76 / 102
第3章「ゴルゴダの丘」
第75話 夜襲
しおりを挟む
連続して半日以上の特攻を経てようやく撤退したピエトロ・ルーが次に何を企てているのか、私はそれが恐ろしかったのです。
ピエトロ・ルーは、ただで引き下がるような男ではありません。きっと、次の手を用意しているはず。しかし、それが見当もつかないのでした。不安な気持ちになる私ですが、異界の魔王様との決戦に備える明けの明星様とタヴァエル様は既に旅立たれたのか、お姿を何十日も拝見していません。誰かに頼りたくても頼る人がいないのです。
「ああ。こんなときアンナお姉様やヴァレリオ様がそばにいて下さったら・・・。」
魔神リーン・リーン・グー様のお話によれば、ヴァレリオ様たちと魔神スーリ・スーラ・リーン様たちとの決戦はとっくに決着がついているとのこと。ただし、お互いが決闘前に人間と魔族の戦争には不可侵であれという誓いを立てておられるそうで、決着がついたというのに私たちの戦争が終わるまでは帰還できないそうです。
契約違反。高貴な存在ほど契約に反する行為をしたときに受ける罰則は大きいのです。魔神やそれに等しい魔王の皆さんは相当な罰則を受けてしまうのでしょう。
魔神リーン・リーン・グー様はヴァレリオ様たちの決戦の結果は教えては下さりませんでしたが、お三方がお戻りになれない理由をご説明してくださっています。それは結果的にヴァレリオ様たちの勝利を証明するに等しいのです。そこはひとまず安心できることなのですが、それでも全員が無事のお戻りとは限りません、私の心は私たちの戦争とヴァレリオ様たちの安否の両方が気がかりだったのです。
しかし、今は戦時下。家臣団を無事に家族の元へ送り返してあげなくてはいけないという義務が私にはある以上、私情に囚われていてはいけません。なんといっても相手はピエトロ・ルー。一切の油断ができない敵なのです。
それだけに私の心は余計に不安となり、ヴァレリオ様たちを求めてしまうのでした。
そんな私の弱い心が表に出た独り言を聞いたジャコモが私を励ましてくれます。全くできた家臣ですね。
「あのお方たちなら、かならずどこかで姫様を見守っていてくださいますよ。
だから再会されるときに恥ずかしくないようにふるまわなければいけませんよ?」
ジャコモは励ますと言っても私を甘やかすのではなくまるで教育するように発破をかけてくるのです。その発破に刺激されて私は気持ちを入れ替えて頑張るのです。
「ジャコモ。ピエトロ・ルーは何を考えていると思いますか?
30日近くも間を開けてからの狂気じみた連続戦闘・・・。この次に何を企んでいるのでしょう?
あなたがピエトロ・ルーならば、次に何を狙いますか?」
私の質問を受けたジャコモは「夜襲ですね」と、即答しました。
「敵は恐らく夜襲を狙っているでしょう。
にらみ合いが続いて我々は精神的につかれています。さらに本日敵が行った正気を失ったような玉砕覚悟の突撃を打ち破った我が軍は今が一番気が緩みやすいのです。
にらみ合いの緊張から解放されたうえに、肉体的な疲労。そして勝利に浮きだった兵士の心理を考えるならば、今、夜襲を仕掛けない手はございません。私がピエトロ・ルーならそうします。」
ジャコモの予想は非常に明確で理にかなっています。私はジャコモの意見をくみ取って命令を出します。
「日のあるうちから交代で兵士を休憩をさせて夜襲に備える警備は万全にしておきなさい。
兵士たちには決して気を抜かぬように言い含めておきなさい。」
「はっ!」
ジャコモは私の命令を聞くと力強い返事を返して夜襲に備えるように部下たちに伝令するのでした。
戦勝ムードにのぼせ上らぬようにしなくてはいけないのです。そもそも、1回や2回の攻防戦を制したところで6万もの敵兵は揺らがないのです。
私は城の窓から見える敵の槍衾に脅威を感じずにはおられませんでした。
そうして、嫌な予感は的中しました。
その夜、夜襲があったのです。闇夜に紛れて敵が城壁をよじ登り、城下に侵入。そして城壁の門を破壊してしまったのです。
実行犯はたった十数名。決死の行動でした。彼らは我が軍の兵士には目もくれず、城門の前にまで進むと円陣防御を組んで城門の破壊工作をする3名を必死で守り抜き、城門の閂を止める金具を破壊することに成功しました。
彼らはそれで全滅してしまったのですが、彼らは最後の力を振り絞って「ワレ、ハカイセリッ!!」の絶叫を上げて城門の外の敵兵に知らせたのでした。
その知らせはあっという間に敵軍に伝わり、城門から少し離れた場所で闇夜に隠れて息をひそめていた敵兵が一斉に立ち上がり、攻勢を仕掛けてきました。
煌煌と燃え盛る敵の松明は何千という数にもなり、深夜だというのにまるで夕暮れのように一斉に明るくなるのでした。
その松明の数に城壁の兵士たちが血相を変えて叫びました。
「くるぞ~~~っ!!
城門を護れ~~~っ!!」
松明の数にパニックになった兵士たちは一斉に城門に集結してしまいます。
集団心理というものが起きて誰もがその行動を疑いません。
私は慌てて叫びます。
「一か所に固まりすぎてはダメっ!!
皆、自分の持ち場を守ってっ!! 必要な采配は私がしますっ!!」
城の窓から私一人が叫んだところで命令が伝わるはずもなく、ジャコモが慌てて伝令を送り私の指令を伝えて回ります。
ジャコモはさらに半鐘を鳴らし、兵士を城に注目させて叫びます。
「ドアホウっ!!
総員、自分の持ち場を護れっ!! 手薄になったところから狙われるぞっ!!
人員の采配はこちらでするっ!! 各員、持ち場に戻れ~~っ!!
己の持ち場を死守するんだ~~~っ!!」
ジャコモの叫びは数名の兵士に伝わり、やがてそれが多くの兵士に伝わりました。それまでジャコモは半鐘を鳴らし続け、叫び続けました。
おかげで最悪の事態は避けられ、敵兵が城壁に取りつくまでに人員は適正な数が揃う様になりました。
しかし、それでもジャコモは顔をしかめます。
「これは最悪の事態ですな。
敵は恐らく2~2万5千の兵士で構成しています。これは我々の兵士よりも多い。しかも彼らの総勢は6万の兵士。順繰り交代させて昼夜問わずの構成を仕掛けてくるやもしれません。
そうなれば、我らは死傷者の数ではなく疲労で戦えなくなってしまいますな。」
私は頷きながらもすぐに対策は思いつかず、更にそれどころではない状況の対応で手一杯でした。
「ジャコモ。本国のフェデリコはどうしました? もう30日が過ぎているというのに一向に姿を見せないではありませんか・・・。」
「はっ・・・。それが既に2万5千の兵を整えて出国したそうですが・・・
道中でなにかあったのか一向に連絡がつかないとのことです。」
ジャコモも到着の遅いフェデリコに困り果てているようです。
(フェデリコの2万5千の兵が来てくれたら、現状は一気に変わるというのに・・・。)
(道中で2万5千の兵に何かあった?
もしかしてジェノバ軍と契約している精霊騎士の奇襲を受けたのかしら・・・。
いいえ。もし、敵国が精霊騎士を動かしていたというのなら、こちらにも攻撃を仕掛けてくるはずです。
それでは・・・一体何が?・・・)
この場で考えても仕方がないようなことを色々と考えてしまうのは、フェデリコの軍と言う私の切り札の一つを頼る気持ちが大きいからです。
あれやこれやと考えてしまいますが、それでも今勝利するために必要なものは、いつ来るかわからない援軍よりも今、この場で何をするべきかと言う事です。そして私はどうすればいいのかわかっています。正しい指令を兵に送ることです。
「兵士の規律を守らせなさいっ!!
どんなに慌てても経路を保持しなさい。皆が好き勝手に動けば物資の補給、負傷者の救助が滞り、一層、勝利することが困難になると伝えるのですっ!!」
そう伝令をしてから、私も城門の上に向かい兵士達を労います。
「慌てないでっ!! 最初から敵兵の数は把握しています。この程度の攻撃は想定内ですっ!!
各員のやるべきことをすれば、必ず勝てますっ!!
私を信じてっ!!」
私が歩きながら兵士たちに声がけすると、兵士たちは冷静さを取り戻して笑顔を見せてくれました。きっとみんなも誰かに大丈夫だと言って欲しいのでしょう。屈強な兵士たちですらそうなのですから、私などもっとです。ヴァレリオ様や明けの明星様に大丈夫だよと言って欲しいです。
いえ、明けの明星様はダメですね。あのお方が大丈夫とか仰ると大抵、波乱が起きます。
(それにしてもお飾りのお姫様だった私が随分と出世したものだこと)
私は自分の成長を実感しながらも、今の危機的状態がそれにゆっくりと浸る間もないのです。
「狭間を開けなさいっ!!(※狭間とは城壁に開けられた狙撃用の小窓の事)
接近しすぎた敵には落石以外に矢が必要ですっ!
城壁の上の兵士は引き続き遠方の兵士を打ちなさいっ!!
大丈夫ですっ!! 必ず勝てますっ!!」
必ず勝てますっ!! 私は何度そう叫んだでしょうか?
敵が必死の特攻を仕掛けて数時間後、ようやく敵が撤退していきました。
「総員、城壁の下の死体に油を投げつけ、火矢を放てっ!! 死体に隠れて敵が潜んでいるかもしれんぞっ!!
ジャコモの合図に兵士たちは疲労困憊の体で命令を続行します。たちまち城壁の外には火が上がり肢体を焼く嫌なにおいが立ち込めます。
「酷い匂いです・・・。」
私がハンカチで顔を覆いながら呟くとジャコモが申し訳なさそうに言いました。
「今夜の夜襲。敵兵が昼間の戦闘の死体に紛れていたとしか思えぬ手際の良さでした。
今後、こういったことが起きないようにするためにも必要な処置ではありますし、なにより、これから城壁の外の死体が腐ります。
どうぞ、ご勘弁願います。」
そう言って謝るジャコモの肩に私は無言で手を置いて「少し眠ります。あなたも交代で休みなさい。」と告げて寝室へと向かうのでした。
水浴びをして戦闘の疲れをいやすと、何も考えずに眠ります。
今、この時だけは何も考えず。誰の事も思わずに私は眠るのです。そうすることが疲れをいやす唯一の方法だと知っていたからですが、そんな気を回さなくても私はベッドに横たわると失神したかのように速やかに眠りについてしまうのでした。まさに疲労困憊の状態だったのです。
そんな眠りの中でも私は夢を見ました。明けの明星様の夢です。
何もない白い空間の中に私と明けの明星様の只二人きり。
そして明けの明星様は戦闘の激しさに身も心も疲れ切った私の体を抱きしめて慰めてくださるのでした。
「大丈夫か? ラーマ。
慈悲深いお前の事や。殺さなければ殺されるという状況であるとわかっていても、辛かったやろ?」
そういって私の髪を撫でてくださる明けの明星様。いつも私が何かをする時に励まして、慰めてくださる明けの明星様。そのお優しさに心が触れた時、私はもう我慢できなくなって明けの明星様の胸に頭を沈めて泣きじゃくるのです。
「嫌、嫌。嫌、もう嫌なのですっ!!
どうしてみんな殺しあうのですかっ!!
今日、敵も味方も大勢死にました。死んだ兵士には家族がいます。殺した兵士にも家族がっ!!
私は辛いのですっ!! もう、誰も殺したくないし、死んでほしくありませんっ!!
もう、嫌なのですっ!!」
身も心も疲れ果ててしまった私は子供のように泣き叫ぶのでした・・・。
ピエトロ・ルーは、ただで引き下がるような男ではありません。きっと、次の手を用意しているはず。しかし、それが見当もつかないのでした。不安な気持ちになる私ですが、異界の魔王様との決戦に備える明けの明星様とタヴァエル様は既に旅立たれたのか、お姿を何十日も拝見していません。誰かに頼りたくても頼る人がいないのです。
「ああ。こんなときアンナお姉様やヴァレリオ様がそばにいて下さったら・・・。」
魔神リーン・リーン・グー様のお話によれば、ヴァレリオ様たちと魔神スーリ・スーラ・リーン様たちとの決戦はとっくに決着がついているとのこと。ただし、お互いが決闘前に人間と魔族の戦争には不可侵であれという誓いを立てておられるそうで、決着がついたというのに私たちの戦争が終わるまでは帰還できないそうです。
契約違反。高貴な存在ほど契約に反する行為をしたときに受ける罰則は大きいのです。魔神やそれに等しい魔王の皆さんは相当な罰則を受けてしまうのでしょう。
魔神リーン・リーン・グー様はヴァレリオ様たちの決戦の結果は教えては下さりませんでしたが、お三方がお戻りになれない理由をご説明してくださっています。それは結果的にヴァレリオ様たちの勝利を証明するに等しいのです。そこはひとまず安心できることなのですが、それでも全員が無事のお戻りとは限りません、私の心は私たちの戦争とヴァレリオ様たちの安否の両方が気がかりだったのです。
しかし、今は戦時下。家臣団を無事に家族の元へ送り返してあげなくてはいけないという義務が私にはある以上、私情に囚われていてはいけません。なんといっても相手はピエトロ・ルー。一切の油断ができない敵なのです。
それだけに私の心は余計に不安となり、ヴァレリオ様たちを求めてしまうのでした。
そんな私の弱い心が表に出た独り言を聞いたジャコモが私を励ましてくれます。全くできた家臣ですね。
「あのお方たちなら、かならずどこかで姫様を見守っていてくださいますよ。
だから再会されるときに恥ずかしくないようにふるまわなければいけませんよ?」
ジャコモは励ますと言っても私を甘やかすのではなくまるで教育するように発破をかけてくるのです。その発破に刺激されて私は気持ちを入れ替えて頑張るのです。
「ジャコモ。ピエトロ・ルーは何を考えていると思いますか?
30日近くも間を開けてからの狂気じみた連続戦闘・・・。この次に何を企んでいるのでしょう?
あなたがピエトロ・ルーならば、次に何を狙いますか?」
私の質問を受けたジャコモは「夜襲ですね」と、即答しました。
「敵は恐らく夜襲を狙っているでしょう。
にらみ合いが続いて我々は精神的につかれています。さらに本日敵が行った正気を失ったような玉砕覚悟の突撃を打ち破った我が軍は今が一番気が緩みやすいのです。
にらみ合いの緊張から解放されたうえに、肉体的な疲労。そして勝利に浮きだった兵士の心理を考えるならば、今、夜襲を仕掛けない手はございません。私がピエトロ・ルーならそうします。」
ジャコモの予想は非常に明確で理にかなっています。私はジャコモの意見をくみ取って命令を出します。
「日のあるうちから交代で兵士を休憩をさせて夜襲に備える警備は万全にしておきなさい。
兵士たちには決して気を抜かぬように言い含めておきなさい。」
「はっ!」
ジャコモは私の命令を聞くと力強い返事を返して夜襲に備えるように部下たちに伝令するのでした。
戦勝ムードにのぼせ上らぬようにしなくてはいけないのです。そもそも、1回や2回の攻防戦を制したところで6万もの敵兵は揺らがないのです。
私は城の窓から見える敵の槍衾に脅威を感じずにはおられませんでした。
そうして、嫌な予感は的中しました。
その夜、夜襲があったのです。闇夜に紛れて敵が城壁をよじ登り、城下に侵入。そして城壁の門を破壊してしまったのです。
実行犯はたった十数名。決死の行動でした。彼らは我が軍の兵士には目もくれず、城門の前にまで進むと円陣防御を組んで城門の破壊工作をする3名を必死で守り抜き、城門の閂を止める金具を破壊することに成功しました。
彼らはそれで全滅してしまったのですが、彼らは最後の力を振り絞って「ワレ、ハカイセリッ!!」の絶叫を上げて城門の外の敵兵に知らせたのでした。
その知らせはあっという間に敵軍に伝わり、城門から少し離れた場所で闇夜に隠れて息をひそめていた敵兵が一斉に立ち上がり、攻勢を仕掛けてきました。
煌煌と燃え盛る敵の松明は何千という数にもなり、深夜だというのにまるで夕暮れのように一斉に明るくなるのでした。
その松明の数に城壁の兵士たちが血相を変えて叫びました。
「くるぞ~~~っ!!
城門を護れ~~~っ!!」
松明の数にパニックになった兵士たちは一斉に城門に集結してしまいます。
集団心理というものが起きて誰もがその行動を疑いません。
私は慌てて叫びます。
「一か所に固まりすぎてはダメっ!!
皆、自分の持ち場を守ってっ!! 必要な采配は私がしますっ!!」
城の窓から私一人が叫んだところで命令が伝わるはずもなく、ジャコモが慌てて伝令を送り私の指令を伝えて回ります。
ジャコモはさらに半鐘を鳴らし、兵士を城に注目させて叫びます。
「ドアホウっ!!
総員、自分の持ち場を護れっ!! 手薄になったところから狙われるぞっ!!
人員の采配はこちらでするっ!! 各員、持ち場に戻れ~~っ!!
己の持ち場を死守するんだ~~~っ!!」
ジャコモの叫びは数名の兵士に伝わり、やがてそれが多くの兵士に伝わりました。それまでジャコモは半鐘を鳴らし続け、叫び続けました。
おかげで最悪の事態は避けられ、敵兵が城壁に取りつくまでに人員は適正な数が揃う様になりました。
しかし、それでもジャコモは顔をしかめます。
「これは最悪の事態ですな。
敵は恐らく2~2万5千の兵士で構成しています。これは我々の兵士よりも多い。しかも彼らの総勢は6万の兵士。順繰り交代させて昼夜問わずの構成を仕掛けてくるやもしれません。
そうなれば、我らは死傷者の数ではなく疲労で戦えなくなってしまいますな。」
私は頷きながらもすぐに対策は思いつかず、更にそれどころではない状況の対応で手一杯でした。
「ジャコモ。本国のフェデリコはどうしました? もう30日が過ぎているというのに一向に姿を見せないではありませんか・・・。」
「はっ・・・。それが既に2万5千の兵を整えて出国したそうですが・・・
道中でなにかあったのか一向に連絡がつかないとのことです。」
ジャコモも到着の遅いフェデリコに困り果てているようです。
(フェデリコの2万5千の兵が来てくれたら、現状は一気に変わるというのに・・・。)
(道中で2万5千の兵に何かあった?
もしかしてジェノバ軍と契約している精霊騎士の奇襲を受けたのかしら・・・。
いいえ。もし、敵国が精霊騎士を動かしていたというのなら、こちらにも攻撃を仕掛けてくるはずです。
それでは・・・一体何が?・・・)
この場で考えても仕方がないようなことを色々と考えてしまうのは、フェデリコの軍と言う私の切り札の一つを頼る気持ちが大きいからです。
あれやこれやと考えてしまいますが、それでも今勝利するために必要なものは、いつ来るかわからない援軍よりも今、この場で何をするべきかと言う事です。そして私はどうすればいいのかわかっています。正しい指令を兵に送ることです。
「兵士の規律を守らせなさいっ!!
どんなに慌てても経路を保持しなさい。皆が好き勝手に動けば物資の補給、負傷者の救助が滞り、一層、勝利することが困難になると伝えるのですっ!!」
そう伝令をしてから、私も城門の上に向かい兵士達を労います。
「慌てないでっ!! 最初から敵兵の数は把握しています。この程度の攻撃は想定内ですっ!!
各員のやるべきことをすれば、必ず勝てますっ!!
私を信じてっ!!」
私が歩きながら兵士たちに声がけすると、兵士たちは冷静さを取り戻して笑顔を見せてくれました。きっとみんなも誰かに大丈夫だと言って欲しいのでしょう。屈強な兵士たちですらそうなのですから、私などもっとです。ヴァレリオ様や明けの明星様に大丈夫だよと言って欲しいです。
いえ、明けの明星様はダメですね。あのお方が大丈夫とか仰ると大抵、波乱が起きます。
(それにしてもお飾りのお姫様だった私が随分と出世したものだこと)
私は自分の成長を実感しながらも、今の危機的状態がそれにゆっくりと浸る間もないのです。
「狭間を開けなさいっ!!(※狭間とは城壁に開けられた狙撃用の小窓の事)
接近しすぎた敵には落石以外に矢が必要ですっ!
城壁の上の兵士は引き続き遠方の兵士を打ちなさいっ!!
大丈夫ですっ!! 必ず勝てますっ!!」
必ず勝てますっ!! 私は何度そう叫んだでしょうか?
敵が必死の特攻を仕掛けて数時間後、ようやく敵が撤退していきました。
「総員、城壁の下の死体に油を投げつけ、火矢を放てっ!! 死体に隠れて敵が潜んでいるかもしれんぞっ!!
ジャコモの合図に兵士たちは疲労困憊の体で命令を続行します。たちまち城壁の外には火が上がり肢体を焼く嫌なにおいが立ち込めます。
「酷い匂いです・・・。」
私がハンカチで顔を覆いながら呟くとジャコモが申し訳なさそうに言いました。
「今夜の夜襲。敵兵が昼間の戦闘の死体に紛れていたとしか思えぬ手際の良さでした。
今後、こういったことが起きないようにするためにも必要な処置ではありますし、なにより、これから城壁の外の死体が腐ります。
どうぞ、ご勘弁願います。」
そう言って謝るジャコモの肩に私は無言で手を置いて「少し眠ります。あなたも交代で休みなさい。」と告げて寝室へと向かうのでした。
水浴びをして戦闘の疲れをいやすと、何も考えずに眠ります。
今、この時だけは何も考えず。誰の事も思わずに私は眠るのです。そうすることが疲れをいやす唯一の方法だと知っていたからですが、そんな気を回さなくても私はベッドに横たわると失神したかのように速やかに眠りについてしまうのでした。まさに疲労困憊の状態だったのです。
そんな眠りの中でも私は夢を見ました。明けの明星様の夢です。
何もない白い空間の中に私と明けの明星様の只二人きり。
そして明けの明星様は戦闘の激しさに身も心も疲れ切った私の体を抱きしめて慰めてくださるのでした。
「大丈夫か? ラーマ。
慈悲深いお前の事や。殺さなければ殺されるという状況であるとわかっていても、辛かったやろ?」
そういって私の髪を撫でてくださる明けの明星様。いつも私が何かをする時に励まして、慰めてくださる明けの明星様。そのお優しさに心が触れた時、私はもう我慢できなくなって明けの明星様の胸に頭を沈めて泣きじゃくるのです。
「嫌、嫌。嫌、もう嫌なのですっ!!
どうしてみんな殺しあうのですかっ!!
今日、敵も味方も大勢死にました。死んだ兵士には家族がいます。殺した兵士にも家族がっ!!
私は辛いのですっ!! もう、誰も殺したくないし、死んでほしくありませんっ!!
もう、嫌なのですっ!!」
身も心も疲れ果ててしまった私は子供のように泣き叫ぶのでした・・・。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる