故に私には恐怖に対する耐性が全くありませんでした。
姫将軍、姫巫女の騎士。などと勇壮な肩書を持っていても、その実は武術稽古ですら実戦には程遠い旦那芸のようなもの。私は恐怖という体験を雷や地震以外に体験したことが無かったのでした。
この岩屋を鳴動させる声の主の禍々しい魔力の前に私は無力でした。
顎はガチガチと鳴り、肩は震え、膝は笑う。
そして、やがて・・・恐怖に耐えられなくなった私はその場に座り込み・・・・・・アレをしてしまいました。
あ~・・・いや、その・・・。あの・・・アレとはつまり、あれの事ですわ。こ、これ以上はご説明できません。
て、いうかっ!! 婦女子の口からなんてことを言わせようとしているのですか、あなたは?
ところが、私の必死の抵抗をよそに、有難迷惑なことに解説が入りました。
「う、うわああああ~っ!! お、お前、何しょんねんっ!! ボケ~~~~~っ!!
ションベンて、・・・・・おまえ、マジか~~~っ!!
ここの床板の下に俺は居って、表面の感覚は俺と繋がってんねんぞっ!!
マジで何してくれてんね~~んッ!! 止めろっ!!
さっさと、ションベンとめんか~いっ!!」
岩屋の底の方から、主の悲鳴が聞こえてきました。
で、で、でもでも・・・・違いますわっ!!
「きゃあああああっ!!
な、なんてこと仰いますのっ!! 私は一国の姫ですわよっ!!
ひ、人前で・・・それも人の頭の上でおしっこなんかいたしませんわっ!!
こ、これは雨ですっ!! そう、雨の仕業ですわっ!!!!」
必死の抵抗。
・・・・・・ええ。わかってます。何もおっしゃらないでください。聞き流してください。
とはいえ、相手はそういうわけにはまいりません。
「やかましいわっ!! ボケっ!!
オンドラ、何、苦しい言い訳しとんじゃっ!! 地下の岩屋に雨なんか降るわけないやろうがっ!!
だ、だから、やめろっ!! いつまでションベンたれとんねんっ!! お前は小便小僧かぁ~~~っ!!っ!!」
「し、し、ししし、知りませんっ!!
だ、だって、怖くて、怖くて・・・・・・あなたのせいでこんなことになってしまったんですわっ!!
こんなの、もう自分でもどうしようもないんですの~~~~っ!!」
そう、恐怖のあまり私は自分の体の制御を失い、お小水は止まることなく流れ出るばかり・・・・・・。
ああっ!! もう、やだ~~~~っ、こんなの嫌すぎますわ~~~っ!!
「ボケかぁっ!! 嫌なんはこっちじゃドアホ~~~っ!!
おまけになんで被害者面なんやっ?
どう考えても、今の被害者は俺やろがっ!!
おのれ、我が父上の作った封禁術にションベンなんか垂れ腐ってっ!!! 神に対する最大の冒涜やぞっ!! これっ!!!」
そう言われても私のお小水は止まりません。これはあれかしら、三時のおやつの時にお紅茶を飲み過ぎたのが原因かしら? それとも健康のために侍医から飲まされている薬茶のせいかしら?
「ど、どどど、どうしましょうっ!! 止まりませんわっ!!」
「知るか~~~っ!! ボケぇ~~っ!!
オノレの体の事やろがっ!!
しかも、・・・・しかも、このションベンっ・・・・・っ!!」
「めっちゃ、フローラルな香りで美味いやんけ~~~っ!!」
「きゃああああああああ~~~っ!!
変態っ!! 変態っ!! 変態っ!! 変態っ!! 変態っ!!
な、なななな、なんてことを言いますの~~~~っ!!」
・・・・・・思い返せば、これが私と恐怖の魔王との最初の会話らしい会話でした・・・・・・。
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