魔王〜明けの明星〜

黒神譚

文字の大きさ
31 / 102
第2章 新国家「エデン」

第31話 契約の水

しおりを挟む
「戦争停止を求めますっ!!
 このまま戦い続けて何が得られるというのですか?
 領地ですか? 食料ですか? 女ですか?
 その為に死んでもいいというのは本末転倒っ!! あなた方は生きていくために死を選んでいるっ!!
 仮に勝利した軍が明日、領地を得るとしましょうっ!!
 仮に勝利した軍が明日、食料を得るとしましょうっ!!
 仮に勝利した軍が明日、女を得るとしましょうっ!!
 だが、そこにアナタはいないかもしれないっ!! だって今日ここで死ぬかもしれないのですからっ!!」

「御覧なさいっ!! この戦場に横たわる哀れなしかばねの山をっ!!
 彼らとあなた方が同じにならないと何故思うのっ!?
 戦闘をやめなさいっ!! そして、分かち合うのですっ!!
 そうすれば手を取り合って色々と今までできなかった大きなことができるはずですっ!!」

「よく考えなさい。あなた方には大義が無いという事をっ!! 戦争など結局は不毛ふもうの連鎖を生み出すだけなのです。
 逆に私には大義がありますっ!! より豊かで皆が笑顔になれる世界の実現のために戦争を止めようというのですからっ!!」

「この私の意見に逆らって愚かにもこれからも戦争を続けるというのならば、それはつまり他人を殺し、奪った命であなたの家族を養うことを意味するっ!!
 考えなさいっ!! あなた方のお嫁さんや生まれてくる子供は、あなたが欲望のままに殺した人間の血肉でうるおうという事を。戦争で奪った富で子供を養うという事は今日流れた人の血を乳飲み子ちのみごが飲んで大きくなるのと同義ですよっ!?」

「殺し合いをやめなさいっ! 双方、生きて家に帰るのです。そしてご両親や妻を。そして子供を抱きしめておあげなさいっ!! 生きていくためにこんなに大切なものをあなた方はすでに手にしているのですよっ!?
 だが今日死んでしまった者には、それさえ与えられないっ!! あなた方は生き残っているっ!! それを大事になさいっ!!」


 私がそこまで話したところで明けの明星様が大きな声で割り込んできました。

「あ~。お前アホか? 何を長々ながながとしょうも無い事をくっちゃべッとんねんはなしているんだい?」

 と仰って私の話をさえぎりました。その言葉は私の説得を一笑いっしょうす発言であり、私の説得を聞いたものたちへ悪影響が出かねないものでした。これでは和平は生まれません。
 私は抗議いたします。

「魔王様っ!! 私はまだ説得の最中ですっ!! 横やりはおやめくださりませっ!」
 
「いや、横やりってお前な・・・。いつまでしゃべるつもりやねん。制限時間があるっていうたやろ。」

「制限時間っ!? ええっ!?
 そ、そんなに短いのですかっ!? わ、私、まだ3分の1も話したいことを話していませんっ!?
 ど、どうしましょう・・・。」

 私は絶句しました。そして、何故か私の抗議を受けた明けの明星様まで絶句しておられました。

「さ、3分の1て、・・・お前マジかっ?
 センスゼロか?」

 センスゼロ? 確かに生まれて初めてこんな演説したかもしれませんが、だからって演説のセンスゼロってことはないと思うのですけれどっ!!
 魔王様の無慈悲な評価に腹を立てた私を見て「お前、ホンマにアホな奴やな」と笑いながら乱暴に私の頭をグリグリと撫でまわします。
 そして、それから周りの兵士たちを指差しながら仰いました。

けはお前の負けや。
 見てみいみよ、こいつらの顔を。何一つ納得してないやろ? 当たり前や。」
「お前の話にはじつがない。
 要するに具体的やないねん。」

「子供を育てるのにお前の兵士の血を飲ませて育てるのかやと?
 お前、それでこいつらの良心が揺らいで戦争をやめるとでも思ッとんか? 
 こいつらは最初はなから奪いに来とるんやで? お前の臣民を殺して、奪って、自分の富にすることなんかお前に教えてもらわんでもようようよくよくわかっとる。
 つまりな。良心に訴えかけても戦争が止まるわけないってことや。」

「お前が戦争を止めたかったら、見返りを提示せんかい。
 『家畜を1000頭、絹を1000反、奴隷の女と男を3000人差し出して服従するから、命ばかりはお助けを。
  属国になりますから、戦争を回避してくださいませ。』ってな。
 それが弱者の交渉ってもんやぞ?」

 明けの明星様は兵士の本音を語ったのでした。私のいう事には実がないという事はそういう事なのだと言いたいのです。
 悔しい・・・。明けの明星様の言っておられることが真実であることは、明けの明星様の御話を聞いていた兵士たちの顔を見ればわかります。誰もかれもが私に向かって「世間知らずの小娘がっ!!」とでも言いたそうな目で私を睨んでいたからです。

 私は敗れました。理想と夢想だと明けの明星様に断じられてしまったのです。
 この世界の人間に良心など期待するなと・・・そう言われた気がしました。

「賭けはお前の負けだ。そこでよく見ておくがいい。この私利私欲のために他人から奪う事しか知らぬけがれた魂共が自らのごうによりことごとく滅んでいく様をなっ・・・・・。」

 そう言って勝利宣言をする魔王様はさらに追い打ちをかけるようなことを私にお見せになるのでした。

 その時、魔王様は人の心をかき乱すために特別なことは何もしませんでした。
 ただ、その掌の中から魔法で無限の金貨を生み出して一言言っただけです。

「俺は魔王っ!! 明けの明星であるっ!!
 愚かなる兵士諸君、今から存分に殺しあえっ!!
 敵味方に関係なく、このラーマ以外の者・・・・・・・を殺せっ!! 
 10人以上殺した者には金貨100枚。30人以上殺した者には金貨500枚。
 100人以上殺した者には金貨1万枚と、この世で最も美しく甘美な肉を持つ俺を一晩抱かせてやろうっ!!」

 そう言っただけでした。それで肉体を束縛していた兵士たちを解放したのです。
 ただ、その一言で。その場の者たちが大勢殺し合いを始めたのです。私のことなど放っておいて・・・。
 それは、私がしてきたことが本当に無駄なことだったと教えてくれました。この世界の魂は穢れている。明けの明星様の御言葉おことばが真実であったことを証明して見せたのです。

 だったら、だったら・・・。私を守ってくれた皆は何のために死んだのですかっ!!

 もう、私は何も考えたくありませんでした。ただ、みにくく殺しあう皆の姿に絶望していました。
 この混乱する戦場で一人で10人も殺せるものですか。一人殺せば後ろから刺されるのが落ちです。そうやってお互いに刺されあって死んでいくだけです。
 おまけに100人以上だなんて・・・明けの明星様のお美しさに目がくらんで、そんな馬鹿げた条件に目の色を変えるなんて・・・。バカみたい・・・。

 私が絶望した時でした。フィリッポが私の肩を掴んでささやきました。

「姫様っ! これは良いきざしですっ!!
 今なら逃げだせますっ!!」

 フィリッポは誰もが富を求めて殺しあう最中、そういうと私の手を引いて足を引きずりながら連れ出そうとしました。どうにか生き残っていた護衛の二人も私の側に集まって来てくれました。

「姫様。騎兵を襲って馬を奪います。
 どうかそれに乗ってお逃げ下さい。幸い、明けの明星様はラーマ様を標的から除外じょがいされました。
 姫様だけは逃げ延びることができるでしょうっ!!」

 そういって皆が己の私利私欲に目がくらんで愚かな殺し合いを始めているというのに、私のために最後の瞬間まで尽くしてくれるというのです。

「・・・どうして?
 ・・・どうして、あなた達は私のために戦ってくれるのですか?」

 私は涙をこぼしながら尋ねると出血で顔面蒼白になったフィリッポが私の水筒を指差して言うのです。

「姫様はまだ、水筒の水を最後まで飲まれていません。
 これは契約の水。ならば、一敗地いっぱいちまみれたからと言って諦めないでください。
 その最後の水が残っている限り、私達は姫様を信じています。和平を成しとげてくださいませっ!!」

 そういうと3人は私の手を引きながら最後の力を振り絞って騎兵に襲い掛かるのでした。
 
 (ああっ!! 私にはまだ、希望がありましたっ!!
  皆が皆私利私欲のために戦っていない。良心を持った人がこの戦場にも残っているっ!!
  なんて・・・なんてステキなことなのでしょうっ!!)

 私がそう感動している間にも、二人の護衛が命を賭して騎兵を落馬させてその馬を奪い、私を馬に乗せてくれるのでした。

「姫様。月の方向と反対側を走って下さい。本陣はそちらの方向です。
 かならず陣形を立て直して、和平交渉できるようにお願いします・・・。」

 手綱を渡してくれた護衛の一人はそう言った瞬間に矢で頭を射抜かれて死んでしまいました。

「ああっ!?」

「かまうなっ!! お逃げ下さりませっ!! 姫様っ!!」

 護衛の一人がそう言って背後を見ると、フェデリコが30人ばかりの兵士を従えてこちらに突撃してくるのが見えました。きっと、彼ほどの人物ならば、魔王様の暗示めいた誘惑に打ち勝つことができたのでしょう。


「ラーマ姫を捕えよっ!! この際だ、死ななければ怪我けがを負わせても構わんっ!!
 このイカれた状況をだっするためには、あの女を捕えるよりほかないっ!!」

 フェデリコの声を聴いた30名の兵士たちはいずれも矢をつがえており、私さえも狙っていることが明らかでした。
 そして、フェデリコの精鋭部隊の矢は精密で5発の矢を私の馬に命中させ、フィリッポと残りの護衛の胸を正確に貫くのでした。

「きゃあああっ!!」

 悲鳴を上げながら落馬した私の目には、突撃してくるフェデリコの部隊と・・・・・・その後ろを馬に乗って突撃してくるヴァレリオ男爵の姿が見えたのでしたっ!!

「ラーマ様ぁ~~~~っ!!」

 ヴァレリオは雄たけびを上げながら、手にした鉄槍てっそうでフェデリコの部下を蹴散らすように払い打つと地面に倒れる私をさらいに来てくれたのです。

「ああっ!! ヴァレリオっ!!」

 ヴァレリオの姿を見て歓喜の声を上げる私の体が突然、宙に舞います。矢で胸を撃ち抜かれた護衛が今わのきわに死力を振り絞って、ヴァレリオの馬に届くように私の体を持ち上げてくれたのでした。
 ヴァレリオは馬から半身飛び出して私の体を抱きかかえるとそのまま、一気に駆け抜けていきます。
 

 しかし、それを許すフェデリコではありません。大量の矢をヴァレリオの馬にめがけて矢を放ったのです。

 私とヴァレリオが無事に逃げおおせることができたのは、その大量の矢をフィリッポが体で受け止めてくれたからでした。
 大量出血で死んでいてもおかしくない体のフィリッポが宙を飛び、矢から私たちを守ってくれたのです。
 10本以上の矢を受けたフィリッポの遺体は地面に落ちると痙攣けいれんする事さえなく、命を終えたのでした。



「いやああああ~~~~っ!!!!
 フィリッポォォォォ~~~~~っ!!!」

 私の悲鳴さえフィリッポには、もう届かないのでした・・・。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

処理中です...