『白い診察室』

真田直樹

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医療の改革

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春の午後。

新宿メンタルクリニックの会議室。

院長の尾上紀子がテーブルの上に資料を置いた。

医師の藤川優斗。
新田里奈。
一条雅人。
看護師の富田さゆり。

小さなクリニックのスタッフ会議だった。

だが今日は少し空気が違っていた。

紀子が言う。

「患者数が増えすぎている」

資料には数字が並んでいる。

月の外来患者数。

三年前の二倍。

都市の心療内科ではよくある現象だった。

紀子が続ける。

「診療の質を維持しないといけない」

そして優斗を見る。

「藤川先生」

優斗がうなずく。

「はい」

紀子が言う。

「提案があるんですよね」

優斗は資料を出す。

そこには英語の言葉。

Recovery Model

英国で学んだ精神医療だった。

優斗が言う。

「精神医療は薬だけではない」

里奈が腕を組む。

優斗は続ける。

「患者が人生を取り戻す医療」

会議室が静かになる。

優斗が説明する。

「ピアサポート」

「社会復帰支援」

「患者主体の治療」

英国では一般的な精神医療の考え方。

里奈がすぐ言う。

「理想論」

優斗が見る。

里奈は冷静だった。

里奈が言う。

「ここは外来クリニック」

「研究機関ではない」

優斗が答える。

「でも患者は人生を取り戻したい」

里奈が言う。

「まず症状を安定させる」

「それが医療」

優斗が言う。

「薬だけでは人生は変わらない」

里奈が答える。

「薬がないと人生が壊れる」

二人の視線がぶつかる。

雅人が苦笑する。

「また始まった」

さゆりも小さく笑う。

この二人はいつもこうだった。

里奈は冷静に言う。

「統合失調症」

「うつ病」

「パニック障害」

「全部慢性疾患」

優斗はうなずく。

里奈が続ける。

「医師の役割は症状管理」

優斗が静かに言う。

「それだけじゃ足りない」

英国で見た患者たち。

幻聴があっても働いている人。

社会の中で生きている人。

優斗は言う。

「回復とは人生」

沈黙。

その時。

院長紀子が口を開く。

「二人とも正しい」

全員が紀子を見る。

紀子は経営者だった。

感情ではなく現実を見る。

紀子が資料を見ながら言う。

「薬は必要」

「でも社会復帰支援も必要」

そして言った。

「やりましょう」

優斗が少し驚く。

「本当に?」

紀子がうなずく。

「小さく始める」

「リカバリープログラム」

里奈が言う。

「リスクがあります」

紀子が答える。

「医療は常にリスク」

雅人が笑う。

「新しいクリニックになるね」

さゆりが言う。

「患者さん喜びそう」

紀子は窓の外を見る。

新宿の街。

無数の人。

孤独な人。

壊れそうな人。

紀子が静かに言う。

「ここをただの処方クリニックにはしない」

その言葉で。

新宿メンタルクリニックは少しだけ変わり始めた。

精神医療は変わる。

薬だけの時代から。

人生を取り戻す医療へ。

優斗が英国で学んだ理念が。

今。

東京の小さなクリニックで動き始めていた。
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