「ラジエイターズ 」ー放射能力者ー

我破破

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鬼神の舌

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「わたしのこの手で終わらせなきゃいけないんだ。もうこれ以上、あのナマズの被害者は出させない!」

 榊美保は鷹月北高校へ向かって全速力で駆けていた。屋根から屋根へと跳躍し、高速道路まで飛び越えて、丘の上の学校へと近づく。

「まずい……! もう攻撃が始まっているっ……!」

 ついに、その最大級の波動ナマズはグラウンドから飛び出して、姿を現した。その大きさは校舎と同じくらいもあり、触手のような髭を何本も持っていて、黒く邪悪な波動を全身に纏っていた。校舎の上に浮かんだその巨大ナマズは、やがて放課後に残っている生徒や教師たちの命の波動を吸収し始めて、次々と皆気を失って倒れてゆく。

「させるかぁああああああ!」
 どうにか学校へとたどり着き、屋上へと着地した美保は手に持った波動関数(ファンクション)を思いっきりナマズに向けてぶん投げる。

「ほう? これはこれは懐かしい放射能力者(ラジエイター)どのじゃあないか? 懲りない娘だな君も」

 投げた剣はナマズの脇腹へと突き刺さるが、まるでダメージは無いようで、ナマズは意にも介さない。

 しかし、奴の気を美保の方へ逸らせたのは確かで、一時的に生徒たちへの波動吸収は止まっていた。

「久しぶりね、鷹月断層ナマズさん。やはり最近、街で起こっていた連続怪死事件はあなたの仕業だったのね。人間の波動の味をしめて、今度は人の集まっている学校にまで手を出すなんていい度胸ね。ここまで堕ちた波動ナマズは前例が無いわ」

「ククク……俺様も人間の意識の波動を喰らって、多少はより知恵をつけたのでな……、より効率的なエネルギー補充方法を選んだまでだ」

「くっ……この外道が……! あなたそれでも、かつてはこの地の土地神様として祀られた存在なの!?」

「なーにが祀り上げだ、あんなものは幽閉とそう変わらん。それも人間たちが吾輩という大地の力を我が物にしたいが為にな。自分たちの都合の良い時だけ俺様に縋りつき、供物やなんやらで釣っておいては、その力が恐ろしくなったら、今度は封印ときやがる。俺様が人間に報復するのも当然の摂理だろう?」

「……だから、あなたは7年前にあの鷹月地震を起こしたのね。そしてまたエネルギーを溜めて再び大地震を起こそうとしている」

「ああ、そうさ! その為にぜひとも、上質な波動を持つ放射能力者(ラジエイター)さんには俺様の力の一部となってもらうぜぇ!」 

 そう言うと断層ナマズは身体を捻って、一本の太い髭をムチのように美保へ向けて繰り出す。

「波動関数(ファンクション)『ψ(プサイ)』!!!」

 美保はすかさず自身の波動の刃を左手に出現させて、そのムチを盾のように受け止める。

「ぐっ……、やはりわたしの波動関数(ファンクション)程度では

大したダメージを与えられないか……。ならば……!」

 美保はムチを受け止めた姿勢から、右手で鬼神の舌(デーモン・コア)の剣を抜いて、一気にそのムチを切断した。

「何ぃっ!? その剣は……その剣はっ……!?」

 思わぬ反撃に動揺した断層ナマズの声が響く。

「懐かしいでしょう? 共鳴封具『鬼神の舌(デーモン・コア)』よ。悪いけどあなたを再びこいつで封印させてもらうわ!」

 剣を構えた美保は目にも止まらぬスピードでナマズの方へと駆け出してゆく。

「ぐおおお! その忌々しい剣を俺様に近付けるなぁあああ!」

 断層ナマズは次々と髭のムチを総動員して美保を止めようとするが、美保は次々とそれらをかわして斬り裂いてしまう。

「これが、あなたの最後よ! ハァアアアアアア!!!!」

 そして一気にナマズの懐へと飛んで、潜り込んだ美保は自身が持ちうるありったけの波動を最大限に込めて、剣を振りぬいた。

「波動共鳴―――『波動斬』!!!!!」

 放たれたその波動の斬撃は断層ナマズへと直撃し、グラウンドの方へと吹き飛ばして墜落させた。

「やった……! 仕留めたっ!」

 グラウンドへと着地した美保はそのままとどめを刺そうと倒れている断層ナマズへと近づく。

 しかし、その油断がいけなかった。

「勝った……と思ったか?」

 突然、美保の足元の地面から髭のムチが飛び出してきて、美保は跳ね飛ばされてしまう。

「キャアアアアアアアアアっ!!!!!!!」

 そのまま数m吹っ飛ばされた美保はグラウンド横の桜の木へと衝突して、やっと停止する。どこか頭を少し打ったようで、顔から血が滴り落ちていた。桜の花びらが激しく舞い、その幻想的な光景と眩暈が合わさって頭がクラクラする。

「な、なんで……なんでよ!? どうして効いていないの……っ!?」

 朦朧とした意識の中で美保はどうにか立ち上がろうとするが、かなりの消耗と痛みのせいで腰が上がらない。

「フン、拍子抜けだわ榊家の小娘よ。よくよく見れば、貴様はその剣をまるで使いこなせておらんではないか。その炎症した右手を見ればわかる。おそらく貴様、その剣を10分と持ち続ける事が出来ないのであろう?」

 やがて傷を再生させて治し、起き上がったナマズはゆっくりと美保へと近づいて来る。

 焦った美保は急いで右手をまさぐって剣を探すが、さっきの衝撃でどこかに飛ばされてしまったようで、どこにも見当たらなかった。


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