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第6話「未来を恐れた少女」
#3
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昼を過ぎた頃。
来客を告げるチャイムが鳴り、比良人が玄関扉を開けるとそこには繋が立っていた。もちろん、体は猪皮蒼のままだ。
「ごめんね急に、ちょっと近く寄ったから。……なにか変わったことはあった?」
「いや、特にないな。咲からの連絡もない。そっちもか?」
「うん……」
比良人の問いに繋は面持ちを暗くして頷く。
きっと彼女は、もしもに期待して三付家を訪れたのだろう。何か報告することがあればすぐ連絡する約束ではあるが、それでも僅かな可能性に感情を休めたかったのだ。
何より繋は、行がいなくなったことにかなりの責任を感じている。夜道で一人にしたことを何度も悔いていた。
「なんか手伝えることあったら言ってくれ」
「いや、比良人くんはエミさんと一緒にいた方がいいと思うから」
繋は笑顔を作って、それからすぐに「それじゃあ」と背中を向けた。玄関先に停めていた自転車へ跨ると、また孫娘の捜索へと戻っていく。
比良人はしばらく、繋が去っていった方向を眺めていた。
「………」
またも、胸中に無力感が襲ってくる。
けれど発散は出来ずにいつまでも溜まっていって、頭の中では答えの出ない問いが何度も往復していた。
そうして立ち尽くしていると、後ろから声がかかり我に返る。
「比良人、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
振り向くとエミが首を傾げていて、誤魔化し玄関扉を閉めた。それから彼女の後ろについて廊下を歩く。
今は家に二人きりだ。父は仕事の付き合いがあるそうで、母は買い物に出かけている。
つい先ほど腹を満たした二人は、比良人の部屋へと向かった。
「比良人、今日は何する?」
「……映画でも見るか」
エミの寝泊まりには別の空き部屋を貸しているが、彼女は多くの時間を比良人と過ごしたがった。外へと遊びに行ったのは昨日の遊園地が初めてだが、部屋ではよく一緒に、ゲームをしたりテレビを見たりしている。
今日は、父親の洋画コレクションからいくつかDVDを借りていた。映画はゲームと違い、何をしなくても進むから少しは気が楽だ。
クッションを敷きベッドを背もたれにしてテレビを見る。部屋がそれほど大きくないためテレビも小さめだが、それほど気にはならない。
並んで鑑賞しているとふとした時に肩が触れる。けれどわざわざ遠ざかることはせず、なんとなくそのままにお互いを支え合った。
ぼーっと二時間。
父はヒーローものが特に好きで、有名シリーズは大体揃えてあり、今見ているのもその内の一つだ。
エミとは一作目から順番に見ている。量が多くとっつきにくかったが、こうして時間を設けてみれば、もうシリーズも後半だ。
ストーリーは、普通の青年が力を手に入れて人知れず悪と戦う王道なもの。海外作品とあってCGの迫力がすごく、言葉が違っても分かる演技の上手さに圧倒される。
けれど比良人は、見る物を間違えたかな、とコッソリ思っていた。
逆境の中、どうにかしようと抗う人物。
それを目にするとまたも、自分も何かしないといけないのではと強迫観念に苛まれてしまう。映画の主役のように、力がある訳でもないのに。
敵が悪事を企んでいる。 未来が大変なことになる。
ヒロインが狙われている。 それはエミのせいらしく。
頼れる仲間が導いてくれる。 どうすればいいか分からない。
街の被害が拡大し窮地だ。 何かは起きているのに、自分は平穏だ。
敵を倒すため、主人公は新たな力を得た。
……俺は、何をしている?
思考が氾濫している間に、画面の向こうでは悪役が倒され大団円で終わっていた。
スタッフロールが流れ、反射して画面に映る自分。
一体その主役は、どうやって終点へと向かうべきなのだろうか。
映画の再生が終わり、比良人は視界をリセットするかのように目頭を揉んだ。
内容はあまり頭に入っていない。感想を聞かれたらどうしようかと、無難な言葉をいくつか考えながらディスクを取り出す。
「次も続きで良いか?」
取り出したディスクをしまいつつ、比良人は問いかける。
けれど、返事がなかった。
言葉には発さず、頷きだけを見せたのだろうか。あるいは単に聞き逃しただけか。
……そう言えばいつから、彼女の肩から離れていたっけ。
支え合うようにしていたはずだったが、思えばディスクを取ろうと動いた時には、触れていた感覚はなかった。
比良人は、彼女が座っていた隣へ振り向いて。
そしてそこに、エミがいないと知った。
来客を告げるチャイムが鳴り、比良人が玄関扉を開けるとそこには繋が立っていた。もちろん、体は猪皮蒼のままだ。
「ごめんね急に、ちょっと近く寄ったから。……なにか変わったことはあった?」
「いや、特にないな。咲からの連絡もない。そっちもか?」
「うん……」
比良人の問いに繋は面持ちを暗くして頷く。
きっと彼女は、もしもに期待して三付家を訪れたのだろう。何か報告することがあればすぐ連絡する約束ではあるが、それでも僅かな可能性に感情を休めたかったのだ。
何より繋は、行がいなくなったことにかなりの責任を感じている。夜道で一人にしたことを何度も悔いていた。
「なんか手伝えることあったら言ってくれ」
「いや、比良人くんはエミさんと一緒にいた方がいいと思うから」
繋は笑顔を作って、それからすぐに「それじゃあ」と背中を向けた。玄関先に停めていた自転車へ跨ると、また孫娘の捜索へと戻っていく。
比良人はしばらく、繋が去っていった方向を眺めていた。
「………」
またも、胸中に無力感が襲ってくる。
けれど発散は出来ずにいつまでも溜まっていって、頭の中では答えの出ない問いが何度も往復していた。
そうして立ち尽くしていると、後ろから声がかかり我に返る。
「比良人、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
振り向くとエミが首を傾げていて、誤魔化し玄関扉を閉めた。それから彼女の後ろについて廊下を歩く。
今は家に二人きりだ。父は仕事の付き合いがあるそうで、母は買い物に出かけている。
つい先ほど腹を満たした二人は、比良人の部屋へと向かった。
「比良人、今日は何する?」
「……映画でも見るか」
エミの寝泊まりには別の空き部屋を貸しているが、彼女は多くの時間を比良人と過ごしたがった。外へと遊びに行ったのは昨日の遊園地が初めてだが、部屋ではよく一緒に、ゲームをしたりテレビを見たりしている。
今日は、父親の洋画コレクションからいくつかDVDを借りていた。映画はゲームと違い、何をしなくても進むから少しは気が楽だ。
クッションを敷きベッドを背もたれにしてテレビを見る。部屋がそれほど大きくないためテレビも小さめだが、それほど気にはならない。
並んで鑑賞しているとふとした時に肩が触れる。けれどわざわざ遠ざかることはせず、なんとなくそのままにお互いを支え合った。
ぼーっと二時間。
父はヒーローものが特に好きで、有名シリーズは大体揃えてあり、今見ているのもその内の一つだ。
エミとは一作目から順番に見ている。量が多くとっつきにくかったが、こうして時間を設けてみれば、もうシリーズも後半だ。
ストーリーは、普通の青年が力を手に入れて人知れず悪と戦う王道なもの。海外作品とあってCGの迫力がすごく、言葉が違っても分かる演技の上手さに圧倒される。
けれど比良人は、見る物を間違えたかな、とコッソリ思っていた。
逆境の中、どうにかしようと抗う人物。
それを目にするとまたも、自分も何かしないといけないのではと強迫観念に苛まれてしまう。映画の主役のように、力がある訳でもないのに。
敵が悪事を企んでいる。 未来が大変なことになる。
ヒロインが狙われている。 それはエミのせいらしく。
頼れる仲間が導いてくれる。 どうすればいいか分からない。
街の被害が拡大し窮地だ。 何かは起きているのに、自分は平穏だ。
敵を倒すため、主人公は新たな力を得た。
……俺は、何をしている?
思考が氾濫している間に、画面の向こうでは悪役が倒され大団円で終わっていた。
スタッフロールが流れ、反射して画面に映る自分。
一体その主役は、どうやって終点へと向かうべきなのだろうか。
映画の再生が終わり、比良人は視界をリセットするかのように目頭を揉んだ。
内容はあまり頭に入っていない。感想を聞かれたらどうしようかと、無難な言葉をいくつか考えながらディスクを取り出す。
「次も続きで良いか?」
取り出したディスクをしまいつつ、比良人は問いかける。
けれど、返事がなかった。
言葉には発さず、頷きだけを見せたのだろうか。あるいは単に聞き逃しただけか。
……そう言えばいつから、彼女の肩から離れていたっけ。
支え合うようにしていたはずだったが、思えばディスクを取ろうと動いた時には、触れていた感覚はなかった。
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そしてそこに、エミがいないと知った。
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