『白い診察室』

真田直樹

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戻ってきた日

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新宿メンタルクリニックの窓から、柔らかい光が入っていた。

待合室にはいつものように患者が座っている。

受付の富田さゆりがカルテを見て言う。

「藤川先生、次の患者さんです」

カルテの名前を見て、優斗は少し手を止めた。

美咲

二ヶ月前。

統合失調症の急性期で入院した女性だった。

診察室のドアが開く。

美咲が入ってくる。

以前とは別人のようだった。

髪も整い、服装も落ち着いている。

目の焦点も安定していた。

「こんにちは」

優斗が少し笑う。

「こんにちは」

椅子に座る。

沈黙。

美咲が言う。

「久しぶりですね」

優斗が聞く。

「調子はどう?」

美咲が少し考える。

「声はほとんど聞こえません」

幻聴。

統合失調症の代表的な症状。

薬が効いていた。

優斗が聞く。

「妄想は?」

美咲が少し苦笑する。

「今思うと…」

「変でした」

入院前は政府に監視されていると本気で信じていた。

だが今は。

「病気だったんだなって」

優斗はカルテを書きながら言う。

「薬は続けていますか」

美咲がうなずく。

「毎日」

少し間。

美咲が言う。

「眠いですけど」

抗精神病薬の副作用。

だが。

幻覚と妄想はほぼ消えていた。

その時。

診察室のドアが少し開く。

新田里奈がカルテを見ていた。

美咲を見て言う。

「良好ですね」

優斗がうなずく。

里奈が言う。

「薬が効いています」

美咲が少し笑う。

「そうみたいです」

里奈はカルテに書く。

「維持療法」

統合失調症では、再発防止のために薬を続けることが多い。

里奈が言う。

「急に止めないこと」

美咲がうなずく。

「分かりました」

診察が終わる。

美咲が立ち上がる。

ドアの前で振り返る。

「先生」

優斗が顔を上げる。

美咲が言う。

「入院した時」

「すごく怖かった」

少し沈黙。

「でも」

「今は助かったと思ってます」

優斗は小さくうなずく。

「それは良かった」

美咲が笑う。

「仕事も少しずつ戻ります」

社会復帰。

精神医療の大きな目標だった。

美咲が帰る。

診察室が静かになる。

優斗はカルテを閉じる。

窓の外。

新宿の昼。

ネオンは消えている。

医局。

雅人が言う。

「回復してた?」

優斗がうなずく。

「元気だった」

里奈がコーヒーを飲む。

「薬が効いた」

短い言葉。

優斗は思う。

精神科では。

完全に治る病気ばかりではない。

でも。

元の生活に戻ることはできる。

新宿の街。

無数の人。

その中で。

誰かの心が壊れ。

そして。

誰かの心が少しずつ回復していく。

精神医療とは。

その小さな回復を支える仕事だった。
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