Find me ~俺に近づく三人が明らかに怪しい。~

落光ふたつ

文字の大きさ
60 / 63
第7話「Find me」

#5

しおりを挟む
 ——不安を抱いたのは、幸せを知ったのと同時だ。

 それまではただ、観測するだけの存在だった。
 長い間、自分と言う概念すら意識することもなく、世界が始まり活動していくのを無為に眺めていた。
 当然思考なんて持ち合わせていない。きっと当時は瞳しか持っていなかったのだ。
 けれど変わっていく世界に影響を受けていく。

 こちらを感じる者が現れて、初めて自分を意識した。
 彼らは希い、自分はそれに応えやろうと奇跡を見届けた。すると多くの者が感じてはいなくともこちらに語り掛けるようになった。
 しかし世界が明確化されていく中で、不条理は絶やされる。理屈に縛られ空想は結ばれなくなった。
 すると誰もがこちらに見向きしなくなり、また独りになった。

 物足りない。出来るなら、もう一度見つけて欲しい。

 止まることなく流れゆく景色を眺めながら、初めての願いを抱いた。
 けれども叶わない。
 ならばどうすればいいのだろうと考えると思考が生まれ、答えへ至る。
 彼らと同じ姿になれば、彼らと同じように見つめ合うことが出来るのではないか。
 見つけてくれるのは誰でもいい。ただ欲を言うなら、自分だけを見ていて欲しい。
 そうしてあの河川敷で、彼の瞳の中に自分は産まれた。

 それからは酷く幸せだった。
 視覚以外の新たな感覚を得て。すると知っているはずのことも全て初めてになった。
 あらゆることが刺激的で、楽しかった。
 もう前のように、独りで観察しているだけの日々は考えられない。
 ずっと、この時間が続きますように。

 その祈りと共に、いつか終わるのではないかという不安もよぎった。

 時が経つと想いは膨らんでいく。
 そのきっかけはやはり瞳から。
 少しずつ周りは変わっていくのに、自分だけがそのままだった。緩やかな変遷を投影出来ないこの体は、多くの者に置いていかれた。
 そして夢へと現れる。
 彼が去り、独りになってしまう夢。
 夢は目を覚ませば消える。
 けれども繰り替えしている内に、現実と夢の境が曖昧になって。

 ある時、全てが終わった。

 不変の体を求められ。その副産物で頭をいじられ。
 助けに来た彼は目の前で亡き者にされた。
 残された自分は、街を保つため幸せな夢を見せ続けられる。
 けれど、彼のことを忘れられなくて。
 何度も彼の去り際を見てしまう。それは自分にとって全ての喪失で。すると幸せな感情で矯正される。
 その繰り返しだった。終わりのない繰り返し。

 そうして最後に自分は過去に縋ったのだ。
 自分のいない過去。
 彼が元気な姿を見たかった。
 もうその頃は、ハッキリと彼のことは思い出せなくなっていて。
 薄れた記憶から何とか拾い上げる。

 彼は優しく格好良くて、自分以外にも惚れられている人がいたかもしれない。いやでも、それほど人気と言うわけではなかったような気もする。
 ただ一つ、よく気づく人だった。

 見ているだけで良かったけれど、その隣にはやっぱり自分がいたくて。
 再生された世界。
 でもやっぱり、終わりを想像してしまう。
 それが、自分以外をも巻き込むと知って。

 こうなるなら、自分はいなければよかったのだ。
 今までのように、独りで観ているだけの存在に戻れれば。
 その願いは、手に入れてしまった欲求が邪魔をする。

 どうすればいいの。
 どうやったら、終えられるの。

 独りは寂しいと感じてしまうようになった。
 それも全部、一度手に入れてしまったから。
 もう温もりを感じられないようになればいいのに。
 でも手放すことも出来なくて。

 俯く。抱え込む。どんどんと凍り付く。
 全てから目を塞いで、何も考えないように。

 ——その時、両手に温もりを感じた。

 ここには、自分しかいないはずなのに。
 この熱はどこから来たのだろう。
 誰からのものだろう。

 浮かぶのは彼。それに、彼と仲の良い人たちもいる。
 まるで、自分が独りじゃないと教えてくれているようだ。

 それはただの妄想。
 でも、氷は溶けていった。
 これは悪夢なんだと諭してくれた。

 本当の居場所は、この温かさが連れて行ってくれると。
 両手が引っ張られる。
 その先にはもう、彼らがいるような気がして。

 ……私、いてもいいのかな。

 そう零した不安に、笑いかけてくれる顔。
 対して私は、どんな顔を浮かべただろう。
 自分の姿なんて見えていないはずなのに、なぜだか涙が止まらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...