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榊美保の誰にも言えない秘密
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「でやぁああああああ! こいつを喰らいなさいっ!」
波動ナマズの反応を探し求めて、住宅街から山間部の方へと北上してきたミホたちは、バイクくらいの大きさをもつ波動ナマズを発見して仕留める。ミホの刃に真っ二つにされた波動ナマズは為す術なく塵となって消えていった。
「これでもう十五匹目になるのか……。ミホはこんな大変な作業を毎日しているの?」
戻ってきたミホにお疲れ様と声をかけながら、忍武は彼女に何気ない質問をしてみる。
「いいえ、わたしも一日でこんなに遭遇したことは滅多に無いわ。わたしの索敵能力が低いだけだったのかもしれないけど、こんな異常事態は何か恐ろしい異変の前触れなのかもね……」
「異変……というと……?」
忍武もなんとなくそれを感じていた。なんせ七年間ずっとミホと同じ波動が視える眼を所有しておきながら、忍武の方はこんな波動ナマズの存在なんて気付きもしなかったのである。ミホも言っていたが、本来ナマズの浮上率はとても低いものらしい。
「以前にもこんな似たような兆候の日が一度だけあったわ。それは、わたしの母が奴らに殺された2011年の4月11日―――――そう、7年前の鷹月地震の日よ」
「奴らに殺された……だって?」
「ええ、その日は何故か今まで見た事がないくらい波動ナマズが大量発生して榊神社を襲撃してきたの。母は優秀な能力者ではあったけれど、ああも一斉に襲い掛かられては為す術が無かった。わたしもその頃は幼い未熟な能力者だったからどうしようもなかった……。震災が起きたのはその直後だったの……」
「そうだったのか……、じゃあ、僕とミホの立場は似たようなものなのかもね。実は僕も母さんをあの地震で殺されているんだ」
「えっ……!? あなたのお母様、あの震災で亡くなっていらしたの……!?」
その瞬間、ミホの顔色が変わる。何かに怯えるかのようにカタカタと震えていた。
「そうだよ。今日、鷹月霊園に行ってたのもその墓参りの為じゃないか」
「気付かなかったわ……ごめんなさい。こんな話して、嫌な事を思い出させちゃって……」
「いやいや、そんなことはないよ。母さんの死についてはもうとっくに気持ちの整理はついてるし。まぁ、その鷹月断層ナマズってのがもし本当に、母さんを殺した元凶だって言うんなら、僕はもう一度この過去と向き合わなきゃいけないと思い始めているけどね。君だってそうなんでしょ?」
忍武は自分が何かまずい事でも言ったのかと思って、慌てて補足するが、ミホは青い顔をして目をそらしたままだった。途端に態度が変わって急にしおらしくなる。
「……違う……違うの……。わたしの母を殺したのは鷹月断層ナマズの方じゃなくて、わたしは……本当は……本当は……」
「……? それってどういう……?」
ミホは何かに懺悔するかのように、下を向いてぶつぶつと呟いていた。そして、彼女は踵を返したかと思うと、どこかへ歩き始める。
「……あなたを利用しようとしたりして、本当にごめんなさい。やはり、あなたはこの件に巻き込まれるべきではなかった。知るべきではなかった。後はわたし一人で全てに決着をつけておくから、あなたはもう家に帰りなさい」
「なっ……!? そんな、ミホ!?」
唐突な別れを告げられて戸惑う忍武。何がいけなかったのかまるでわからない。
「どうしちゃったんだよ急に!? 何か僕が余計なこと言ったのなら謝るからさ。教えてくれよ!」
忍武はミホを追いかけようと駆け出す。
「違うの……、悪いのはわたしなの……」
「待てよ! とにかく訳を聞かせてくれよ!」
忍武がミホに追いつくと、彼女が小声でそう呟くのが聴こえた。忍武はそんな彼女を引き留めようと、肩に手を伸ばす。
「お願い! 帰って!」
しかし、ミホはその忍武の手を振り払い、左手に波動関数(ファンクション)を出現させてまで忍武を威嚇し、距離をとる。
「あなたは『こちら側』へ来るべきじゃない。今まで通り、平和な日常へ戻るべきなのよ。わたしはこれ以上あなたを傷付けたくないの! こんな『役目』はわたし一人で十分なのよ!」
忍武を睨み付けるミホの瞳からは僅かに涙がこぼれていた。そんな彼女の顔を見た忍武はどうすればいいのかわからずに立ち尽くす。
「ミホ…………」
その時だった、今までにない程の大振動を忍武が感じ取ったのは。その波動から視えたのは、さっきまでのナマズたちと比べものにならないサイズの魚影だった。忍武たちはあまりの振動に立っていられなくなり、その場でへたり込んでしまう。
「こっ、この大きさは……!? しかもこの距離、方角はッ……、まさか学校!?」
「くっ……! ついに現れてしまったのというの……!? あなたは危ないからここで待機していなさい! ここから先は戦闘能力者の仕事よ!」
忍武の分析を聞いたミホはすぐに立ち上がって戦闘モードに入る。忍武が見ている前でも構わずに例の着物姿へ変身したかと思うと、跳躍して住宅の屋根へと飛び移り、そのまま鷹月北高校の方へと駆けて行ってしまった。
波動ナマズの反応を探し求めて、住宅街から山間部の方へと北上してきたミホたちは、バイクくらいの大きさをもつ波動ナマズを発見して仕留める。ミホの刃に真っ二つにされた波動ナマズは為す術なく塵となって消えていった。
「これでもう十五匹目になるのか……。ミホはこんな大変な作業を毎日しているの?」
戻ってきたミホにお疲れ様と声をかけながら、忍武は彼女に何気ない質問をしてみる。
「いいえ、わたしも一日でこんなに遭遇したことは滅多に無いわ。わたしの索敵能力が低いだけだったのかもしれないけど、こんな異常事態は何か恐ろしい異変の前触れなのかもね……」
「異変……というと……?」
忍武もなんとなくそれを感じていた。なんせ七年間ずっとミホと同じ波動が視える眼を所有しておきながら、忍武の方はこんな波動ナマズの存在なんて気付きもしなかったのである。ミホも言っていたが、本来ナマズの浮上率はとても低いものらしい。
「以前にもこんな似たような兆候の日が一度だけあったわ。それは、わたしの母が奴らに殺された2011年の4月11日―――――そう、7年前の鷹月地震の日よ」
「奴らに殺された……だって?」
「ええ、その日は何故か今まで見た事がないくらい波動ナマズが大量発生して榊神社を襲撃してきたの。母は優秀な能力者ではあったけれど、ああも一斉に襲い掛かられては為す術が無かった。わたしもその頃は幼い未熟な能力者だったからどうしようもなかった……。震災が起きたのはその直後だったの……」
「そうだったのか……、じゃあ、僕とミホの立場は似たようなものなのかもね。実は僕も母さんをあの地震で殺されているんだ」
「えっ……!? あなたのお母様、あの震災で亡くなっていらしたの……!?」
その瞬間、ミホの顔色が変わる。何かに怯えるかのようにカタカタと震えていた。
「そうだよ。今日、鷹月霊園に行ってたのもその墓参りの為じゃないか」
「気付かなかったわ……ごめんなさい。こんな話して、嫌な事を思い出させちゃって……」
「いやいや、そんなことはないよ。母さんの死についてはもうとっくに気持ちの整理はついてるし。まぁ、その鷹月断層ナマズってのがもし本当に、母さんを殺した元凶だって言うんなら、僕はもう一度この過去と向き合わなきゃいけないと思い始めているけどね。君だってそうなんでしょ?」
忍武は自分が何かまずい事でも言ったのかと思って、慌てて補足するが、ミホは青い顔をして目をそらしたままだった。途端に態度が変わって急にしおらしくなる。
「……違う……違うの……。わたしの母を殺したのは鷹月断層ナマズの方じゃなくて、わたしは……本当は……本当は……」
「……? それってどういう……?」
ミホは何かに懺悔するかのように、下を向いてぶつぶつと呟いていた。そして、彼女は踵を返したかと思うと、どこかへ歩き始める。
「……あなたを利用しようとしたりして、本当にごめんなさい。やはり、あなたはこの件に巻き込まれるべきではなかった。知るべきではなかった。後はわたし一人で全てに決着をつけておくから、あなたはもう家に帰りなさい」
「なっ……!? そんな、ミホ!?」
唐突な別れを告げられて戸惑う忍武。何がいけなかったのかまるでわからない。
「どうしちゃったんだよ急に!? 何か僕が余計なこと言ったのなら謝るからさ。教えてくれよ!」
忍武はミホを追いかけようと駆け出す。
「違うの……、悪いのはわたしなの……」
「待てよ! とにかく訳を聞かせてくれよ!」
忍武がミホに追いつくと、彼女が小声でそう呟くのが聴こえた。忍武はそんな彼女を引き留めようと、肩に手を伸ばす。
「お願い! 帰って!」
しかし、ミホはその忍武の手を振り払い、左手に波動関数(ファンクション)を出現させてまで忍武を威嚇し、距離をとる。
「あなたは『こちら側』へ来るべきじゃない。今まで通り、平和な日常へ戻るべきなのよ。わたしはこれ以上あなたを傷付けたくないの! こんな『役目』はわたし一人で十分なのよ!」
忍武を睨み付けるミホの瞳からは僅かに涙がこぼれていた。そんな彼女の顔を見た忍武はどうすればいいのかわからずに立ち尽くす。
「ミホ…………」
その時だった、今までにない程の大振動を忍武が感じ取ったのは。その波動から視えたのは、さっきまでのナマズたちと比べものにならないサイズの魚影だった。忍武たちはあまりの振動に立っていられなくなり、その場でへたり込んでしまう。
「こっ、この大きさは……!? しかもこの距離、方角はッ……、まさか学校!?」
「くっ……! ついに現れてしまったのというの……!? あなたは危ないからここで待機していなさい! ここから先は戦闘能力者の仕事よ!」
忍武の分析を聞いたミホはすぐに立ち上がって戦闘モードに入る。忍武が見ている前でも構わずに例の着物姿へ変身したかと思うと、跳躍して住宅の屋根へと飛び移り、そのまま鷹月北高校の方へと駆けて行ってしまった。
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