Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~

落光ふたつ

文字の大きさ
4 / 63
第1話「神楽咲咲」

#3

しおりを挟む
 学校に着いてからも、やはり神楽咲の行動は変わらなかった。

「なんで逃げるのですかっ」
「追いかけられるからだッ」

 朝礼が終わり即座に教室を飛び出すも、追手はピッタリと後ろについてくる。
 教師に叱られてさえいなければ全力疾走で撒いていたのだが、教室を出る直前にも担任に睨みを利かされ、逃亡は早足で留めざるを得なかった。
 そして、俺と神楽咲の身長差は20㎝もある。悔しいことに俺の方がチビだ。
 故に当然足も長い転校生は、悠々と俺に追いつき左手首を掴んできた。

「足を止めてくださいっ!」
「止めるか!」

 掴まれても俺は諦めず、神楽咲を引きはがす勢いで強引に進む。

「と言うかお前は何なんだ! 結婚してくれとか、俺と会うの初めてだろ!?」

 俺がその疑問を投げつけると、息を切らしている神楽咲は「フンっ」と怒りを示すように顔を背けた。

「いいえっ、昨日から数えて二回目ですわっ」
「昨日は初めてだっただろ!?」

 面倒な言い回しに思わず足を止め怒鳴ってしまう。
 向き合う形になった神楽咲は、不服そうな表情のまま、改めて質問に対する回答を寄越した。

「……占いのようなものです。わたくしも別に、あなたと結婚したいわけではありません。ただ、あなたの側にいないと我が家は存続出来ないのです」
「はぁあ? なんだそれ?」

 意味が分からない、と更なる言及をしようとした、その時。
 ——ドンッ。
 俺の体は突然、何者かに突き飛ばされた。

「なあお前っ、一年に来たっていう転校生だろ?」

 壁際に押しやられ尻餅をつく俺は、頭上でその上ずった声を聞く。
 顔を上げれば、そこには見覚えのない男子生徒が三人いた。俺より体格が大きく、恐らく上級生だろう。
 彼らは神楽咲の前に立ちはだかり、まるでナンパを仕掛けているみたいだった。

「どういったご用件でしょうか?」

 先輩を前にしても神楽咲の声音は落ち着いている。だから余計、相対する先輩の緊張ぶりが際立った。

「えぇー……あっ、お前、社長の娘ってホントか?」
「……ええ。母は会社を取りまとめています」

「ほら、やっぱあのベッドの会社なんだよ」
「えじゃあ、仲良くなればタダで貰えるってこと?」

 質問する一人とは別に、取り巻きじみた二人が浮足立つ。その様子から、用件はまだ終わりそうにはなかった。
 そんな現状に、俺は好機を見つける。

 このままお三方に引き付けてもらって、その隙に逃げ出そう!

 意気込み立ち上がろうとしたのだが、しかし何故か俺の逃亡はグイっと阻まれた。
 よく見れば、左手首が掴まれたままじゃあないか……!

「いや悪いな。別になんてことはないんだけど、困ったことあったら俺を頼って良いぜ?」

 神楽咲の手を剝がそうと試みると、余計に強く握り込まれる。
 脱出に苦戦していると、上級生Aが神楽咲へと一歩近づき、間に挟まれる俺の目の前に股間が迫ってしまう。
 ……おいなんかこれ。
 嫌な気付きは呑み込んだ。俺たち思春期。

「なんなら連絡先交換しとこうぜー」
「オレもオレも! ベッド憧れてたんだ!」

 取り巻きも神楽咲を囲うように寄ってくる間、俺はまだ左手首を解放出来ない。なんでコイツ握力だけは強いんだ!
 嘆きながら、ならもういっそこのまま、と立ち上がろうとした瞬間、俺の体は意図せぬ方へと引っ張られた。

「お気遣い頂き光栄ですわ。ですがわたくしにはこの方がいますので」

 左腕を抱き寄せられ、ナンパの盾として召喚されてしまう。
 すると当然、上級生たちの鋭い視線が俺に集中して。

「誰だこのチビ?」
「さあ?」

 いやお前ら、突き飛ばしたの気づいてなかったのかよ。やばいブチギレそう。
 とは言え、ここでキレ散らかせば厄介な展開になるのは必至。
 目障りな視線の中、どうにか荒れる心を静めていると、

 ——キーンコーンカーンコーン。

 タイムアップの鐘が鳴り響いた。
「やべぇ! 授業始まる!」
「ちょっ……!?」
 焦燥に駆られた俺は現状を放って、神楽咲を抱き着かせたまま来た道を引き返す。

「あ、行っちゃう! せめて枕ちょーだいよ!」

 神楽咲に向けて先輩の一人が叫んでいたが、無視をして教室へと急いだ。

「……あまり走りますと疲れますわ」
「走らねぇと間に合わねぇぞっ」

 不満を漏らす神楽咲は既に俺から手を放していたが、一人置いていくのも気分的に微妙だったから、今度は俺が彼女の手首を掴み走っている。
 ……こいつにも、色々事情があるんだろう。
 一度の質問でそれだけは分かっていて。
 そのせいか、苛立ちは不思議と収まっていた。
 とは言え、安易に要求を呑むわけはなかったが。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...