『白い診察室』

真田直樹

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教室の外の声

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夏の終わり。

新宿メンタルクリニックに一本の電話が入った。

院長の尾上紀子が受話器を取る。

「はい、新宿メンタルクリニックです」

電話の相手は都内の私立高校だった。

数日後。

優斗はその高校を訪れていた。

理由は――

保健の特別授業。

精神疾患についての講義だった。

体育館ではなく、小さな講堂。

高校二年生が集まっている。

ざわざわとした空気。

優斗は壇上に立った。

「今日は精神疾患の話をします」

最初は少し緊張した空気。

だが優斗は難しい言葉を使わなかった。

うつ病。

パニック障害。

適応障害。

統合失調症。

そして。

「心の病気は特別な人のものではありません」

生徒たちは少し真剣な顔になる。

優斗が言う。

「ストレスが続くと」

「誰でも心が疲れることがあります」

教室は静かだった。

中には真剣に聞いている生徒もいる。

授業の最後。

優斗は言った。

「もしつらい時は」

「一人で抱えないこと」

「誰かに相談してください」

講義は拍手で終わった。

放課後。

優斗が帰ろうとすると。

一人の女子生徒が廊下に立っていた。

声をかける。

「先生」

優斗が振り向く。

制服姿の少女。

少し緊張している。

「岡本智子です」

優斗がうなずく。

「どうした?」

智子は少し周りを見る。

誰もいない廊下。

そして言った。

「相談があります」

学校の相談室。

小さな部屋。

窓から夕方の光が入る。

智子は椅子に座っていた。

手を握りしめている。

優斗が言う。

「ゆっくりでいい」

沈黙。

数十秒。

そして智子が言った。

「クラスで」

「いじめられてます」

優斗は急がない。

「どんなこと?」

智子の声は震えていた。

「無視」

「陰口」

「机に落書き」

真由と似た状況だった。

智子が続ける。

「最近」

「学校来るの怖い」

目には涙が浮かんでいる。

優斗が静かに聞く。

「先生には話した?」

智子は首を振る。

「言えない」

優斗は理解していた。

学校の世界では。

告げ口と見られる恐怖がある。

智子が小さく言う。

「最近」

「夜眠れない」

ストレス症状だった。

優斗が言う。

「一つ聞いていい?」

智子がうなずく。

「学校以外で安心できる場所ある?」

智子は少し考える。

そして言った。

「家」

優斗がうなずく。

「それは大事」

智子が聞く。

「私」

「病気ですか」

優斗は首を振る。

「環境がつらいだけ」

少し沈黙。

智子が言う。

「先生」

優斗が見る。

「今日の授業」

「ちょっと救われました」

優斗は少し驚く。

智子が続ける。

「心が壊れる人は弱い人だと思ってた」

「でも」

「違うんですね」

優斗は言う。

「心が壊れるのは」

「環境がきつい時」

智子は静かにうなずいた。

帰り道。

校門の前。

夕焼けが広がっている。

優斗は思う。

学校という世界。

そこには。

大人が見えない苦しみがある。

新宿メンタルクリニック。

夜。

優斗はカルテを書きながらつぶやく。

「子どもたちも大変だな」

精神医療は。

病院の中だけではない。

学校。

家庭。

社会。

そのすべてが関係している。
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