これにて一件落着、菊姫は名奉行

勇内一人

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弐の巻 豆福入れ替え騒動

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「ところで、光之助殿。私は悪目立ちしておるか?」
 突然、菊が真顔で尋ねる。
「その格好をして豆福がそばにいれば、目立たないわけないだろう」
 悪気はないが光之助は真実を伝えた。菊は容姿が美しく気品もある。その上、ぴんと背筋が伸び姿勢も良く、歩く姿は誠に優美だ。
 男装姿の女児とは気づかなくとも、充分に目を引く存在だと思う。そんな菊が珍しい狆を連れ歩くのだから、目立たないはずがない。
「そうか? 気がつかなかった」
 手前の美しさに気づいていない菊は、不服そうな顔をして答える。
「だろうね」
 だが、そういう光之助も南町奉行冨岡周五郎の息子ゆえ、嫌でも目立ってしまうのだ。
「それにしても、抜け丸も可哀そうだな。主人とはぐれた上に、菊殿から勝手に妙な名をつけられたのだから」
 すると、抜け丸がぶるっと大きく体を震わせた。
「光之助殿、抜け丸を放してあげてくれ」
 光之助が抱いていた手を放すと、抜け丸は一目散に駆け出した。
「ど、どうしたのだ?」
だと思う。多分、尿意を催したのであろう」
 二人が後を追うと、やはりそうだった。
「あれ? もしかすると……」
 抜け丸の様子を見て、菊が何やら考え込んでいる。ことを終えた抜け丸が尻尾を振りながら二人の元に戻って来る。菊が抜け丸を抱え、何かを確認し始めた。そして、あるものを見つけ、こう言った。
「済まぬ、抜け丸。見た目で決めつけてしまった。お主はれっきとした女子だったな」
 何たる先走り、男装の女児菊の思い込みだった。愛犬の豆福が雄だからと確かめもせず、抜け丸も雄だと決め込んでしまったのだ。
「私としたことが、恥ずかしい」
「えぇ? 抜け丸という名でも充分可哀想なのに、雌犬ならば気の毒としか思えないぞ」
「ふむ。それでは女子に相応しい名を改めて考えなければならないぞ」
 そう聞くと抜け丸は大きな耳がぴんと上げた。その愛らしい仕草を見て、光之助がひらめいた。
「蝶々、蝶はどうかな? 耳が立って毛がなびく姿は、まるで蝶々のようではないか?」
「うぅむ、蝶か? 私は金魚を思い浮かべたぞ」
「でも、金魚ではちょっとなぁ……」
「お主が口にしなくてもわかるぞ。金魚は蝶に比べたら、可愛い気のない名だと言いたいのであろう。それでは、抜け丸。今からお主をお蝶と呼ぶぞ、わかったな」
「きゃん!」
 新たな名前が気に入ったのか、嬉しそうにお蝶が鳴いた。
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