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第3章「ゴルゴダの丘」
第68話 魔王の帰還
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突然、御帰還なされた明けの明星様は元気一杯でご挨拶くださいました。その御姿に感動したアンナお姉様が感極まって抱きつきます。
「ああっ! 旦那様っ!!」
涙を流して抱擁するアンナお姉様に続いて魔神シェーン・シェーン・クー様まで駆け寄って抱きつきます。お二人に抱き着かれたら小さなお体の明けの明星様は覆いかぶさられてしまう形になってしまうのですが、明けの明星様はすぐに
「ああああ、暑っ苦しいんじゃ、ボケ―――っ!!」
と、情け容赦なくお二人をはねのけてしまうのです。地面に叩きつけられてしまったアンナお姉様は体をくねらせながら
「ああんっ! ひ、ひどいですっ~~」と言って頬を赤らめます。そんなアンナお姉様に向かって明けの明星様は
「いや、なんで嬉しそうやねん。」と、あきれ顔で仰います。
マジでなんでやねんですわ。
そんなお三方を無視するかのようにタヴァエル様は前に進み出られて私に向かって言います。
「お兄様の御帰還だというのに、あなたは何もしないのですか?」と、冷たい目で言います。
ああ・・・。こ、これが小姑の嫌がらせというものなのでしょうか? 私は若干引きつつもタヴァエル様の仰ることまことに正しい事であることは間違いないので、タヴァエル様に向かって深々と頭を下げたのち、明けの明星様の前に進み出ると、深々と頭を下げて御挨拶します。
「ようこそお戻りくださいました。明けの明星様。
お元気そうで何よりでございます。」
「うむ。お前もお前の乳も元気そうで何よりやっ!!」
そういって私の乳房を掴もうとする明けの明星様の腕をヴァレリオ様が右手で掴んで止めてくださいました。
「明けの明星様。無事のお戻り、なによりでございます。」
「おう。おまえこそ俺がおらへんかったからってズルしてへんやろな?」
・・・お二人ともバチバチに睨み見合いながらの御挨拶です。
明けの明星様の美しい金の髪の間から覗く青い大きな瞳がヴァレリオ様を睨みつけ、漆黒の瞳のヴァレリオ様の瞳がそれを受け止めるように見つめ返します。
彫りが深いヴァレリオ様のお顔と愛らしい絶世の美少年である明けの明星様の御尊顔の対比をこの目で見るだけでも至福の時だというのに、このお二人が私を取り合っているのかと思うと・・・。やっぱりちょっと後ろめたいですわね。
などと、個人的な感傷に浸っておりますとタヴァエル様が両手を叩いて仕切り直されます。
「はいはい。お兄様、痴話げんかはそこまでになさってください。
そんなことよりも重大なお話があるのでしょう?」
重大な話。非常に重い言葉です。そして、今、既に人間の国と神々に攻撃をされている私たちにとっては、さらに辛い話となりました。
「あのな。土と光の国が消滅した。」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「はあああああああ~~~~っ!?」
その場にいた全員が大声を上げて驚きました。
「つ、つつつつつつつつ、つ、つちとととととと
土と光のくくくくくっ!!・・・・」
「落ち着け、クー。土と光の国が消滅した。
これが事実や。」
驚愕のあまりまともに言葉を発することも困難となったシェーン・シェーン・クー様の体を右手で押さえて制止させながら明けの明星様とタヴァエル様はお二人でご説明してくださいました。
「俺達が姿を消す前の晩のことやった。
俺がタヴァエルととても口では言えんようなことをしてやろうと、その服を剥ぎ取った時・・・」
「きゃああああああ~~~ぅ!!
わ、わわっわ、私がお話ししますっ! ああああ、あれは、ああああれはっ!!」
「落ち着け。俺がやっぱり説明しよか? 大丈夫や、お前の名誉は守るぞ。」
「絶対、駄目~~~~っ!!
お兄様、絶対にあることないことエッチなこと言うもんっ!!」
「わかった。あることだけ言う。
それでええな?」
「絶対、絶対ダメ~~~っ!!!」
・・・・・いや、今そんな話をされてもですね。そんな話は他所でやって下さい。
て、いうか。タヴァエル様って明けの明星様の妹様ではなかったのですか?
まぁ、明けの明星様に理性がないのはいつもの事ですしね。そんなには驚きません。アンナお姉様とシェーン・シェーン・クー様のお二人の愛妾も大して動揺しておられませんもの・・・。いえ、お姉様。目を開けたまま失神してますね。相当ダメージありますね。これ。
「あの・・・」
ヴァレリオ様が呆れたように声をかけたところでタヴァエル様は我に返って「私が説明します。」と言って明けの明星様の腕を指でツネッてからお話しくださいました。
「先ほどお話が合ったように土と光の国が消滅しました。
当然、異界の王もその世界の住民もすべて消滅しました。
私はその異変を異界の王の神秘として感じ取り、この異常事態の真偽を確かめるためにお兄様と一緒に異界に出かけましたが、どうやっても土と光の国を視認することも出来ず、アクセスできませんでした。」
「そうして、何が起こったのか確かめるためにお兄様が土と光の国の残骸を寄せ集め、それをもとに異界の記録を映像化。その映像を再生して二人で確認しました。その映像を見るときに二人で食べるポップコーンはキャラメル味の方がいいと私は言ったのに、お兄様はスタンダードな塩味が良いと駄々をこねたので、仕方なく塩味になってしまったことをここで伝えておきます。」
「さて、その映像でわかった事についてですが、それは衝撃的な物でした。
土と光の国はとある異界の魔王が封禁されていた世界だったのです。その世界はこの世界と同じくエネルギーに満ちていたので、多くの生き物が自然発生して一つの異界となったのです。言ってみれば異界の魔王の墓場がひとつの異界になったということです。」
「ところが、先日。この魔王の封禁が解けてしまったのです。そして魔王は自分の墓に巣くう生きとし生ける者を恨めしく思って全てを滅ぼすために異界ごと破壊してしまったのです。」
タヴァエル様のお話はスケールが大きすぎて私たちには俄かには理解できませんでしたが、お二人の真面目な表情から。異界が消滅したことは事実のようだと思うことは出来ました。
しかし、異界を破壊消滅させることができる魔王がいるというお話に私たちは到底納得できないことでした。
それは私たちよりも高位の存在であるアンナお姉様の方が不思議に思われたようで、つい質問してしまうのでした。
「旦那様・・・。異界を破壊、消滅させることなど・・・どうすれば可能なのでしょうか?」
「アンナ・ラーっ!!
可能とは何事ですかっ!? 私達の話を信じないというのですかっ!!」
高位の存在の言うことに歯向かうに等しい質問はタヴァエル様の怒りを買いました。私は慌てて止めに入ります。
「神よっ!! お待ちくださりませ。今の話は私たち下々の者の理解の範疇を超えるものでございますれば、どうか、アンナお姉様を・・・。我々を哀れに思ってお許しくださりませ。」
私がそう言って頭を下げながら割って入ると、タヴァエル様は私をじっと見つめた後に尋ねられました。
「あなたはどうして、アンナだけお姉様と呼ぶのですか?」
「はい・・・?」
意味が解らない質問を受けて私が思わず尋ね返すと明けの明星様が「ああ・・・」っと、何か思いついたような声を上げてから、
「すまんな。ラーマ・・・。
今日から、こいつの事も姉と呼んだッてくれ。頼むわ・・・。」
と、謎の要求をしてきます・・・。
しかしですね。相手は何と言っても異界の王。私が家族のように接するのはいくらなんでも抵抗があります。
「ええっ!? で、ですが、異界の王に向かって姉呼ばわりはさすがに無礼・・・。」
と言って断ろうとした時の事でした。タヴァエル様は私の両手を握り締めて
「いいっ!!
全然いいからっ!!」と、凄い圧力で迫ってこられるのでした。
そこまで言われたら、私も断るわけにはいかず・・・
「わかりました。タヴァエルお姉様。
今後ともよろしくお願いします。」
そう言った瞬間、タヴァエル様は「もっかい言ってっ!! もう一回言ってっ!! お姉様って呼んでっ!」と大興奮です。
「あ~。すまんな皆。
こいつ、末っ子やから・・・。」
と、明けの明星様からご説明を受けて始めて合点がいきました。お姉様って呼ばれたかったんですね。
そうして、お姉様と呼ばれて興奮気味のタヴァエルお姉様を置いておくように明けの明星様がお話を続けられました。
「それでや。
その魔王やけどな。この世界も狙っとる。」
っ!!
全員が顔面蒼白になる報告でした。土と光の国を滅ぼした異界の魔王が私達を狙っているなんて・・・。
「そ、そんなの・・・そんなのどうしたって滅ぼされるじゃないですかっ!!」
私が取り乱して思わず声を上げました。しかし、すぐにその動揺は収まりました。
明けの明星様が笑っておられたからです。
その笑顔を見て、その場にいた全員が落ち着いてしまったのです。物凄い信頼感です。
明けの明星様は取り乱した私たちが冷静になったのを見届けると続きをお話しくださいました。
「聞けっ!! 奴は人間の国を使ってこの国を狙っとる。
あの神々もその魔王に使役されとるだけや。
要するにこの戦争。神々とて不関与と言うわけには収まらん戦争と言う事や。」
「せやから、今度は俺も戦争に積極的に参加することを許可する。
もちろん、人間と魔族の戦争はその者共に任せ、神々は神々で戦争をする。」
明けの明星様はそう仰ると人員配置をなさいます。
「まずはシェーン・シェーン・クーっ!! お前はあの正体不明の神をやれ。
あいつの正体を俺は知っとる。対策も教えたるから、あいつを叩け。」
名前を呼ばれたシェーン・シェーン・クー様は拝命したのち、深々と頭を下げられ了承なさいました。
その時に明けの明星様に何やら耳打ちされた後、腰砕けにその場に座り込んでしまわれました。明けの明星様に何を言われたのか想像できなくもないですが、今は放っときましょう。いえ、出来たら一生関わりたくない案件です。
次に明けの明星様はアンナお姉様をお呼びになられました。
「アンナっ!! お前には未だに姿を見せぬ女神を倒してもらう。
あとで詳細を伝えるが、豊穣神が相手やから殺すなよ」
アンナお姉様は魔神スーリ・スーラ・リーン様の相手をせずに済んでホッと胸を撫で下ろされました。無理も御座いませんね。
そうして、残されたヴァレリオ様にも明けの明星様はご命令なさったのです。
「ヴァレリオっ!! お前には魔神スーリ・スーラ・リーンの相手をしてもらう。
アンナはあいつに苦手意識が強すぎるし、どうもあいつはお前を気に入っとる。お前が相手せい」
強敵を指名されたヴァレリオ様ですが、臆する表情を見せることなく「はっ!」と力強く返事なさいました。
明けの明星様は。そんなヴァレリオ様の肩を叩くと、何もない空間から一本の神槍を取り出されると手渡されました。いつ見てもどこから出てくるのかわからない神秘です。
「魔神スーリ・スーラ・リーンは、お前には荷が重い相手や。
せめて武器だけでも対等以上になる様にこの槍を使わす。」
「この槍は、かつて異界を救った魔神フー・フー・ローの神槍。スーリ・スーラ・リーンの魔法を寄せ付けず、奴の堅牢な肉体にも刃が通る魔法の槍。奴と戦うくらいにはこれぐらいの下駄を履かせてやる。やれるな?」
魔神フー・フー・ロー。精霊騎士にも劣る霊位から異界の王にまで昇華なされた伝説の魔神。その魔神様が手になさっておられた神槍ならば、当然、魔神スーリ・スーラ・リーン様にも刺さるでしょう。先の戦いでは下郎神様の魔法にすら耐えられなかった剣を携えておられたヴァレリオ様にとってはこれ以上ない援護と言えるでしょう。
ヴァレリオ様は感極まった表情でその神槍を手に取って感謝します。
「勿論で御座います。あり難き幸せに手頂戴いたします。」
明けの明星様は感謝の意を受け取ると、今度は私の番です。
一歩進み出られて私に近づき、甘い声で褒めてくださいました。
「それで・・・ラーマ。お前も成長したな。
ええ作戦を企んどるな。お前はフェデリコと共に人間の兵士を叩け。」
明けの明星様の美しいお顔と甘い声に褒められた私はすっかり舞い上がってしまい、返事すらできない状態です。
明けの明星様は、そんな私の髪を右手で撫でながら、左手の指をパチリと鳴らすと一人の魔神様を召喚なさいました。
地面から湧き上がってくるように姿を見せた魔神様は、フェデリコとの戦闘を鎮めるために私が明けの明星様の魔力を借りて死者を動き屍として復活させた時、偶然に蘇らせてしまった魔神様でした。
「ああ、それからな。こいつを護衛に置いておく。
お前が死霊術で復活させた魔神やが、そこに俺が魂を吹き込んである。お前の命令に絶対服従の魔神やから安心して戦争してろ。」
魔神様は私の側に立つと無言で跪くのでした。
その御様子に私は驚くばかりですが、明けの明星様のご厚意に甘えさせていただくことにしました。
「誠に有難うございます。これで私は勝ったも同然でございます。必ず、戦に勝利し和平を成しえて見せましょう。」
自信を込めた強い瞳と声で明けの明星様に感謝の意をお伝えすると、明けの明星様は満足なさったように頷かれ、そしてご自身も戦われることを宣言なさいました。
「それで・・・。例の魔王は俺とタヴァエルが決めるっ!!
ええなっ!?」
明けの明星様の采配に異論など出るはずもなく、私たちは全員で元気よく「はいっ!」と返事するのでした。
「ああっ! 旦那様っ!!」
涙を流して抱擁するアンナお姉様に続いて魔神シェーン・シェーン・クー様まで駆け寄って抱きつきます。お二人に抱き着かれたら小さなお体の明けの明星様は覆いかぶさられてしまう形になってしまうのですが、明けの明星様はすぐに
「ああああ、暑っ苦しいんじゃ、ボケ―――っ!!」
と、情け容赦なくお二人をはねのけてしまうのです。地面に叩きつけられてしまったアンナお姉様は体をくねらせながら
「ああんっ! ひ、ひどいですっ~~」と言って頬を赤らめます。そんなアンナお姉様に向かって明けの明星様は
「いや、なんで嬉しそうやねん。」と、あきれ顔で仰います。
マジでなんでやねんですわ。
そんなお三方を無視するかのようにタヴァエル様は前に進み出られて私に向かって言います。
「お兄様の御帰還だというのに、あなたは何もしないのですか?」と、冷たい目で言います。
ああ・・・。こ、これが小姑の嫌がらせというものなのでしょうか? 私は若干引きつつもタヴァエル様の仰ることまことに正しい事であることは間違いないので、タヴァエル様に向かって深々と頭を下げたのち、明けの明星様の前に進み出ると、深々と頭を下げて御挨拶します。
「ようこそお戻りくださいました。明けの明星様。
お元気そうで何よりでございます。」
「うむ。お前もお前の乳も元気そうで何よりやっ!!」
そういって私の乳房を掴もうとする明けの明星様の腕をヴァレリオ様が右手で掴んで止めてくださいました。
「明けの明星様。無事のお戻り、なによりでございます。」
「おう。おまえこそ俺がおらへんかったからってズルしてへんやろな?」
・・・お二人ともバチバチに睨み見合いながらの御挨拶です。
明けの明星様の美しい金の髪の間から覗く青い大きな瞳がヴァレリオ様を睨みつけ、漆黒の瞳のヴァレリオ様の瞳がそれを受け止めるように見つめ返します。
彫りが深いヴァレリオ様のお顔と愛らしい絶世の美少年である明けの明星様の御尊顔の対比をこの目で見るだけでも至福の時だというのに、このお二人が私を取り合っているのかと思うと・・・。やっぱりちょっと後ろめたいですわね。
などと、個人的な感傷に浸っておりますとタヴァエル様が両手を叩いて仕切り直されます。
「はいはい。お兄様、痴話げんかはそこまでになさってください。
そんなことよりも重大なお話があるのでしょう?」
重大な話。非常に重い言葉です。そして、今、既に人間の国と神々に攻撃をされている私たちにとっては、さらに辛い話となりました。
「あのな。土と光の国が消滅した。」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「はあああああああ~~~~っ!?」
その場にいた全員が大声を上げて驚きました。
「つ、つつつつつつつつ、つ、つちとととととと
土と光のくくくくくっ!!・・・・」
「落ち着け、クー。土と光の国が消滅した。
これが事実や。」
驚愕のあまりまともに言葉を発することも困難となったシェーン・シェーン・クー様の体を右手で押さえて制止させながら明けの明星様とタヴァエル様はお二人でご説明してくださいました。
「俺達が姿を消す前の晩のことやった。
俺がタヴァエルととても口では言えんようなことをしてやろうと、その服を剥ぎ取った時・・・」
「きゃああああああ~~~ぅ!!
わ、わわっわ、私がお話ししますっ! ああああ、あれは、ああああれはっ!!」
「落ち着け。俺がやっぱり説明しよか? 大丈夫や、お前の名誉は守るぞ。」
「絶対、駄目~~~~っ!!
お兄様、絶対にあることないことエッチなこと言うもんっ!!」
「わかった。あることだけ言う。
それでええな?」
「絶対、絶対ダメ~~~っ!!!」
・・・・・いや、今そんな話をされてもですね。そんな話は他所でやって下さい。
て、いうか。タヴァエル様って明けの明星様の妹様ではなかったのですか?
まぁ、明けの明星様に理性がないのはいつもの事ですしね。そんなには驚きません。アンナお姉様とシェーン・シェーン・クー様のお二人の愛妾も大して動揺しておられませんもの・・・。いえ、お姉様。目を開けたまま失神してますね。相当ダメージありますね。これ。
「あの・・・」
ヴァレリオ様が呆れたように声をかけたところでタヴァエル様は我に返って「私が説明します。」と言って明けの明星様の腕を指でツネッてからお話しくださいました。
「先ほどお話が合ったように土と光の国が消滅しました。
当然、異界の王もその世界の住民もすべて消滅しました。
私はその異変を異界の王の神秘として感じ取り、この異常事態の真偽を確かめるためにお兄様と一緒に異界に出かけましたが、どうやっても土と光の国を視認することも出来ず、アクセスできませんでした。」
「そうして、何が起こったのか確かめるためにお兄様が土と光の国の残骸を寄せ集め、それをもとに異界の記録を映像化。その映像を再生して二人で確認しました。その映像を見るときに二人で食べるポップコーンはキャラメル味の方がいいと私は言ったのに、お兄様はスタンダードな塩味が良いと駄々をこねたので、仕方なく塩味になってしまったことをここで伝えておきます。」
「さて、その映像でわかった事についてですが、それは衝撃的な物でした。
土と光の国はとある異界の魔王が封禁されていた世界だったのです。その世界はこの世界と同じくエネルギーに満ちていたので、多くの生き物が自然発生して一つの異界となったのです。言ってみれば異界の魔王の墓場がひとつの異界になったということです。」
「ところが、先日。この魔王の封禁が解けてしまったのです。そして魔王は自分の墓に巣くう生きとし生ける者を恨めしく思って全てを滅ぼすために異界ごと破壊してしまったのです。」
タヴァエル様のお話はスケールが大きすぎて私たちには俄かには理解できませんでしたが、お二人の真面目な表情から。異界が消滅したことは事実のようだと思うことは出来ました。
しかし、異界を破壊消滅させることができる魔王がいるというお話に私たちは到底納得できないことでした。
それは私たちよりも高位の存在であるアンナお姉様の方が不思議に思われたようで、つい質問してしまうのでした。
「旦那様・・・。異界を破壊、消滅させることなど・・・どうすれば可能なのでしょうか?」
「アンナ・ラーっ!!
可能とは何事ですかっ!? 私達の話を信じないというのですかっ!!」
高位の存在の言うことに歯向かうに等しい質問はタヴァエル様の怒りを買いました。私は慌てて止めに入ります。
「神よっ!! お待ちくださりませ。今の話は私たち下々の者の理解の範疇を超えるものでございますれば、どうか、アンナお姉様を・・・。我々を哀れに思ってお許しくださりませ。」
私がそう言って頭を下げながら割って入ると、タヴァエル様は私をじっと見つめた後に尋ねられました。
「あなたはどうして、アンナだけお姉様と呼ぶのですか?」
「はい・・・?」
意味が解らない質問を受けて私が思わず尋ね返すと明けの明星様が「ああ・・・」っと、何か思いついたような声を上げてから、
「すまんな。ラーマ・・・。
今日から、こいつの事も姉と呼んだッてくれ。頼むわ・・・。」
と、謎の要求をしてきます・・・。
しかしですね。相手は何と言っても異界の王。私が家族のように接するのはいくらなんでも抵抗があります。
「ええっ!? で、ですが、異界の王に向かって姉呼ばわりはさすがに無礼・・・。」
と言って断ろうとした時の事でした。タヴァエル様は私の両手を握り締めて
「いいっ!!
全然いいからっ!!」と、凄い圧力で迫ってこられるのでした。
そこまで言われたら、私も断るわけにはいかず・・・
「わかりました。タヴァエルお姉様。
今後ともよろしくお願いします。」
そう言った瞬間、タヴァエル様は「もっかい言ってっ!! もう一回言ってっ!! お姉様って呼んでっ!」と大興奮です。
「あ~。すまんな皆。
こいつ、末っ子やから・・・。」
と、明けの明星様からご説明を受けて始めて合点がいきました。お姉様って呼ばれたかったんですね。
そうして、お姉様と呼ばれて興奮気味のタヴァエルお姉様を置いておくように明けの明星様がお話を続けられました。
「それでや。
その魔王やけどな。この世界も狙っとる。」
っ!!
全員が顔面蒼白になる報告でした。土と光の国を滅ぼした異界の魔王が私達を狙っているなんて・・・。
「そ、そんなの・・・そんなのどうしたって滅ぼされるじゃないですかっ!!」
私が取り乱して思わず声を上げました。しかし、すぐにその動揺は収まりました。
明けの明星様が笑っておられたからです。
その笑顔を見て、その場にいた全員が落ち着いてしまったのです。物凄い信頼感です。
明けの明星様は取り乱した私たちが冷静になったのを見届けると続きをお話しくださいました。
「聞けっ!! 奴は人間の国を使ってこの国を狙っとる。
あの神々もその魔王に使役されとるだけや。
要するにこの戦争。神々とて不関与と言うわけには収まらん戦争と言う事や。」
「せやから、今度は俺も戦争に積極的に参加することを許可する。
もちろん、人間と魔族の戦争はその者共に任せ、神々は神々で戦争をする。」
明けの明星様はそう仰ると人員配置をなさいます。
「まずはシェーン・シェーン・クーっ!! お前はあの正体不明の神をやれ。
あいつの正体を俺は知っとる。対策も教えたるから、あいつを叩け。」
名前を呼ばれたシェーン・シェーン・クー様は拝命したのち、深々と頭を下げられ了承なさいました。
その時に明けの明星様に何やら耳打ちされた後、腰砕けにその場に座り込んでしまわれました。明けの明星様に何を言われたのか想像できなくもないですが、今は放っときましょう。いえ、出来たら一生関わりたくない案件です。
次に明けの明星様はアンナお姉様をお呼びになられました。
「アンナっ!! お前には未だに姿を見せぬ女神を倒してもらう。
あとで詳細を伝えるが、豊穣神が相手やから殺すなよ」
アンナお姉様は魔神スーリ・スーラ・リーン様の相手をせずに済んでホッと胸を撫で下ろされました。無理も御座いませんね。
そうして、残されたヴァレリオ様にも明けの明星様はご命令なさったのです。
「ヴァレリオっ!! お前には魔神スーリ・スーラ・リーンの相手をしてもらう。
アンナはあいつに苦手意識が強すぎるし、どうもあいつはお前を気に入っとる。お前が相手せい」
強敵を指名されたヴァレリオ様ですが、臆する表情を見せることなく「はっ!」と力強く返事なさいました。
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せめて武器だけでも対等以上になる様にこの槍を使わす。」
「この槍は、かつて異界を救った魔神フー・フー・ローの神槍。スーリ・スーラ・リーンの魔法を寄せ付けず、奴の堅牢な肉体にも刃が通る魔法の槍。奴と戦うくらいにはこれぐらいの下駄を履かせてやる。やれるな?」
魔神フー・フー・ロー。精霊騎士にも劣る霊位から異界の王にまで昇華なされた伝説の魔神。その魔神様が手になさっておられた神槍ならば、当然、魔神スーリ・スーラ・リーン様にも刺さるでしょう。先の戦いでは下郎神様の魔法にすら耐えられなかった剣を携えておられたヴァレリオ様にとってはこれ以上ない援護と言えるでしょう。
ヴァレリオ様は感極まった表情でその神槍を手に取って感謝します。
「勿論で御座います。あり難き幸せに手頂戴いたします。」
明けの明星様は感謝の意を受け取ると、今度は私の番です。
一歩進み出られて私に近づき、甘い声で褒めてくださいました。
「それで・・・ラーマ。お前も成長したな。
ええ作戦を企んどるな。お前はフェデリコと共に人間の兵士を叩け。」
明けの明星様の美しいお顔と甘い声に褒められた私はすっかり舞い上がってしまい、返事すらできない状態です。
明けの明星様は、そんな私の髪を右手で撫でながら、左手の指をパチリと鳴らすと一人の魔神様を召喚なさいました。
地面から湧き上がってくるように姿を見せた魔神様は、フェデリコとの戦闘を鎮めるために私が明けの明星様の魔力を借りて死者を動き屍として復活させた時、偶然に蘇らせてしまった魔神様でした。
「ああ、それからな。こいつを護衛に置いておく。
お前が死霊術で復活させた魔神やが、そこに俺が魂を吹き込んである。お前の命令に絶対服従の魔神やから安心して戦争してろ。」
魔神様は私の側に立つと無言で跪くのでした。
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「誠に有難うございます。これで私は勝ったも同然でございます。必ず、戦に勝利し和平を成しえて見せましょう。」
自信を込めた強い瞳と声で明けの明星様に感謝の意をお伝えすると、明けの明星様は満足なさったように頷かれ、そしてご自身も戦われることを宣言なさいました。
「それで・・・。例の魔王は俺とタヴァエルが決めるっ!!
ええなっ!?」
明けの明星様の采配に異論など出るはずもなく、私たちは全員で元気よく「はいっ!」と返事するのでした。
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