100回目のキミへ。

落光ふたつ

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〖2章〗

〈気になる人⑦〉

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「っ」
 とっさに身を隠した。
「………」
 だけど、なにか気になって顔を出した。
 階段を下りていく一人きりの彼。その背中が何だか別人のように見えてしまって。
 彼とは関わらないと決めたはずなのに。
 あたしはまた、彼の姿を目で追っていた。

 彼には悪い噂が流れていた。
 しかも、彼の想い人であるはずの彼女と、喧嘩では済まない関係であるという。
 信じられなかった。
 二人の仲違いもだが、それ以上に彼が他人に酷い物言いをするなんて想像も出来なかった。
 あたしにとって、彼は優しさの象徴だったから。
 何があったんだろう。何が、彼を変えさせたのだろう。
 気になって仕方がなかった。

 体育祭の練習。同じ体育館でたまたま集まっていた1年2組の生徒達の中に、彼がいない事に気づいたあたしは授業を抜け出した。
 登校をしていたのは確認している。どこかでサボっているのかもしれないと、あたしは考えるよりも先に足を動かしていた。
 そして、彼の教室で見つけた。
 机に突っ伏している。でも、ぐっすり眠っているという訳ではないのか、何度も身じろぎをして、必死に視界を閉ざしているような様子だった。
「体調悪いの?」
 本心での心配以上に、声をかけるきっかけとしてその言葉を選んだ。あくまでも自然に、彼と再び繋がろうとした。
 彼は、声に気づくとゆっくりと顔を上げ。
「……大宮、さん?」
 あたしの名前を読んだ。
 あたしはその瞬間、時間が止まったように感じた。
 久しぶりに向けられた瞳が嬉しかったわけじゃない。
 こちらを眺めるその顔が、あまりにも弱く、儚く見えて。
 救いを求めているように、見えて。
 いてもたってもいられなかった。
「久しぶり、加納君」
 だから、諦めた一歩を踏み出したのだ。
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