魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第2章 新国家「エデン」

第16話 結婚外交

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 年来より特別の御計おはからい誠有難存知候まことにありがたきこととぞんじそうろう 此度こたびルーカ・シュー不幸に尽き 跡式就任之義候者々あとしきしゅうにんのぎそうらはば 参じ候。御参事候者々ごさんじそうらはば 本意ほんいに候。恐慢謹言。きょうこうきんげん

 ミズリナ暦5年10の月20の日 エデン国王 ラーマ・シュー  ●
 
(※日頃のお付き合いに感謝いたします。この度、ルーカ・シューが無くなり王権相続いたしましたので来てください。来ていただければ喜ばしいことです。恐れ入りますがよろしくお願いします)

 魔王様が諸外国宛てにお書きになられた招待状は確かに達筆でありましたが、とても外交文書とは思えぬほどそっけないものでした。

「魔王様。しかし、これではまるで催促状さいそくじょうのような言いぐさで御座います。こんな内容で誰が来てくださるでしょうか?」
 
 わたくしはは、少し不安になって書状を送る前に魔王様に確認いたしましたが、魔王様は「行け。俺に逆らうな。」の一言で決定されてしまいました。
 一抹いちまつの不安はあるものの、明けの明星様の御言葉とあらば従わぬわけにもいかずに、そのまま外交文書として王家の印を押して出しました。


 そして、それから数日後の事。予感は的中いたしました。
 12通の出した手紙の内、6通は返信があったものの就任後の挨拶には王族ではなく名代みょうだいとして外交官が当国に来るという内容でした。この対応には諸外国の怒りが感じられて、同盟どころか戦争の火種すら巻き散らかしてしまったような印象さえ覚えたのでございます。
 ただ、一国だけ。お父様の叔母が嫁いだ先の国ドラァーゴ王国のみが皇太子アンドレア様を派遣してくださるという良き返事を下さいました。これで一応は、孤立無援という事態は避けられそうです。

 それにしても・・・。魔王様は一体何をお考えなのでしょうか?
 あのように無礼な書状を送りつければ諸外国の反発を買う事は目に見えていたでしょうに・・・・・・。
 私がそんな不安を抱えておりましたら、そんな私の気配を察せられたのか明けの明星様は私の肩に手を置いて優しく話しかけてくださいました。

「大丈夫や。今に見とれ。直ぐにお前の美貌が外交官の口から知れ渡る。
 ”あのように美しい姫があの国にいたとは知りませんでした。
 いや。まさに絶世の美女。濡れる百合の花とはあの方の事。”
 などと、頼みもせんでも祖国で吹聴ふいちょうしてくれるわ。勝負はそこからや。」

「はぁっ・・・。なんなのですか? その自信は。
 そんな根拠のない自信で国の行く末をお決めになられましたら困ります・・・・・・。」

 一体、この先どうなるのでしょうかと思って見ても、どうせこの世は明けの明星様任せ。なるようにしかならないことは明白でした。
 ところがです・・・。

 魔王様の仰ったことが的中したのでした。
 不遜ふそんな態度で我が城に参じた外交官達は私を見るなり、慌てふためき、用件もそこそこに次々に帰国していきました。そして、その後から次々と各国の未婚の王や皇太子たちが我がお城を表敬訪問に来られるようになったのです。

「いやぁ、ルーカ殿はお意地が悪いっ!!
 このようにお美しい姫をお隠しになられておられたとはっ!!」

「私は、先妻を病で亡くし、随分立つ身ですが、そろそろ跡目の事も考えなければいけないと思う日々を過ごしております。」

「貴方は野に咲く可憐な華。貴方は磨かれた宝石。貴方のその御髪おぐしは天女の落としものか?」

 等々、訪れた王族たちは皆、私を褒めたたえたり、それとなしに結婚の意思があることをにおわせる言葉を私に話したかと思えば、毎日のように恋文を送ってくるようになりました。魔王様がご自分と魔神ギーン・ギーン・ラー様のことを他国にお隠しになるように厳命を下されているので諸侯は何もご存じありません。御存知ないからこそ私に対して口説いたり、恋文を送ったりができるのでしょうね。私が世界を滅ぼすほど恐ろしい最強の魔王の供物だと知ったら、戦々恐々せんせんきょうきょうとすることでしょう。
 そして最初は返信すらして下さらなかった6か国もどこからか私の噂を聞き付けたのか、遅参ながらも続々と私の顔を見ようと集まってこられたのです。
 正直、私はうんざりしてしまいます。
 だって、彼らが私に惚れ込んでおられるのは魔王様の罠にはまった証拠であるからなのです。
 
 初めに魔王様は王族や外交官に合う時、ドレスの下の肌着を緩めておくように仰ったのです。
 それは勿論、私の乳房が歩くたびに大きく揺れることを期待しての事。さらにそれが際立つようにドレスの胸の下の部分は窮屈なほど締め付けるものですから、私がそう望まなくても乳房は歩くたびに大きく揺れたのでした。

「ええか? タプンタプンと揺らすことを意識せぇよ?
 腰も大きく左右に振れっ!! 高いヒールの靴を履いたら勝手にそうなる。」
「お前は仕草と声は天然で子猫のように可愛い。
 尚且なおかつその美貌や。 お前の魅力には誰も勝てんっ!!」

 と、まぁ・・・。こんな小賢しい悪知恵のおかげか、諸外国の殿方は私の乳房に夢中のようでございます。
 ああ・・・。馬鹿馬鹿しい。
 まぁ、確かに私も自分が魔王様への供物だったと知るまでは政略結婚の駒としての価値くらいしかないとは思っておりましたわよ? それでもお父様は私を供物に捧げるおつもりでしたから、当然、結婚させるつもりなどなく、私を諸外国から隔離してこられました。それで、てっきり私。自分に魅力がないからお父様は私を積極的に外交の場にお出しにならなかったとばかりに思っておりましたのに・・・。
 それが、皆さま魔王様の小賢しい術にこんなにあっさりハマるなんて・・・。

 あ~~、もうっ!!
 殿方って破廉恥なことしかお考えになっておられないのかしらっ!!

 そんな風に私が殿方に対して幻滅しそうになっていた中、従弟のアンドレア様だけは別でした。
 お父様の叔母が嫁いだ先の国ドラァーゴの皇太子にして、唯一、幼いころから私と接した経験のあるアンドレア様だけは決して私をいやらし目で見ることはないのです。
 アンドレア様は、私の3つ年上の従弟のお兄様。家の御用事でお訪ねになられた際は、幼いころから私のお相手を務めてくださいました。そんなアンドレア様は、私の成長を見守って下さった方。私をいやらしい目で見ることなどありませんでした。

 ですから、度重なる諸外国からの謁見や恋文にうんざりしていた私にとって、アンドレア様とお会いする事ができる日だけが唯一、心安らかな日となったのでした。


「ようこそ、いらっしゃいましたっ!! アンドレアお兄様っ。
 お会いできてうれしく思いますわっ!!」

「いやいや。私も嬉しいよ。ラーマ。
 でも、ご迷惑じゃないかな? 今は戦後処理で忙しい時なのだろう?」

 優しい優しいアンドレア様は私への気遣いをお忘れになった事はありません。私はもう、嬉しくて「大丈夫です。それに、アンドレアお兄様とお話しできる時が、唯一、私の気が晴れる時間ですからっ!!」と、満面の笑みを浮かべて答えると、アンドレア様も優しく微笑みかけてくださるのでした。

 そんなお優しいアンドレア様の耳にも最近は、私の下に諸外国の王侯が頻繁にお訪ねになっていることが聞こえ始めたようでございます。

「大丈夫かい? ラーマ。
 しつこい求婚や辛いことがあったら、いつでも私に言いなさい。なんだったら、決闘してでも相手を追っ払ってあげるよっ!」

 などと言ってくださいますが、そんなことになったら、私は困ってしまいます。

「決闘っ!! そんなの・・・そんなのいけませんわっ!!
 私、乱暴は嫌いです。どうか、皆さまで話し合ってわかりあいましょう。」

 と懇願するのですが、殿方ときたら「ははは。全く、君は魔族の血を引いてるとは思えないほど清純だね。でも、我々は欲しいものは戦って奪うもの。君を守るためならいつかは戦う日も来るさ。」などと勇ましい事ばかり仰るのです。


「ああっ・・・・・・。もし、アンドレア様になにかあったら、将来、アンドレア様のきさきとなるお方に何と申し開きすればよいのでしょうか・・・。」

 最近は夜になると、そのような独り言が出てくるようになってしまいました。
 そして、ある日の事でした。魔王様にそんな独り言が聞かれてしまったのです。茶化されるとは思っていたのですが、そのセリフが地獄のかまふたを開くことになろうとは、思いもしなかったのです。

「いやいやいやいや・・・。お前、マジでそんなこと言うてんのか?
 お前の無自覚は最早、罪やぞ。」

「罪? 魔王様。私の無自覚が罪とはどういう意味ですか?」

 魔王様の御言葉の真意を確かめようと私は尋ね返しました。

「お前な。お前の美貌はマジで人間離れしとるで? 魔族や人間とかそんなレベルのもんや無い。
 お前と魔神ギーン・ギーン・ラーが並んで立っても、引けを取らん美しさやぞ。
 顔だけやない。そのいやらしすぎる肉付きもそうや。お前に欲情しない男はおらん。」
 
 などと下品なことを仰ってから、もっとひどいことを仰ったのです。

「あの皇太子だってそうやぞ。絶対に幼いころからお前のことを狙っとる。
 お前は気が付いてないけど、相当お前の乳や尻を見まくってんで、あの男。
 そして何よりお前を見る目がマジやし。」
 
 な、なんという無礼なことを。アンドレア様はそんな人ではありません。私は必死で訂正いたします。

「そ、そんなことはありませんっ!!
 アンドレアお兄様は、決してそんな下品なお人ではありませんっ!!」

 そう言って返すのですが、魔王様は相手にもしてくださいませんでした。
 それどころか続けてこんなことまで仰るのです。


「お前が男の欲情をそそるのは、そのいやらしい体だけやないぞ。お前の話し方とその子猫のように澄んだ甘い声が男の保護欲をそそる。」
「そして、なによりも女性らしい仕草と純粋無垢なお前のその性格は男を狂わせるんや。」
「お前の無自覚が罪やというのはそこ・・や。」

 そこ? どこですか?
 今の会話の中身って結局、私になんの無自覚があるというのですか?
 そんな疑問が口を出る前に明けの明星様は恐ろしいことを私にお告げ遊ばされたのでした。


「ラーマよ。相手の男どもからみて、お前が男に気があるように、お前が誘いをかけているように思わせている自覚はあるんか?」



 ・・・
 ・・・・・・は・・・
「はいいい~っ!? 
 な、なななな、なんですのっ!? どうしてそんなお話になるのですかっ!?」

 いきなりの急展開は私に驚天動地きょうてんどうちの衝撃を与えたのでした。

「やっぱり無自覚か。
 お前な。お前のその仕草一つ一つは、洗練されていると同時に王を欲情させる目的でにできている。
 そうしなければ子供ができないからな。そうやって無意識に男を誘惑する仕草をお前は姫として身につけている。」
「でも、それはええ。それは仕方ない事や。
 それでもお前は無自覚すぎる。男に話しかけるとき、男の目を見つめるとき、困った仕草を見せるとき、優しく微笑みかけるとき・・・・・・。お前の美しさの全てを男は愛情を注がれてしまうと勘違いしてしてしまうんや。」


「ええっ!? い、意味が解りません。他人に優しく接するのは当たり前のお話ではっ!?」

「ほらな。お前はまだ無自覚や。
 だが、それでええ。それでこそ計画通りや。」
「そして、そろそろ諸侯もあの皇太子も限界に近づいて来とる。」
「白黒はっきりつける方法を与えてやらんと暴発するぞ。」

 明けの明星様は、そこまでおっしゃってから、これまで見せたことがないような残酷な笑みを浮かべて仰いました。


「下準備は全部済んだ。ここからが本番や。
 各国に向けてこう発表しろっ!


 ”この国のために最も多く貢献していただいたお方の下へ御輿おこし入れいたします” とな。」
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