僕は誰も選べない

蓮見 黎

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 どうしてこんなことになったんだろう。

 瞼に、頬にかかるシャワーの温い湯をそのままに、愁は目を閉じて浴びていた。
 昨日まで、貴遠しか考えられなかったのに。

 違う。

 写真を返してもらえさえすれば、身体の関係など、どうでもいいのだ。

「…どうでも…」
 目を開くと、乳首のピアスが濡れて光っていた。

 黒い爪が、強く引き摘まみ、愛撫する。

「…ッ…バカ、俺の淫売…!」
 愁は、唇を強く噛み、シャワーのコックを閉じる。

 インターホンが鳴り響いたのはその時だった。


「…はい」
 まだ水の滴るまま、愁は玄関のドアを開くと、腕を組んで、玄関脇に凭れるようにして加瀬は待っていた。
 加瀬を見るなり、愁は下を向かざる負えなかった。
 その目を、直に見れなかった。
「…入れよ」
 加瀬は、愁の言葉を待っていたように、閉まっていく玄関を潜り抜けた。

 ブーツを脱ぐ加瀬の姿に、愁は二度見した。
「え…」
「あ?この部屋土禁だろ?」
「そうだけど…昨日脱がなかったから」
「あー…そうだっけ」
 加瀬は部屋の様子を伺うように見渡し、ベッドに腰かけた。
「なんの疑いもせずに入ってきたけど…怖くないのかよ」
 愁は、ミネラルウォーターを飲みながら加瀬を見た。
「何が?」
「俺一人じゃなかったら、どうすんだよ」
「…ああ、キオンのやつね。どうせ、仕事だろ」
「そうだけど…」
「俺、一度に二人相手できるけど?」
「…そうじゃない!」
 愁は、思わずペットボトルを握った。音を立てて元に戻ろうとするぺっとボトルを見ると、加瀬が立ち上がるのがその向こうに見えた。
「…っ…!」
 愁は、思わず身構えた。
 昨日の続きが待っているような、予感が胸を掠めた。
 ペットボトルが床に落ち、漏れた水が床を濡らしていく。
「……?…ぁ…」
 加瀬は、愁の手首を掴み抱き寄せていた。その胸の中で、愁は全身が熱を溜め込んでいくのを感じていた。
 次に何をされるのか、鼓動が跳ね上がる。床を濡らしていく水を、ただ見つめた。
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