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第3章「ゴルゴダの丘」
第77話 フェデリコと言う狂気
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「ピエトロ・ルー。噂にたがわぬどころか噂以上の男ですな。
一晩にあのバリケードを完全な砦にすることは普通は不可能です。
きっとあいつは、睨み合っていた30日の間に攻城戦用の兵器とこの砦を作るための木材の切り出しなどを進めていたのでしょう。
きっと彼は戦争だけでなくこういった建築の知識もずば抜けて高いのでしょう。
・・・・・常人にはとても思いつかぬ作戦です。まさに戦の天才と脱帽するよりほかありません。」
迫りくる敵軍の数と勢い。そして目の前の砦。私でなくても既に戦況が決したことは理解できました。
「どうやら私たちは負け始めたようですね・・・。」
私の考えにジャコモは同意し頷きました。
「ジャコモ。ごめんなさい。私の失策です。
昨日、騎馬兵を出してあのバリケードを攻撃しておくべきでした。」
「姫様。それは結果論です。あの時点でこうなることは誰にも予測は出来ませんでしたし、騎兵を出して撃退に成功したかどうかも分からないのです。騎兵を出して敵の反撃にあって大痛手を受けていた場合、その後の戦闘に差し支えていました。結果は誰にもわからなかったことです。」
「それよりも大変マズいことになりました。城門の前にあのような砦を築かれては、こちらは本当にもう城門を開けて大部隊を外に出すことができません。敵に進入路を明け渡すも同然ですからな。
その上で向こうはこちらが騎兵を出せぬのをいいことに城壁から届く矢の間合いを外すようにして城を取り囲みに来るでしょう。そうなれば、退路すらない。
取り囲まれる前の今のうちに城を捨てて逃げるべきかもしれません・・・。」
これ以上の籠城はむしろ全滅を呼ぶ・・・。ジャコモはハッキリとは言いませんでしたが、そう言いたいのでしょう。そしてその意見は恐らく正しい。私も手遅れになる前に撤退の命令を出そうと思いましたが、時すでに遅し。
敵はジャコモの予測通り、我が城を囲みだしたのです。それも驚くほど手際よく。彼の采配のレベルの高さをまざまざと見せつけられてしまいました。
このように城を取り囲まれてしまっては私たちは城から出るに出られません。もはや私たちは文字通り袋のネズミになったのです。
私たちだけでなく城の兵士たちもがこの絶望に気が付生き始めた時、ピエトロ・ルーが馬に乗って城門の前に姿を現して挑発します。
「どうだっ!! ラーマよっ!!
これが戦争だっ!! 城の中に逃げ隠れすることばかり考えていたお前の失策だ。
これから総攻撃をかけてじわりじわりとお前たちを殺してやるが、ラーマよ。お前だけは別だ。必ず捕縛し、生きていることを後悔したくなるほどの恥辱を味合わせてやるから覚悟しろっ!!
お前のその馬鹿げたサイズの乳房と細い腰、大きな腰は今回戦に参戦した兵士の最大の慰み物となろうっ!!」
ピエトロ・ルーはそう下品な宣言すると城を取り囲む軍に突撃の合図を送るのでした。
ピエトロ・ルーの合図とともに戦場にけたたましい太鼓の音が鳴り響いたかと思うと6万の兵が一気に襲い掛かってきます。万事休す。私たちはまさに絶体絶命の危機でした。逃げることさえできない私たちは連日の戦闘で疲労困憊。対する敵は30日以上籠城戦の相手をさせられてストレスがたまっていたのでしょう。信じがたいほど凄まじい勢いで攻撃してきます。対する私たちも必死で応戦しましたが、敵の数と勢いに我々の疲労。もはや戦況は決定してしまっていました。
私たちの敗北です。
・・・ですが・・・。
ですがその時、敵も味方もああまりにも自分たちの戦争に必死過ぎたために全員が城壁の攻防だけに注目していました。
だからその時になるまで誰も気が付かなかったのです。
2万5千を超えるフェデリコの軍勢がジェノバ軍に奇襲を仕掛けようと近づいてきていることに・・・。
「ああっ!!
ひ、姫様~~っ!! ご覧くださいっ!! 援軍ですっ!!
あの旗はエデンのっ・・・フェデリコ様の軍勢ですっ!!」
もはや休息の余裕さえなく、疲れ切った体に鞭打って城壁から矢をつがえて応戦していたディエゴがエデンの方角を指差すと、何処からともなく現れたフェデリコの軍勢が一気にこちらに押し寄せてくるのですっ!!
「ああああっ!!!!」
私は感極まって言葉にならない叫びを上げました。そして、キャーキャー叫びながらジェノバ軍を蹴散らして進軍してくるフェデリコの軍を応援しました。
「ば、ばかなっ! このタイミングで援軍だとっ!?
い、一体。今までどこで何をしていたのだっ!?」
ピエトロ・ルーが驚愕する声は城門の上まで届き、「引けえ~~~っ! 分散した兵力では、あの軍勢の餌食にされるぞっ!! ひけえええ~~~っ!」と、必死の叫びをあげる声も聞こえました。
しかし、城塞の周囲に広がってしまったジェノバ軍にはその下知は一度には届かず、拡散してしまった彼らの軍隊は2万5千が一点集中したフェデリコの軍勢に大損害を被るのでした。
奇襲。まさにこれは奇襲でした。敵は私たちの籠城が長すぎたので、援軍に対する配慮が欠けてしまっていました。それ故に6万の兵を分散させて城を取り囲んでしまったのです。
ジェノバ軍は突如飛来した捕食者から逃げるネズミの如く、我を忘れて後方へ下がり、遂には折角建てた砦すら放棄してしまったのでした・・・。
「フェデリコ様っ!! 万歳っ!!
フェデリコ様っ!! 万歳っ!!」
敵をはるか後方へ押し戻し、砦に火を放ってから悠々と城門から入って来るフェデリコは戦争の英雄として多くの兵士から迎えられました・・・。その歓声は遠く敵陣にまで届いたことでしょう・・・。
「フェデリコ・・・ありがとう。助かりました。
あなたはこの戦の功労者ですね・・・・。」
私はそう言ってフェデリコを抱きしめると耳元で「後で執務室で話があります。この卑怯物っ!!」と囁いてやりました。そのときのフェデリコの憎らしい笑顔を私は一生忘れないでしょう。
私は戦勝ムードに染まる城内の空気を途切らせたくなくて敢えて兵士の前ではフェデリコを褒めたたえましたが、その後、執務室に彼を呼び出して尋問をするのです。
私と二人きりで椅子に座って向かい合うフェデリコは既に覚悟が決まっているようで、表情は落ち着いていました。私はそれが憎らしく、腹が立って問い詰めました。
「狙っていたのですね? 私たちが窮地に立たされ城が取り囲まれるのをどこかで隠れ見ていたのですねっ!?」
あまりにもタイミングがよすぎる奇襲とこれまで姿をくらませていたフェデリコ。その理由は一つしかありません。
「あなたは今まで、姿をくらませて私たちが死線を乗り越えるのを黙って見ていた。そして、最高のタイミングを見計らって奇襲を仕掛けた。
その手腕は見事ですが、その間に籠城戦でどれほどの兵士が矢傷を受けたり夜襲にあって命を落としたと思っているのですか?
城内をごらんなさいっ!! いたるところに負傷兵と埋葬された死者が眠っています。
あなたは・・・自分が英雄となるためにこれだけの兵士を犠牲にした自覚があるのですかっ!!」
テーブルを叩きながら私がそう問い詰めてもフェデリコは表情を変えることなく無言で頷くと、自分の弁明を始めるのです。
「姫様。古来、囮作戦、籠城戦とはそういうものです。
囮は必死であればあるほど、そして追い詰められれば追い詰められるほど、敵兵を囮に集中させることができるのです。
敵を騙すときは先ず味方からと申しましょう。城を護るゴルゴダ軍には必死にあがいてもらわねば成功しない作戦だったのです。」
彼は悪びれもせずにそう言いました。私は彼をキッと睨みつけると再び問います。
「あなたはどういう気分で私たちの死闘を見ていたのですか?
『そろそろ出番かな? ほら、頑張れ頑張れ』そんな高みの見物で私の家臣達の死を見ていたのですかっ!?
あなたをこの戦の英雄に仕立て上げるために、多くの兵士を見殺しにして、よく平気でしたねっ!?」
私はフェデリコの奇襲作戦が成功した理由と彼の行動が許せず、怒りに任せて彼をなじりました。彼はそれをじっと聞いていましたが、やがて本心を語るのでした。
「ラーマ姫様。私がどんな気持ちでいたのかは口にしても仕方が無い事。
しかし、結果的にそうしなければ、我らの軍勢はもっと大損害を被ったことは火を見るよりも明らか。
私はピエトロ・ルーが水路を落とすのを見た際に、その手腕に驚き、簡単に突撃するわけにはいかない相手だと悟りました。
あのような強敵には尋常な作戦など通用するはずがございません。ですからこのタイミングをじっと待っていました。
しかし、姫様もよく頑張りましたな。正直、城を取り囲む失策などあのピエトロ・ルーが犯すハズも御座いません。こんなに短期間のうちに彼が作戦を見誤るほど、あなたは彼を追い詰めたのです。それを誇りにしてください。
そしてその甲斐あって私の奇襲は成功し我れらの損害は千名ほどで済みました。」
彼は真顔でそう言いました。「損害は千名ほどで済みました」と。その顔はまるで誇らしげでもありました。
私は言葉を失ってしまいました。だって彼は何も悪い事をしたと思っていないのですから。
そうして、そこまで来て初めて私はヴァレリオ様がフェデリコを頼る様に指示なさった時の言葉を思い出したのです。
『それから君の権限で増援とフェデリコをここに呼んでくれ。優秀で信頼できる指揮官が欲しい。あの男の狂気的な作戦は思慮深いジェノバのピエトロ・ルーに刺さるはずだ。』
そう、全てはヴァレリオ様の予想通りになったのです。フェデリコの狂気じみた作戦は見事にピエトロ・ルーを敗北せしめたのでした・・・。
そのことを思い知った私は、もう何も言えませんでした。フェデリコをなじってやりたい気持ちで一杯なのに、彼が自分のなすべきことを成したという事を認めざるを得なかったからです。
私がフェデリコを非難することを諦めたことをフェデリコは敏感に察したのでしょう。さらに自分の作戦を語り始めたのです。
「姫様。私は何もせずにただ傍観していたわけでは御座いません。森の木々を切り、十分な矢の補充をご用意しました。さらに保存食を作って持ってきてあります。
この籠城戦はさらに長期にわたって成功させることができるでしょう。」
そういってフェデリコはこの30日の間に自分が用意した武器、食料、衣料品の一覧表を提示し、さらに説明をするのです。
「それからですな。敵の目線がこちらに集中している間に敵に奪取された水路も奪い返して御座います。
そろそろ再び水がこの地に流れてくるはずです。
水路の防衛に当たっていたロレンツォ・バローネ男爵。彼なら完璧に作戦をこなすでしょう・・・。若いのによく気が付く男でしたな。」
フェデリコがそう口にしたとき、見計らったかのように大量の水が上方から流れてきたのです。
フェデリコはその水流を窓から覗き見て誇らしげに言いました。
「大川の方で水をためておいたのです。
その水が一気にゴルゴダに流れてきています。
さぁ、これで振出しに戻りました。長い長い日殺し作戦の始まりです。」
まるで戦争が継続されることを喜ぶようなその時のフェデリコの残忍な笑顔に私は震え上がり、怖くなって執務室から逃げ出しました。
そんな私を嘲笑うかのようにフェデリコが大笑いする声が室内にこだまするのが背後から聞こえてくるのでした。
一晩にあのバリケードを完全な砦にすることは普通は不可能です。
きっとあいつは、睨み合っていた30日の間に攻城戦用の兵器とこの砦を作るための木材の切り出しなどを進めていたのでしょう。
きっと彼は戦争だけでなくこういった建築の知識もずば抜けて高いのでしょう。
・・・・・常人にはとても思いつかぬ作戦です。まさに戦の天才と脱帽するよりほかありません。」
迫りくる敵軍の数と勢い。そして目の前の砦。私でなくても既に戦況が決したことは理解できました。
「どうやら私たちは負け始めたようですね・・・。」
私の考えにジャコモは同意し頷きました。
「ジャコモ。ごめんなさい。私の失策です。
昨日、騎馬兵を出してあのバリケードを攻撃しておくべきでした。」
「姫様。それは結果論です。あの時点でこうなることは誰にも予測は出来ませんでしたし、騎兵を出して撃退に成功したかどうかも分からないのです。騎兵を出して敵の反撃にあって大痛手を受けていた場合、その後の戦闘に差し支えていました。結果は誰にもわからなかったことです。」
「それよりも大変マズいことになりました。城門の前にあのような砦を築かれては、こちらは本当にもう城門を開けて大部隊を外に出すことができません。敵に進入路を明け渡すも同然ですからな。
その上で向こうはこちらが騎兵を出せぬのをいいことに城壁から届く矢の間合いを外すようにして城を取り囲みに来るでしょう。そうなれば、退路すらない。
取り囲まれる前の今のうちに城を捨てて逃げるべきかもしれません・・・。」
これ以上の籠城はむしろ全滅を呼ぶ・・・。ジャコモはハッキリとは言いませんでしたが、そう言いたいのでしょう。そしてその意見は恐らく正しい。私も手遅れになる前に撤退の命令を出そうと思いましたが、時すでに遅し。
敵はジャコモの予測通り、我が城を囲みだしたのです。それも驚くほど手際よく。彼の采配のレベルの高さをまざまざと見せつけられてしまいました。
このように城を取り囲まれてしまっては私たちは城から出るに出られません。もはや私たちは文字通り袋のネズミになったのです。
私たちだけでなく城の兵士たちもがこの絶望に気が付生き始めた時、ピエトロ・ルーが馬に乗って城門の前に姿を現して挑発します。
「どうだっ!! ラーマよっ!!
これが戦争だっ!! 城の中に逃げ隠れすることばかり考えていたお前の失策だ。
これから総攻撃をかけてじわりじわりとお前たちを殺してやるが、ラーマよ。お前だけは別だ。必ず捕縛し、生きていることを後悔したくなるほどの恥辱を味合わせてやるから覚悟しろっ!!
お前のその馬鹿げたサイズの乳房と細い腰、大きな腰は今回戦に参戦した兵士の最大の慰み物となろうっ!!」
ピエトロ・ルーはそう下品な宣言すると城を取り囲む軍に突撃の合図を送るのでした。
ピエトロ・ルーの合図とともに戦場にけたたましい太鼓の音が鳴り響いたかと思うと6万の兵が一気に襲い掛かってきます。万事休す。私たちはまさに絶体絶命の危機でした。逃げることさえできない私たちは連日の戦闘で疲労困憊。対する敵は30日以上籠城戦の相手をさせられてストレスがたまっていたのでしょう。信じがたいほど凄まじい勢いで攻撃してきます。対する私たちも必死で応戦しましたが、敵の数と勢いに我々の疲労。もはや戦況は決定してしまっていました。
私たちの敗北です。
・・・ですが・・・。
ですがその時、敵も味方もああまりにも自分たちの戦争に必死過ぎたために全員が城壁の攻防だけに注目していました。
だからその時になるまで誰も気が付かなかったのです。
2万5千を超えるフェデリコの軍勢がジェノバ軍に奇襲を仕掛けようと近づいてきていることに・・・。
「ああっ!!
ひ、姫様~~っ!! ご覧くださいっ!! 援軍ですっ!!
あの旗はエデンのっ・・・フェデリコ様の軍勢ですっ!!」
もはや休息の余裕さえなく、疲れ切った体に鞭打って城壁から矢をつがえて応戦していたディエゴがエデンの方角を指差すと、何処からともなく現れたフェデリコの軍勢が一気にこちらに押し寄せてくるのですっ!!
「ああああっ!!!!」
私は感極まって言葉にならない叫びを上げました。そして、キャーキャー叫びながらジェノバ軍を蹴散らして進軍してくるフェデリコの軍を応援しました。
「ば、ばかなっ! このタイミングで援軍だとっ!?
い、一体。今までどこで何をしていたのだっ!?」
ピエトロ・ルーが驚愕する声は城門の上まで届き、「引けえ~~~っ! 分散した兵力では、あの軍勢の餌食にされるぞっ!! ひけえええ~~~っ!」と、必死の叫びをあげる声も聞こえました。
しかし、城塞の周囲に広がってしまったジェノバ軍にはその下知は一度には届かず、拡散してしまった彼らの軍隊は2万5千が一点集中したフェデリコの軍勢に大損害を被るのでした。
奇襲。まさにこれは奇襲でした。敵は私たちの籠城が長すぎたので、援軍に対する配慮が欠けてしまっていました。それ故に6万の兵を分散させて城を取り囲んでしまったのです。
ジェノバ軍は突如飛来した捕食者から逃げるネズミの如く、我を忘れて後方へ下がり、遂には折角建てた砦すら放棄してしまったのでした・・・。
「フェデリコ様っ!! 万歳っ!!
フェデリコ様っ!! 万歳っ!!」
敵をはるか後方へ押し戻し、砦に火を放ってから悠々と城門から入って来るフェデリコは戦争の英雄として多くの兵士から迎えられました・・・。その歓声は遠く敵陣にまで届いたことでしょう・・・。
「フェデリコ・・・ありがとう。助かりました。
あなたはこの戦の功労者ですね・・・・。」
私はそう言ってフェデリコを抱きしめると耳元で「後で執務室で話があります。この卑怯物っ!!」と囁いてやりました。そのときのフェデリコの憎らしい笑顔を私は一生忘れないでしょう。
私は戦勝ムードに染まる城内の空気を途切らせたくなくて敢えて兵士の前ではフェデリコを褒めたたえましたが、その後、執務室に彼を呼び出して尋問をするのです。
私と二人きりで椅子に座って向かい合うフェデリコは既に覚悟が決まっているようで、表情は落ち着いていました。私はそれが憎らしく、腹が立って問い詰めました。
「狙っていたのですね? 私たちが窮地に立たされ城が取り囲まれるのをどこかで隠れ見ていたのですねっ!?」
あまりにもタイミングがよすぎる奇襲とこれまで姿をくらませていたフェデリコ。その理由は一つしかありません。
「あなたは今まで、姿をくらませて私たちが死線を乗り越えるのを黙って見ていた。そして、最高のタイミングを見計らって奇襲を仕掛けた。
その手腕は見事ですが、その間に籠城戦でどれほどの兵士が矢傷を受けたり夜襲にあって命を落としたと思っているのですか?
城内をごらんなさいっ!! いたるところに負傷兵と埋葬された死者が眠っています。
あなたは・・・自分が英雄となるためにこれだけの兵士を犠牲にした自覚があるのですかっ!!」
テーブルを叩きながら私がそう問い詰めてもフェデリコは表情を変えることなく無言で頷くと、自分の弁明を始めるのです。
「姫様。古来、囮作戦、籠城戦とはそういうものです。
囮は必死であればあるほど、そして追い詰められれば追い詰められるほど、敵兵を囮に集中させることができるのです。
敵を騙すときは先ず味方からと申しましょう。城を護るゴルゴダ軍には必死にあがいてもらわねば成功しない作戦だったのです。」
彼は悪びれもせずにそう言いました。私は彼をキッと睨みつけると再び問います。
「あなたはどういう気分で私たちの死闘を見ていたのですか?
『そろそろ出番かな? ほら、頑張れ頑張れ』そんな高みの見物で私の家臣達の死を見ていたのですかっ!?
あなたをこの戦の英雄に仕立て上げるために、多くの兵士を見殺しにして、よく平気でしたねっ!?」
私はフェデリコの奇襲作戦が成功した理由と彼の行動が許せず、怒りに任せて彼をなじりました。彼はそれをじっと聞いていましたが、やがて本心を語るのでした。
「ラーマ姫様。私がどんな気持ちでいたのかは口にしても仕方が無い事。
しかし、結果的にそうしなければ、我らの軍勢はもっと大損害を被ったことは火を見るよりも明らか。
私はピエトロ・ルーが水路を落とすのを見た際に、その手腕に驚き、簡単に突撃するわけにはいかない相手だと悟りました。
あのような強敵には尋常な作戦など通用するはずがございません。ですからこのタイミングをじっと待っていました。
しかし、姫様もよく頑張りましたな。正直、城を取り囲む失策などあのピエトロ・ルーが犯すハズも御座いません。こんなに短期間のうちに彼が作戦を見誤るほど、あなたは彼を追い詰めたのです。それを誇りにしてください。
そしてその甲斐あって私の奇襲は成功し我れらの損害は千名ほどで済みました。」
彼は真顔でそう言いました。「損害は千名ほどで済みました」と。その顔はまるで誇らしげでもありました。
私は言葉を失ってしまいました。だって彼は何も悪い事をしたと思っていないのですから。
そうして、そこまで来て初めて私はヴァレリオ様がフェデリコを頼る様に指示なさった時の言葉を思い出したのです。
『それから君の権限で増援とフェデリコをここに呼んでくれ。優秀で信頼できる指揮官が欲しい。あの男の狂気的な作戦は思慮深いジェノバのピエトロ・ルーに刺さるはずだ。』
そう、全てはヴァレリオ様の予想通りになったのです。フェデリコの狂気じみた作戦は見事にピエトロ・ルーを敗北せしめたのでした・・・。
そのことを思い知った私は、もう何も言えませんでした。フェデリコをなじってやりたい気持ちで一杯なのに、彼が自分のなすべきことを成したという事を認めざるを得なかったからです。
私がフェデリコを非難することを諦めたことをフェデリコは敏感に察したのでしょう。さらに自分の作戦を語り始めたのです。
「姫様。私は何もせずにただ傍観していたわけでは御座いません。森の木々を切り、十分な矢の補充をご用意しました。さらに保存食を作って持ってきてあります。
この籠城戦はさらに長期にわたって成功させることができるでしょう。」
そういってフェデリコはこの30日の間に自分が用意した武器、食料、衣料品の一覧表を提示し、さらに説明をするのです。
「それからですな。敵の目線がこちらに集中している間に敵に奪取された水路も奪い返して御座います。
そろそろ再び水がこの地に流れてくるはずです。
水路の防衛に当たっていたロレンツォ・バローネ男爵。彼なら完璧に作戦をこなすでしょう・・・。若いのによく気が付く男でしたな。」
フェデリコがそう口にしたとき、見計らったかのように大量の水が上方から流れてきたのです。
フェデリコはその水流を窓から覗き見て誇らしげに言いました。
「大川の方で水をためておいたのです。
その水が一気にゴルゴダに流れてきています。
さぁ、これで振出しに戻りました。長い長い日殺し作戦の始まりです。」
まるで戦争が継続されることを喜ぶようなその時のフェデリコの残忍な笑顔に私は震え上がり、怖くなって執務室から逃げ出しました。
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