31 / 63
第5話「計アdかdケd」
#2
しおりを挟む
「我ながら思いきってしまいましたわ」
神楽咲咲は、自室で己の髪を撫でていた。
ガラス窓の薄く反射する姿に、酷く似合わない、と悪態をつきたくなるが、必要ならばと受け入れる。
彼は好ましく思ってくれただろうか。
それだけが気がかりで、一時間近く経った今も彼の去っていった玄関扉を眺めている。
そうしていると、
——ヴーッ。
唐突に、ケータイが震えた。
頭の中を埋め尽くしていた懸念は一旦忘れ、震動を止めたその端末を手に取る。
届いていたのは一通のメール。画面に表示されるのは、簡潔な一文だった。
『目が覚めました』
随分と待っていたその報せに、咲はすぐさま出かける支度を整える。
玄関に向かう直前で身だしなみの確認と鏡に相対し、そこで己の変えてしまった姿を見て改めて後悔を覚えてしまう。
戻すべきかと迷いながらも、それ以上にいち早く会いたいという焦燥で、咲は部屋を出ることにした。
*
咲が急いでやって来たのはとある大きな病院だ。
年中貸切られたその部屋に、息も荒いまま辿り着く。
「叔母様!」
久しぶりに見たその瞳に、咲は歓喜で声を上げた。
ベッドの上で、点滴に繋がれながら上半身を起こすのは、美しい女性。
体つきは細く、しばらく運動が出来ていないのはすぐに分かる。頬も少しこけていて寝たきりだったのだろう。
しかしその容姿は、妙に視線を惹きつけた。
特に目立つのは以前の咲と同様の、海外の血を主張する髪だったが、魅力の本質はそこではない。齢は四十を目前としているが、咲と並ぶと姉妹のようでもある。
根拠も分からぬ不思議な雰囲気を、その女性はまとっていた。
「おはよう、咲。あら」
咲は叔母と呼んだその女性に抱き着いた。そのまま、まるで子供が親に甘えるよう、腹の中に顔を埋めてしばらく温もりを感じ始める。
その様子を叔母は優しく見守り、しばらくして涙交じりの顔は上げられた。
「叔母様、お寝坊ですわ。今回ばかりは本当に起きないのかと心配しましたのよっ」
「ふふ、心配性な子。いつもちゃんと起きるじゃない。けどまあ、確かに二年は寝すぎたわね。体も凝っちゃってるわ」
そう冗談めいて叔母は肩や首を回してみせる。心配無用と語るその姿に、咲もホッとして涙を拭った。
「それより、何かあったの?」
未だ腹部に寄る頭を撫でながら、叔母は記憶とは違う姪の髪を一房掴む。その指摘に対して咲は、気まずそうに視線を逸らした。
「……彼が、こういう方が好み、と聞きましたので。でも、上手くいったかはよく分かりませんわ」
「そう。私はいつもの方が似合っていると思うわよ。そのままのあなたが一番素敵だから」
愛おしそうに撫でてくれるが、咲は苦しそうに表情を暗くする。
「……ですが、今までのままではダメでしたので」
「ごめんなさいね。あなたの頑張りを否定するつもりはないの。あなたは考えて行動出来る賢い子だものね」
思わず弱音を吐いた姪に、叔母はすぐ慰めるような言葉をかけた。
それが自分のために取り繕ったものであっても、咲は叔母の視線を受けていられるだけでつい嬉しく感じてしまう。
それから叔母は、ふと思い出したように言った。
「そう言えば、私があなたに言っていたことは間違っていたかもしれないわ」
「どの、ことでしょうか……?」
思い当たる事柄がいくつかあり、今までの会話を脳内で一つずつ並べ挙げていると、叔母はハッキリとその答えを告げた。
「あなたが、幸せになる未来のことよ」
叔母はまた優しく咲の髪を梳きながら、夢を語った。
神楽咲咲は、自室で己の髪を撫でていた。
ガラス窓の薄く反射する姿に、酷く似合わない、と悪態をつきたくなるが、必要ならばと受け入れる。
彼は好ましく思ってくれただろうか。
それだけが気がかりで、一時間近く経った今も彼の去っていった玄関扉を眺めている。
そうしていると、
——ヴーッ。
唐突に、ケータイが震えた。
頭の中を埋め尽くしていた懸念は一旦忘れ、震動を止めたその端末を手に取る。
届いていたのは一通のメール。画面に表示されるのは、簡潔な一文だった。
『目が覚めました』
随分と待っていたその報せに、咲はすぐさま出かける支度を整える。
玄関に向かう直前で身だしなみの確認と鏡に相対し、そこで己の変えてしまった姿を見て改めて後悔を覚えてしまう。
戻すべきかと迷いながらも、それ以上にいち早く会いたいという焦燥で、咲は部屋を出ることにした。
*
咲が急いでやって来たのはとある大きな病院だ。
年中貸切られたその部屋に、息も荒いまま辿り着く。
「叔母様!」
久しぶりに見たその瞳に、咲は歓喜で声を上げた。
ベッドの上で、点滴に繋がれながら上半身を起こすのは、美しい女性。
体つきは細く、しばらく運動が出来ていないのはすぐに分かる。頬も少しこけていて寝たきりだったのだろう。
しかしその容姿は、妙に視線を惹きつけた。
特に目立つのは以前の咲と同様の、海外の血を主張する髪だったが、魅力の本質はそこではない。齢は四十を目前としているが、咲と並ぶと姉妹のようでもある。
根拠も分からぬ不思議な雰囲気を、その女性はまとっていた。
「おはよう、咲。あら」
咲は叔母と呼んだその女性に抱き着いた。そのまま、まるで子供が親に甘えるよう、腹の中に顔を埋めてしばらく温もりを感じ始める。
その様子を叔母は優しく見守り、しばらくして涙交じりの顔は上げられた。
「叔母様、お寝坊ですわ。今回ばかりは本当に起きないのかと心配しましたのよっ」
「ふふ、心配性な子。いつもちゃんと起きるじゃない。けどまあ、確かに二年は寝すぎたわね。体も凝っちゃってるわ」
そう冗談めいて叔母は肩や首を回してみせる。心配無用と語るその姿に、咲もホッとして涙を拭った。
「それより、何かあったの?」
未だ腹部に寄る頭を撫でながら、叔母は記憶とは違う姪の髪を一房掴む。その指摘に対して咲は、気まずそうに視線を逸らした。
「……彼が、こういう方が好み、と聞きましたので。でも、上手くいったかはよく分かりませんわ」
「そう。私はいつもの方が似合っていると思うわよ。そのままのあなたが一番素敵だから」
愛おしそうに撫でてくれるが、咲は苦しそうに表情を暗くする。
「……ですが、今までのままではダメでしたので」
「ごめんなさいね。あなたの頑張りを否定するつもりはないの。あなたは考えて行動出来る賢い子だものね」
思わず弱音を吐いた姪に、叔母はすぐ慰めるような言葉をかけた。
それが自分のために取り繕ったものであっても、咲は叔母の視線を受けていられるだけでつい嬉しく感じてしまう。
それから叔母は、ふと思い出したように言った。
「そう言えば、私があなたに言っていたことは間違っていたかもしれないわ」
「どの、ことでしょうか……?」
思い当たる事柄がいくつかあり、今までの会話を脳内で一つずつ並べ挙げていると、叔母はハッキリとその答えを告げた。
「あなたが、幸せになる未来のことよ」
叔母はまた優しく咲の髪を梳きながら、夢を語った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる